しばらく前に見た映画「ストックホルム・ケース」では、

銀行に押し入ったまま立て籠ることになってしまった犯人から

逃走用の車を手配せよとの要求が出されるのですけれど、その車がなんとムスタング。

 

今ではマスタングと呼ばれる方が多くなっているようですけれど、

ともあれ犯人の要求を聞かされた警察側では「ブリットの、か?」と尋ね返すと

嬉々として?「そうだ」と犯人が応えるのですなあ。

 

それにしても、逃走用となれば、紛れ込みやすみようにどこにでもありそうな車種を指定しそうものですが、

こんな目立つ車を望んでしまうところもまた、この犯人が憎めない?ところだったりするのかもしれません。

 

それはともかくここでの「ブリット」ですけれど、ご存知の方は当然すぐにピンと来るところでしょうけれど、

スティーブ・マックィーン主演の映画「ブリット」のことですな。主人公ブリットがムスタングを駆って展開する

カーチェイスで知られた映画でもあるわけで。

 

1968年の作品で、「ストックホルム・ケース」として映画化された実際の事件が1973年となれば、

まだ多くの人の記憶に新しいところだったのかもしれません…とまあ、そういうことで、

昔むかしに見たはずながら、カーチェイスのシーンも含め、まるで記憶にない「ブリット」を

ひっさしぶりに見てみたという次第です。

 

 

スティーブ・マックイーンといって思い出すのは1960年の「荒野の七人」、

そして1963年の「大脱走」だと思っている口なのですけれど、前者は西部劇、後者は戦争アクション、

それらが何とも板についていただけに、現代を背景とする作品にはどうも馴染めず…。

 

ちょうど「ブリット」と同年作の「華麗なる賭け」あたり以降は現代劇となるわけですが、

その後の作品には「タワーリング・インフェルノ」という超大作もあるものの、

「パピヨン」の方がより印象に残っているような。

 

ともあれ、1960年代から70年代にかけて大スターであったマックイーン、

自らレースカー・ドライバーでもあるだけに、本作でのカーチェイスはかなり評判を呼んだものと思うものの、

いざ見始めて早々、気に留めたのはむしろ音楽でありまして、「ラロ・シフリンだな」と思えば案の定。

そのジャジーな、乾いた空気感は時代の雰囲気でもありましょうか。

 

と、ジャジーな、乾いた空気感と言えば先日も触れたデイヴ・ブルーベックの「テイク・ファイブ」を思い出しますが、

ラロ・シフリンの最も知られた作品となれば「スパイ大作戦」、即ち「ミッション・インポッシブル」のテーマ曲で、

この2曲いずれもが4分の5拍子であるというのは奇遇なのであるのかどうか。

 

いささかジャジーな印象からは離れますけれど、シフリンのもうひとつの代表作となれば、

「燃えよドラゴン」ではなかろうかと。これ、流行りましたものねえ。

 

余談になりますが、しばらく前にNHK「日本人のおなまえ」という番組で

映画のタイトルのことが取り上げられた際に紹介されていたのではなかったかと思うのですが、

「Enter the dragon」というの英語タイトルの作品にどういう邦題を付けるか検討された際、

ワーナーの宣伝部の方が書店で司馬遼太郎の「燃えよ剣」を見かけ、

「!」と思ったところから付いたとされておりましたなあ。

 

番組での紹介はそこまでですが、「燃えよ剣」⇒「燃えよドラゴン」⇒「燃えよドラゴンズ」と、

中日の応援歌にまでネーミングの連鎖は続いたようで…とは、余談の余談でした。

 

ともあれ、そんなラロ・シフリンの作品、ほかにはどんな?と思ったときに

近隣の図書館から1枚のCDを借りてきたときに、ジャケットを見て「?」と。
どうみたってヒッチコックですものね。

 

 

このCDはラロ・シフリン指揮、サンディエゴ・シンフォニー・ポップスの演奏で、

前半(昔のLPで言えばA面)がヒッチコック映画の音楽集、後半(要するにB面)が

シフリンの自作映画音楽集という構成であったのですが、カバーからは全編ヒッチコックかとも。

 

ともあれ、B面でいえば「ブリット」はもとより、「ダーティーハリー」や「スパイ大作戦」が入っていて、

大いに時代の空気、それこそ60~70年代の空気を感じるわけですが、翻ってA面の方もまた、

それより古いモノクロ映画とのマッチ感(ヒッチコックにはカラー作品もありますけれど)が

濃厚に漂う音楽に溢れておりましたですよ。

つくづく映画音楽は時代感に寄り添うものであるなあと思ったものなのでありました。