憂鬱なときは秋猫

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10Jun
- 風前の灯火、風の前の塵に同じ
  大学時代の後輩たちと二子玉川で会った。モンクレールの上階にある、照明と植物がお洒落な店で食事をした。散々だった。会話が箸にも棒にもかからず、無と同じだった。久々に外界の人とする会話は、キャッチボールすらもままならず、唯一いた同期が、柳田並みにヒットやホームランを飛ばしながら、時折こちらに球を回してくれるのに、私はことごとくそれをエラーにしてしまう。それを後輩たちがまた新しい球を投げ、場が回っていく。ならばと、飲み物を頼む係になろうかと思ったけれど、久しぶりに話したので声量が出ず、結局後輩が引き継いでくれた。なんでおんねん自分。そんな声が壁の葉っぱから聞こえる。私ばかり陰気に、さらにつまらない人間になっていた。後輩の恋愛の悩みに対して、力強くアドバイスを送り、それと同じくらい強い経験談を交えて励ます同期が眩しくて胸が潰れるかと思いました。もはや、一緒に公演をしたかつての自分すら眩しい。私も縁切り神社に行ったよ、とか、元彼の忘れ物をピクルスの空瓶の中で燃やして瓶詰め地獄だなと思った日のこととか話したいなと思ったけど、誰も欲してないぞ！と思って必死にとどめた。それでよかったと思う。それだけはよくやったと思う。あまりにも自分がなさけないので、だんだん頭の中で妄想をしてみた。たとえば和田さんのような熟練の制球力があれば…？もしくは周東のスピード感と得点圏の広さがあれば…？心の中で食いしばったハンカチは粉々になって風に飛んでいく……✞ｱｰﾒﾝ隣に座っていた後輩と2回続けて同じ飲み物を頼んだののもちょっとヤバいし、インスタのおすすめに数ヶ月間現れ続けていた後輩のアカウントをフォローしていいか悩んでいて、それを本人に言ったときも言いながら悶絶していた。写真綺麗だなぁって思って見ていたと伝える自分が気持ち悪くて自分で引いた。フォローしてないのに覗いていた事実を周知した(本人に)ということも含めてまじで引いた。大人数苦手だとか、人見知りだとかそういう言い訳は言い訳なので通用しないです。人間力。就職している後輩が言ったワードが頭の中の電光掲示板に点滅する。自我は風前の灯火。言葉は風の前の塵に同じ。knockout。
08Nov
- 11月8日、18時半ごろ。鼻の奥が痛い。
  副鼻腔炎になった。どうりで歌いづらいと思ったわけだ。ほんでもって音の聞こえ方も変。頭にハリーポッター4の泡ぶく魔法がかかってるみたい。こもるんじゃぁぁ。動画とか頑張ろうと思ってたけど、無理そう。向いてないかなとは思ったけど、計画倒れ的でちょっとかなしい。でもまぁ今は他のことやっとけばいいかな。舞台のハリポタでも見に行くか、浅草の猫神社でも行くか。眠いからそろそろ寝よう。
07Nov
- 11月7日、4時ごろ。
  風の音がうるさい。珍しくコーヒーを飲んでしまったのでまだ眠れないかんじ。今日はなんだか身になったのかならなかったのか分からないような一日だったので、形として何かを残しておかないとまるごと無くなるような気がしたのでブログを書いてみてる。目標ってなんだ？よくわかんないほど迷走してきた今日この頃。仕事が当日キャンセルになって急に半日以上の時間が空いたので、思い立って、SNSに投稿でもしようと歌を録ってた。SNSっていうとほんとに吐き気がするくらいめんどくさい。なんか目の前を流れていく人の群れに向かって気を引こうと大声で喚いてる気持ちになる。でも仕事に繋がるかもしれないし、トライアンドエラーで自分の芸がより良くなればこれ以上のことはないと思って1ヶ月だけがんばることにした。だから強いて言えばこれが今月の目標です。11月ってちょっと、っていうかかなり憂鬱。月末の恩師の命日に向かってカウントダウンしてる気分になるから。First Loveを歌ってたらなんだか泣けてきて、その後撮った動画見返してたら、それ以降のやつは全部音が歪んでた。何も触ってないのに。「あなたはどこにいるんだろう」って歌詞があるからって、来なくていいのよ。なんかそんな、おいおいって言いたくなるところのある先生だった。
31Oct
- 10月31日、21時頃。歯を抜いた。
  上に一本だけ出ていた親知らずを抜いた。他の人の歯事情なんてあんまり聞かないから精密にはわからないけど、私は昔から虫歯が多くて、特に奥歯はほとんどが大きな虫歯になって被せてその下でまた虫歯になってとかを繰り返したので、削るだけ削った上にセラミックの被せ物をして、沖ノ鳥島みたいになっている。そんなデストピアな私の口内環境において、年々徐々に存在感を増して伸びてきたやつがこの親知らずだ。さながら親から相続した日当たり悪し、駅から遠い、アパートみたいな存在だったけれど、なんとなくそこに生えていたのでありのままにさせていた。何より抜くのが痛そうだったので怖かったのだ。それがなんで抜くことになったかというと、毎晩その一本のために歯磨きの時間が増えるのがいい加減めんどくさくなったからだ。奥すぎてただでさえ磨きにくいのに、肉やら野菜の筋が全部挟まるのも辟易する。それで前回歯医者さんで「磨きにくいんですよねぇ〜」などと愚痴ったら、「噛み合わせもないし抜いちゃってもいいと思いますよ〜」と優しいおばさま衛生士さんに言われ、おじいちゃん先生にも痛くないと思うよと言っていたので抜くことにした。意外とあっけなく抜けた親知らず歯ティッシュに包まれて横になっている私の胸の上に置かれた。2cmくらいの大きさのそれは、案の定虫歯ができていて、ところどころ白くもなっていた。止血している間、手にとって、歯ってこんなに長いんだなとまじまじ見ていたら、洗ってあげるから持って帰る？と聞かれたのでお願いした。ほんでさっきまで虫歯の穴が空いた周辺の柔らかくなった部分をほじくるという作業をしていたのだが、やっぱり白くなっているところはネイル用のプッシャーで削ることができるけど、その他のツヤツヤしている部分は金属では歯が入らなくて面白い。あらかたやると小さな木蓮の化石みたいな感じになった。なんとなく魔法石味を感じて愛着が湧く。こんなものが自分から生えてきていたのに自分では全体像を知ることはなかったわけで、こんなに小さいものをあんなに鬱陶しがっていたのかと思うと不思議。これが自分の一部だった言われても、感覚的に全然わからない。今度、ネイル用の石とかつけてデコってみようかな。
29Oct
- 10月29日、21時頃。彩雲国物語とか。
  最近、ご飯食べるのも忘れるし、何かしなくちゃってあせあせしてしまうので、たぶん躁の時期なんだと思う。別に病院に行ったりしてないけど、私のメンタルは変温動物みたいにホルモンやら気圧やらが変わればあっけなく気分も調子も変化する。こういう時、なんとなく生産性を感じられて、そいで絶対に私を傷つけないものに没頭して過ごすのが一番なので、Prime Videoで彩雲国物語を一話から見ながらビーズで指輪を編んだ。蛍光灯を反射してキラキラ光る小さなお花を生み出せば生み出すほど、画面の中では主人公・秀麗が男社会の中のたった一人の女性官吏としてたくましく、強くなっていく。折に触れて見返せば見返すほど、この物語があまりにも正論と正義と健気なほど純粋な努力によってできていることに気がつくが、原作ではこの後彼女たちが盛大なしっぺ返しをくらい、それらが必ずしも（少なくとも自分にとって）報われるものではないと叩きのめされる。それでも彼女たちは一途に夢見たものを追いかける。昔から好きなものを見ると、自分が変わったところと、でも結局は変わっていないことに気がつくが、少なくともこのアニメが今も好きでいられてよかったと思う。緑川光が今も昔も武官キャラを演じていて安心した。
28Oct
- ミュージカル『ルドルフ』《Du bleibst bei mir それは私だけ》、訳してみた。
  Glaub an den Tag bei Nacht, Wenn es dich glücklich macht, Glaub an Ideen(pl.), die du dir spinnst. Der Lauf der Welt steht fest, Träum dir naiv den Rest, Du weißt, dass du niemals gewinnst. ※下線は対比部、ハイライトは韻を踏んでいる部分・sich4 machen 再.進歩する,良くなる・Idee f.思いつき・Lauf m.回転/天体の軌道(=run)・fest|stehen i.決定している・Rest m.残り・gewinnen t.勝つ信じるがいいわ昼を夜だともし幸運にも叶うものなら信じるがいいわ自分で紡いだ夢小説を/この世界がどう進むかは決まっているのけなげに残り時間を夢みてもあなたには分かっている自分に勝ち目がないことを/ Dein Weg ist vorbestimmt. Es gibt für dich kein zurück, Wehrst du dich auch noch so sehr. Ich bin dir angetraut, Ich bleibe deine Braut, Du entrinnst deinem Schicksal nicht mehr.・bestimmen t.定める・sich4 wehren 再.抵抗する・noch so どんなに…でも・an|trauen t.結婚する・entrinnen i(s).逃れるあなたの道は定められている/そこに引き返す方法はないどんなに抵抗したとしてもね/私はあなたと結婚しているし私はあなたの花嫁のままだしあなたは自分の運命からもはやもう逃れない/ Ich bleib die Frau hier am Thron Und an Würden dir gleich. Mich wird der Adel Europas als Kaiserin ehren. Ich bleib die Frau mit dem Anspruch auf Krone und Reich. Denn bei allem was heilig ist, Schwör ich dir, du bleibst bei mir!・Thronm.王座,帝位・Würden f.尊厳/位・Adel m.貴族・ehren t.尊敬する・Anspruch m.権利/pl.要求・Krone f.王冠・schwören t.誓う私はここ王位の隣であなたのすぐ近くで妻の座にとどまる／私をヨーロッパ貴族は皇后として讃えるでしょう／私は王冠と帝国に基づく権利とともに妻のままよ／聖なる名のもとに私はあなたに誓ったのだからあなたは私の側にとどまるの！ Lad dir nur Dirnen(pl.)ein, Das mag so Usus sein. Doch höre, weiter gehst du nicht! Spar dir den Selbstbetrug, Du weißt es gut genug, Du bist ein Prinz, gehorch der Pflicht!・ein|laden t.招待する・Dirnef.売春婦・Usus m.慣習,しきたり・Selbstbetrug m.自己欺瞞・gehorchen i.服従する娼婦達を招待なさいな王家の慣習のようにそうしたって構わない/でも聞いて！これ以上通ってはだめよ/自己欺瞞を抱え込まないであなたは十分よく分かっているはずよあなたは皇太子それは義務の奴隷ということ！ Bis dass der Tod uns trennt, Bleibst du mein Gatte, Weil Gott es für uns so ausersah. Mag es auch bitter sein, Rudolf gesteh’s dir ein, Wo du gehst, wo du stehst, ich bin nah!・Gatte m.ご主人,夫君・4für4aus|ershen t.4を4に選び出す・ein|gestehen t.(罪・過ちを)白状する死が二人をわかつまであなたは私の旦那様神が選んだのだから/それがつらいことでもルドルフはあなたに告解するわどこに行こうとどこに居ようと私は近くにいるの！ Ich bleib die Frau hier bei dir, Teil ich auch nicht dein Bett. Mich wird der Adel Europas als Kaiserin ehren. Ich bleib das Graun deiner Flittchen Ob blond ob brünett – Denn bei allem was heilig ist, Schwör ich dir, du bleibst bei mir!・bleiben bei3 3を放棄しない・Grauen n.恐怖,戦慄・Flittchen n.浮気女,尻軽女　私はこれからもここであなたの妻のままなのあなたのベットを分けてもらわなくとも／私をヨーロッパ貴族は皇后として讃えるでしょう／私はあなたの淫乱ちゃんの恐怖のままそれがブロンドだろうがブルネットだろうがー聖なる名のもとに私はあなたに誓ったのだからあなたは私の側にとどまるの！ Spür’ wie der Zweifel in dir dich ergreift und jagt, ewig plagt und sagt…・Zweifel m.疑い・ergreifen t.掴む/襲う・jagen t.追いやる/追いかける/狩る・ewig 形.永遠の・plagen t.苦しめる/煩わす感じなさいあなたの中で疑いがあなたを襲い追いかけ永遠に苦しめそして言い聞かせるのを... Ich werd die Frau an der Macht, Teil’n wir auch nicht ein Bett. Mich wird der Adel Europas als Kaiserin ehren. Sie werden mich in dein Grab legen auf dein Skelett. Denn bei allem was heilig ist, schwör ich dir, Du bleibst bei mir!・Skelett n.骸骨私は権力のある妻になるし、私たちは互いにベットを分け合わない/私をヨーロッパ貴族は皇后として讃えるでしょう/彼らは私をあなたの墓の中であなたの骸骨の上に横たえるでしょう/聖なる名のもとに私はあなたに誓ったのだからあなたは私の側にとどまるの！ Vor dem Allmächtigen schwöre ich, Du bleibst bei mir!・Allmächtigen m.(キリスト教の)全能の神主たる神の前で誓ったのあなたはこれからも私と一緒だと！
- 10月28日、20時頃。
  今週けっこう疲れた。持病の“気を遣いすぎてしぬ“病が絶賛ブイブイいわしてきて、私を容赦なくいじめるし、気圧がやばい。自律神経が乱れて夜中に肋間筋が痛かった。これはもうムリ、と思って、木曜日には肉を食べた。なんで人はお肉を食べるとこんなにも力が湧いてくるんだろう。和牛たたき風さん、どうもありがとう。あなたたちのおかげで今週生き残れました。そしてポテトサラダとスープとワインにも、感謝。そんなことをしたら、月末に歯医者に行く予定があるので、たぶん今月の予算が足りないということに気がつき、急遽ブックオフで読まない本やらCDやらを売ってきた。ずっと抱えていた思い出は小さな硬貨になって帰ってきたけれど、こんな気持ちになるのなら最初から買わなければよかったと思った。そして、一番思い入れのないものが紙幣になって帰ってきたので驚いた。それもそうか。だってあんまり手にとってないし、陽の当たらない隅っこに置いてたから綺麗なんだもの。でも、それくらいの価値にしかならないものをいつまでも取っておいて賃貸の部屋に保管していたのか、、と思って少し虚しくなった。メルカリに出品すればもう少し気持ちを修めて手放せたのかもしれないが、それすらも不精だった私に文句をいう相手もなかった。お腹が空いたのでポトフを炊飯器で作って食べた。たぶんもうすぐ秋が終わる。ZARAセールまでいきねば。
19Oct
- 冷蔵庫の隙間に入って白骨化したしゃもじ的葛藤
  新しい仕事を始めて2ヶ月が経った。頭の中から言葉という言葉が干上がりそうなくらい空っぽになって帰ってくるので、ブログを書くとか、そもそも文章を書きはじめるということがめんどくさくなってきて、このままだと棚の上にちょい起きしたまま埃をかぶって引っ越しまで存在を忘れそうな気配がしてきたので、無理やり書き出してみる。文章を書いて頭の中を言語化した方が、自分のようなタイプの人間は気持ちもすっきりするし、しかも自分のことをちょっとクレバーでファニーな存在のように錯覚できたりもするから、普通に考えて書くことは習慣化した方がよくネ？と、アナザーサイドの割と客観的で現実的で向上心が強い自分は云うが、いや、誰が読むねんこんなの、と、思わんでもないよな。やっぱり。
- 『移動辞令は音楽隊』を、みた。〜HIROSHI ZIKARA〜
  まずは、こちらをご覧ください。総括として、この映像を見て何かを感じる人、つまり吹奏楽経験のある人、阿部寛、高杉真宙くんを見たい人にはとてもおすすめです。コメディーとしてはシリアスな場面も多いし、人間ドラマとしては描いている期間が短すぎたり、「音楽は必要か」というようなテーマ性も限られた層に届くものだし、人によっては全部が中途半端だと感じるかもしれません。ただ、音楽経験のある人には後述するような「これは！」(外人4コマ)となるような部分があったり、役者さんがリアルに楽器を吹いている(しかも宝島)だけでも見応えがあると思います。しかも、動画を見てお分かりの通り、楽器の持ち方や運指が正確です。また、美術や衣装、小道具などの一つ一つの選び方もそうだし、照明や撮影まで全部合わさった時の画作りもすごく考えられているので、そういう部分まで気になる人にも楽しめると思います。※以下、ネタバレ。観てない人は読むなよ！◯寛力冒頭、ほのぼのおもしろ“刑事版スウィングガールズ“だと思って見始めた私の心はおばあちゃんと一緒にスパナでぶん殴られました。ガムテで口塞がれるなんて見てられん。。。私はとてもおばあちゃん子なので、法子のばばとお揃いのキーホルダーを鞄につけてる感じとかすごく共感してしまって（私は家鍵にUSJのお土産であげたキティの色違いつけてた）、法子が初期成瀬に文化祭をブッチされてキレ散らかすところで泣いてしまいました（ここの見上愛ちゃん芝居よすぎ）。そして、この初期成瀬がほんとにびっくりするくらい、阿部寛成分なんて怪力と鴨居に頭ぶつけるだけのパワハラモラハラ時代遅れ刑事すぎて、こ　い　つ　に　今　す　ぐ　『　ミ　ス　テ　リ　と　言　う　勿　れ　』　の　一　話　を　見　せ　て　や　り　た　い、ってなります。それでも見続けられたのは、旧時代的なスタンスの根っこには「悪い奴を放っては置けない」という昔の刑事ドラマか戦隊ヒーローみたいな純粋な正義感があって、それを時代にあわせてアップデートできていないだけというのがわかるからでした。はい、この阿部寛にしかない演技力を、寛のちから〜HIROSHIZIKARA〜と名付けましょう。演技力、というと、阿部寛の演技力にうにゃうにゃ言っている人をFilmarksで見かけたので、あえてここで意見しておきます。阿部寛は演技力、あります。成瀬が刑事部の会議に乱入するシーンがすごかった。音楽隊の事務所で写真を見ていたらニュースが流れてきて走り出す一連の間、一言も喋ってないけど何考えてるのか全部わかる。これ、おめえにできるのか？あぁん？(多分その人このブログ見てないけど。)成瀬が自分が間違っていると分かったら、非を素直に認めて後輩にも自分から謝りますが、こんなめんどくさいおじさんが劇的変化するのにすんなり納得ができるのは阿部寛が演じているからだと思います。そして、後輩にパワハラで投書までされていながら、なんとなく気にかけてもらえたり、ビリビリにした写真をとっといて貰えていたりするのは、これも阿部寛の演じる成瀬が一生懸命で正直なおじさんだからです。これを専門用語で“役の説得力”といいます(Filmarksにマウントを取っています)。しかもおじさんが「待てよ」って言ってもキモく無いからね？むしろ阿部寛には待てよって言われたいよな。「君のトランペットを聞いていると気持ちが安らんぐんだ」なんて、ハウルにしか許されねぇぞ（天沢聖司もアウト）って感じですが、なぜか阿部寛が言うとちいかわっぽく変換されて可愛くなります。ちなみにこれは音楽家に言うと「それってスキ…って、コト！？」と取られます。音楽家は何より自分の音を褒められると、自分の音楽にかけてきた人生や価値観、存在そのものを褒められた気持ちになるのでめっちゃ喜びます(のだめの黒木くんがターニャを落とした方法)。このおじさんは、こんな風に、真剣に音楽をやってきた人が一番喜ぶ言動を自分では分からずやってしまっているのがアブナイ。デカだけに。映画のラストで成瀬が着る音楽隊のあの白い制服を一番かっこよくシュッとして見せなくてはならないために、初期成瀬は修学旅行のお土産Tシャツ、ジャージイン、太陽にほえろ風眼鏡など、衣装さんがありとあらゆる手を尽くして、ダサくて自分の服なんて買ったことない風オヤジに仕立て上げようとしていますが、“怪物“阿部寛によって親父のお下がり風柄シャツがちょっとオシャレにみえてしまっているのもめっちゃおもしろいです（寛的に）。◯スタッフのセッションこういう衣装もそうだし、家に置いてあるものや張り紙の一つ一つにまで物語を感じるところがこの映画をより温かくしている気がします。