「点と線」香椎浜の心中事件!

 

松本清張の『点と線』①」、「松本清張の『点と線』 ②」の続きです。

                新潮文庫                  東映DVD

                      

 

昭和32年1月14日18時30分、××省の課長補佐・佐山憲一と赤坂の料亭「小雪」の女中・お時の二人を乗せた特急「あさかぜ」が、東京駅15番ホームから博多へ向けてゆっくりと動き出した。・・・この場面、時を少しだけ戻してみます。

                  

小説点と線』(新潮文庫)の15Pには、「二人は、ホームの人の群れの間を、見えたり隠れたりして、ちらちらしながら列車の後部の方に向かって歩いていた」、また16Pには「やがて一つの車両の前に立ちどまって、列車の車両番号を見ていたが、ついと男の方から先になかに入って、姿を消してしまった」、とあるが・・・

 東映映画で、二人が「あさかぜ」に乗車する場面です。

 

                    

 「列車の後部の方に向かって歩いていた」なのだが、5号車に・・・しかも、「男の方から先に」ではなく、お時が先に乗り込んでいる。 あまり関係ないか!

 

続けて、料亭「小雪」の女中二人が好奇心から「あさかぜ」の二人を覗きに行く場面(19P)では、「特急の車両の近くに寄って、見送りの人たちの間から、窓を見た。 車内は贅沢に明るい。 その光線は、座席に座ったお時さんと横の若い男とを、あざやかに浮き出した」と状況が書かれている。   東映映画の場面。

           佐山憲一            お時

                   

↓ もう一度、ダイヤ改正後の「あさかぜ」の列車編成を見てみよう。

                   

5号車は3等座席(ナハ)の車両です・・・が、映画の窓越しに見えた二人が座っているのは2等座席(現在のグリーン席)でしょう。 2等座席は「スロ」の8号車のみです。 小説で言う「列車の後部の方に向かって歩いていた」とは、8号車に向かっていたのかもしれない。 東映映画が封切りされたのは、翌年の昭和33年10月ですから、列車編成が変わった可能性もありますが・・・。 どうでも、いいことでした! 

 

「うっちゃん」という人間を「ヒマな奴だなあ」、と思われたでしょう。 そのとおり!暇なんです・・・コロナ緊急事態宣言後は、殆ど家の中に居ます。 それで、新潮文庫東映映画を比較しながら・・・どうでもいいことを、探し出しているんです。  

 

ただ、不思議に思ったことは・・・博多までの所要時間が17時間・・・「あさかぜ」には寝台車が5両もあるのに、何故、座席車だったのか?  それは・・・

                                             「あれは お時さんじゃ ない?

 

 

佐山お時の姿を、犯人の安田辰郎が二人の女中に、間違いなく「あさかぜで見た」と確認させるためには、寝台車両では見えにくい。 やはり窓全体の中に二人が座って見える座席車でなければならなかったのです。    

                                      (清張記念館 説明資料)

 

さて、佐山お時1週間後の1月21日、福岡香椎の海岸の岩場で青酸カリを飲み、死体で発見された。 新潮文庫(26P)によると・・・刑事、警察医、鑑識係らが来て、状況から情死(心中)としている。 

                 香椎浜の事件現場 (東映映画)

 

その時、よれよれのオーバーを着た、痩せた風采のあがらぬ刑事が「ずいぶん寒い場所で死んだものですね」と呟くように、独り言を言った。 福岡署の古参刑事・鳥飼重太郎だった。 

                 鳥飼重太郎  (東映映画)

東映映画で鳥飼重太郎を演じるのは、名優・加藤 (かとう よし)。 平成19年(2007)のテレビ朝日のドラマ「点と線」では、ビート・たけし鳥飼重太郎を演じていたが、うっちゃんは加藤 のほうがハマっていると思う。 数多くの映画に出演しているが、代表作は同じ松本清張原作の「砂の器」だった・・・とにかく演技が磨かれている。

 

所属は新潮文庫では「福岡警察署」、 東映映画では「東福岡警察署」となっている。

                

昭和32年当時、「福岡警察署(現・中央警察署)」は天神1丁目に、「東福岡警察署(現・東警察署)」は箱崎(現・区役所近く)にあった。 東映映画が何故、鳥飼重太郎の所属を東福岡警察署」としたのかが良く分からないのです。 当時、香椎で事件が起きた時の所轄が、「東福岡警察署」だったからだろうか。

 

小説の「新潮文庫」では(29P)・・・福岡警察署で死体の検死が始まった。 持ち物から佐山お時の名前や所属先などが分かり・・・そして、佐山のポケットから列車食堂の受取証(領収証)が見つかった。

            「あさかぜ」食堂の領収証  (東映映画)  

 

係長が受取証(領収証)を見て言った。

日付は1月14日、列車番号は7、人数は御一人様、合計金額は340円。東京日本食堂の発行だ。何を食べたかわからん

*説明:東映映画では、「あさかぜ」の東京駅出発を、映画封切りの昭和33年10月の同じ14日としている。 合計金額が何故か違う・・・1年半の間に、値上げがあったのかな?

 

受取証(領収証)を見ていた係長に鳥飼重太郎がすすみ出た。

ちょっと、その受取証を見せて下さい」 そして、独り言のように言った。

御一人様? この男は一人で食堂で飯を食べたのですなあ

係長が聞きとがめて、

そりゃ、君。女の方は食べたくなかったから、一緒には食堂には行かなかったのだろうよ

と口を出した。

いや、しかしですなあ、係長さん、女というやつは食い気が張っていましてね。腹はいっぱいでも、同伴(つれ)が食べるときは何かつきあうものですよ。たとえば、プリンとかコーヒーとかですな

 

 小説(新潮文庫)の32Pをそのまま紹介しています。 現在の女性が聞くと、怒っちゃいそうな文言ですが・・・でも、当たっているようにも思う(笑)。

 

しかし、この「一人で食堂車で飯を食べた?」と言う、鳥飼重太郎のもやもやした小さな疑問が、この推理小説の扉を大きく開けて行くのです。

 

松本清張の『点と線』 ④」に続く。

* ブログ内画像は清張記念館、東映DVD、他からお借りしています。

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