読んだら損する「運命はテイクアウト」(18)
甥はいきなり目の前で人が空中浮遊していく様をただただ見ている林田(15)のような、ぽかんと口を半開きにして小山さんを見ている。そして林田はその日の出来事を日記に「某月某日、キャベツ旨し。人が飛ぶ」と短くまとめあげた。林田の心情、推して知るべし。そんな林田も去年米寿を迎え、ついでに天寿を全うした。最期の言葉は、「わしは若い頃人がトンビに見えた」というものだった。トンビに油揚げをさらわれてしまうように、林田から築き上げてきた徳が音を立てて崩れ果てた瞬間であった。
「はは、すいませんね」
小山さんは恥ずかしそうに笑い、義兄と初めましてのやりとり。
「あ、これ一応今日の流れです。といってももう知っているとは思いますが。えぇっと、つきましては…」
「はいはい、雄一ぃ、引き出しの中に会費入ってる封筒あるでしょ。ちょっとパスして」
「パスしてってあんた」
兄はどっかの引き出しから出してきた封筒を小山さんに渡した。
「人数分入ってるよ。確認してみて」
「では…はい、確かに」
小山さんは封筒をその大きな手に見合う大きなポッケにしまった。
「あちらにはもう行かれたのですか?」
お茶を運んできた姉が聞く。
「えぇ」
小山さんも姉の本音を察して道助んちの様子を語り出した。
「おじさんもおばさんも、あの、空元気と言いますか、じっとしていられないと言いますか。和子ちゃん、ではなくて和子さん達もこちらにすごく気を使ってくれるんですが、…そんな様子ですね。しょうがないことなのでしょうけど。でも今日は楽しみにしているみたいですよ」
僕はいたたまれなくなって席を外した。外に出てタバコを吸う。変にむせた。
「健一、用意はいいの?」
「あぁ」
母親のいつもより明るい声に応えてから僕は自分の部屋に行き、ショルダーバッグを出して、バッグの中に本を入れた。「パグの飼い方」。どうしようもなくなった時、これを読もう。少しは落ち着くはずだ。なんせ「パグの飼い方」だから。他に持っていくもの、筆記用具、タバコ、トリスウィスキー。あ、あと牛のぬいぐるみ。バッグがぺちゃんこじゃあ、「なんでバッグなんて持ってるの?」って思われるから。
胸に少しの重みを感じながら僕は歩いた。道助んちまで徒歩五分。きっと見たくはないことばかり起こるのだろう。けど、そんな時にはバッグの中の「パグの飼い方」を想えば、きっと大丈夫。
「あぁ、いらっしゃい。どうぞどうぞ、上がって」
おばさんは小山さんが言っていたようにとても明るい表情、しかし、明らかにやつれきっているのが僕でもわかる。
両親同士も友達なので、まるで田舎に帰った時みたいだ。ただひとつ決定的に違うのは、家に上がって最初にすることが先祖へ線香をあげることではないことだ。
さすがに静寂が訪れる。僕の番がやってきた。ちらりとおじさんとおばさんの顔を見る。二人は遠くを見つめるように、僕の前にある道助の黒い縁取りの胸上写真を見ている。うっすら涙を溜めながら。多分この先ずっと道助んちは湿度が一割増だ。
ろうそくは電気なので、マッチに火をつけ、息で吹き消さないよう注意する。線香を立て、静かに手を合わせて、目を閉じる。
「なぁ、俺、殺人犯になったんだ。まあ、お前がどう思うかなんてわからないし、わかりようがないし、知ったこっちゃないけど…お前は自殺したからさ、きっと地獄に落ちたんだろ?俺も地獄に行く予定だからさ、そん時はひとつよろしくな。あ、あと、俺別に幽霊なんて信じちゃいないけど、俺の前には化けて出るなよ。怖いからな。矛盾してるけど。まあ、そういうことで…」
目を開け、立ち上がる。兄と姉はそれぞれ道助の姉ちゃん達と話している。僕は椅子に座って用意されていたポテチを、箸で、パリポリやった。ついでに出前のパーティーセット的な皿から寿司、からあげ、煮物を食ってやった。僕しか食ってない。なぜならこのあと食事会があるからだ。