おばあちゃんが初めて出てきた時に来ていたCHESNATSのTシャツにも、孫の来てんの？？？？？と胸が高鳴り、おばあちゃん栗好きだから買ってきたよ〜などと法子がプレゼントしている姿もありありと目に浮かびますし、貸しスタジオの壁に音楽隊の演奏会のポスターが貼ってあるのを見ると、成瀬が貼らせてもらったのかな(そんなことを頼めるくらい通ったのかな)と想像ができて楽しい。さらにこの映画の特出すべき点は、美術、照明、衣装、小道具…それぞれの色や形がセッションをして、全てが揃って一つの画になるように考えられているところです。本部長のオフィスで異動を伝えられるシーンは、薄い青の制服、成瀬のシャツ、壁にかかっている絵と、青くて四角いモチーフが呼応していておしゃれだし、おのだのバス停なんてジブリの世界に突如として阿部寛が出てきたんかと思いました。気になって調べたら、『ミッドナイトスワン』でも赤と青の使い方が印象的だった伊藤麻樹さんと井上真吾さんの撮影×照明で、個人的には、納屋で和太鼓を窓から投げて泣くシーンはもうちょっとリアルな照明でもよかったとは思いましたが、ドキュメンタリー風の題材をちょっと幻想的に映し出しているのも素敵だなと感じました。◯音楽について音楽をちょっとでもやったことがあると、ドラマや映画を見ていてこれ吹いてないなとか、運指とか持ち方とか細かいんだけど基本的なことが気になってしまって萎えるというのは誰もが経験するところだと思います。しかし、この映画の中で音楽歴20年、小中高吹奏楽部の私が気になったのは二点だけ！野外演奏なのに洗濯バサミで譜面を止めていないという初歩的ミス（でもみんな一回は楽譜飛ばす）、そして、後輩と話した後スネアしか持って行かない阿部寛（残りのドラムセット置き去り）。野外演奏では木管楽器にタオルを巻く（太陽光で木が焼けるため）など、吹奏楽経験者にはわかるけどやっていない人にはわからないところも鉄則を守っていて、大変にありがたいです👏👏宝島のあごごのガチ練するパーカッションなどの小ネタもめっちゃわかるーーーとなり楽しいのですが、なんと、この映画の中では、楽器やってるやつが犯しがちな以下の三つの黒歴史を網羅しています。①楽器を名前で紹介して引かれる（異性の名前つけがち）②好きなバンドや演奏家を明らかに興味のないやつに布教して引かれる③楽器自分より大事にしていて引かれる私も高校の時、先輩から引き継いだオーボエ“ぼえお“を使っていましたし、「命より楽器が大事」なので「転ぶ時は楽器を身を挺して守る」という掟を当たり前だと思っていて知人にガチレスで怒られたことがあります。わかりみが深いですね。最後に、北村がサックスすぎるというお話をしたいと思います。これは吹奏楽経験者なら誰しも頷いてくれることと思います。私はこの北村がサックスすぎる問題によってこの映画を観るのが二倍楽しくなりました。くるくるおしゃれパーマ、細身、斜めから言ってくる感じ、お風呂場のアヒルしかり、何か変なこだわりが強いところ…全てが間違いなくサックスです。北村という名前すらサックスっぽい。いいですか、イケメンをダサくするとサックスになります。高杉真宙くんという二枚目が三枚目を演じることでサックスになります。サックスというと初期形態はナルシストで癖が強いイメージが強いですが、ヤツらが謙虚さと真面目さを身につけると、元々花形で目立つ分、練習ちゃんとする真面目で努力家タイプが多いのでモテ始めます（ダサさすら可愛げに変換され始め、やがてナルシシズムがカリスマへと進化します）。こうなるとチェリストや男性フルートに並ぶモテを覚えます。北村はこの一番モテるサックスです。最初に出てきた頃の斜に構えてる具合だと、銀サックス吹いてそうだけど、そういう人は公務員にならんので金YAMAHA一択。宝島のちょっとお堅め正統派ソロが完全に解釈一致です。ありがとうございます。お前絶対須川展也さんリスペクトやろ。お風呂場でソロの練習してる時普通に音よくてびっくりした（このシーン好き）。そしてお前、、、交機隊のカラーガードに楽器預けてるやないかーーーーーーい。前述の通り、命より大事な楽器を預けるというのは普通、どんな状況でも同じパートの人間にしか許しません。相当信頼している人にしか（後はわかるな？）。次、コナン吹けよ（陸自東北方面アレンジで）。いいな…？◯音楽は必要？この映画の中では、音楽が事件解決や防犯に一ミリも繋がっていません。それどころか村田さんは防犯イベントの街頭演奏まで来てるのに殺されてしまう。主犯の目星をつけていたのは刑事時代の成瀬だし、最後に主犯を捕まえるシーンも、別にピエロに扮して取り囲む必要はないし、そもそも楽器が邪魔をしてるし、なんで西田たちがこんなイベントに興味を持ったのかも謎。コロナ禍の時、散々芸術やエンタメは不要不急と言われ、色々な人が「音楽は必要」という論を主張していたし、この映画の中でもその結論に行き着くが、ぶっちゃけ厳密にいうと「音楽は人によっては必要」という答えにしかなっていないと思う。刑事としての30年間と音楽をやってきた30年の価値は同じではないのか、後者は無意味だったのか、この問いかけはこの映画を観た多くの人の心に残ると思うし、コロナを忘れようとしたところで「音楽は必要」と言い切れないまま残るのだと思います。それでも、殴り合って分かりあうのがコンプラ的にアウトになって久しい令和でも、法子と成瀬や、春子と成瀬がセッションして分かりあうことはできるし、こんな人と人との繋ぎ方は音楽にしかできないものだと思うし、そうである限り、「音楽は必要」だと思いたいです。
24Oct
- 十月二十二日、夜十時ごろ。
  今日はたぬきと多摩動物園に行った。動物園というと、最後の記憶は高校生の時に母、祖母、弟と無理やり連れ出されていった地元のナイトズーなのだが、さして楽しくもなく、光と水辺と客を含めた動物の匂いによってくる虫から逃げ回って終わった。そんな感じなので、まぁ対した期待もなく、それどころか、今日の関東は冷たい冬と秋がぶつかる曇りの天候だったので、いつも通り眠い。寒い。それでも入ってしまえばこっちのものというか。午後にインパ（笑）したこともあり、トラ、コアラ、袋のあるリス、タスマニアデビル、ターキンというシシ神みたいな動物、ユキヒョウ、レッサーパンダなど、興味のあるところだけをおいしく感じで見学して、お目当ての一つだったライオンバスとたぬきは見れなかったものの、結構満足した。たぬきが本物のたぬきに似ているか検証したかったのだが、本物のたぬきは里山と人間の狭間というかなり厳しい環境で生きているためか、意外と歴戦の猛者といった風貌をしており、どっちかというとレッサーパンダの方が近いのではないかという仮定に至った。この動物園では、たぬきに鶏頭の生肉を与えているらしく、若干引いた。動物たちは16時ごろには大体寝床に帰り、17時には園自体が閉まってしまったので、ふたりで帰り道沿いにあるココスに行き、幼い頃の包み焼きハンバーグへの憧れで盛り上がったものの二人とも違うメニューを頼み、向かいにあったシャトレーゼで私は黒猫の顔をしたチョコレートケーキを買って、帰った。今一人。ケーキを食べ、中からラズベリージャムが出てきてそれもおいしくて、この日記をなんとなく書いて。久しぶりに自分を大切にしている気がして泣いた。
01Jan
- 『ブルージャスミン』を、みた。〜ジャスミンの夢は夜ひらく〜
  オスカーをとったケイト・ブランシェット様のなだらかに狂気の一線を越す演技がすごく素敵でした。宙を見つめてる時の目だとか、「is French」の後、花を生けた花瓶を持って振り返った顔だとか、内面の不安定さゆえの美しさがあって。ファミレスのシーンの甥っ子と伯母さんがなんか微笑ましかったんだけど、素敵な彼氏とラブラブでルンルンなはずの彼女の歪みが酷くなっていることが見えてくるシーンでもあり悲しかった。あと、ジャスミンの“素で貴族”感が半端ないです。ブルジョワジーというよりもアリストクラシー。あの深い声で言う「ニューヨーク、パークアベニュー。」の嵌り方よ！まず、足元が高いヒールじゃなかった。むしろ裸足だった。真のセレブって成り上がりのそういう見栄を「痛くないの？(曇りなき目)」とみたく、自然体で無力化するイメージがあります。妹（終始前髪が事故)に彼ぴ(すぐ泣く)と友達を紹介された後、車から降りるのがやけに遅かったのも、いつも人にドアを開けてもらってたからかな。あの二人やたらと貝、貝、言ってたけども、日本でもそうなのですが、西洋絵画とかでも性的なメタファーになります。このシーンはそれを知っているであろうジャスミンには、あからさまな侮辱になるという場面でもあり。こういうのウディ・アレン脚本のやらしいところですね(褒めてる)。そのウッディ・アレン監督作品には、私の中でどうしようもない人間が出てくる、「えー！！」っていう(いわばメタい)終わり方をする、というイメージがあります。途中で“これは『欲望という名の電車』だな“と気がついてから、破滅的な終わり方の予感はしていたけれど、“なにもかもごちゃごちゃ”って。実にウディ・アレンみを感じた…！こんな、半ば強引にも程がある締め方を成立させてしまえるところが凄いとも言える。一つ疑問が残ったのは、ハルはどうやってロープを手に入れたのか。ということ。もしかして、ジャスミンはまた一つ忘れてしまっているのかも…。ウディ・アレン監督『ブルージャスミン』（2013年、アメリカ）2020/6/17 鑑賞欲望と言う名の電車→虚栄という名の花
- 『マリッジ・ストーリー』を、観た。～今すぐブロードウェイに持ち込みたい一級建築的脚本～
