うっかりミスが多い、話しすぎて後悔する、衝動買いをしてしまう、職場に馴染めない──そんなとき、「なぜ自分だけうまくいかないのだろう?」と思う方は多いのではないでしょうか。

 

また、「うまくいかないのは自分の努力不足だ」と思い込んでいませんか?

 

いわゆる「発達障がい」は、生まれつきの脳の特性によるものであり、大人になってからうつ不安といった「二次障害」として現れることもあります。

 

今回は、2025年1月から始まる新講座『大人の発達障がい食環境支援士』を紹介する無料Zoom講座のご案内です。

 

『大人の発達障がい食環境支援士』講座では、大きく分けて4つのカテゴリーを学びます。

 

まずは、発達障がいは「障害」ではなく、良い面と悪い面を併せ持つ脳の特性であること、そして「困りごと」は環境とのミスマッチによって生じることを、進化医学の視点から学びます。

 

次に、発達特性から起こる困りごとを減らし、自分の特性ならではの強みを伸ばすための環境づくりを、「睡眠」「運動」「食事」の3つの側面から学びます。

 

さらに、ミスマッチを減らして自分に合った環境で自立するための実践方法を学びます。

 

とくに自立のネックになりやすい「食事」については、「買い物」「食材の整理収納」「料理の基本」「簡単レシピ」の4つに分けて、具体的な方法を紹介します。

 

今回の無料講座では、この新講座の内容を一部体験していただけます。

たとえば、

  • 保護者が「良かれ」と思っている“普通の行動”が、実はミスマッチとなり、
     「大人の発達障がい」につながってしまうこと。

  • 当たり前に食べていた“ある食品”が、集中力を下げていたこと。

こうした「気づき」が得られる内容です。

 

平日の朝でお忙しい時間帯かもしれませんが、
何かをしながらでも気軽にご視聴いただけたら嬉しいです。

 

【新講座『大人の発達障がい食環境支援士』がわかるZoom講座】
日時:10月15日(水)9:00(無料)
講師:Dr.Kayo Arima 代表講師(遺伝学・栄養学博士)

 

参加ご希望の方はこちらにご連絡ください。
 

 

日本語では、英語の Developmental disorders を「発達症群」ではなく「発達障害」と訳したため、「一般的なパターンと異なる」という本来の意味が、「個人の欠陥」というマイナスイメージで受け取られがちです。


しかし、それは誤解です。

 

進化医学的な観点からは、現在「発達障がい」と呼ばれるASDやADHDなどの特性に関連する遺伝子が、進化の過程で淘汰されなかったのは、「人類が生き延びるために必要だった特性=強み」だったと考えられています。

 

実際に、ASDの遺伝率はおよそ70〜90%、ADHDの遺伝率は約70〜80%と推定されています。


つまり、発達障がいは突然現れるものではなく、「良い面と悪い面がある、生まれもった特性」なのです。

 

ただし、どちらも複数の遺伝子が複雑に関与しているため、遺伝していても症状が出ないことがあり、逆に親に症状がなくても子どもに現れることもあります。

 

大人になってから症状が表れるのは、生まれながらに持つ特性と、その人の仕事や生活環境とのミスマッチによるものと考えられています。

 

ですから大切なのは、自身の強みと弱みを理解し、弱みを補いながら強みを伸ばせる環境を整えることです。

 

以前のブログでも触れましたが、世の中には自らの発達特性を公表している著名人が多くいます。

 

2025年1月から始まる新講座「大人の発達障がい食環境支援士」では、特性に合わせた環境の整え方を、理論と実践の両面から学ぶことができます。大人の発達障がいを正しく理解し、困りごとを減らしながら、強みを活かして自立できる生活環境づくりと、簡単に取り入れられるレシピを学べる講座です。

 

10月15日朝9時から無料Zoom講座で新講座の紹介をします。興味のある方は、栄養環境事務局にお問い合わせください。

 

