夏休みが明けて、部活動の外部コーチをやらないかと陸上部の先生から話をされた。正直部活動を指導するのには興味がなかった。しかし、土曜日の半日だけでも良いということで、小遣い稼ぎということでそのときは了承をした。そしてコーチ登録の紙を渡されて必要箇所に記入しようと思ったら違和感に気づく。部活動名が陸上部ではなく【ソフトテニス部女子】と記載されていた。私は思わず「え?これおかしくないですか?」と声に出した。そうすると女テニの先生が来て、「おかしくないよ。かえる先生大学まで9年間ソフトテニス部って子どもたちから聞いたよ。これから頼むよ。」と言われ、断れず印を押したのであった。この女テニの顧問との出会いが教員人生を大きく左右することになるとはこのときは思いもしなかった。
外部コーチを任されたソフトテニス部女子は、私が中学生の時から全国大会や東海大会によく出場している伝統ある強豪校であった(これ身バレするかも)。私は正直そんな子たちを指導する自信がなかった。なぜなら私にはたいした実績もない上に、大学3年の冬にスノボで調子こいてジャンプしまくっていたら着地に失敗して右肘を負傷をしたからだ。それを機にボールを打つ度に肘に痛みが走るようになったため、その後大会に参加せずに引退をしたのだ。なので3年以上ラケットも握っていない。
土曜日の休日練習に参加してすぐに顧問の先生から「子どもたちと乱打(らんだ)してよ。」と、言われた。(乱打とは硬式テニスでいうボールを互いに打ち合うラリーのことである。ソフトテニスはなぜか乱打という。)
正直肘が心配だった。素振りするには問題ないが、球を打つとあの時の痛みがよみがえりそうで恐かった。また、驚いたのはラケットの進化なのか中学生女子なのに球がすごく速かった。心の中で「俺より上手いじゃん。指導するの無理だよ。」って思っていた。子どもから球が放たれ、久々にボールを打った。スパーンッとしっかりラケットを振り抜いてみた。肘が大丈夫になっているっぽい。治ってたみたいだ。それより久々に打ったボールの重さにびっくりした。ソフトテニスをやったことない人はあんな軽いゴムボールが重いわけないだろと思うかもしれない。経験者なら分かると思う。現役の時はテスト週間挟んだりしばらくボールを打ってないと打感が重くなる。
子どもとしばらく乱打をしているうちに昔の感覚を徐々に思い出していった。ソフトテニスが楽しかった感覚も蘇ってきた。意外と子どもたちと普通に乱打できているのにもびっくりした。私は運動神経がよいわけでなく、練習量と頭を使ったプレーで何とか勝ってきた人間だったので、久しぶりなのに結構上手に打てている自分に感動した。やっぱ9年間の努力は実っていたんだなと感じた。レギュラー全員の相手をさせられ、運動不足だったせいで足がつってしまって動けなくなってしまった。子どもたちの前で情けない。
練習が終わったから帰ろうとしたところ、「かえるくん、昼飯行こうか。」と顧問の先生に誘われた。とりあえずお昼ご飯に同行したが様子がおかしい。顧問の先生が午後の練習メニューの話をしている。心の中で「あれ?土曜日の午前中だけの契約じゃなかったけ?」と、思ってはいたが口には出せず午後からの練習にも参加した。ちなみにこの女テニは、休みというものがない。平日練習は、朝練は毎日、午後練は火・水・金、学校で部活禁止の月・木はナイター練習、休日は1日練習や対外試合、大会、県外遠征である。私はいつの間にか契約とは違う方向にズブズブ沼っていくはめになった。
続く。。。