「はは、すいませんね」
小山さんは恥ずかしそうに笑い、義兄と初めましてのやりとり。
「あ、これ一応今日の流れです。といってももう知っているとは思いますが。えぇっと、つきましては…」
「はいはい、雄一ぃ、引き出しの中に会費入ってる封筒あるでしょ。ちょっとパスして」
「パスしてってあんた」
兄はどっかの引き出しから出してきた封筒を小山さんに渡した。
「人数分入ってるよ。確認してみて」
「では…はい、確かに」
小山さんは封筒をその大きな手に見合う大きなポッケにしまった。
「あちらにはもう行かれたのですか?」
お茶を運んできた姉が聞く。
「えぇ」
小山さんも姉の本音を察して道助んちの様子を語り出した。
「おじさんもおばさんも、あの、空元気と言いますか、じっとしていられないと言いますか。和子ちゃん、ではなくて和子さん達もこちらにすごく気を使ってくれるんですが、…そんな様子ですね。しょうがないことなのでしょうけど。でも今日は楽しみにしているみたいですよ」
僕はいたたまれなくなって席を外した。外に出てタバコを吸う。変にむせた。
「健一、用意はいいの?」
「あぁ」
母親のいつもより明るい声に応えてから僕は自分の部屋に行き、ショルダーバッグを出して、バッグの中に本を入れた。「パグの飼い方」。どうしようもなくなった時、これを読もう。少しは落ち着くはずだ。なんせ「パグの飼い方」だから。他に持っていくもの、筆記用具、タバコ、トリスウィスキー。あ、あと牛のぬいぐるみ。バッグがぺちゃんこじゃあ、「なんでバッグなんて持ってるの?」って思われるから。
胸に少しの重みを感じながら僕は歩いた。道助んちまで徒歩五分。きっと見たくはないことばかり起こるのだろう。けど、そんな時にはバッグの中の「パグの飼い方」を想えば、きっと大丈夫。
「あぁ、いらっしゃい。どうぞどうぞ、上がって」
おばさんは小山さんが言っていたようにとても明るい表情、しかし、明らかにやつれきっているのが僕でもわかる。
両親同士も友達なので、まるで田舎に帰った時みたいだ。ただひとつ決定的に違うのは、家に上がって最初にすることが先祖へ線香をあげることではないことだ。
さすがに静寂が訪れる。僕の番がやってきた。ちらりとおじさんとおばさんの顔を見る。二人は遠くを見つめるように、僕の前にある道助の黒い縁取りの胸上写真を見ている。うっすら涙を溜めながら。多分この先ずっと道助んちは湿度が一割増だ。
ろうそくは電気なので、マッチに火をつけ、息で吹き消さないよう注意する。線香を立て、静かに手を合わせて、目を閉じる。
「なぁ、俺、殺人犯になったんだ。まあ、お前がどう思うかなんてわからないし、わかりようがないし、知ったこっちゃないけど…お前は自殺したからさ、きっと地獄に落ちたんだろ?俺も地獄に行く予定だからさ、そん時はひとつよろしくな。あ、あと、俺別に幽霊なんて信じちゃいないけど、俺の前には化けて出るなよ。怖いからな。矛盾してるけど。まあ、そういうことで…」
目を開け、立ち上がる。兄と姉はそれぞれ道助の姉ちゃん達と話している。僕は椅子に座って用意されていたポテチを、箸で、パリポリやった。ついでに出前のパーティーセット的な皿から寿司、からあげ、煮物を食ってやった。僕しか食ってない。なぜならこのあと食事会があるからだ。
初恋はネコメタピオカカエル
19の「紙飛行機曇り空わって」(だっけ?)をアントニオ猪木のモノマネしながら歌うやつは全国に100万人いることが判明しました。
元気ですかぁー!っつってな。
やるなら最初から最後までやり通せよ!中途半端に歌いやがって!
そこのお前だばかやろー!