今回も発達障がい食環境支援士取得講座の講師さんからいただいた質問へのお答えブログです。

 

受講生さんからのご相談は、
「20代のASD(自閉スペクトラム症)特性のある息子さんが、最近になって練乳入りのコーヒーや甘いコーヒー牛乳でお腹の調子が悪くなるようになったのは、乳糖が原因でしょうか?
というものでした。

練乳の特徴
練乳は「牛乳を濃縮して砂糖を加えた食品」です。
 

牛乳の栄養(たんぱく質・脂質・カルシウムなど)を残しつつ、糖質がとても多いのが特徴です。

  • 牛乳に比べると、乳糖は約2倍
  • 総糖質は10倍以上

そのため 乳糖不耐症の方や、そうでない方でも大量に飲むと(砂糖の影響で)お腹がゆるくなりやすい食品です。

大人になってから乳糖不耐症になる?
今回のご相談者さんの息子さんは、以前は問題なかったのに最近になって症状が出てきたそうです。実はこれは珍しいことではありません。

人は誰でも赤ちゃんの頃は母乳を消化するために ラクターゼ(乳糖を分解する酵素) を十分に持っています。
 

ところが成長とともにこの酵素の働きは自然に弱まり、特に日本人では顕著です。
成人の 約80% は程度の差はあれ乳糖不耐症があるといわれています。

もし「牛乳や練乳を飲んだ時だけお腹の調子が悪くなる」なら、乳糖不耐症の可能性があります。

ASD特性と腸内環境
一方で、もし日常的にお腹の不調が続いているのであれば、ASD特性による腸内環境の乱れが影響しているかもしれません。

ASDのある大人は、一般の人より 消化器症状(便秘・下痢・腹痛・お腹の張りなど) を抱える割合が高いことがわかっています。


子どもの頃から続くケースもありますし、社会生活や食習慣の影響で大人になってから悪化する場合もあります。

食品ごとの工夫
乳糖不耐症の方でも、

  • ヨーグルトは、乳酸菌がラクターゼを作るので多くの方が 耐えられます。
  • チーズは牛乳より乳糖が少ないので、多くの方が 耐えられます。


もしヨーグルトやチーズで症状が出ないなら、これらを利用してカルシウム補給ができますね。

甘いコーヒーを楽しみたいときは
「どうしても甘いミルクコーヒーが飲みたい!」というときは、次の工夫をおすすめします。

  • 練乳をやめて ラクトースフリー牛乳+少量の砂糖 を使う
  • ラクターゼ(乳糖分解酵素)のサプリメントを試す


こうした工夫でお腹の調子を見ながら楽しめると良いと思います。

まとめ
大人になってから乳糖不耐症が現れるのは自然なことです。
 

ASD特性を持つ方は腸内環境の不調が重なりやすいので、食事の工夫や安心できる代替方法を取り入れていくことが大切です。

 

 

 

発達障がい食環境支援士の受講生さんから、
「脳の可塑性は遺伝するのか? それによって適応障害などの特性も遺伝するのか?」というご質問をいただきました。

 

脳の可塑性とは、経験・学習・ストレス・損傷などに応じて神経回路が変化する能力のことです。


繰り返しの練習で脳に新しいネットワークが築かれるので、自転車に乗れるようになったり、楽器が弾けるようになったりするのは、可塑性のおかげです。

 

脳の可塑性の強さは、人によって違います。環境によって強くなったり弱くなったりもします。

 

明らかに遺伝によって可塑性が大きく下がる病気は 1万人に1〜2人と非常にまれですが、軽度の可塑性低下は人口の2〜5割程度にみられるとされています。
 

また、遺伝だけでなく、胎児期に母体の栄養状態・ストレス・感染症などの影響を受けて可塑性が下がることもあります。生まれてからも、栄養不足、運動不足、睡眠不足や加齢でも下がります。

 

