以前「ハンバーガーから考える発展と支援」 で書きましたが、
発展するとはどういうことか、支援とは何をすることか、「答え」どころか「自分の考え」すらまとまらなくなっています。
この問に答えるためのヒントはないかと読み始めたのが、『私達が国際協力する理由』です。正直悩みや混乱がさらに深まったような気もしていますが、「国際協力」について見えていなかった一面を知ることができました。
この本を読んで考えたこと
国際協力は「世界益」と同時に「国益」を追求するためのものでもある。この一言でより深い悩みにはまってしまいました。
確かに今の私は日本国民の税金で派遣してもらっています。だから、日本の「国益」に適うように動かなければならない。これは頭では理解できます。
でも、ただ単純に「相手国やその国民のため」ではだめなのでしょうか。助けを必要としている人がいて、その人の力になれるのなら、それを「日本」がやったか「中国」がやったかなんて、どうでもいいことではないでしょうか。
「日本による支援ですよ」と、日本を売り込むことが国際協力の一面なのだとしたら、それにはあまり参加したくなかったな、と思ってしまいました。
でもさらに考えを進めていくと、「単純に相手のため」というのもまた難しいのかもしれません。
ハンバーガーの話のように、こちらから見たら助けが必要だと思えても、相手は別に困っていないかもしれない。助けてほしいと思っていても、それは短期的に「いまジュース買いたいからお金ちょうだい」というだけの内容かもしれない。
「単純に相手のため」とだけ考えるなら、前者には何もできないし、後者にはただお金をあげることしかできなくなってしまうのではないでしょうか。「相手のため」とは、どうすることなのでしょうか。こう考えると、やはり「国益」の視点も必要ということになるのでしょうか。
特に印象残った言葉
「『日本の顔が見える援助』の実施と『世界のベストプラクティスの援助』への参画のどちらが望ましいのか。…『世界益』と『国益』の重なる領域を拡張する」
重なる部分を探している間に助けられる人がいるのでは?と思ってしまいました。
筆者は大使館等で働いていた外交官のようですが、嫌な言い方になってしまいますが「上の方」から見て政策を決めるお役人様と、「末端」で直接現地の人と関わるボランティアとでは、見えている景色が違う、ということなのでしょうか。今の僕には、受け入れづらい記述でした。
「日本の強みの中に普遍性を見出し、それを途上国支援の中で世界に生かし、広げていく、という発想と実践が大切だと思います。」
本書の中で唯一「これならできそうだ」と思えた部分です。「国益」「日本の顔の見える支援」と言われると利己的に感じてしまいますが、日本の強みや日本が今まで経験してきた課題とその解決方法を世界に広めていく、という考え方なら、僕にも受け入れられる気がしました。
配属先の学校では、詰め込み式講義や体罰が横行しています。これは数十年前の日本の姿となる部分があるでしょう。同じ失敗を繰り返させないために、日本の新しい教育方法を伝えていく、ということならできるかもしれません。
まとめ(?)
本書を読んだことで、「発展」や「支援」についての悩みはより深くなってしまいました。でも、悩みが深くなるというのは、より深く考えられるようになってきているということ。国際協力についての新しい視点を得られ、一歩成長できたということかもしれません。
「一隅を照らす」という言葉があります。これは天台宗の開祖、最長の言葉で「一人ひとりが、今自分のいる社会の片隅で、自分の周りを照らすことが大切。それが積み重なることで、社会全体が明るくなる」というような意味です。
国益を背負って大きな橋を作って、そこに日本国旗を描く。これはこれで大きな意味のある仕事でしょう。橋の建設で多くの現地人が仕事・給料を得て生活を改善させたこと、それによって国の経済にも良い影響があったことは十分理解できます。何百人、何千人という人に、良い影響を与えたのだと思います。
でも僕は、「一隅」しか照らせなかったとしても、「日本人」だとすら覚えてくれていなかったとしても、直接関わった人が少しでも笑顔になれるような活動がしたい。たとえそれが100人に満たない小さな範囲にしか影響を及ぼさなかったとしても。
そして帰国してからも、生徒の顔が見えないところで学校とか自治体とか、大きなものを背負って何かを変えるより、たった30人にしか教えられなかったとしても、直接関わった生徒たちの世界が広がるような仕事がしたい。
その30人が大人になったときに次の30人を照らし、さらにそれが続いていけば、たとえ僕は一隅しか照らせなかったっとしても、社会はより明るくなっていくのではないでしょうか。
話が飛躍しすぎましたが、この本を読んで僕にはこういう小さな活動が、「一隅を照らす」仕事が、向いているのかな、と思いました。
でも、それで本当にいいのか、という迷いもあります。30人を照らしたところで、世界は何も変わらないかもしれない。世界を変える力になるには、何百人、何千人に影響を与えられるような仕事のほうが有効なのかもしれない。
どうすれば「発展」の役に立てるのか。どうすれば「よりよい社会」をつくれるのか。どうすれば「世界を変える力になる」ことができるのか。これからも考え続けていきたいと思います。
今回紹介した本
書 名:私たちが国際協力する理由 人道と国益の向こう側
著者名:紀谷昌彦・山形辰史
出版社:日本評論社
出版年:2019/8/20