  ４月中大変お世話になったu-nextの無料体験が終わったので、netflixに出戻りました。友達に「netflix入ったらこれ！」とおすすめされた、『マリッジ・ストーリー』を観ました。凄いよかった…。心理的な細かい裏付けまでしっかりした脚本を、丁寧に、いい役者と作ってるなーという印象です。理由は後述もしますが、演劇が好きな方にもおすすめしたいとです。以下、感想ですが、例のごとく細かすぎる選手権を開催しております。とっても個人的に♡なところを挙げています。観たよという方は、同意、または、「うーん」しながら読んでくださると嬉しいです。※これを教えてくれた子がスカーレット・ヨハンソンを“スカヨハ”と呼んでいて、「「えーなにそれ通っぽい」」(心の声)となったので、10年来の付き合いの勢いで“スカヨハ”と呼んでいます。ほんとの通の人、おこらないでください。＊＊＊★床を掃除してるのに足をどかさない息子ヘンリーの髪を切ってるシーン。むしろ靴の上を掃いている。わざとか？？★くまを頭に敷いて寝る息子ベッドの取り合いめっちゃ可愛かった。しかも、このくまはうつ伏せで圧迫されているので窒息してます。さらに、このくまは、後にLAでベッドヘッドの隙間に押し込められます。不憫。★「舞台主任と浮気した」※ここまで全部フリ　というテロップをつけたい。ノラに事の次第を話すニコールの神モノローグ。★アイムナーバス封筒渡すのナーバスすぎるおねぇちゃんかわいい。緊張すると前後に揺れて自分でリズムを取りつつ、腹式呼吸になってしまう舞台俳優あるある。★うんち中のヘンリーとドア越しに会話するチャーリー間とワードの紡ぎ方が熟練の域。★パイから話が悪化した問：この時のチャーリーの気持ちを答えなさい。答え：天才助成金の話で　it's my day!となり、事態が好転していると感じていたのにまさかという気持ち。こんな時でも客観視できているあたりに演出家としてのチャーリーの才能を感じます。こんなに哀しい「夢を見ている気分だ」は初めてです。チャーリーはブロードウェイという単語をやたら持ち出したり、ちょっと誉められたがりで、この辺りにアダルトチルドレン的家庭環境を見てしまって切ない。★ジェイ・マロッタのオフィスの椅子に置いてあった“eat, drink and remarry 食べて飲んで再婚しろ！”のクッションもしかしてこのおじさん面白いのでは…？★ねこかわこの映画の一番の見どころといっても過言ではない、バート・スピッツのオフィスにいた毛並みの素敵な猫。「その猫は懐かない」に込められた重みにアカデミー👏この猫とは2番目の妻の時からの付き合いで、離婚して一人になるたびに撫でてみようとか試みるんだけど未だに相容れることはなく(ただし妻や娘には懐く)、猫も割と歳なのでバートは「オレとお前どっちが先かな」とか思っているんですね。この猫が、最期に陽の当たる部屋の安楽椅子でポックリ逝くときに初めてバートの膝に乗ってきたところは涙なしには見られないです映画史に残る名シーンです。(ここまで妄想)★ボウイ様ハロウィンで披露されたニコールの仮装。いや、かっこよすぎやん(真顔)ビンをあけちゃうとことか、ニコールは完全に女子校の王子様ですね。ありがとうございます。★お湯が出ない別室のポット陰湿。「女は完璧を求められる」と語るシーンと合わせて、多分腹筋バキバキな女弁護士ノラの闇が見えて好きでした。ローラ・ダーンさんのノラが、開始1秒で依頼人の心を開かせてしまうとか言葉だけだと無理ゲーなのに、役者のおかげで説得力が出てて、「この人なら」って思えるのもわかって、役者さんすごいなって思いました(感想)。※※※昨今、小道具や衣装の色合わせに気を遣っていると感じる映画はあるのですが、この映画はそれだけでなくてタッチにまで注意を払ってる感じがします。そういう絵画的な画作りがとっても素敵でした。例えば、バートのオフィス。壁の新聞の切り抜きが陽に焼けていたり、ゴッホの部屋の絵みたいな色合わせだったりで草臥れた古い感じをだしていたり、しかも端が丸く暗くなるピンホール効果まで入れてセピアを仕込む徹底よう。ハロウィンにホテルでヘンリーを待ってるシーンも、壁とか絵のフレームを重ねた構図と、テレビの光が変わる感じがすごく綺麗でした。ミイラ男が居眠りしてるっていうのもなんかそういう絵っぽい。特に後半はニコール側とチャーリー側を映像の明るさでかなり意図的に対比させてると思いました。あと、キャラクターによって壁に飾られてるピクチャーを変えているのが観ていてとても楽しかったです。また、最初にも書きましたが、この映画は全体的に舞台でやる演劇っぽいなと思いました。この映画の最初も、スポットライトで浮かび上がったスカヨハの顔から始まります（とりあえず顔がいい。）。とてもガーランド？アンドリュース？みたいな往年のミュージカル映画風。脚本の台詞とか構成とかもそれっぽい。叙述から始まって叙述に戻ってくる感じとか、ニコールのノラのオフィスに初めていった時の長台詞とか(これ素晴らしかった！！)、長回しの喧嘩とか。「あ、ここでお客さんが笑うだろうな」とか、これをそのまま舞台化したところが想像できる、素晴らしい脚本だなと思います。音楽も結構控えめな、よりそうような感じがとても良かった。山田洋次というかヘンデルというかイングリッシュマフィンのCMというか…。結構お芝居だけの演劇でこういう音数少なめの音楽を入れがちな印象があるので、この辺も演劇っぽいと思った要因かもしれないです。あと、チャーリーがバーで歌っちゃうところ。私の大学の先生も、「ミュージカルは感情が昂りすぎて歌ったり踊ったりしてるのよ」と言っていたし、これはとってもミュージカル。この歌に全部が詰まっていた。チャ―リー的に全てがここにつながってる感じがぐっときました。今すぐブロードウェイに持ち込んでくれ。※※※これを書きつつ、窓の外からリコーダーのエーデルワイスが聞こえてきてほっこりしました。小学校とかは通常とは言わないまでもずっと稼働していると聞きます。まだまだ気が抜けませんが、どうぞご自愛ください。ノア・バームバック監督『マリッジ・ストーリー』(2019年、アメリカ）2020/5/8 鑑賞
- 『欲望という名の電車』を、観た。〜なぜ人は服を破くのか〜
  午前３時を回ってくると、だんだんともう諦めて何か暇を潰して夜明けを待とうという気分になってきます。白黒映画の世界は終始白夜のようで、妙な翳りがあって、そういう時ちょうど良いと思うのです。実は、ついこないだの明け方にこの原作を読んで夜白んだのですが、またやりました。こりない。本作の監督は『エデンの東』のエリア・カザン。『エデン』より3年前の作品になります。主演のブランチ役は、『風と共に去りぬ』から約10年を経たヴィヴィアン・リー。ヴィヴィアン・リーは実際に双極性障害を持っており、本当に役に乗っ取られたような狂い方を見せます。誕生日の後でミッチがやってくる、カーテンのひらめき方がたいへん芸術的なシーンがあります。外は雷で、いかにもホラーナイトな様相。ここのミッチを追い出す時のブランチが、ナイトガウンのシフォンの裾も相まってディメンターみたいに見える。(ミッチの腹筋突くところはめっちゃ可愛いけどね。)そしてジャイアニズムと下品と野蛮を煮詰めたような最低のクズ、ミッチを『ゴッド・ファーザー』のアーロン・ブランドがものすごいクオリティで実現しています。このミッチはブランチへの圧のかけ方がロードローラー並みにえぐい。癇癪起こすたびに「やめてくれーーー！！！」とムンクになりたくなります(叫びつつ耳を塞ぐ)。それに対し、ヴィヴィアン・リーは“魔法遣いが妖精の粉を振りまいて、三日三晩月光に浴びせた薔薇の朝露で風呂に入った”みたいなネジの飛び方でやり返すので、もう辺り一面焼け野原。向こう10年ぺんぺん草一本生えないということになっています(心象風景)。いい意味で最悪だったのがブランチの誕生日のシーン。最悪だなと思ったポイントを挙げてみますが、熟練の主婦並みのポイントの稼ぎ方にご注目ください。ステラの豚発言にいきなり皿を叩き割るスタンリーにまず1ポイント。「俺のやり方で片付けたぞ」↓行動はやばいのにその後の台詞は声を荒げていないことに追加1ポイント。↓締めにカップを壁に投げつける。1ポイント。なるべく直接的にぶつけないようにしてるのが逆に怖い…。この一連の間、ずっとチキン？をもぐもぐしているのもポイントが高いです。さらに、ティーカップを両手で持ったままのブランチ(このシーン落ち着かないとお茶のみがち)、「そっちも片付けようか」で皿を抑えるステラの手が素っぽいところにボーナスポイントが加算されています。まだまだ続く恐怖の第2ラウンド、ついに我慢の限界がきたブランチがスタンリーに“ポーラック”と言ってしまう。→これによりスタンリーのコンプレックス・スイッチ🔛(“ポーラック”というのはポーランド人に対する蔑称です。当時貧しく出稼ぎに来ていた東欧系の人たちは差別されていました。)電話で場が落ち着きそうかと思いきや、トドメのバスチケットをプレゼント→ブランチKOブランチを庇ったステラに対しても身分差コンプレックス爆発。「初めて会った時俺を庶民だと思っただろ？」それにしてもこの映画、服が破れすぎなところが面白い。この後ステラが破水するのですが、ありがちな股から水パシャとかじゃない演技で表現していたのが凄い良かったです。というかこのはちゃめちゃなシーンを破水で終わらせるのが凄い。脚本のテネシー・ウィリアムズという人はアメリカの光にできた影を混乱の姿のまま書き取った戯曲家です。姉が精神病者だったため、彼の作品にはしばしばそのような特徴を持ったキャラクターが登場します。戯曲では基本的に家の周りで完結するので、とても閉塞感があり、より余所者のブランチに対してのスタンリーに感情移入しやすいように思いました。また、ステラにも結末に大きな違いがあります。戯曲と映画では、まず冒頭が違っていることもお知らせしておきたいです。戯曲では「極楽」にブランチがやってくるという視点で描かれていて、とても暗示的なこんな台詞から始まります。欲望という名の電車に乗って、墓場に乗り換えて、極楽で降りろと言われたのだけどここが極楽よじゃあ、きっと……間違えたのねエリア・カザン監督『欲望という名の電車』(1951年、アメリカ）2020/4/29 鑑賞
- 『パラサイト　半地下の家族』を観た。～プロ浪人生は、半地下から夢を見る。～
  『パラサイト』を観ました。いや、めっちゃよかった。以下、ネタバレの他の何物でもない好き語りです。観てない人は見てはいけません。私はファースト・デイに1200円で観たのですが、「これ3000円出せる」ってなったので、観てない人は今すぐ観に行ったらいいと思います。＊＊＊ド頭のadidasの時点で、『ハイ！！確定。』って思った。元気な良作ですおめでとうございます。最初の方にピザ屋の店員が出てくるんですが、その制服に糸が引率れてるところがあったの気が付きましたか？そういう誰が観てんねんってところまで造りこんである作品です。信頼しかないですね。タイトルの”半地下の家族”というのは、文字通り”半地下の家に住んでいる”、というのと社会的立場が”地上と地下の間”というののダブルミーニングになっているんだと思います。嵐の夜にキム一家がチョン家から抜け出して、下へ下へ、ひたすらに階段を下って半地下に帰るのがせつなかった。ベテラン浪人生、長男ギウを演じてるチェ・ウシクさん、加瀬亮さんみたいな、なんかいい顔。ギウは石と友達です。この映画はある意味、ギウの石との出会いから別れまでの物語とも言える。家が浸水したときも「石がついてきた」とか言って、避難所で石を抱いて寝ちゃう(笑)。ちょっとかわいいと思う。あのシーンはそれぞれの価値観、特に何が一番大事かが見えてたと思うのですが、あの石って最近手に入れたものだし、（韓国の価値観わからないけど）縁起物で実用的ではない。石を貰ったところから一家の幸運が始まったから、それに縋ろうとしたのかもしれない。避難所でおとんが無計画だってわかったから、ちょうどこの石はカタをつけるのにちょうどいいと思ったのだろうな。なんかそこで石を選んじゃう、ギウっていう人間に、おかしみを感じました。