何年ぶりだろうか……?
小さい頃、毎年楽しみにしていたお祭りに行った。
神社の入り口にある露店。
神社全体を包む、お祭りの空気。
焼きそばのソースの香りと、トウモロコシのこがし醤油の香り。
20年ぶりに訪れたお祭りの空気は、
何年たっても変わらないままだった。
綿菓子のイラストや、当てものの景品こそ変われど、
店主はいまの時代にあり得ないくらい
良い感じにやる気がない。
仕事着はジャージかエプロン。
くじ引きのお姉さんは煙草をくわえながら
25年前によく見た髪型をしていた。
隣の店も、その隣の店も、くわえ煙草で
「やっすいよー」と全然安くない牛串を売っている。
この圧倒的ゆるさ。
「まだこういうのが残ってるんだ……」と
懐かしの昭和イズムを堪能しながら
露店街を歩いてると、
さらに懐かしい場所に辿り着いた。
御社殿のすぐ横。
9歳だった私は、ここでフランクフルトを握ったまま
盛大に転んだのだ。
買ったばかりのフランクフルトが砂にまみれて
お気に入りの浴衣にはケチャップが飛び散った。
家なき子の安達祐実に憧れていた私は
「泣くもんか、泣くもんか」と涙をこらえてると、
フランクフルト屋のおじさんが飛び出してきて
私を立ち上がらせてくれた。
「お嬢ちゃん 大丈夫か?」
そう言って、泣くのをこらえながら立ち上がった私を見て
やさしそうな顔でゆるませてくれた。
「ちょっとまっとりや」
おじさんは露店に戻ると、新しいフランクフルトと
ウェットティッシュを持ってきてくれた。
あれから30年弱……。
まったく同じ場所に、
フランクフルト屋さんはあった。
あの日とまったく同じ雰囲気で。
露店のおじさんは……。
そのままだった。
さすがに、少し老けたかな。
いや、だいぶ老けたかな。
でも、やさしく笑う目じりのシワは、まったく同じだった。
私は当時9歳だったし、
向こうは100%覚えてるわけないけど、
「1本くださいな」と、お腹も減ってないのに注文した。
おじさんは「あいよ!」
と保温していたフランクフルトを手渡し、
つぎの作業にとりかかった。
あの日も、同じトーンで
「あいよ!」って言ってたな。
なんて思い出し笑いをしながら帰ろうとすると――
「転びなやっ」
と背中から聞こえてきた。
おじさんは目じりにいっぱいシワをためて笑っていた。
私は笑って「あいよ!」って返事をした。
もちろん偶然。
100%覚えてるわけはないけれど。
「転びなやっ」がとてもやさしくて、
なつかしくて、あたたかくて、
あの日、口の周りをケチャップだらけにして、
もらったフランクフルトを食べてた自分を思い出した。
わたしはさ、転びがち。
大人になったいまでも転びがち。
でも、何度でも、何度でも、立ち上がるんだから。
ダルマさんより、起き上がるんだから。
そう、決めてるんだよ。