珍しく平日午後にサントリーホールでクラシック演奏会を聴いてきたのでありますよ。あたかもTV番組の公開収録のような感じでしたなあ。ナビゲーターとして俳優の高橋克典がマイクを握って登場…となると、以前Eテレで放送されていた『ららら♪クラシック』を思い出すのも、無理からぬことではなかろうかと。

 

 

でもって、この演奏会には「にじクラ」なる愛称も付いておりましてね。要するに平日の午後2時に始まることから「にじクラ」でしょうけれど、この愛称もまたNHK-FMでかつて放送されていたラジオ番組『気ままにクラシック』(略して「きらクラ」)を思い起こさせたりも。本来的には、サントリーホールと日フィルによるシリーズ企画のようですので、ことさらNHKとは関係のないところながら、取り分け今回のプログラムでは「大河ドラマ」のメインタイトルが数曲取り上げられるという。これに加えて映画音楽からも少々…ということで、そのあたりに釣られて出かけたのですけれどね。

 

本編(?)開始前にオルガン独奏のプレ・コンサートがありましたですが、ここからでしてすでに映画音楽の世界でしたなあ。リヒャルト・シュトラウス『ツァラトゥストラはかく語りき』の冒頭は言うまでもなく映画『2001年宇宙の旅』で、マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲は『ゴッドファーザーPARTⅢ』で使われた曲なわけで。映画ではかようにクラシック音楽が随所に使われますですが、最後には映画オリジナルの『スターウォーズ』メインタイトルが。ここまで鳴らす!てな具合のパイプオルガンの響きで迫るその間にゆったりとしたメロディが挟み込まれた3曲を聴いているうち、全編オルガンによるスクリーンミュージックのコンサートなんつうのもいいだろうねえと思ったりしたものです。

 

と、ここまではプレ・コンサートですけれど、この映画音楽集を序章とみれば、間に純然たるクラシカルなモーツァルトの「トルコ風」コンチェルトを挟んで、最終章が「怠惰ドラマ&映像作品セレクション」と。映画の方は『ニューシネマパラダイス』と『シンドラーのリスト』で、これはまあ、何かと耳にするところではあろうかと思いますが、一方で大河ドラマのオープニングの方が演奏される機会は余り無いですよねえ。

 

しばらく前、大河ドラマ『麒麟がくる』のテーマに聴く重厚な合唱に「おお!」と思ったことがありましたけれど、その曲が生音で聴ける機会が早々巡ってくるとも思われず(惜しむらくは合唱無しバージョンでしてですが)。他には『八重の桜』、『篤姫』、『軍師官兵衛』といったあたり。古いところでは『花神』、それにアンコールで『国盗り物語』が演奏されたですが、このあたり、お隣に座っていたおじいさんにはツボであったのか、思わず体が揺れ出し、ノリノリで聴いておったごようす(よもや病気の発作ではなかったと思いますが…)。

 

長く放送されているドラマ・シリーズだけに、何の曲に思い入れがあるかは人それぞれとは思いますが、聴きかえすにつけ、何も懐かしさが募るばかりの音楽作品でもなかろうにと。つまり、作曲家にとってはこれも立派な作品であって、ドラマが終ればそれで埋もれて構わないことを想定して書いたものでもなかろうにと思ったのですよね。

 

古いところではクラシック音楽の範疇にも劇付随音楽(例えばメンデルスゾーンの『夏の夜の夢』とか)があって、今でも演奏会でちょこちょこ取り上げられる。映画音楽の方では、往年の名画の音楽(例えばですが、『風と共に去りぬ』とか)はやはりどこかしらで時折耳にもする。アメリカやイタリア、フランスなどには映画音楽で名を成した作曲家というも、たくさんおりますですね。それに比べると、日本は映画や劇伴の音楽、そしてその作り手はいささか軽く見られていたのかもしれませんですなあ。

 

もちろん、ちょいと前に国立映画アーカイブの企画展『日本映画と音楽』で見たように、気鋭の作曲家たちが映画音楽の世界で活躍していたことがあったりしたわけですが、それらの作品もおよそ埋もれ気味なわけで。このあたり、作曲家ごとの作品アンソロジー(大河ドラマ集もまた)がCDになっていたりするも、多分に資料的価値でもって製作されているようでもあるような。

 

特別企画ものとしてオーケストラによるポップス・コンサートとかファミリーコンサートとかいうものが稀に開催されますが、幅広い音楽世界への入り口として、もちろんロッシーニの『ウィリアム・テル』やオッフェンバックの『天国と地獄』もいいですが、日本の映画やテレビドラマの音楽を掘り起こすのもありだよなあと思ったりしたものでありますよ。当日の演奏会で指揮をした広上淳一は「大河ドラマ全作品(の音楽)を3日くらいかけてやりたい」てなことをトークで言ってましたが、きっと需要が無いではないでしょうなあ。ただ、大河ドラマの曲ばかり集めた企画では、音楽人口の間口を広げるというより、オールドファンの満足にしかつながらないかもしれませんが…。