元気ですかぁー!っつってな。
やるなら最初から最後までやり通せよ!中途半端に歌いやがって!
そこのお前だばかやろー!
舎人公園でまたいつか
白人が思い出し笑いしてるとこはっきり見たぞちくしょーばかやろー!ここで皆さんから寄せられた質問に答えよう。
質問・こはんさんは男でいいんですか?
答え・プロフィールは嘘だらけです。
質問・青春は三倍速ですか?
答え・そんなレベルに達している人間ではない。
質問・こはんって湖畔でいいんですか?
答え・蒙古斑のこはんです。
質問・変態ですか?
答え・変態になりきれません。
ゴビ砂漠の熊に襲われちまえよおれ!
質問・こはんさんは男でいいんですか?
答え・プロフィールは嘘だらけです。
質問・青春は三倍速ですか?
答え・そんなレベルに達している人間ではない。
質問・こはんって湖畔でいいんですか?
答え・蒙古斑のこはんです。
質問・変態ですか?
答え・変態になりきれません。
ゴビ砂漠の熊に襲われちまえよおれ!
ボツ台本手抜き
「まあ全部手抜きなわけなんだが」
『エアコンが欠かせない季節になりました』
「そうだね。おれの部屋、ワンルームなんだけど、風通しが悪い上に南側に窓があるからさ。日中エアコンかけないと50度くらいになっちゃうんだよ」
『ああ、ウォツカぐらいってこと?』
「アルコール度数じゃねえよ!室温のことだよ!」
『なるほどね。しかし50度もあったら室温っていうか温室ですね』
「いやそうだけど。なにを突然朝のワイドショーのコメンテーターが言いそうなギャグ言ってんだよ」
『手ぇ抜いてんだよ!』
「駄目だろ!何やってんだよ!なんで手ぇ抜いた!」
『いやさ、ちょっと聞いてよ』
「なんだよ」
『おれにとって夏ってやつは、エアコンガンガンきかして長袖を着て過ごす、ってのがおれの夏の過ごし方なんだよ』
「ああ、まあまあ、夜寝る時なんて夏なのに布団頭からかぶるほどエアコンきかしたりしてさ」
『そう、それがなに、世の中エコだエコだと言ってさ。エアコンガンガンきかしたりしたらエコ大使に暗殺されるという噂もあるし。おれにエアコンをガンガンかけさせないんだよ、エアコンだって略したらエコなんだぜ?』
「エアコンって言葉自体エアーコンディショナーの略だけどな!まあ所々なに言ってるかわからなかったけど、確かに、まあ夏に長袖着る程はやりすぎだけど、自分の部屋の中ぐらいはある程度好きにすればいいだろ」
『それがリモコンの“下”ボタンとられちゃったんだよ』
「誰にだよ!“下”とられちゃったら設定温度下げられないけど!」
『誰にとられたかは私にはわかりかねます』
「なんだそれ!知らねえのかよ!」
『手抜きだよ』
「ああそうか、ってなんでだよ!ちゃんとしようぜ!」
『誰でもいいじゃねえか、じゃあリモコン泥棒』
「てきとうかよ!リモコン泥棒ならリモコンごと盗めよ!あるだろ、彼女が冷え症だからとかよ!」
『もう暑くて暑くて。やる気出ないよ。設定温度32度ぐらいなんだぜ?』
「そりゃちょっと同情しちゃうな」
『それでもつけないよりはマシかなって思ってつけるんだけどさ。まるで意味がない。扇風機以下』
「それでもエアコンに頼る気持ちわかるなぁ」
『もう汗だらだら。長袖なんか凄く重くなっちゃって』
「とりあえず長袖を半袖にかえろ!」
『しょうがないから外に出るんだ。外の方が涼しいからね。だけど世の中エコだろ?もうエコでさ。エコエコで、エコエコアザラクなんだよ』
「ギャグの拾い食いすんな!なんだよエコエコアザラクってよ!」
『もうエロイムエッサイム』
「わけわかんねえこと言うな!」
『電車なんてどの車両も微弱冷房でさ。暑くて暑くて』
「まあエコ目的だけじゃなくてエアコンが苦手な人もいるからね」
