今回は、スタニスラフスキー・システムがアメリカに渡り、そこからアメリカの演技講師サンフォード・マイズナーの手によって発展を遂げた「マイズナー・テクニック」についてお話しします。
マイズナーは、60年間の演技指導の中で、37人ものオスカー・ノミネート俳優を育てました。
僕は、30歳のころにこの方法に出会い、スタニスラフスキー・システムとともに学んできました。
当時はまだ、日本でマイズナーを扱っているスタジオはそれほど多くなかったように思うのですが、近年では非常にたくさんの場所で指導されていますね。
特に、基礎訓練となる "レペテーション" は、専門学校や養成所でも取り入れるところが増えています。
この「マイズナー・テクニック」とは、一体どんなものなのでしょう……?
▲サンフォード・マイズナーさん。(1905-1997)
メソッドの位置づけ
サンフォード・マイズナーは、リー・ストラスバーグやステラ・アドラーらと共に、1931年に「グループ・シアター」を創設。
スタニスラフスキー・システムを導入し、1941年までブロードウェイで作品を上演していました。
しかしやがて、リー・ストラスバーグとは袂を分つことになります。
スタニスラフスキー・システム初期の「感情の記憶」(俳優自身による実際の過去の経験を使って、役に必要な感情を手にする方法)を強調したストラスバーグの "メソッド演技法" に対し、マイズナーは想像力を使うことを主張したからです。
同じ "システム" を受け継いだ方法でありながら、ストラスバーグは俳優自身の過去の体験を、マイズナーは想像力を使う手法を推し進めたんですね。
なお、源流であるスタニスラフスキー自身も、その後期には「感情の記憶」の手法は使わなくなっています。
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世界標準となる「1つ」の土台と、そこから発展した素晴らしき演技メソッドたち。
▲「感情の記憶」は、自身の経験は時が経つとその力を失ったり、そこから得られる感情は変質すること、また精神に負担をかけるといった理由から、スタニスラフスキー後期やマイズナー・テクニックでは放棄されました。
基礎となる "4つの技術"
マイズナーは子供の頃、ピアノを学んでいました。
彼が演技講師になった時、「演技もピアノと同じように学ぶべきだ」と考えたそうです。
ピアニストは、いきなりベートーヴェンやモーツァルトの楽譜を弾くことはしません。
きちんと鍵盤を押さえるという、とても地道な基礎訓練を経て、簡単な楽譜を繰り返し練習し、そしてやがて、有名な楽曲に挑戦できるようになる……。
こうしたことから、彼は「すべての俳優への基礎」のスキルが必要であり、俳優もそうした基礎・基盤から順番に学ぶべきであると考えたのです。
そして、そこには「4つの技術」が必要であることを見つけました。
それが、マイズナー・テクニックの柱となっています。
なお、マイズナーは、よく俳優自身を「楽器」と表現します。
その根底には、こうした考え方、ピアノを学んでいた時の体験が影響しているのかもしれません。
1:行動のリアリティー
たとえば。
今、目をつぶって、周りの音に耳を傾けてみてください。
エアコンの音や、外を走る車の音などが聞こえると思います。
その俳優に対し、マイズナーはこんな質問をぶつけます。
「今、音を聞いたのは、役か、それとも自分自身か?」
現時点では何の役も割り振られていないので、「役?」という質問には答えようがないかもしれませんが。
少なくとも、あなた自身が音を聞いたことには間違いないでしょう。
今と同じように。
役を演じる時にも、やっているフリではなく、あなた(俳優)自身がそれを "本当に" やらなくてはいけない。
これが、行動のリアリティーです。
あなたは、役を演じている時でも、あなた自身が「本当に」行動しなくてはいけない。
やるべきことに対し、本当に集中していなくてはいけない。
そしてそれは、余計なものを「何も加えていない」状態でなくてはならないのです。
2:相手に注意を向ける
マイズナーのトレーニングは、基本的に、相手役との "関わり合い" によって行われます。