ギウは、地下に住んでた男によって石（ズッ友）で殴られるんですが、倒れたギウから流れた血と水が、混ざらずに広がっていく画がすんごい奇麗でした。私の中で韓国ってめちゃくちゃ水の扱いが上手い、特に雨のシーンが得意なイメージがあります。韓国ドラマ見てるとシリーズの中盤に必ず、びしょびしょのまま雨宿りした電話ボックスでキスしたり、雨の中土下座して王様に許しを請うヒロインを本命が庇いに行くシーン（これは麗）がある気がする。そして、後半いい音楽と共に回想が入る(当社調べ）。同じく、浸水した半地下の家のシーンで、長女ミギョンが逆流した汚水を吐き出してる便器に座ってタバコ吸ってるのとかすっごいよかった。なんかもう言葉にできないんだけど最高でした。韓国人の情感と雨って合うんじゃ～この浸水の時、真っ先に自分が昔取ったメダルに走ったおとん（酔っぱらうと自分の昔自慢するタイプと見た）。韓国ドラマの例にもれないろくでなし。凄い演技がよかった。このおとんに関してはどっちやねん案件がふたつあって、一つ目は、チョン・ファミリーの家で好き勝手してる時に、オモニの胸倉掴んでたシーン。あれが本当にフリなのか？という。すっごい演技が上手くてわかんなかったんですよね。多分本気のつもりで演じてて、どっちにも見えるように調整してるのかなとも思いました。もう一つは、元家政婦の息を確認するんだけど、その生死がわからないんですね。それで、おとんが安堵した描写だけあるんだけど、「え、これどっち？」みたいな感じで引っ張られるわけです。「「もしかしたら、この男は、元家政婦が死んだことに安堵してるのか？？」」と。それってめっちゃ怖い。でもそのバッドな方もあり得るってわかってるから、心臓がギシギシ言う。結局、元家政婦は生きてたんですが、このどっち？どっち？みたいな塩梅が凄いよかったです。韓国の映像演技ってすごく大味なイメージがあって、とにかくわかりやすく！なキャラクター演技だと思ってたんですけど、私の韓国観はチャングムで止まっていたみたいです。反省。でも、その伝統も活かされていて、この元看護婦と、その夫、地下に住んでた男もすげぇホラーでよかったです。しっかりと恨みを残して逝く元家政婦とか、流石韓国。金持ちチョン家の息子ヒョンジョンのトラウマ、顔半分だけ覗いてる幽霊、の目！！北朝鮮やべぇ。私、社長家族が出かけて、雨降ってきた時点で、「「これ絶対、途中で社長家族が帰ってくるやつや…」」と思って、共感性周知で直視できなかったんですけれど、その前に元家政婦が来るっていう予想外の展開。もう、やられましたよ監督ぅ。全力で媚び売りたい才能。インターホンのびしょびしょの変わり果てた姿とか超怖かった。にかーって！！だって監督狙ってるんだもん。あんだけ大雨だったらメガネ外すよ普通？？？この地下の家族がいるおかげで、観客の中で最初は色物だった半地下の家族がいつの間にか普通に感じだしていきます。この辺で「家族全員が仕事を得たってことは、仕事を失った者がいる」っていう台詞も効いてくる。全体的に伏線がえぐい巧妙。キム家が机の下でチョン夫婦の会話を机の下で盗み聞きするではないですか。我々観客には、あそこでおとんの中に事件の日の動機がつくられていくのが目に見えて分かるのですね。おとんもあんなに素敵なご主人一家だって言ってたらこそ、一度不信感を持ったら最後、悪気のない格差が鼻についてついて仕方がなくて、家族を見捨てられたっていう決定打があって、社長を殺すところにつながるという。ここの心の動き、見事な二次関数グラフがかけると思う。ポスターの脚の複線の回収も見事でした。最後になっちゃったんですが、チョン家の奥様、“ヤング・アンド・シンプル”ヨジョン。めんこかった。私は彼女の椅子の座り方が汚いのがとても好きです。最初出てくるシーンで白い服で白い犬抱いてるのもよかったね。あと、パンティを触った手で口覆っちゃうとことか。かわええ。私やっぱ音楽が微妙だと映画楽しめない（こういうとこ音大卒()）んですが、この映画は終始、クラッシック調の美しい音楽が印象的に使われていました。そしてイタリア歌曲は悪夢に合うなって心底思った。中でも、全編通しても「これは…」っていう、音楽の使い方が超おしゃれなところがありまして、ぜひご紹介させていただきたいとおもいます。映画の最後！！回想から手紙を読み終えたギウのカットに戻ったところ！！メジャーとマイナーの間の和音で終わるんです。音大卒()なんで詳しいこと言えないんですけどぞくっとしました。これはめちゃくちゃ暗示的だなと思って。神がかり的な音楽とストーリーのリンク。この映画は観た人によって結末の取り方が変わるんです。分かるのは、ギウの夢が叶うのかどうかは誰にもわからない。ただ、現実的ではない。ということだけなのです。2020/03/01　鑑賞。
- ゆとり審神者の『映画刀剣乱舞』感想。
  先日、靖子税を無事に納めてまいりました。するとどうやら、三日月税、長谷部税、薬研税、その他大小様々滞納していたようでした。滞納って嫌な言葉ですね。早急に納税しに行こうと思いますが、その前に1回目の感想を認めておこうと思います。※もうお分かりかもしれませんが、柄まで通ったネタバレです。※全ては就任4年目のゆとり本丸（Lv.3２)審神者が書いたことです。話半分耳半分に、いろいろお見逃しください。→2/18、2周目逝ってきました！〇靖子様のフラグについて“脚本:小林靖子”が発表された時、私も例に漏れず、この中でお亡くなりになる刀剣男子は誰だろうと案じました。正直、天下五剣&とうらぶの顔という守護がある三日月はともかく、007でいえばボンドガール枠の骨喰、社畜戦隊シュメインジャーの長谷部あたりは危ういかなと思いました。が、そうきたか！信長が死なねば遡行軍に屈したことになります。映画の題材的に、いわば初めから信長が死ぬことは予定通りだったわけで、“どうやって”死ぬのかがポイントだと思われていたわけです。それがまさか、“どこで”死ぬのかまでが問われていたとは…！流石靖子様。鶴丸もびっくりの驚きを提供してくれます。改めて考えてみると、信長は本能寺で死ぬより安土城で死ぬ方が“それらしい”ですよね。一度助けておきながら、死なせるために安土まで連れていった三日月は、一見、無情な天上天下唯我独尊お騒がせじじい（ごめんなさいごめんなさい…ゆとりだから…！）に思えるけど、彼ら刀剣は人の命をどれだけ雅に散らせるかにこそ本分があり、それが価値でもある。ああやって、死ぬべきところで死なせることは、言ってみれば、信長という人の死後の命を守ることにもなるのではないでしょうか。審神者様もそうですが、この死に様には靖子様の強い美意識を感じました。薬研や不動も今作品の予定調和の被害者でした。刀の持ち主が死ぬことを描くことで、折れたところを見せずに彼らを殺したわけですが、間接的である分、より切々と刀の物としての運命、物の顛末は使う人次第というのが真に迫って感じました。靖子様はインタヴューで「“萌える”ではなく“燃える”映画」と言っていましたが…ある意味そのまんまやないかい！！刀とか城とか信長が“燃える”、ね…！一方、ナイスなお声の老翁審神者様。（夢見がちなゆとりは「あ、このペンダント、乗っ取りのやつだ…」と思ったけど、そんなことなさそうで何よりです）審神者の御顔が見えるの最期だけなのいいですよね…。三日月は近侍を降りるって言ってみたりとか、審神者様と心中したがっていたように見えたけど、そこには薬研や不動のような、主と共に果てた刀たちへの憧れがあったのかなと思いました。結果的に、その願いが叶わなくてよかったと思います。三日月が、そんな風に逃げるような弱い刀であって欲しくはないですから！信長から秀吉へ。老翁から幼子へ。この映画は刀剣男子たちがこの２つの代替わりを護る物語だと、私は受け取りました。彼ら刀剣はこういった主が継がれていく様をたくさん見てきて、出会いと別れの繰り返し一回一回をああやって慈しんだんだろうなと思うと…たまりません。○靖子様の波動と無名のこと三日月の秘密と無名の正体のように、味方だけでなく敵側にもドラマを作って、それを同時進行で描いていくあたりに靖子様の波動を感じました。シンケンジャーと比較するとわかりやすいでしょうか。ちょうど、殿の秘密とか太夫の過去とかごちゃごちゃ蠢いてた辺りとか。無名の正体については「こんな子いたっけ？」でした。（ゆとりだから！！！）友人のしっかり審神者の感想を読んでなるほど！明智か！、と。ちゃんと信長、秀吉、明智の三方それぞれの刀を出してるんですね流石です靖子様。抜かりはなかった。そういえば明智さんもお亡くなりになってましたね。さっき書くの忘れちゃったわ。→２周目で、江さんが本能寺の最初に明智を狙ってたことに気が付きました。あんな特撮ヒーローみたいな短剣にえらいえぐいことやらせるやんけ…！…そういうところが好きです、靖子様。○不動の謎不動は事の真相を知ってたのか？それで部隊を外されたとも見えるけど…だとしたらもの凄い葛藤な筈。でもいまいちその辺不透明だった気がしました。知ってたとしたら多くを語らせられない立ち位置だったから、台詞も少なく演技的に難しかったのか、それとも不動も薬研同様炎で焼けて記憶がなくなってしまったからなのか…→２週目で確認してきました！やっぱわかってたのね！「死ぬべきものは皆死んだ」とか…そりゃ甘酒11杯目に手をのばすよな…おつかれ不動！〇（２周目で落ち着いて語れるかと思ったけど全然そんなことなかった）刀剣男子の萌え語りだれか、この本丸に大包平を！！！鶯丸さんがただの茶飲みイケメンじじいです！！！ありがとうございます！！！ゆとり本丸では映画のキャンペーンでいらっしゃった鶯丸が、只今絶賛鬼レベリング中です。はよこい大包平。本能寺から戻ってきて、みんなでチャァしばいてるところは映画のなかでもめっちゃツボなシーンでした。誰とでも仲良くできる正三位（前世は銃使いの仮面ライダー）。根暗なヲタクが喋ってみたらめっちゃ面白いみたいなまん。そして「あれをなにするのをわすれていた」はぐらかしじじい。じじいが偶にCV.鳥海になるのやばい。愛が重すぎて初期刀ファイブに選ばれなかった男（曲解）長谷部がイライラしてる感じが若くて、じじい達との対比がいいなと思いました。安土城に戻ってきてじじいを抱きとめるシーンも、ただただかっこいいんですけど、世代交代というか、でもまだ折らせねぇぞ（ただし主お世話係は変わってもらう）みたいな感じが大変に美味しかったです。※顔がいいという話↓圧倒的な顔のよさを、角度と、構図と、照明とともうあらゆる手段で破壊兵器にまで押し上げていくスタイル。ハァー眼福🙏。じじいが襖を焦らしながら占めるところは完全に新しい性癖です。ありがとうございます。しかもセットがどえりゃ綺麗じゃってからに、なんじゃこりゃ、こんなん見たことねぇ、おら死んじまったか？天国なんかここ？？？？って思いました。本丸と天守閣の豪華絢爛なのも目潰れるかと思ったけど、信長と三日月が休憩してた廃寺がめちゃんこ幻想的で、なんだこりゃ、おらなんの映画見とったんだったかなぁ、ありゃあとうとう頭壊れてしまったんか？まぁこんなもんがこの世に作り出せるわけないしなぁ！！！ってなりました。早急に神社建てたほうがいい。ご静聴ありがとうございました。一周目（1/25）感想、1/28。二周目（2/18）感想、3/4追記。