『ああ、お腹痛くなっちゃったり、手足が冷えたり』
「そうそう、頭が痛くなったりする人もいる」
『そういう人がいるならしょうがないよな』
「今完全に手ぇ抜いただろ!やめろって!」
『いや、だって電車は公共の乗り物だからそういう部分には気を使わないと』
「正論だけど!」
『おれみたいに夏だってのに薄着するとお腹が痛くなる人もいるんだから』
「だから長袖着てるのか、って長袖もボケじゃなかったのかよ!ボケろよ!」
『ボケる度におれの部屋のエアコンの設定温度が上がっていくんだよ』
「嘘つけ!何センサー搭載のエアコンだ!」
『おい!お前ちょっと暑苦しいよ、ただでさえ暑いのに。手ぇ抜いてくれよ』
「ええ!?…………まあちょっとやってみるか」
『………暑い』
「まあ夏だからね」
『夏が一番好きな季節なんだけどね』
「色々あるからね夏は」
『おれワンピース着ようと思ってんだよね』
「お前女装の趣味あったっけ?」
『いや違う。バカだな。着物だってワンピースだろ?』
「ああ、なるほどね」
『まあ着物は着ないけどね。楽そうじゃん、ワンピース』
「そうだね」
『まあズボンくらいははくけど』
「へー」
『ほらおれ女子高生がスカートのしたにジャージ着てるの好きじゃん』
「そうなんだ」
『……………』
「……………」
『やめようか』
「そうだな」
『ついでにこれもやめよう』
「そうだな。じゃあ最後にひとつボケを」
『いやぁアツはナツいねぇ』
「手抜きやめるのおれだけかよ!もういいよ!」
終わり なーむー
『エアコンが欠かせない季節になりました』
「そうだね。おれの部屋、ワンルームなんだけど、風通しが悪い上に南側に窓があるからさ。日中エアコンかけないと50度くらいになっちゃうんだよ」
『ああ、ウォツカぐらいってこと?』
「アルコール度数じゃねえよ!室温のことだよ!」
『なるほどね。しかし50度もあったら室温っていうか温室ですね』
「いやそうだけど。なにを突然朝のワイドショーのコメンテーターが言いそうなギャグ言ってんだよ」
『手ぇ抜いてんだよ!』
「駄目だろ!何やってんだよ!なんで手ぇ抜いた!」
『いやさ、ちょっと聞いてよ』
「なんだよ」
『おれにとって夏ってやつは、エアコンガンガンきかして長袖を着て過ごす、ってのがおれの夏の過ごし方なんだよ』
「ああ、まあまあ、夜寝る時なんて夏なのに布団頭からかぶるほどエアコンきかしたりしてさ」
『そう、それがなに、世の中エコだエコだと言ってさ。エアコンガンガンきかしたりしたらエコ大使に暗殺されるという噂もあるし。おれにエアコンをガンガンかけさせないんだよ、エアコンだって略したらエコなんだぜ?』
「エアコンって言葉自体エアーコンディショナーの略だけどな!まあ所々なに言ってるかわからなかったけど、確かに、まあ夏に長袖着る程はやりすぎだけど、自分の部屋の中ぐらいはある程度好きにすればいいだろ」
『それがリモコンの“下”ボタンとられちゃったんだよ』
「誰にだよ!“下”とられちゃったら設定温度下げられないけど!」
『誰にとられたかは私にはわかりかねます』
「なんだそれ!知らねえのかよ!」
『手抜きだよ』
「ああそうか、ってなんでだよ!ちゃんとしようぜ!」
『誰でもいいじゃねえか、じゃあリモコン泥棒』
「てきとうかよ!リモコン泥棒ならリモコンごと盗めよ!あるだろ、彼女が冷え症だからとかよ!」
『もう暑くて暑くて。やる気出ないよ。設定温度32度ぐらいなんだぜ?』
「そりゃちょっと同情しちゃうな」
『それでもつけないよりはマシかなって思ってつけるんだけどさ。まるで意味がない。扇風機以下』
「それでもエアコンに頼る気持ちわかるなぁ」
『もう汗だらだら。長袖なんか凄く重くなっちゃって』