相手は常に変化し続けており、その相手に注意を向けることで、私自身も刻一刻と変化させられます。
相手にずっとフォーカスし続けることによって、心がオープンになり、信じやすくなる。
常に互いの間で何かが満たされ、衝動が起き、思わぬドラマを即興的に生み出し続けることができるからです。
「演技のチャンスは、常に相手の中にある。」
僕も、当時学んでいたコーチから口癖のようにこの言葉を聞いていました。
良い演技とは、自分で作り出そうとするものではありません。
常に「相手」からやってくるものなのです。
3:Point of View
自分自身の視点……つまり、俳優自身が本当に思い、感じていること。
先述した "行動のリアリティー" から一貫して、マイズナーは「"自分自身が本当に" 行動し、感じること」を大事にしていますね。
今、この瞬間に、俳優は「自分自身の視点で」何を感じ、思うのか。
役を演じるにあたって、俳優は、想像の世界に身を置かねばなりません。
しかしそれは、単なる虚構であってはなりません。
その想像は、果たして「俳優自身を本当に」かき立てているのか。
俳優自身は、五感で、その感覚を本当に手に入れているのか?
自分にとって、意味のある、明確な、自分自身をかき立てる想像をすることが必要なのです。
4:感情の準備(Emotional Preparation)
「カラッポのまま舞台に出るな」
マイズナーは、何も持たずに演技を始めることを禁じました。
なぜなら、その役は必ず「どこかからやって来ている」はずだから、何もないなんてことはないんですね。
必ず、何らかの感情を舞台上に持ち込んでいるはずです。
これを準備し、感情的に生き生きとした状態で演技を始めなさい、というのが、感情の準備です。
しかし、彼は同時に、感情の準備をしたものはシーンの最初の瞬間しか続かず、その後は何が起こるか分からないとも言っています。
舞台袖で感情レベルになっていても、舞台に出た瞬間に「あれっ? せっかく作った感情が一瞬で消えちゃった……」という感覚、ある程度の演技経験がある方なら必ず知っているはずです。
空っぽの状態ではなく、準備をする。
しかしその "感情の準備" は、あくまでもシーンを始めるためだけに用い、舞台上に出たらそれを手放して、相手役に注意を向ける。
舞台上では、相手役が私を変化させ、常に満たしてくれる存在になるのだから。
これが、マイズナー・テクニックが最も重視する、基本的な考え方となっています。
※今回の記事は、以下の内容を参考にしています。
▶︎「サンフォード・マイズナー・オン・アクティング」(而立書房)
▶︎ACG研修会:SCOTT TROST氏(マイズナーテクニック研究所学長)によるレクチャーより
まとめ
……いかがでしたでしょうか?
マイズナー・テクニックは、非常に本能的な反応を大事にしているので、実際にこうして文章でまとめてみようとすると、やっぱり何だか抽象的で分かりづらいですね……(汗)
しかし、だからこそ。
この手法が身体と感覚で分かってくると、想像を遥かに超えた自由と面白さ、感動が手に入ります。
このテクニックの基礎訓練メニューと言えば、真っ先に "レペテーション"(repetition=繰り返し)を思い起こすと思います。
また、そこに "アクティビティ"(an Independent Activity=一人でやる作業)などを加え、徐々に複雑なトレーニングへと進みます。
こうしたトレーニングについても、また機会があれば書いてみようと思いますが、やはり文章ではなかなか伝えられないものです……。
そんなわけで。
僕の3ヶ月ワークショップでは、来る10月から、マイズナー・テクニックをお伝えする「レペクラス」が開講となります。
ぜひぜひ、スタジオで実際に学んでみてくださいね!!
(※「レペテーションだけ」をやるクラスではありません! マイズナー・テクニックを総合的にお伝えする内容です。また、レペクラスは「ベーシック クラス」を1期以上受講されている方のみが参加できます。)
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