- 『ボヘミアン・ラプソディー』ツボ的感想。※細かすぎる選手権注意
  封切りしてわりと直ぐに無理くり時間をつくって観に行ったのですが、もう、めちゃくちゃ体調が悪い×超人混み×フレディの濃い顔でグロッキーに。細かいところがよく分からなかったので、もう一度ボヘミアン・ラプソディーを観てきました。ちゃんと布石を追っていくと、なんて密度の映画なんだと感動！！こないだはグロッキー故に心が置いてけ堀だったのですが、ちゃんと泣けました。※以下ネタバレ。 2回見て気づいた個人的ツボ（細かすぎる選手権注意）。〜〜〜★起きてすぐに咳き込むフレディ目を開けてからしばらく起き上がらない神過ぎる間、からの咳（リアリティ選手権優勝👊）。初見の時は「齢とったかな」(ひどい)とか、「朝だから」とか思ったんですが、エイズの所為で咳き込んでたのかと思うと、、最初からクライマックスだぜ。★エディット・ピアフの写真父がエリザベス女王の写真を飾っていたように、息子はシャンソンの女王エディット・ピアフの写真を飾っている。通じ合えない父と息子の共通点を感じてもはやつらい。★スーツケースに入ったマイク殺し屋みたいで型としてかっこよすぎると思ったんですが、あれがたくさんの現場を経て、利便性を追求した結果あの形になったと思うと、フレディのカリスマ性ぱねぇなってなります。★ブライアンとロジャーがやってたバンドの名前”SMILE”GReeeeNか！★コーヒーメーカーはやめろ！！！お前ら仲いいだろ…。QUEENって良くも悪くも素直で、たとえ喧嘩していてもいいアイデアには「それ最高！」って言えるし、”オペラを取り入れよう”みたいなはちゃめちゃなアイデアにも、全力で参加（もはや遊びたおしてるだけ）できる。はぐれもの同士、互いに自分を肯定してもらえる安全基地であっただけにその絆も強いものだったと思います。映画のあるある”恋人も仕事もうまくいかなかったけど最後に頼れるのは友達だよね”みたいなのとは重さが違う（この映画でいうところの”家族”）。★トムとジェリーメアリーに電話をかけた時にいた猫、トムとジェリー。新居の豪邸で猫の部屋を紹介するシーンで名前がでなかったので、安否が心配です。　それにしても、なぜ躁鬱は軽率に猫を飼うのだ？★いつもフラれるメアリーメアリーって、センスが良くて、美人で、先進的で、端的に言うといい女なのに毎回フラれるっていうのは、自立しすぎてて相手がメアリーに必要とされてないって感じてしまうんだろうな～と思いました（周りを見ながら）。でも、いい人見つかってよかったね。★パーティから離れて二階でひとりうずくまるフレディフレディは、自分がゲイである以上、他のメンバーのように結婚したり子供をつくることもできない。メアリーも離れていってしまい、残ったポールは与えても返してくれない男。音楽があるときはいいけど、仕事から離れた瞬間、自分には目に見えない繋がりが何もない事に気づく。なおさら仕事上の手柄に固執して居丈高になってしまうし、そうするとメンバーは離れていく。仕事も重荷に。QUEENが”家族”だからこそ、自分の異物感をさらに感じてしまって辛くなったと思います。結果、パーティから離れて二階で一人うずくまるしかないフレディが出来上がった。何もない恐怖や虚しさをやり過ごすために、ポールの言うがまま、クレイジーに過ごしても、その反動は倍になって返ってきたはずです。なんて虚しい闘い。完全に躁鬱。★裏切者ポールの涙”全部こいつの所為”なポールですが、私は離れていくフレディーへの涙が真実だったと思いたい…ポールは、同じように生まれや宗教にコンプレックスがあり、そしてゲイというマイノリティーであるフレディーにシンパシーを感じていたと思います。しかし、フレディはミュージシャンとして才能があり、どこまでもまっさらだった。歪んでしまった人間にとっては、まっすぐさとか素直さって時に眩しく、時に痛々しく、時に憎たらしい…（私も深海生物だからわかる気がする）たとえ純粋にフレディを想っていても、利己的にしか生きてこなかったし、それが彼の処世術だったからそれしかできない。悪党ではあるけれど、どこか彼を正当化してあげたくなる人間の弱さがあります。★QUEENに戻るために”マイアミ”に電話をかけるシーン。母をとりなす子供か。”母船に戻りたい”とか、婉曲な言い方でないと話せない不器用さがいとおしい。父親ともこうやって回りくどくコミュニケーションしてたんだろうね。★なんかちょっといつも惜しいジョン”家族”って言うてたのに理工学部やったって知らんのかい…ライブ・エイドでも一人だけ柄シャツ…フレディに「何もない」って言われてたけど、本人も凄く気にしてそう。　　　大学生の髪型くらい髪型の変遷激しくて、ビジュアル的にも定まらない。そういう残念なところがいとおしいよ、ジョン。★病院の廊下のエーオ、エオフレディにエーオをした彼は間違いなく末期で、フレディと分かっていながらただエーオと発する。フレディはそのまま立ち去ることもできたけど、恐怖に呑み込まれそうになりながら、短くエオと返す。なぜなら彼はフレディ・マーキュリーだから（号泣）。彼はいついかなる時も人に勇気を与えられる人で、だからこそヒーローなのだと思います。フレディという人の凄さが端的に強烈にわかるシーンだと思います。　後日、友人があのエーオは「こちらへようこそ」という意味だったんじゃないかと言ってて、私の心がしにそうになりました。なにそれつら。★ライブ・エイドに向けて練習を再開するも、声が本調子じゃないフレディエイズの処方薬を飲んでいるために声が出ないと仮定すると、ライブ・エイド本番は薬を飲まなかったから声が戻ったのでは？（どこまでも広がる妄想）。★ライブ・エイドに向かう前に立ち寄った実家にて、フレディを送り出す父の手長年の父と息子の関係性が決着する場面。積年の硬直状態故に、「頑張れ」とか言葉をかけることも、後ろから抱きしめることもできず、ただ手をあげるしかできなかったけど、フレディは父の精一杯の歩み寄りに気づいていない。なんやねん。つらい。★ライブ・エイドのボヘミアン・ラプソディの弾き語りの後、フレディにマイクを渡す女性スタッフの動き彼女は、あのほどくそ泣ける♪ママ～を、一番いいところで聞いておきながら、あの曲中はずっとマイクを渡すことだけを考えていたに違いないくて、　　　”いかにスムーズにマイクを渡すか、落とすなんてことあってはならないし、渡した後もすぐにはけなくてはならない”これだけを考えた結果、あの無駄のない動きに至ったかと思うと、最高におもしろいです。～～～こう言うミュージシャンの伝記風映画って、『ドリーム・ガールズ』然り『ジャージー・ボーイズ』然り、みんなが和解してよかったねという終わり方がある種定石だったのが、ライブエイドを完全再現したのが画期的だったし、現実世界に繋がってる気がしてすごくワクワクしました。飽和したこの時代において、途方の無さに虚しくなることもあるし、よそ見せずにまっすぐ走り続けることは昔より遥かに難しくなっていると感じます。生産性をもとめられる時代になって（LGBTについてのあの投稿は頭悪いけど）、戦いはより厳しくなり、だからこその、ありのままの自分を肯定してもらえる環境、コミュニケーション能力至上主義かなとも思います。でもそれって後付けするのはめちゃくちゃ難しい…それでも生き残るために大事なことは、心地のよい夜に流されないこと、そして、”Ｗｅ are the Champion”であることを忘れずに”走り続ける（Don't Stop Me Now）”ことだって教えてくれている気がしました。2019/1/3
- 原田マハ『キネマの神様』を、読んだ。
  夜行バスを待ちながら、原田マハの『キネマの神様』を読んだ。何度も落涙を耐えながら一度に読んでしまった。原田マハは決して文章が上手い作家ではないと思う。まず時間経過を書ききれない。ところどころぽっかりと抜け落ちたように場面が飛ぶ。それに、「あれから一年がたった」という言葉は小説において使うべきではないと思う。小学生でも書けるし、滑稽なだし、途端に一年がとてつもなく薄っぺらくなってしまう。そして、評論めいて角ばっている文章は読みやすいかもしれないが、雰囲気がない。この本では、歩、父、ローズ・バットと映画評を書き分けているが、それらがはっとするほど名文かと言われれば…物足りない。もし本の文字に手触りが合ったら原田マハの文章は粗削りで、少なくともすべすべとはしていないだろうと思う。主人公・歩にも違和感。原田マハが好きな、中年のキャリアウーマンだが、年収1,000万稼げるような人格は感じない（この本ではわりかし色々と夢見がちにうまくいくので創作の魔法といえばそれまでだけど）。そして、この本の中で一番ぞっとするのも歩のモノローグ。この会社に入って、（中略）みんなと仕事ができて、ほんとうによかった。私、大好きだ。この会社が、「映友」が、ここでは働く人たちが。（中略）大好きです。ここまで『シン・ゴジラ』を観ている気分だったのが、一瞬にして文化祭の悪夢。おぞましいくらい稚拙。ただ、この本には文の拙さを補って有り余るスペクタクルがある。ここまで書いて四時間が経過しました。どうも前段長すぎました。しかし名画のまえには長い宣伝がつきものです。（略）それではどうぞ…137ページ、歩の書いた評論に書き添えられた父の文。父親の才能が明かされる場面だ。私たちは作中の人物同様に、これまでが長い前振りでしかなかったことを知る。この本のページ数の三分の一以上を使って散々ダメ人間と説明されていた父が、ここから快進撃を始めるのは読んでいて胸がすく。さらに、（とってはかったようなタイミングで）好敵手ローズ・バットが現れ、ブログ上で評論合戦をするのは胸が躍った。この本には新旧様々な映画が登場して楽しいし、実際に映画館に足を運びたくなる。次々に展開していくスペクタクルが仕掛けられていて飽きない。父のしみじみとした文章や人柄にもほっこりする。しかし、ローズ・バットを殺す必要があったのか？別に最期に彼と一緒に映画を見るエンドでもよかったように思う。そもそもが、清音と父親、父のギャンブル依存症、編集長の引きこもりの息子、名画座の閉館他、もろもろ盛り込みすぎている。これらが概ねハッピーエンドであることを思うと、ローズ・バットは身代わりに死んでしまったようだ。無念の死で名画座に化けて出ませんように。合掌。18/10/28　大阪にて読了。→10/30
- 椎名林檎の『ありきたりな女』について、真剣に考える。～わたしは今やただの女。編～