「とりあえず長袖を半袖にかえろ!」
『しょうがないから外に出るんだ。外の方が涼しいからね。だけど世の中エコだろ?もうエコでさ。エコエコで、エコエコアザラクなんだよ』
「ギャグの拾い食いすんな!なんだよエコエコアザラクってよ!」
『もうエロイムエッサイム』
「わけわかんねえこと言うな!」
『電車なんてどの車両も微弱冷房でさ。暑くて暑くて』
「まあエコ目的だけじゃなくてエアコンが苦手な人もいるからね」
『ああ、お腹痛くなっちゃったり、手足が冷えたり』
「そうそう、頭が痛くなったりする人もいる」
『そういう人がいるならしょうがないよな』
「今完全に手ぇ抜いただろ!やめろって!」
『いや、だって電車は公共の乗り物だからそういう部分には気を使わないと』
「正論だけど!」
『おれみたいに夏だってのに薄着するとお腹が痛くなる人もいるんだから』
「だから長袖着てるのか、って長袖もボケじゃなかったのかよ!ボケろよ!」
『ボケる度におれの部屋のエアコンの設定温度が上がっていくんだよ』
「嘘つけ!何センサー搭載のエアコンだ!」
『おい!お前ちょっと暑苦しいよ、ただでさえ暑いのに。手ぇ抜いてくれよ』
「ええ!?…………まあちょっとやってみるか」
『………暑い』
「まあ夏だからね」
『夏が一番好きな季節なんだけどね』
「色々あるからね夏は」
『おれワンピース着ようと思ってんだよね』
「お前女装の趣味あったっけ?」
『いや違う。バカだな。着物だってワンピースだろ?』
「ああ、なるほどね」
『まあ着物は着ないけどね。楽そうじゃん、ワンピース』
「そうだね」
『まあズボンくらいははくけど』
「へー」
『ほらおれ女子高生がスカートのしたにジャージ着てるの好きじゃん』
「そうなんだ」
『……………』
「……………」
『やめようか』
「そうだな」
『ついでにこれもやめよう』
「そうだな。じゃあ最後にひとつボケを」
『いやぁアツはナツいねぇ』
「手抜きやめるのおれだけかよ!もういいよ!」
終わり なーむー
読んだら損する「運命はテイクアウト」(17)
男が家の中で真に落ち着ける場所はトイレだけだ、と、世間一般でいわれるようにトイレの中は今の僕にとって唯一の場所だ。部屋では広すぎる、といっても四畳半だが。狭いトイレ、異臭が漏れぬよう隔絶された空気、なんとなく見て見ぬ振りされている空間、結界、サンクチュアリ、何も考えず、やることはひとつ、持ち込んだ漫画を読みながらのウンコ。ふたつやってるな。まあいい。ウンコと一緒に僕の心も流れていってしまえ。
鍵を開けるまでは家の中の孤島、安心。ドアを開けたならもう自分で自分を自分らしく演じなければならない。ミスは牢屋に繋がる。家族の悲しみに繋がる。遺族の喜びに繋がる。わがままな考え。自分勝手。
リビングに家族集合中。違和感なく過ごそうとするうちに、やはり変に意識してしまいストレスが溜まっていく。普段やっていることを普段通りにやることの難しさはテレビドラマにおける下手な俳優を観ていればわかるだろう。しかし僕は名優なので大丈夫。なんじゃそりゃ。普段から家庭内で僕に用意された科白など「ああ」「そう」ぐらいしかない。馬鹿でもできる。だけどやっぱりママが好き、も、もといやっぱり辛い。時計の秒針のリズムの遅さにイライラする。それでもあと少しみんなとテレビを観なければ。風呂に入って寝るには早過ぎるから。
向こうでは母親が姉と電話をしている。明日何を持ってこいとか、野菜がどうのこうの。たまに孫が電話口に立つらしく、赤ちゃん言葉になる。末っ子の僕には目新しい、耳新しいもののように思う。父親は電話を盗み聞きながら携帯電話で孫の画像を見てニヤニヤ。あの父親が、だ。気持ち悪い。これが世に言う初孫が持つ力ってやつか。
