上に一本だけ出ていた親知らずを抜いた。

他の人の歯事情なんてあんまり聞かないから精密にはわからないけど、私は昔から虫歯が多くて、特に奥歯はほとんどが大きな虫歯になって被せてその下でまた虫歯になってとかを繰り返したので、削るだけ削った上にセラミックの被せ物をして、沖ノ鳥島みたいになっている。

そんなデストピアな私の口内環境において、年々徐々に存在感を増して伸びてきたやつがこの親知らずだ。さながら親から相続した日当たり悪し、駅から遠い、アパートみたいな存在だったけれど、なんとなくそこに生えていたのでありのままにさせていた。何より抜くのが痛そうだったので怖かったのだ。

 

それがなんで抜くことになったかというと、毎晩その一本のために歯磨きの時間が増えるのがいい加減めんどくさくなったからだ。奥すぎてただでさえ磨きにくいのに、肉やら野菜の筋が全部挟まるのも辟易する。

それで前回歯医者さんで「磨きにくいんですよねぇ〜」などと愚痴ったら、「噛み合わせもないし抜いちゃってもいいと思いますよ〜」と優しいおばさま衛生士さんに言われ、おじいちゃん先生にも痛くないと思うよと言っていたので抜くことにした。

 

意外とあっけなく抜けた親知らず歯ティッシュに包まれて横になっている私の胸の上に置かれた。2cmくらいの大きさのそれは、案の定虫歯ができていて、ところどころ白くもなっていた。止血している間、手にとって、歯ってこんなに長いんだなとまじまじ見ていたら、洗ってあげるから持って帰る?と聞かれたのでお願いした。

 

ほんでさっきまで虫歯の穴が空いた周辺の柔らかくなった部分をほじくるという作業をしていたのだが、やっぱり白くなっているところはネイル用のプッシャーで削ることができるけど、その他のツヤツヤしている部分は金属では歯が入らなくて面白い。あらかたやると小さな木蓮の化石みたいな感じになった。なんとなく魔法石味を感じて愛着が湧く。

 

こんなものが自分から生えてきていたのに自分では全体像を知ることはなかったわけで、こんなに小さいものをあんなに鬱陶しがっていたのかと思うと不思議。これが自分の一部だった言われても、感覚的に全然わからない。

 

今度、ネイル用の石とかつけてデコってみようかな。