  いつかこのPVに出てくるプッチンプリンを皿に山ほどプッチンするようなアー写を取ろうと思って数年が経ちました。林檎さんの『ありきたりな女』（2014年）。女、って言い切ってるのもえぐいなぁと思うのですが。別役さんとかチェルフィッシュみたいに、役が“女1“とか“女2“って表記をする戯曲のような。おとぎ話のような幻想的な言葉でつづられる女のむき出しの感傷が、ミュージカルのようなドラマティックさで胸に迫ってくる一曲です。カラオケで「「グッバーーーイ！！！」」と気持ちよく言い放ちたいがために、歌詞の意味を自分なりに真剣に考えてみた（邪道、妄想）。どうぞお付き合いください。〜〜〜幼い頃から耳を澄ませば、ほんとうに小さな音も聴こえて来た。遠い雲が雨を手放す間に、木々の笑う声。時と言う時はそう音楽になり、欲しいものなどなかった。わたしはかつて神の子だった。目に見えない物を信じていたし、世界は一瞬一瞬が神聖な喜びにあふれ、わたしの世界は特別だった。満たされないことなどなかった。どれほど強く望もうとも、どれほど深く祈ろうとも、もう聴こえない。あなたの命を聴き取るため、代わりに失ったわたしのあの素晴らしき世界。「GOODBYE！」どうしたって私に返ってくることはない。神さまはもういない。母になった代償に、私はあの特別な世界を失った。「ごきげんよう！」唯一の母親に、娘は漏れなく取って置きの魔法をかけられているのだ。青い海が陽射しを抱擁する様に、それは護られていく。出会すシーンはすべてハイライトで、みな、掛け替えのないキャストだった。母は私の世界が美しく清らかで正しいものであるように願い、私はそれを信じた。母は魔法使いだった。母の愛は深く温かく、私は朗らかにそれを甘受した。世界は一瞬一瞬が新しくきらきらと光っていて、どうでもいい人間など居ないと思っていた。どれほど強く悔やもうとも、どれほど深く嘆こうとも、帰れやしない。わたしは今やただの女。さよなら、あなた不在のかつての素晴らしき世界。「GOODBYE！」けれど、気づいた時には魔法は溶け、母もただの女だった。子供を産んだ私は平凡な人間の女の一人。どうやったって娘だった頃には戻れない。「ごきげんよう！」〜〜〜昔から”7つまでは神のうち”と云います。私たちは生まれながらにして特別だったというのです。「幼い頃から耳を澄ませば、〜。」って、ユーミンの『ルージュの伝言』に出てくる「小さい頃は神様がいて〜」とおおよそ同じ意味だと思う。たいそれたことを言うようですが、でも小さい時って尋常じゃない感性と想像力があったし、世界は新しくて楽しいもので満ち溢れて、それが終わらないと思っていた気がする。でも、大人になると一日はあまりにあっけない早さで過ぎていきます。持っていたものを失ったという衝撃、当たり前だったものの尊さ、それをないがしろにした失望…それでも、「GOODBYE！」と言い放つ様はいっそ潔い！娘はいつの間にか女になり、結婚すれば妻になり、子供を産めば母になります。ありきたりな女は魔法の使い方も知らないうちに母親という大役にキャスティングされてしまい、好きなだけプリンをプッチンしていてよかった白い箱の中の世界から、何もない素舞台の上へ引き出されてしまう。「Goodbye」の語源は「God be with ye(you)　神はあなたと共に（神のご加護がありますように）」だそうです。実は神さまはいなくなったのではなく、子供に受け継がれていたるということ。かつての神の子だった自分と、愛する我が子にかける言葉として、これ以上のものはないんじゃないでしょうか。2018/08/25→2021/02/11
- 二つの『マグダラのマリア』について、真剣に考える。
  ”マグダラのマリア”は新約聖書に出てくる聖女で、キリストの妻とされる一方、いろいろな福音書がちゃんぽんした結果、一説には元売春婦であった「罪深い女」とも言われる、なんともアンビバレンスな魅力を持ったテーマでもあります。おそらく西洋絵画の世界でもっとも人々の関心を得た人物の一人です。これは大学の授業で西洋美術を取った際の課題として書いたものを基にしています。17世紀前半に活躍したグイド・レーニとジョルジュ・ラ・トゥールの二人の画家の同テーマの絵を比較し、マグダラのマリアを通して彼らが描こうとしたものを考えたものです。なんとなく環なりの絵画の見方が伝わるかもしれない文章。まずは、グイド・レーニから。グイド・レーニ　『悔悛するマグダラのマリア』（1635年、91 x 74cm 、油彩キャンバス）レーニは17世紀前半のバロック期に活躍したイタリアの画家です。当時の絵画は俗物的な楽しみも兼ねてたたため、マグダラのマリアは特に若い美女として描かれることも多いのですが、ここではレーニが好んだ神話世界の女神のようなより幼く肉感的な姿で描かれています。目が大きくて輪郭も丸くて、痩せたら日本人ウケ良さそうですよね。鑑賞の楽しみとして、ここに単なるレーニの理想の女性像以上の物を見出すこともできます。それはヴァニタスです。ヴァニタスというのは、バロックに流行した西洋美術の一大ジャンルであり概念で、「人生の空しさの寓意」を意味し、花や宝石など、若さや豊かさなどを意味する様々な静ウケ中に、人間の死を表す頭蓋骨や、時を意味する時計、腐ってゆく果物などを置き、観る者に対して栄枯盛衰の定めを喚起しようというものでした。西洋絵画ではギリシャ神話の神々やキリスト教の聖人を描く際に、その人物が誰かわかるよう、特定の持ち物を一緒に描くルールがあります（でないと、作者によってイエスがラテン系だったり北欧系だったりするので判別できないですね）。この持ち物をアトリビュートと言います。マグダラのマリアのお決まりのアトリビュート（持ち物）の内、この絵に描かれているのは骸骨のみ。なぜか代表的な香炉や本は描かれていません。これは、彼女のみずみずしさとは対照的な骸骨というモチーフを描くことで、彼女の若さが永遠ではないことがヴァニタスの概念にのっとり暗示しているのではないでしょうか。裏を返せば、彼女の美貌をその賞味期限と共に強調しているのです。次に、彼女に用いられた筆遣いを見てみましょう。髪のうねる様やエル・グレコにも似た、荒々しい筆遣いの服のタッチはマグダラのマリアの苦難を表現し、優美な白い肌や表情、手の所作は、聖女としての彼女を表現しているように思えます。さらに、この絵画はキャンバスに油彩で描かれているから、肌の部分は丁寧に絵の具が塗り重ねられ、彼女が一眼レフで撮ったように浮きあがって見える筈です。このように、まったく異なるタッチで同一人物が描かれ、彼女の人生と内面美の二面性を対比していることがわかります。一見、シンプルに見える構図に注目してみると、ここにも仕掛けが隠れています。画面左上から指す光＝神を見つめるこの構図は、もう少し前に描かれたエル・グレコの画ともよく似ています。エル・グレコ　『悔悛するマグダラのマリア』（1576-1577年、107×102㎝）エル・グレコの方には骸骨と共に、香炉や本が描かれていることがお分かりいただけるかと思います。ヴェールと空の青がとても美しいです。エル・グレコのものはマニエリズムによって理想化された女性像ではありますが、比べると、レーニの絵の方が手にも表情にも生気があり動感に満ちていませんか？レーニの絵では、背景は岩肌のような単色的空間で香炉や本も省略され、スポットライトのような光の効果もあってマグダラのマリア自身にファーカスが当たった、劇的な印象を受けます。例えば“洞窟の中で骸骨と十字架を手に祈っていたところ、外から神の光が差し込み振り返った瞬間”を切り取ったというような物語性を想像できるでしょう。つまり、“奇跡の瞬間”そのものを描いているのです。ここでレーニの絵を見る人のフォーカスの動きについて考えてみると、とても不思議なことに気が付きます。まず、右上がりの直線的な右肩・髪のラインと光の交差点である顔に注目。彼女の視線の先の光から両手を結ぶ平行な右下への線に誘導され、半ば意図的に十字架へと終着します。じゃーんこの十字架。こんなに柄の長い金属製の棒をこのように軽く手を添えただけで支えるのは不可能だし、骸骨に貫通しているのでもなければ、右手に隠れている以上の長さはないと見えます。そう、現実的に考えると、この十字架は自立または浮遊している（！）ことになるのです。神の力の神秘を感じさせるものとして、神の代弁者・作者が意図的に配置したのでしょうか。つまり、はっとするようなマグダラのマリアの表情に魅せられた人々は、この構図に誘導されて、彼女を感化した原因が神そのものであると知ることになるのです。続いて、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵を見てみましょう。ジョルジュ・ド・ラ・トゥール　『悔悛するマグダラのマリア（聖なる炎のあるマグダラのマリア）』（1642-44、128×94cm、油彩キャンバス）ラ・トゥールは17世紀前半にフランスで（ちなみにオスカル様の母方の曾おじいちゃん）活躍した画家で、明暗法を巧みに使ったことで「夜の画家」とも言われます。個人的にも大好きなのですが、”知る人ぞ知る”というのが合う画家で、この絵は『リトル・マーメイド』のアリエルのお部屋にもひっそりと飾られています。みんな大好きパート・オブ・ユア・ワールド。”火はなぜ燃えるの？”この絵を見た人に”何が印象に残ったか？”と尋ねれば、やはり常夜灯だと答えるのではないでしょうか。では、この常夜灯の意味するものは何か？この絵の中に描かれているもののうち、　机の上に置かれた分厚い本（→宗教信仰の表れ)　木製の十字架　その上に重ねられた鎖の鞭(→主の苦難)　彼女の右手が置かれた骸骨は、マグダラのマリアのアトリビュートですが、常夜灯だけは違います。画面全体は優れたキアロスクーロ（明暗法）によって、常夜灯の光に優しく照らされ、その焔は彼女自身によって見つめられています。いわば彼女の祭壇とも見えるこの机の上に置かれた常夜灯の焔は、彼女の信仰心そのものを表しているのではないでしょうか。次に、彼女自身に注目してみましょう。滑らかでどこか直線的な曲線で描かれる彼女はまるで木製の人形のよう。レーニのマグダラのマリアの長くうねった髪と対照的に、彼女の髪はまっすぐで一本の乱れもありませんし、抑揚のない人形のような手足にはエジプト美術の石像めいた雰囲気が漂い、彼女には人物的な静感と滑らかさが感じられます。全体としては陰影が支配するダイナミックな印象のこの絵ですが、人物に注目してみると色彩も筆触も単一で服のしわなども細かく描かれているのがわかります。彼女の服は肩まで露わになっていますが、彼女の太い腕はレーニのように肉感的ではなく、むしろ逞しい。彼女から官能さはほとんど感じられず、着崩れた恰好は彼女の元職業よりむしろ、一日の労働による倦怠感を思わせるものがあります。