孫は生まれてから一週間で記念写真の枚数が僕の生涯の枚数を超えた。末っ子次男という存在は世の中では甘やかされて育ったとして忌み嫌われているが、実態は甘やかされたのではなく省エネで育てられた存在なのだ。三人目となれば親はもう育児のプロであり、過剰なエネルギーを注ぐことなく適当に育てることが出来るようになっている。十分な経験により体系化されてるから余裕ある育児が出来る。というか半ば育児に飽きている。その証拠に兄姉と比べて記念写真の枚数はもう露骨に少ない。半分どころか三分の一以下だ。そんな空気を察した末っ子次男は結果的に甘えん坊になる。自分から積極的に媚びを売らなければなかなか良いリアクションが得られないからだ。また末っ子というのは悲惨だ。まず体力的にかなわない兄や姉にトラウマを植え付けられる。おもちゃになったり役立たずになったり。またこんなこともあった。おばあちゃんがまだ羽振りが良かった頃、孫達に、不定期に、おこづかいをくれたのだが、おこづかい制度が始まった当初、兄大学生だから一万円、姉高校生だから五千円、僕中学生で末っ子だから三千円、まあこの時は納得だ。中学生で三千円も貰
えるなら結構なことである。だがしかし、数年後、不定期おこづかい制度の末期には、兄社会人おこづかい卒業、姉大学生だから一万円、僕高校生になったのに末っ子イメージが抜けず三千円を堅持。なんだねこれは。しかも僕が二十歳になる前におこづかい制度は雨散霧消した。いやまあ貰えるだけ良かったけどさ!この現象は親戚のお年玉でも起こった。まあ三人にお年玉をやるのなんて大変だけどさ!不景気だし!お年玉と言えば、ああ、バブルの頃はお年玉も凄かった。例えの話ではなくて知らないおっさんが気前よく、まだ幼児の僕に一万円札をくれたりしたもんだ。いや別に肉体を売ったりはしていない。マジだぜ平成生まれボーイズアンドガールズ!
のほほんとした時間が過ぎ行く中、僕は時計を気にしている。もういいだろう。風呂に入る。
うんざりするようなオナニーをして寝る。射精後の虚無感タイムが今までで一番辛ものになった。
土曜日の朝。テレビをつける。あの事件はもう報道されていない。とても都合がいい。うん、非常に、良い。
ふらふら起き出すと姉と義兄がいた。甥の姿が見えない。外から奇妙な笑い声。孫と遊ぶ爺婆の声。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
義兄は眠たそう。なんでも五時に起きたとのこと。見ず知らずの人間の為にご苦労なこって。道助の家に行くのは夕方だというのに。
家の中でタバコを吸うと煙たい目で見られるので難儀する。昨日買ったプレゼントは甥に軽くスルーされた。
昼食を済ますといよいよ慌ただしくなった。黒いネクタイはどこだ、数珠はどこだ、真珠のネックレス貸して、甥が泣き出した、僕はベランダでタバコを吸ってる。いつもの服で。誰にも文句は言わせない。普段着で構いません、という、本日は無礼講で、という言葉と同類の言葉を鵜呑みにしてやるんだ。
そんな阿鼻叫喚の中、インターホンが鳴った。
鍵を開けるまでは家の中の孤島、安心。ドアを開けたならもう自分で自分を自分らしく演じなければならない。ミスは牢屋に繋がる。家族の悲しみに繋がる。遺族の喜びに繋がる。わがままな考え。自分勝手。
リビングに家族集合中。違和感なく過ごそうとするうちに、やはり変に意識してしまいストレスが溜まっていく。普段やっていることを普段通りにやることの難しさはテレビドラマにおける下手な俳優を観ていればわかるだろう。しかし僕は名優なので大丈夫。なんじゃそりゃ。普段から家庭内で僕に用意された科白など「ああ」「そう」ぐらいしかない。馬鹿でもできる。だけどやっぱりママが好き、も、もといやっぱり辛い。時計の秒針のリズムの遅さにイライラする。それでもあと少しみんなとテレビを観なければ。風呂に入って寝るには早過ぎるから。
