昨年10月〜12月、全10回にわたって実施した「声優のためのオンライン演技研究所」のご報告と、今後の告知です。
まず。
僕はこれまでに、ナレーションや吹替など、マイク前でのお仕事はいくつかやらせていただきましたが、「声優」の訓練を受けてきたわけでもありませんし、その十分な実力も実績もありませんから、その肩書きを名乗ることもしていません。
一方で、2020年からは声優の学校や事務所の養成所での演技講師のお仕事を担当し、多くの「これからの声優さんたち」の演技を見てきたり、プロの声優さんのお話を聞く機会を得てきました。
その中で、僕は "アクティング・コーチ" という立場から、声優の方々(プロ、アマ問わず)が抱える「演技に対する悩み」や「演技を学ぶ上での問題」が、かなり見えてきた気がしています。
そこには、声優の皆さんが演じる時に陥りがちな一般的な問題だけでなく、声優の演技教育における問題、現場での問題、演技の際に声優の方々が感じるジレンマや思い込みといった問題などが絡み合っています。
とにかく、声優さんの "演技" に関するさまざまな問題点が、とてもクリアに見えてきています。
なぜなら僕は、声優のプロではありませんが……
演技のプロ、演技を見抜くプロ、教えるプロですから。
だから、プロの声優の皆さんのように、素晴らしい声の表現をすることは、僕にはできません。
しかし、演技についての問題点を見抜くこと、それを解決していくことにかけては、任せてくださいっ!!
そんなわけで、声優ではない僕ですが、この現状を見て「なんとかしなくては!!」と、居ても立ってもいられず。
それじゃ、と、あくまでも「演技(アクティング)の部分」に特化した声優向けのクラスを実施することにしたのが、昨年後半の「声優のためのオンライン演技研究所」だったわけです。
このクラスには、これから声優として羽ばたこうとしている方から、現在ご活躍中のプロの声優さんまで、なんと30名の方が受講してくださいました。(アーカイブのみの方も含む)
本当に、ありがとうございました!!
ご感想、ありがとうございます!
まず、こちら。
受講生の方々からは、毎回の「ふり返りシート」に、本当にたくさんのご感想をいただきました。
その中から、全10回の終盤でいただいたものをいくつかご紹介します。
「もっと◯◯できる声優いないの?」…現場のリアルな声とは
声優の専門学校や事務所の養成所では、ほとんど必ず「演技」のクラスがあります。
それは、声優もまた「actor(俳優)」の一つであり、"演技力" がその土台を成しているから。
その事実を、学校や事務所側も知っているからにほかなりません。
僕が講師を担当している某・大手の声優専門学校では、そちらのスタッフから、こんな話を聞いたことがあります。
「在学生にオーディションを受けさせたら、その制作サイドの方から『もっと会話できる声優いないの?』と苦言を言われてしまった。
やはり、声優に求められているのは ”演技力" だということを痛感した。」
学校のスタッフの方が最前線の現場で聞いた、ナマでリアルな声……声優に求められるのは、演技力。
これ以上の裏付けはありませんし、それが現実。
「だからこそ、学校では演技の授業を大事にしたい」と、その方はおっしゃっていました。
……しかし。
その「演技クラス」で学べることは、実際のところ、演技についての「ほんの一部分」でしかありません。
でも、それは仕方ないんですね。
学校や養成所では、卒業や事務所所属のオーディションまでの期間が決められています。
それは、演技の本質を学ぶにはあまりにも短く、さらに、ほかにも習得しなくてはいけない科目が目白押しです。
発声・滑舌の練習、マイク前での実習、オーディションでの自己PRの授業……あるいは歌、ダンスといった授業がある場合もあります。
その結果、演技はどうしても、その一部分しか教えられないのです。
これでは、演技についての誤解や混乱が生まれても無理のないことですし、最悪の場合「演技はこんなもんでいい」と勘違いしてしまうんですよね……。
そうした現実を理解しているプロの声優さんの中には、事務所に所属して現場に出るようになっても、一般の演技ワークショップ等で演技を学び続けていらっしゃる方もいらっしゃいます。
▲その大手声優学校では「声優になるために、まず俳優を育てる」ということが指導方針として掲げられています。
演技者にとって、本当に大切なもの
でも、実際のところ。
そうやって演技を学び続けている方、深め続けている方はどのくらいの割合でしょうか……?
(ワークショップに通うことに限らず、ご自身での研究や情報収集なども含め)
学校や養成所で学んだ演技はまだまだ "序の口" だというのは、志の高い皆さんなら誰よりもよく分かっているはずです。
その学びの期間中、そのことに気づき、「よしっ、事務所に所属したら、もっと学んでやるぞ!!」と多くの方が意気込んでいたはずです。
しかし、現実はどうでしょう?
