■表記
紀 … 熊野櫲樟日命(クマノクスビノミコト)・熊野忍蹈命(クマノオシホミノミコト)・熊野忍隅命(クマノオシスミノミコト)・熊野大角命(クマノオオスミノミコト)
記 … 熊野久須毘命


■概要
◎アマテラスとスサノオの「誓約(うけひ)」により生まれた、五男三女神(八王子神)の一柱。アマテラスの「八尺勾璁」(やたのまがたま)を譲り受けて成った五柱のうち、記では左手に付けていた珠から、紀では左足から成った最後の五番目の神。
◎神名から読み取られるのは、「熊野」「奇し霊(くしび、奇し火)」。つまり「熊野の奇し霊」であるかと思われます。この「熊野」は「出雲国熊野」を指すのか、「紀伊国熊野」を指すのか、或いは両方を指すのか不明。
◎事績等の記述は知り得る限りどの文献、神社伝承等からも見られません。「熊野」全体を総べる根源的な大神ということかと。
◎紀伊国「熊野三山」の三社、熊野速玉大社 第一殿結宮の熊野夫須美大神、熊野本宮大社 上四社第一殿西御前の熊野牟須美大神、熊野那智大社 第四殿に鎮座する熊野夫須美大神をクマノクスビ神のこととする説も有り(一般的には伊弉冉命ではないかとされる)。
また出雲国に鎮座する熊野大社のご祭神「加夫呂伎熊野大神 櫛御気野命」もクマノクスビ神とする説も有り(一般的には素戔嗚尊とされる、当社もその見解を取る)。当社では「伊邪那伎日真名子」としてはいますが。また「出雲国神賀詞」にも「伊佐奈枳乃麻奈子坐熊野加武呂乃命」と記されています。
これらから勧請された全国の熊野社のうちいくつかは、ご祭神をクマノクスビ神としているものもあります。
◎一方で「楠(樟)」の木に宿る神霊とする例も。「紀伊国熊野」が「楠(樟)」の木を神聖視する風土にあります。これは熊野櫲樟日命という神名を由来とするものか、またはその風土に宛てた神名なのか、どちらが先なのかは分かりません。
◎「出雲国熊野」について「日本の神々」(谷川健一氏編)内で石塚尊俊氏は、「隈々しい所、つまり隠れてよく見えない所」としています。熊野大社の本宮(元宮)は背後の「熊野山」(現在は「天狗山」)。当社で現在も続けられている「鑽火祭(さんかさい)」は、「燧臼(ひうちうす)・燧杵」を授かるために杵築大社(出雲大社、記事未作成)が遥々参じるものですが、これは「熊野山」の御神木で「燧臼・燧杵」を拵え天穂日命(出雲国造の始祖)に授けたという故事によるもの。つまりは「神聖なる火(熊野大神の霊)」を拝戴するというもの。「熊野の奇し火」というのはこれに繋がるものかと思います。



■祀られる社(主要社のみ)
[紀伊国牟婁郡] 阿須賀神社

[紀伊国牟婁郡] 貴禰谷神社
[紀伊国牟婁郡] 引作神社(引作の大クス)
[紀伊国牟婁郡] 熊野三所大神社
その他、全国に勧請された熊野社にて祀られています。また八王子神(五男三女神)として多く祀られています。


*祀られるとする説のある社(主要社のみ)
[紀伊国牟婁郡] 熊野速玉大社 第一殿結宮の熊野夫須美大神
[紀伊国牟婁郡] 熊野本宮大社 上四社第一殿西御前の熊野牟須美大神
[紀伊国牟婁郡] 熊野那智大社 第四殿の熊野夫須美大神
[出雲国意宇郡] 熊野大社


出雲国 熊野大社境内の「鑽火殿」