先日、1日目「基礎講座」のライブ講義が終了し、今週末に2日目「実践編」を控えている「台本読解塾 vol.6」。
本当にたくさんの方から、お申し込みをいただいております。
ありがとうございます!!
基礎講座、実践編ともに、アーカイブのみの視聴も可能ですので、受講受付は引き続き行っております。
これからでも遅くはありませんので、この機会にぜひ、読解を基礎から学んでくださいね!!
また、受講される皆さんには、僕が作成した「台本読解ガイドブック」を差し上げています。
スタニスラフスキー・システムに基づいた読解・分析の方法論を、分かりやすく解説しています📖
僕自身の現場経験からまとめていますので、決して "堅苦しい、古くさい理論" や "机上の空論" ではなく、実践的に「使える」法則をまとめた一冊になっています!!
さて、今回は。
そんな「台本読解」から、実際に演じる「リハーサル」という、俳優の "役作り" のプロセスについてのお話です。
俳優は、刑事とソックリ!!
俳優は、真犯人を追いかける刑事とソックリです。
つまり、刑事にとっての「犯人」が、俳優の演じる「役」。
俳優は刑事となって、その役=犯人が「どんな人物像で、何を感じていたのか?」を推理していくことで、犯人をプロファイリングしていく作業。
そう考えると、本当に俳優と刑事はソックリな仕事だと思います。
……台本とは、役が生きた「足跡」を収録したものです。
役が何を語り(=セリフ)、どんな状況下で、どんな行動をしたのか(=ト書き)が書かれています。
これ。
ト書きを「過去形」に置き換えると分かりやすいです。
<ト書き=現在形>
「都内、雑居ビルの一室。
太郎が部屋に入ってくる。
部屋の中にいる花子と目が合う。
太郎、少し微笑み、ゆっくりと近づく。
突然、テーブルに置いてあったガラス製の灰皿を取り、花子を……」
<過去形>
「都内、雑居ビルの一室。
太郎が部屋に入った。
部屋の中にいる花子と目が合った。
太郎、少し微笑み、ゆっくりと近づいた。
突然、テーブルに置いてあったガラス製の灰皿を取り、花子を……」
ト書きをこのように書き換えると、台本に書かれていることが「役が辿った行動の足跡」を収録したものであることが分かりますね。
それはまるで、ある事件における「犯人の行動」の経緯を辿っているかのようです。
つまり、一冊の「台本」とは。
このように、主人公が経験した物語=事件の「経緯」を詳しく描いた "報告書" であるとも言えますね。
▲昔の刑事ドラマでは定番の凶器「ガラスの灰皿」。若い方には、あまり馴染みがないかもしれないですが……。
さて。
刑事にとって、犯人を追いかける手がかりは「証拠」です。
現場に残された遺留品や、目撃者の証言、状況証拠。
そうした情報から、犯人はどんな人物なのか、犯行の目的や動機、犯人がこの時何を考えていたのか(計画的なものか、衝動的なものか)などを推理します。
それと同じく、俳優は、台本に書かれた役の足跡(セリフや、ト書きに書かれた行動)を「証拠」として、役の人物像を特定します。
俳優は、そうした情報を手がかりに、役の人物像や心の動きを特定していくのです。
こうやって考えると、本当に、俳優と刑事はソックリだと思いませんか??
▲こうした写真。刑事ドラマで必ず見かけるようなものですけれど、もしこれが「役の関係や物語の展開を整理するために、稽古場に設置されたボード」だと言われても全く違和感ないですよね。やっぱり、刑事と俳優はソックリな仕事だと思います……。
冤罪(えんざい)事件、発生!?
俳優を刑事にたとえると、台本読解や役作りにおいて、非常に重要なことが見えてきます。
それは、「役が置かれた状況」と「台本上で起こる出来事」を正しく、漏れなく把握することです。
実は、ここでつまずいてしまう俳優の方が、かなり多いんですね。
「早く役を作って演技をしよう」と急ぐあまり、ト書きやセリフの中に書かれている状況をきちんとピックアップできていないまま、「役がどんな気持ちだったのか」「役の人生はどんなだったのか」などをあれこれ強引に想像してしまうというケースです。
これ、刑事だったらどうでしょう?
