「点と線」国鉄香椎駅と西鉄香椎駅

 

   「松本清張の『点と線』①

   「松本清張の『点と線』 ② 夜行寝台特急『あさかぜ』」 

 「③ 香椎浜の心中事件

 「④ 列車食堂と領収証の疑問

 「⑤ 国鉄香椎駅の続きです。

 福岡署の鳥飼重太郎は、警視庁の三原紀一を、佐山お時が心中(情死)した現場に案内し、再び西鉄香椎駅に戻って来て言った。

 

(新潮文庫92P) 「ここは、この駅と、もう一つ五百メートルばかり離れたところに国鉄の香椎駅があります」 と彼は、二つの駅の男女のことを話した。それから、自分が足で二つの駅を往復して、時間を実測したことも、くわしく言った。

 

 

鳥飼重太郎が言った内容は、こうだった。 国鉄香椎駅前の果物屋の主人は、9時24分着から降りて来た男女を見ている。 西鉄香椎駅9時35分着の電車から降りた地元の会社員が、自分を追い越して歩いて行った男女を見ている。 この男女が同一人物だとすれば、国鉄駅から西鉄駅まで歩いて十一分要したことになる。 鳥飼は両駅間の所要時間を、早さを変えて3回実測し、平均7分間であることを三原に話した。

 

(上地図)はそれぞれの駅舎の当時の大きさと場所を記しています。 「点と線」の西鉄香椎駅は、現在の駅舎改札口から北西に約25メートル先にあった。

        国鉄香椎駅                  西鉄香椎駅

      

うっちゃんは、香椎の住人としてある程度の地理感があるので、「両駅間500メートル、徒歩七分」を以前から疑問に思っていたのでした。 「点と線」時の両駅間は正確には320メートルです。 うっちゃんの足で、早歩き・遅歩きで何回か計ってみましたら、(信号の待ち時間を差し引き)3分40秒~4分なのです。 

 

松本清張自身も西鉄と国鉄の間を歩いて確認している筈だ・・・何故?・・・これは、間違いや勘違いではなく、意識して「500メートル・7分」にしてますね。 列車・電車の到着時間は不変です・・・この時間帯に香椎の町には一組の男女が歩いていたのか、或いは二組の男女が歩いていたのか? この疑問を、推理小説として「」にするためには、両駅間を7分位で歩かせるのが1番なんです。 3~4分で歩いたことになれば、二組の男女が歩いていたことになり・・・11分で歩いたことになれば、両駅で目撃された男女は同じで一組となる。 松本清張は少し悩んだと思いますよ。

 

実際(ネタバレ)には、昭和32年1月20日(東映映画では昭和33年10月20日)の夜、犯人の安田辰郎安田亮子夫婦と、毒殺(心中ではなく)された佐山憲一お時4人が二組のペアで、香椎の町中から海岸のほうへ歩いて行ったのだった。

           安田亮子(高峰 三枝子) 安田辰郎(山形 勲)

   

国鉄香椎駅を降りた男女は安田涼子佐山憲一の二人、西鉄香椎駅を降りたのは安田辰郎お時の二人だった。 よって、国鉄香椎駅と西鉄香椎駅の間を歩いたのは安田亮子佐山憲一の二人だけです。 その二人が歩いた320メートルを辿ってみましょう。 国鉄駅から唐津街道信号までは、全ての景色が消えてしまった。

                  3階から

 

 小説(新潮文庫)で登場した国鉄香椎駅前の「果物屋」(東映映画では駅前左側)は、「大衆食堂」でした。 右は更地前までの写真です。

       大衆食堂 (昭和34年)         (更地前)

            

                 

 

       駅前右側 (昭和27年)         (更地前)

         

昭和27年当時、香椎宮の案内看板が立っていました。 「点と線」当時がどうだったかは分かりません。 更地になる前はパチンコ屋さんが建っていました。 2枚の写真とも、浜の方へ行くに従って、地面が低くなっているのが分ります。海岸が近かった名残りです。

 

   「よし本」から駅方向 (昭和30年)      (更地前)

        

点と線」当時は歩道も無く、道路も舗装されていなかった。

 

 警視庁の三原紀一福岡署の鳥飼重太郎は、西鉄線踏切方向に歩いて行きます。

             

   「宇宙軒」 (昭和33~35年)       (2015年撮影)

                

唐津街道の角に「三菱家庭電気店」が見えます・・・数年前まで、この角が「マクドナルド」でした。 その隣が、福岡市内でも有名な人気中華料理店「宇宙軒」だったのですが、現在は香椎宮参道に移転しています。 「宇宙軒」は松本清張の小説にも東映映画にも登場しませんが・・・ 平成19年(2007年)にビートたけしが出演したテレビ朝日のドラマ「点と線」の撮影セットの中では、場所も忠実に現れました。           

その隣が鳥飼重太郎が聞き込みをした「果物屋」に設定されているのですが・・・ここからだと、果物屋の主人が言う(新潮文庫 61P)それに駅の明るい電灯で逆光線になっているものですから、人間は黒い影みたいな・・・」が表現出来ないと思う。

             

昭和32年(1957年)10月4日、この日、松本清張は、東京ステーションホテル209号室(現2033号室)で「点と線」連載ラストの原稿書きに追われていたのではないかと想像できます。 タバコを吸いながら、ふっと新聞を覗くと・・・一面を賑わしていた記事は、旧ソビエト連邦による世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功。 米ソの宇宙開発競争の始まり。 清張は新聞を読みながら、世界が宇宙規模で大きく動き始めたのを感じただろう。 そのころ、香椎駅前に小さな中華料理店を開いたおばあさんも、同じ新聞を読みながら言った。

宇宙ほど大きく拡がるものはない!」 

現・宇宙軒オーナーの祖母で、宇宙軒」と言うスケールの大きな屋号の由来です。

                                            香椎宮参道の宇宙軒

    うっちゃんのブログ「宇宙軒(やわらか皿うどん)クリック

 

松本清張の『点と線』⑦ 」に続く。 西鉄踏切を右折して西鉄香椎駅へ。

*香椎の町中の写真(昭和)は「香椎タウンストーリー(管理者:柳瀬英昭 氏)」からお借りしてます。

* 町地図はマピオンを借用しています。

 

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