もちろん、事務所所属が決まってから、その後も演技を学び続けようとされた方もたくさんいらっしゃるかもしれません。
けれど、そこから現場の仕事が決まったり、いろいろ活動をして忙しくなっていく中で、どれだけの方がそれを続けられましたか?
ひょっとして、演技を「学ぶ」ということの優先順位が、だんだん低くなってきてはいませんか?
あるいは。
現場に出てみて、そこでのやることの多さを知ったり、ディレクターからの指示を受けていく中で、自分が思っていた「演技」との乖離が生まれてしまう。
その結果「演技を学んでも現場で使えない……」と、早々に判断してしまっていませんか?
でも、それはあまりにも早急で、自分に都合の良い判断ではないですか?
そこまで演技を知り尽くし、学び尽くし、その本質に迫った中で、そう判断したのでしょうか?
もしそうでないとしたら、それはとても浅はかで勿体ない考え方だと思います。
……そうした結論に陥ってしまった方々を、僕はこの数年で、繰り返し見てきました。
もちろん、それでも十分に演技を楽しめれば良いのですけれど、実際にはそのまま演技に迷い続け、悩み続けてしまっている方が本当にたくさんいらっしゃるんです。
どうして、演技者にとって、その中核であるはずの "演技" がこんなに甘く認識されてしまうのだろう??
それで本当にやりたかったはずの "演技" に迷い、苦しめられ続けてしまうなんて、おかしいじゃないか……??
"演技力" を勝負に生きてきた一人の「actor」として、それを教え伝えるコーチとして、この状況はあまりにも残念で、悔しいのです。
……確かに、「演技とは甘いものだ」と思わされてしまいがちな現実(日本の演技教育や現場のシステムの問題)があるのも確かですし、その結果、そうした考え方を持ってしまった人の気持ちも、痛いほどよく分かります。
けれど、その現実に甘んじていたら、この混乱は終わらない。
声優の方々の悩みは尽きず、何も改善されていかない。
意識を変え、行動を変えていかなくては、何も変わらないのです。
声優でなく、"演技" のプロフェッショナルとして
だからこそ、僕は昨年。
「僕は声優じゃないから……」なんていう自分の心の中の臆病な声に立ち向かう思いで、「声優のためのオンライン演技研究所」を実施することにしました。
自分は声優じゃなくても、"演技" のプロフェッショナルとして、また、教育現場側から声優の方々を見てきた経験から、必ず何か役に立てることがあると信じているからです。
正直、そこに踏み込むのは少し勇気のいることでしたが、受講生の方々からは先ほどご紹介したような素敵なご感想をたくさんお寄せいただき、本当に「やってよかった……!!」と感じています。
さて。
そんなわけで、2024年、「声優のためのオンライン演技研究所」第二弾を準備しています!!
前回はレクチャー(講義)的な内容も多かったですし、実技は基本的に台本を使ったシーンワークでした。
でも次回は、もっと演技の基本的なエクササイズに戻って、体感として「演技とは何か?」を知っていただこうと思っています!!
つまり。
オンラインという環境ではあるけれど、「actor」全般に必要な基礎からきっちり進めていこうという計画です。
もちろんそこから「声の演技、音声の演技」という文脈に沿ったものにしていきます。
また、声優の皆さんからは「俳優の人たちと一緒に学ぶのは怖い」などのお声も聞かれます。
どうしても、"俳優向けの演技ワークショップ" の戸を叩くのは勇気がいる気持ちは、すっごくよく分かります。
でも、「声優」というメンバーだけで集まって演技を学べたら、もっとラクな気持ちで取り組めると思うので、この「声優のためのクラス」という環境を大事にしたいと思っています。
「感じる」ことの大切さ。
「相手と交流し合う」ことの楽しさ。
「想像する」ことの自由さ。
「創造する」ことの豊かさ。
「技術力を習得する」ことの力強さ。
「演技ができる声優」の、音声表現の美しさ。
これが、僕が声優の皆さんと一緒に作りたい「演技クラス」のイメージ。
皆さんがそれに触れ、それを知り、心から演技を楽しめるようになってくださることが理想の未来です。
詳細は、追ってアップします!!
▶︎実施は2月〜3月、水曜日13時からを予定。
▶︎オンライン "Zoom" にて。全8〜10回予定。
▶︎エクササイズやシーンワークが中心なので、ライブがお勧めです。
▶︎アーカイブ予定あり。
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