ただし、脳の可塑性が多少低いからといって、それだけでうつ病や不安症、発達障害を発症するわけではありません

 

たとえば ASD や ADHD に関連する複数の遺伝子変異は、遺伝する確率が比較的高いといわれていますが、その変異を持っていても発症しない人もたくさんいます。

 

今回ご質問くださった方は適応障害や社交不安障害+抑うつ障害を併発されているとのことですが、直接的に関わる遺伝子変異の遺伝率はそれほど高くはないと考えられます(ご質問では、社会性抑うつ不安障害と書かれていましたが、その診断名はないので、社交不安障害+抑うつ障害と解釈しました)。

 

親子で心療内科に通っておられるとのことですが、親子で適応障害や発達障害が重なる背景には、遺伝要因だけでなく次のような「共通の環境」が影響している可能性もあります。

  • 胎児期の母体環境(ストレス・感染・栄養など)

  • 家族内の心理社会的環境(親のストレス反応や養育スタイル)

  • 社会的ミスマッチ(学校や職場での適応の難しさ)

ですから、親子で「脳の可塑性を高める生活習慣」を意識することで、症状がやわらぐことがあるかもしれません。

 

脳の可塑性を高める方法には、次のようなものがあります。

  • 運動(有酸素運動)

  • 睡眠(質の高い十分な睡眠)

  • 栄養(オメガ3脂肪酸・タンパク質・食物繊維)

  • 挑戦(新しい遊びや学習に取り組む)

  • リラックス(マインドフルネスや安心感)

  • 社会的体験(自然・旅行・ボランティア)

  • デジタル時間の制限(体を動かす時間を守る)

受診やお薬のサポートを続けながら、講座で学んだ内容もあわせて取り入れていくことで、少しずつ脳の可塑性を育てていけるのではないかと思います。


 

発達障害(ADHDやASD)と糖尿病には、一見関係がないように思われますが、近年の研究では、この2つの間に「双方向の関係」がある可能性が指摘されています。

ADHDのある人は糖尿病になりやすい
ADHDとT2Dの関連を検証した複数の論文から、ADHDのある子どもや大人は、以下のような理由で2型糖尿病のリスクが2倍になるという解析結果が出ています(参考文献)。

  1. 衝動的な食行動や不規則な生活習慣
  2. 運動不足や食生活の乱れ
  3. 薬の副作用で食欲低下 による代謝異常

糖尿病の人にADHD傾向が見られる
2型糖尿病患者約3000人にASRSスコア(成人ADHD自己評価スケール)という18歳以上を対象としたADHD特性を自己評価のためのチェックリストの回答を求めたところ、回答のあった315名中155名(49%)がADHD陽性という結果が出ました。どの多くが診断を受けておらず、見逃されている状況が浮き彫りになっています(参考文献)。

 

その理由には以下のことが考えられます。

  1. 高血糖・低血糖に伴う注意力低下や疲労感

  2. 糖尿病の心理的負担 から情緒不安定や集中困難

  3. 前頭前野でインスリン抵抗性が発症することからADHDに似た症状が出る

ASDのある人は糖尿病になりやすい
台湾の全国健康保険データを用いて、ASD(自閉スペクトラム症)のある青少年および若年成人6,122名を調べたところ、ASDでない人と比較して2型糖尿病を発症する比率が高いことがわかりました(参考文献)。

 

その理由には、偏食や感覚過敏により栄養バランスが崩れやすく、肥満や運動不足になりがちなことが含まれます。

母親が糖尿病だと子供がASD・ADHD・知的障害になる可能性がある
スウェーデンで母子ペア2.3万人以上を対象に、母親の糖尿病の有無と、子どものASD・ADHD・知的障害との関連性を追跡調査したところ、母親が糖尿病だと、ASDやADHD、知的障害の発症率が統計的に有意に上昇していたことがわかりました(参考文献)。

 