向こうでは母親が姉と電話をしている。明日何を持ってこいとか、野菜がどうのこうの。たまに孫が電話口に立つらしく、赤ちゃん言葉になる。末っ子の僕には目新しい、耳新しいもののように思う。父親は電話を盗み聞きながら携帯電話で孫の画像を見てニヤニヤ。あの父親が、だ。気持ち悪い。これが世に言う初孫が持つ力ってやつか。
孫は生まれてから一週間で記念写真の枚数が僕の生涯の枚数を超えた。末っ子次男という存在は世の中では甘やかされて育ったとして忌み嫌われているが、実態は甘やかされたのではなく省エネで育てられた存在なのだ。三人目となれば親はもう育児のプロであり、過剰なエネルギーを注ぐことなく適当に育てることが出来るようになっている。十分な経験により体系化されてるから余裕ある育児が出来る。というか半ば育児に飽きている。その証拠に兄姉と比べて記念写真の枚数はもう露骨に少ない。半分どころか三分の一以下だ。そんな空気を察した末っ子次男は結果的に甘えん坊になる。自分から積極的に媚びを売らなければなかなか良いリアクションが得られないからだ。また末っ子というのは悲惨だ。まず体力的にかなわない兄や姉にトラウマを植え付けられる。おもちゃになったり役立たずになったり。またこんなこともあった。おばあちゃんがまだ羽振りが良かった頃、孫達に、不定期に、おこづかいをくれたのだが、おこづかい制度が始まった当初、兄大学生だから一万円、姉高校生だから五千円、僕中学生で末っ子だから三千円、まあこの時は納得だ。中学生で三千円も貰
えるなら結構なことである。だがしかし、数年後、不定期おこづかい制度の末期には、兄社会人おこづかい卒業、姉大学生だから一万円、僕高校生になったのに末っ子イメージが抜けず三千円を堅持。なんだねこれは。しかも僕が二十歳になる前におこづかい制度は雨散霧消した。いやまあ貰えるだけ良かったけどさ!この現象は親戚のお年玉でも起こった。まあ三人にお年玉をやるのなんて大変だけどさ!不景気だし!お年玉と言えば、ああ、バブルの頃はお年玉も凄かった。例えの話ではなくて知らないおっさんが気前よく、まだ幼児の僕に一万円札をくれたりしたもんだ。いや別に肉体を売ったりはしていない。マジだぜ平成生まれボーイズアンドガールズ!
のほほんとした時間が過ぎ行く中、僕は時計を気にしている。もういいだろう。風呂に入る。
うんざりするようなオナニーをして寝る。射精後の虚無感タイムが今までで一番辛ものになった。
土曜日の朝。テレビをつける。あの事件はもう報道されていない。とても都合がいい。うん、非常に、良い。
ふらふら起き出すと姉と義兄がいた。甥の姿が見えない。外から奇妙な笑い声。孫と遊ぶ爺婆の声。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
義兄は眠たそう。なんでも五時に起きたとのこと。見ず知らずの人間の為にご苦労なこって。道助の家に行くのは夕方だというのに。
家の中でタバコを吸うと煙たい目で見られるので難儀する。昨日買ったプレゼントは甥に軽くスルーされた。
昼食を済ますといよいよ慌ただしくなった。黒いネクタイはどこだ、数珠はどこだ、真珠のネックレス貸して、甥が泣き出した、僕はベランダでタバコを吸ってる。いつもの服で。誰にも文句は言わせない。普段着で構いません、という、本日は無礼講で、という言葉と同類の言葉を鵜呑みにしてやるんだ。
そんな阿鼻叫喚の中、インターホンが鳴った。