状況証拠はいろいろ残されているのに、「早く犯人を捕まえよう」と急ぐあまり、それらの証拠をちゃんとピックアップできていないという状態です。
それでいて、「犯人はどんな人物で、何を考えていたのか」などの想像を広げてしまう。
すると、どうなるでしょう??
刑事は本当の犯人像にたどり着けないどころか、悪くすればまったく別の人を捕まえてしまうかもしれません。
それ、完全に「冤罪(えんざい)」です💦
台本から正しく状況を掴んでいない、起こっている出来事を正しく把握できていないということは、俳優が「違う人物を作り、演じてしまう」ことになる。
これはまるで、俳優による「冤罪事件」と言っても過言ではありません……!!
台本読解の手法を学ぶというのは、この「冤罪事件」の発生を食い止め、犯人=役を正しく捕まえるために必要なことなのです。
リハーサル
では。
現場に残された証拠や、知人や目撃者の証言を集めた後、刑事は何をするでしょう?
刑事ドラマでよく見るのは、犯人が実際に辿った足取りを「実際に追いかけてみる」という場面です。
特急に乗って、犯人が働いていた漁港に行ってみたり、そこからまた電車に乗って、犯行の前日に犯人が宿泊した旅館に向かったり。
あるいは、事件当日の現場の状況を再現し、刑事が犯人役となって実際に「演じてみる」ことで、真実を掴もうとする。
そんなふうに、これまで客観的に見てきた犯人の証拠や足取りを、今度は「自分の視点」から捉えようとしますよね。
こうやって、実際にその場所に立って「犯人が実際に見ていた景色」を見て、体験した時。
これまでの、会議室での調査では分からなかった「思いもよらなかった "何か"」に気づき、ついに真の犯人像を掴んだり、犯行の本当の目的や、犯人が抱えていた葛藤、何を思っていたかというココロの中を知ることになる……。
こういうことって、きっと一度は刑事ドラマで見かけたことがあるでしょう。
俳優にとって、スタジオでの「リハーサル」とは、まさしくコレに相当すると思います。
つまり、証拠・証言を集めて会議室で議論する「客観的」な検証から、いよいよ俳優(刑事)が役(犯人)の視点に立っての「主観・現在形」の検証のプロセスに移行するのです。
そうすることで、これまで見えてこなかった犯人像やそのココロの在り方が実感として掴めるわけですね。
▲実際にその場所に立ってみて、初めて分かる真実がある……!!
絶対に注意したいポイント
さてさて。
刑事でたとえてみると……。
証拠や証言による「客観的」な捜査の段階で、犯行現場の様子がとても乱れていたり、被害者が「とても優しくていい人」という周囲からの証言があった場合、すぐに犯人を「凶悪な人物」と思い込んで、やがては犯人に対して「憎らしい」という感情を抱くようになる。
その結果、「凶悪で憎らしい人物」ばかりを容疑者としてマークしてしまう。
ところが。
本当の犯人は、普段はとても穏やかで大人しい若者だったら、どうでしょう??