木製の十字架、装飾品が一切ない日常的空間は聖女というよりずっと庶民的なものを想起させますし、私には労働階級の女性が静かな夜を過ごしている様子を描いた絵にマグダラのマリアと後から名付けたと言われた方がしっくりくる気すらします。彼女の顔も平々凡々で、レーニの様な華やかな美もドラマティックな表情もありません。つまり、特徴がないのです。レーニのマグダラのマリアの顔を思い出せる人がいても、彼女の顔を思い出せる人はまれなのではないでしょうか。頬杖をついて灯を見つめている顔は、何か感じているようで感じていないような無表情です。以前ある打ち上げの席で演出家の先生と演技の話になりました。何をどうなってそうなったのかは忘れましたが、先生は、「今から自分のする行動を見て、どう感じたか言ってみて」といい、一点を見つめたまま無表情で固まりました。私や一緒に話していた同期はそれを見て、怒り、哀しみ、疲れているなどと好き勝手に挙げましたが、答えは違いました。「目の前のグラスのを見つめることだけに集中していた」つまり、私たちが読み取ったと思っていた怒りやら悲しみやらは自分自身の中から生まれたものだった、ということ。では、この絵を見る人が彼女の表情に見るものはなんでしょう。それはつまり、見る人自身に由来するものになるはずです。彼女の静かな表情は見る人に自分を投影させる鏡の様な役割を果たしています。　“鏡”ということに付け足すのなら、彼女の右手が置かれている骸骨、見つめている常夜灯（燃え尽きる）は、レーニにも見られたヴァニタスの概念により描かれたものでしょう。見る人が彼女に自己投影すると同様、彼女自身もこれらに自分を投影し、見る人も間接的に二重の投影を行うことになります。レーニが視覚的な誘導によって直接神を示したのとは対照的に、ラ・トゥールはマグダラのマリアに自己投影をさせ見る人に、より内省的に神を示しているのです。頬杖というポーズも西洋絵画の世界ではしばしば内省を表すものです。さて、ラ・トゥールはマグダラのマリアをテーマに複数の絵画を残しています（ずばり鏡を描いたものも存在します）。時季の違う二つの絵を見くらべてみましょう。左（一枚目）がマグダラのマリアを描いた絵としては最初期の『揺れる炎のあるマグダラのマリア』、右（二枚目）が最後期に描かれた『聖なる炎の前のマグダラのマリア』です。ぱっと見ただけでは区別がつきませんが、この『揺れる炎』には机の下の箱のようなものや、鞭の垂れ下がった部分など、後年の『聖なる炎』より多くの物を見てとることができます。また、顔や腕の影の線を見てもわかる通り、陰影もより濃く描かれ、『聖なる炎』が画面上半分に注目が集まるのに比べ、『揺れる炎』は画面右半分に注目が集まります。しかし、なんとなく乱雑で平面的な印象になるのはどうしてでしょう。この『揺れる炎』の中には、いくつもの直線や平行線を見て取ることができます。ばーん。しかし、頭の位置が高いために視線の延長線上に何もないという現象が起こっていたり、左下に衣服のほぼ垂直な線が生じているので、完全にフォーカスが右側に偏ることなく分散してしまいます。また、両足もほぼ真横から捉えられ、三角を描くような配置はどこか幾何学的な印象を与えています。『揺れる炎』のマグダラのマリアには何となくモデルがポーズを決めているような不自然な幼さが感じられませんか？改めて『聖なる炎』を見てみると、まず光の陰影が柔和であり、影によって生じる線も曲線的です。彼女の体制に注目すると、外方向に向けられた脚と身体に対し、内向の焔の方を向いた顔。つまり、非常に安定感のない体制でありポーズとしては維持し辛く、そして顔が意識的に蝋燭の方に向いていることがわかります。このことから、ある一連の動作の中のふとした一場面（動的姿勢）、例えば、“画面右方向の窓の外を眺めていて（足にかかる光の描写から）、ふと右横の机の蝋燭に視線を移した”というような場面を写真のように切り取ったとも見えるわけです。蠟燭は人為的に灯すもの。ラ・トゥールは見る人に等身大のマグダラのマリアに自己投影させ、常夜灯という日常の道具を象徴的に使うことで、生活に寄り添うような神の存在を表したのではないでしょうか。～まとめ～グレド・レーニは筆触を描き分けつつ、マグダラのマリアを魅力的な理想的な女性美をもたせて描き、外性のドラマティックな魅力で見る人を感化させる絵を描いた。また、直接的に神を示し、画題の宗教性を表した。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールはマグダラのマリアを独特の静感のある平凡な姿で描き、見る人に自己投影させる内省的な宗教性を持たせた。また、常夜灯という独特の方法で神を暗示した。レーニの物語性のある美女、ラ・トゥールの海の底を覗くような静謐さ。どちらのマグダラのマリアがお好きですか？2017/02/02→2020/08/25
- 林檎さんの『長く短い祭』について、真剣に考える。～この侭ぢやまだ終われない/我らは夏よ編～
  PVを見てはガムテ越しのキスやシャワーヘッドの殴打（性癖）、そして夜の公園で踊り狂う女人に衝撃を受け、ライブで踊り出した日には（（林檎さん、一生ついていきます。））と手を合わせました。そして旗を振る。旗を振る。みんな大好き『長く短い祭』（2015年、作詞：椎名林檎）です。私は好きなものがあるとどうしても自分のものとして落とし込みたくなるので、延々リピートしたり考え続ける傾向があります。なんとか消化、もしくは吐き出さんとしたものがこちらです。この曲の詞を真剣に深読み（もはや妄想）してみました。詩の下に意訳、その下に好き勝手好きポイントを叫ぶ会を開催しております。どうぞお付き合いください。また、「こういう読み方もあるよ！」と言うのがあれば、ぜひコメントで教えてください。〜〜〜天上天下繋ぐ花火哉万代と刹那の出会ひ忘るまじ我らの夏をまるで花火は天と地を結んでいるみたいで一瞬が永遠になった。忘れられるものか、忘れてなるものか、この我らの夏を。ド頭に「天上天下」なんてワード持ってくる林檎さんやっぱり天才や。（としか表せない己の凡才肌がばれる）「刹那」との言葉の対比が極彩色な「万代」だとかも合わさり、花火を見ている映像が４Kフルハイビジョンで鮮明にドラマティックに瞼の裏に浮かび上がります。そもそも林檎さんと浮雲さんの存在自体が概念の擬人化っぽい。場違ひに冷え切つた体を人熱に放つて流し流され思へば遠くへ来たものだどこか熱狂できないこの身を祭りの人ごみの流れに任せて気が付けば喧騒から離れて外れまで来てしまった（人生の身の振り方として）大多数の世情に身を任せ、長いものに巻かれて気が付けば遠くまで来ていたのだなぁ「思えば遠くへ来たものだ」は悲嘆として「こんなところにまで来てしまった」と取るか、思いがけず「いつの間にかこんなところにまで来れた」ととるか、、人生なんて飽く気ないねまして若さはあつちう間今宵全員が魁、一枚目よ人生なんて呆気なくて　飽きる気がしないましてや若さなんてあっと言う間に過ぎ去っていく（それでも・だから）全員が命を燃やすのだ今夜は全員が先駆け　つまりは主役よ林檎さんの歌詞といえばその文学性だと思うのですが、この曲で才気が光りすぎているのが「飽く気」という一語。音で聞いたらば「あっけない」で終わるところ、文字にしてみると真逆の意味が現れるという粋な趣向、、話が大きくなりますが、シェークスピアみたいにエクストラにエクストラを重ねて韻を踏み倒す欧米に対し、日本では和歌みたいになるべく規模はコンパクトに、一語に複数の意味を持たせる（掛詞）ことでパラレルワールドを広げるレトリック傾向があるように思います。林檎さんの場合、それを、音が全ての音楽でやってしまうのがかっこいい。（歌詞カード見なきゃわかんないのに）皆銘々取り取りの衣裳奔放な命を被ふ化粧隠すまじ我らは夏よ踊り子のような十人十色の意匠の衣装や本能のままに踊る命を覆う化粧にも隠せるものか、隠してなるものか我らは夏なのだからそしてサビ、「我らは夏よ」の自己肯定感凄くないですか…！？ザ、本能。そう、林檎さんは本能の人。どれだけ言葉で武装してこねくって数学的に整えているように感じても、本能から生まれて本能に還る。そこがいい。。。何か知ら落ち込むだ心は人熱彷徨つて流し流され思へば遠くへ来たものだ意味もなく取り留めもない色々に落ち込んだ心は人の熱を彷徨って流し流され思えば遠くへ来たものだなぁ間髪入れずに2番へ。人って落ち込むことがあっても、傷ついて弱っても、それに慣れずとも、だましだまし何とかなるものだったりします。大切なのはその一瞬一瞬か。永遠なんて素気ないねほんの仮初めが好いね愈々宴も酣、本番です酸いも甘いも終わりがないなら意味も価値も薄れてしまうねだから、ほんの仮初めのような人生が好いねいよいよ宴もたけなわ、「本番です」「ほんの仮初めのような人生」ってなんか言葉の色気凄い。お開きになってからが人生本番だなんて、妖しい生死の匂い。皆銘々選り取り全方位獰猛な命燃やす匂ひ臆すまじ我らは夏よどれも思うままの方向に咲き乱れる花火のようにみんながみんな本能のままに選び取る火薬を燃やすように尽きていく命の気配にも臆してなるものか、臆せるものか我らは夏なのだから「♪ みん、な、めい」のタイミングで陸上のスタートダッシュの画が浮かびます。音楽も佳境。一寸女盛りを如何しやうこの侭ぢや行き場がない花盛り色盛り真盛りまだねぇちょっと、女盛りを持て余してこのままだとやり切れないの若さも美しさも真っ盛り、まだ…リピートの「女」って言葉に引き寄せられるように出てくる「花」「色」も詩的で美しい。小野小町か。丁度大輪の枝垂れ柳蘇るひと世の走馬灯逃すまじ我らの夏を丁度祭りは佳境を越え大輪の枝垂れ柳の様な花火のように一夜の思い出が蘇り、人の一時代の、人生の走馬灯が走る逃してなるものか、逃せるものか我らの夏をセミファイナルのごとく怒涛の大サビ。鳥肌もんです。一寸女盛りを如何しやうこの侭ぢやまだ終れない花盛り色盛り真盛りまだねぇちょっと、女盛りをどうすれば好いの？一発打ちあがらないうちには私終われない若さも美しさも真っ盛り、まだ…もうお仕舞いって云われてもしぶとく、醜く、移ろうものに縋ってしまう人の業。そしてそれすらセレブレートしてしまうような陽気な音楽だけど、欲求不満で終わってしまう感じが耳に残る。〜〜夏のように”熱くて短い”ものと花のような”景気の好さと儚さ”の尊さ。この曲の中ではパッと開いて消える花火や長く短い夏に人生（特に女一代）を重ねています。気が付けば過ぎ去りゆく若さを持て余しながらも、一発どでかい花火を打ちあげずには死ねまいという焦燥感。最後の”まだ”のリピートがそれを煽ります。熱いのに冷たい、楽しいのに哀しい、満たされて切ない、長くて短い。まるで祭りの余韻の様な曲。さらに、秀逸なのはPV！花火や祭りが一切出てこない。…もう何も言えますまい。→2019/08/24→2021/02/11

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