その理由には、母体の高血糖が、胎児の脳の発達や神経ネットワークの形成に影響を与えることが考えられます。

 

インスリン抵抗性で起こる2型糖尿病

2型糖尿病は、インスリンが正常に分泌されているのに、脳や体がインスリンに反応しなくなる、インスリン抵抗性という状態を起こすことで発症します。

 

発達障がいの原因の一つに、脳のインスリン抵抗性が高まって、脳細胞が血糖(ブドウ糖)を取り込めないことによるエネルギー不足、脳細胞が正常に働かないことなどが考えられています。

 

つまり、発達障害のある人がインスリン感受性を高める努力をしないと、2型糖尿病になりやすく、糖尿病の人は潜在的に発達障害の特性を持つ確率が高いということになります。

 

インスリンと発達障害の関係をもっと知りたい方はぜひ、発達障がい食環境支援士取得口座を受講してくださいね!

 

マクロビオティック(マクロビ)は、玄米菜食を基本とする日本発祥の食事法で、自然との調和やバランスを重視したライフスタイルとして、健康志向の人々に関心を持たれてきましたが、長期間実践すると重篤な健康被害があり、死に至ることがることを知ってください。

 

マクロビは、1920年代に思想家の桜沢如一によって作られた陰陽論を交えた食事法で、栄養学に基づいたものではありません。

 

アメリカでも1960年代に彼と久司道夫によって広められましたが、1965年にマクロビを実践する女性が栄養失調で死亡したことをきっかけに調査が入り、別の栄養障害も明るみに出て、1971年にはアメリカ医師会が、「(マクロビは)最も危険な食事療法のひとつであり、個人の健康に深刻な危険をもたらすだけでなく、生命そのものにも脅威を及ぼす」と表明しました(参考サイト)。

 

マクロビは、野菜、穀物、豆類、海藻などを中心に、精製された食品(白砂糖、白米、小麦粉など)を避け、伝統的な東洋医学の考えを取り入れ、季節、体質、気候に合わせた食事をするなど、自然との調和を重視する食事法ですから、普段の食事がラーメンやコンビニ飯に人が、短期間実践すると健康効果があると思います。

 

しかし、肉・魚・乳製品・卵などを避けるため、ビタミンB12・鉄・あえカルシウム・たんぱく質・必須脂肪酸などの体を成長させて機能を維持するために必要不可欠な栄養素が欠落している食事法です。

 

そのため、長期的実施すると貧血・疲労・低栄養だけでなく、骨粗鬆症感染症にかかりやすくなり、皮膚バリアが弱まる可能性もあります。

 

筋肉量の低下から、フレイルゴースト血管(血管減少)のリスクも上がります。

 

特に、成長期の子どもや妊娠・授乳中の人、高齢者には絶対向かない食事法です。

 

動物性タンパク質・ビタミンB12・鉄・カルシウムが不足すると、太りやすくなり、魚に含まれるオメガ3脂肪酸が不足すると認知機能感情の制御にも影響が出る可能性があるので、健康志向の女性の方も、「たまにマクロビレストランに行く」、または肉や魚も取り入れた「なんちゃってマクロビ」にしていただくと良いのではないかと思います。

 

 

幼い頃の発達障がいには、大きく分けて2つあります。1つ目は、脳の発達に関わる生まれ持った(先天性の)機能障害によって起こる注意欠如多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などで、2つ目は生まれてからの生育環境の影響でバランスが崩れた脳によって起こる発達障害のような特性です。

 

どちらの場合も、落ち着きのなさや乱暴、情緒の不安定、他の子どもと遊べないこと、学校や授業で発言できない(場面緘黙)など、早ければ乳幼児期から徴候が見られる、人としての成長や発達に関わる問題です。

 

これに対して、10代を過ぎる頃から増加するのは、パニック症などの不安症やうつ病、双極性障害、統合失調症といった大人に見られるようなメンタル不調です。その中には発達障がいの特性を持つ子どもが多く含まれています。