刑事は自分自身の中にある「思い込み」のせいで、その若者には目もくれず、真犯人を捕まえ損ねてしまいます。
▲刑事の「思い込み」による犯人像。
▲真犯人。
俳優の場合。
台本を読んだ時のイメージに縛られて、「この役は『凶暴な男』だ」と思い込んだり。
シーンに書かれたイメージで、「役はきっと怒り狂っているに違いない」と感情を決めつけて。
その結果、そこで演じるべき「本当の役の姿」や「感情」、正しい「シーンの展開」を掴み損ねてしまう。
これは本当に多く見受けられるケースです。
特に「感情」と「キャラクター」の決めつけは、危険なワナになります。
「この役は、このシーンで『怒っている』だろう」
「この役は、『怒りっぽい』キャラクターだ」
すると、リハーサルで「怒る」という感情表現にフォーカスしてしまい、一生懸命「怒る」という演技をしようとします。
その結果、自分の演技や感情のことばかりに注意が向いてしまうため、その時の周りの状況や、今起こっていることへの注意が散漫になり、本来やるべきの「主観的な検証」に集中できなくなる。
刑事が、犯人がいた漁港やホテルで「ハッ!!」と気づくような、現場での新しい発見ができなくなってしまうんですね。
この、リハーサルになった途端に「感情」や「キャラクター」の表現に終始してしまうという現象。
それは、「リハーサルとは何か?」という役割をきちんと把握していないが故に起こってしまうことなのかもしれません。
俳優にとって、リハーサルの本当の目的は、役という犯人をもっと理解するための「主観・現在形による検証」と、それによる「新たなる発見」です。
ところが、それを忘れて(あるいは、それを知らずに)、本番用の「ケッカ」(完成された感情や振舞い)ばかりを追い求めてしまう。
あるいは、自分が作った役や、そこで沸き起こるであろう感情を「演出家にわかってもらう」ことに力を注ごうとするケースもあります。
最悪の場合。
演出家やプロデューサー、共演者たちに「私は『マジメで良い俳優』である」ということを、一生懸命 "見せびらかす" のが目的になっていることだってあり得ます……。
それでは、新しい「役の発見」どころじゃなくなってしまいますよね。
ただ。
俳優という職業柄、そんな気持ちになりたくなるのも、よぉ〜く分かります。
実際、僕もかつて、そういう気持ちに支配されていた時期が長いことありました……。
でもそうすると、俳優の仕事の軸が完全にブレてしまうんですよね(汗)
そんな僕を救ってくれたのが、演技法の習得だったんです。
演技法の習得は、「俳優がやるべきこと」を明確にしてくれて。
それ以降、迷うことなく、自分の演技に真摯に向き合えるようになったのです。
誤った方向に気持ちが向いてしまっている限り、本当の役に近づくことは困難になり、俳優としての成長も止まってしまいます。
しっかりとリハーサルの目的を把握し、地に足のついた「俳優の仕事」をしていきましょう!!
まとめ
台本読解からリハーサルというプロセスは、俳優にとって「役という "真犯人" を見つけていく」作業だと言えます。
それは、思わぬ人物像を結ぶかもしれません。
はじめに台本を読んだ時の「第一印象」とはまったく違う、意外な心の内が見えてくるかもしれません。
俳優は、こうして「役=犯人」の本当の姿を探り当て、最後には「本番」というステージで、犯人が経験した事件を追体験するのです。
役を理解し、表現する俳優は、刑事のような責任が伴っていると言えます。
犯人像を正しく見つけ出せなければ、誤った人物を捕まえて舞台上に引きずり出してしまうことになり。
語るべき事件は、その誤った人物によって、誤った形で表現されてしまいます。
正しい人物像で、正しく表現するために、台本を読解・分析するスキルは必須です。
現在、「台本読解塾 vol.6」では、その基本的な方法をお伝えしています。
先日実施した「基礎講座」も、アーカイブで受講することができますので、ぜひ学んでみてください👇
また、スタジオでの3ヶ月ワークショップでは、"ベーシック・クラス" で「表現する心と身体のトレーニング」を実施しています。
これは、今回の記事で言えば、リハーサルでの「主観・現在形の検証」のために必要なスキルを磨いていく訓練です。
そして、その先の "会話クラス" ではいよいよ、台本からシーンを立ち上げる作業に取り組みます。
ベーシック・クラスで習得したスキルを活かし、役の人物像を「主観・現在形の検証」で特定、役の人生を追体験するまでの実践的な内容です!!
来期(7月〜9月期)の受講生募集は【6月中旬頃】を予定していますので、もう少しお待ちくださいね👇
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