 

この時期には、性ホルモンの分泌が活発となり、脳の中でも情動・感情の発現に関わる部分(扁桃体などの辺縁系と呼ばれる領域)が活発化して、攻撃性が現れやすいのですが、感情をコントロールして行動を統括する大脳の前頭前野は、まだまだ未完成のままなので、メンタル不調が起こりやすくなるのです。

 

大脳の前頭前野が成熟するのは20代後半と考えられています。そのため20代になっても、携帯電話やタブレットの多用、睡眠不足、運動不足、栄養素不足などで脳のバランスが保てないと、幼い頃には目立たなかった発達障害の特性が顕著化することがあります。

 

そうなると、学校や職場でいじめの対象になったり、生きづらさを感じることから、うつ病や不安症などの二次障害を併発することもあります。

 

例えば、コミュニケーションが苦手なASDの特性があると、異質と見られやすく、孤立を深めることから引きこもりや二次障害のリスクが高まります。

 

大人の発達障がいは、単純なミスを繰り返す、よく遅刻する、人間関係がうまくいかないなどの生きづらさの問題から発覚する傾向にあります。自分の特性に合わない環境で働くことで二次障害が先に現れることもあります。

 

放置していると、健全な社会生活が維持できなくなります。

 

不安、落ち込み、意欲低下、疲労、イライラ、怒り、猜疑心などは、誰でも経験する感情なので、放置しがちですが、しばらく続くようなら「メンタル不調」を疑ってください。もしかするとその根底には、発達障がいが隠れているのかもしれません。

 

 

 

 

不安感や緊張感は誰もが感じる当たり前の感情です。狩猟と採集に頼っていた私たちの先祖にとって、この感情は生き延びるために絶対不可欠なものでした。

 

もし人類にこの感情がなければ、猛獣の脅威を感じず殺されてしまったり、危険な激流に入って流されたり、猛吹雪を恐れず外に出て遭難したりして、人類は絶滅してしまったでしょう。

 

不安感は、2つの相反する自律神経系、交感神経と副交感神経のバランスが深く関与しています。

 

交感神経は、闘争・逃走反応(fight or flight response)を生じて、体を非常事態にすぐ対応できる状態にします。この反応があったから、人類は周囲の脅威に対して即座に戦うか、逃げる準備ができたのです。しかし、現代社会では、この反応が「生命の危機に直結しない状況」でも炎上して、慢性的な不安やストレスを引き起こすことがあります。

 

なぜそうなるかというと、以前のブログにも書いた通り人類史上、現代社会は始まったばかりの不慣れな環境なので、それに対応する能力が備わっていないからです。

 

交感神経が活発化した後には、副交感神経という不安感を和らげて闘争反応とは真逆の食欲を高め、睡眠の質をあげる神経系が活性化するようにできていますが、人間関係や長時間労働などの積み重ねから起こる現代社会のストレスには終わりがないので、副交感神経がうまく活性化できません。そこで起こるのが不安症です。

 

パニック症、不安症、うつ病、双極性障害、統合失調症などのメンタル不調は、人類と環境のミスマッチから、本来なら役に立つ特性がデメリットとなって出てしまったと考えることができます。

 

逆に言うと、そのミスマッチを少しずつ埋めていけば改善の可能性があるのです。

 

 

進化は無駄を嫌います。ですが、30万年前に人族からホモサピエンスに進化して以来、人類は発達障害やメンタル不調の元のなる遺伝子をたくさん温存してきました。

 

その理由は、人類という種が生き延びて子孫を残すために必要だったからと考えられています。今回はADHD(注意欠陥・多動性障害)についてお話ししましょう。

 

多動性、衝動性、不注意といったADHDの特徴は、狩猟と採集に頼る原始時代には有効であったと考えられます。例えば、多動性や衝動性は、狩猟中や危機的な状況で素早く意思決定を行うのに役立ち、注意が散漫になりやすい傾向は、環境の変化や危険を察知するのに有効だったでしょう。

 

学校や職場では、「問題行動」とみなされるこれらの特性も、スポーツの世界では違ってくるようです。

 

アメリカでは、ADHDであることを明らかにしているトップアスリートが数多くいます。そのうち数人を紹介しましょう。

 

シモーネ・バイルズ

アメリカの女子体操選手であるシモーネ・バイルズは、リオデジャネイロオリンピックの体操競技で4冠を達成、東京オリンピックで2個のメダルを、2024年のパリオリンピックでは団体、個人総合、跳馬で金メダルを獲得した上に、 世界体操競技選手権では2013年から2023年現在までに通算で30個のメダルを獲得し、男女を通じて史上最多のメダル獲得者(うち23個の金メダルも男女を通じての史上最多の獲得者)です。

 

彼女は子どもの頃からADHDと診断され、治療薬を服用しながらこの偉業を達成しました。

 

ノア・ライルズ

2024年のパリオリンピック100m走で金メダリストのノア・ライルズは、ADHDと失読症で高校卒業までは苦労したそうです。でもその後ADHDを、「アスリートなら誰でも望むギフト」と考えるようなったとインタビューで答えています。

 

マイケル・フェルプス

オリンピックメダル獲得数史上1位のマイケル・フェルプスは、ADHDと診断を受けた9歳の頃を、「常に壁を叩きまわっていた」と回想しています。その有り余るエネルギーのはけ口として水泳に打ち込んだそうです。

 

彼ら以外にも、スプリンターとして多くのメダルを得たジャスティン・ガトリン、プロバスケットボール選手であり金メダリストでもあるブリトニー・グライナーなど、数多くのアスリートが、子どもの頃から、または大人になってから、ADHDと診断されています(参考サイト)。

 

 

 

 

 

メンタル不調は自己責任ではありません。進化精神医学(別名ダーウィン精神医学)から考えると、うつ病、ADHD、不安障害などの多くの精神疾患は、人類という種を存続させるために重要な特性だったことがわかります。

 

私たち人類の先祖、ヒト属は今から260−240万年前に登場し、ホモ・サピエンスへと進化したのは、今から約30万年前のことで、人間の脳と体はその頃からほとんど進化していません。その理由は、人類誕生から現在までを1年とした「人類カレンダー」に置き換えてみるとよくわかります。

 

人類カレンダーでは、人類誕生が元旦です。そのあとずっと原始時代の生活が続いて、ようやく農耕が始まったのが12月17日です。


ところが、大晦日の夜になってから環境が激変します。

 

日本で電灯が初めて点灯したのが大晦日の夜7時54分、第2時世界大戦の終結が9時42分、水道が普及したのが9時48分、テレビの普及が10時6分、日本初のセブンイレブンが開業したのが10時30分、iPhoneの到来が11時30分です。

つまり、コンビニやスマホのある現代社会は、人類にとってごく最近に始まった不慣れな環境ですから、体と脳に不調が出て当たり前なのです。

 

逆に、現在ではうつ病と呼ばれる症状は、原始時代には生き延びるために必要不可欠な特性だったと考えられます。

 

人類の歴史の大半は、集団で狩猟と採集で生きていたので、食料が乏しい時や雪で閉ざされる時期はじっとして、できるだけ体力を温存することができた人だけが生き残り、子孫を残せたのです。

 

うつ病の特性にある社会的な引きこもりは、集団内の対立を避けるのに役立ったでしょうし、食欲がおちる、朝起きられない、何もしたくない、動作が緩慢になるなどは、食糧不足や危険な状況下でエネルギーを節約する手段であったと考えられます。

 

同様に、ADHD(注意欠陥・多動性障害)も進化的な観点から考えることができます。次回はADHDと不安症を進化の観点から考えましょう。