先日、Twitter で、こんなことをつぶやいたところ。
多くの方々から、反響をいただきました👇
谷口浩久@演技向上アカウント@equestc
「役を生きる」というスタニスラフスキーの理論は、俳優の義務教育と考えて良い。 必ず通るべき道であると同時に、その先もあって。 そこには「役を生きるな。俳優は役をただ『演じれ』ばいい」という真逆の理論もある。 例えば、現在の日本の声優さんは、ここまで理解しないと結構キツいと思う…。
2023年05月05日 15:13
谷口浩久@演技向上アカウント@equestc
声優さんたちが、「役を生きる」ことだけに執着し、結果、「現場でそれをさせてくれない」と悩む声をたくさん聞いてきました。 挙句、プロの方たちが必死に、チャバックのメソッド演技の本を買って学ぼうとしていたり。 俳優自身のトラウマを生きるその方法だと、きっと方角が「逆」です!!
2023年05月05日 15:13
谷口浩久@演技向上アカウント@equestc
学ぼうとする姿勢は、もちろん素晴らしいですが。 誰かが、それぞれのニーズに合わせた方向づけや、俳優の仕事や演技のマッピングを提示してあげないと、その旅は目指す場所から外れていってしまいます。 僕も、そうした方向づけや、マッピングを示してあげられるようになりたいと思ってます。
2023年05月05日 15:13
谷口浩久@演技向上アカウント@equestc
ちなみに、どの方角に行くとしても、義務教育としてスタニスラフスキーは学んでおいてください。 新大陸を目指すのにも、船の構造やオールの漕ぎ方を知らなきゃ、どうにもならない。 スタニスラフスキーとは、演技における船…つまり、人間そのものを五感で知っていくという基本の学びですから。
2023年05月05日 15:13
このツイートの中で。
「スタニスラフスキー・システムは、俳優の義務教育」という言い方をしました。
これについて、いろいろ思われた方もいらっしゃるかもしれません。
一応、お伝えしておくと。
かく言う僕も、きちんとスタニスラフスキー・システムを学んだのは、30歳を過ぎてから。
10代から俳優活動を始め、20代後半でいよいよ商業演劇の仕事で忙しくさせていただくようになってから、さらに後のことです。
スタニスラフスキーを、現場に出る前の「義務教育」のように先立って学んでいたわけではないんですね。
だから、これを学んでいないからと言って、俳優の仕事が一切できないとは言いません。
しかし、僕の場合は、30歳を過ぎた頃に自分の演技が完全に行き詰まり。
実力の停滞から、現場の先輩俳優の方数名に「なぜお前はそんなに演技ができないんだ!?」と責められ、それはやがて、ハラスメントの被害にまで発展してしまいました。
そして、藁をも掴む思いで、ある演技のクラスの門を叩いたのです。
そこで教えてくれていたのが、スタニスラフスキー・システムだったんですね。
そこから必死に、演技の「学び直し」をした結果、本当に短期間で、自分自身が大きく変わっていくのを実感し。
実際に、周りからの評価も変わっていきました。
もっと早く、これを学んでいれば……。
そういう気持ちも無くはないですが、でも、きっとこれが僕の、運命的な「演劇人生」なんですよね。
むしろ、こうした挫折を味わったおかげで、いろんなことに気づけましたし。
今こうして、コーチの仕事をさせていただいているのも、それまでの苦しい経験があったからこそだと思っています。
そうした僕自身の経験からも、「スタニスラフスキー・システムは義務教育」ということをお伝えするに至っています。
……でも、ここで注意しておいていただきたいのは。
「義務教育」というのは、つまり、「まだまだその先がある」ということでもあります。
ご存知の通り、演劇には色々な種類があり、演劇論や演技メソッドも、多岐に渡ります。
当然のことではありますが、「スタニスラフスキーが唯一絶対の演技法だ」などという話をしているわけではない、ということは、ぜひご理解ください。
では、あらためて。
スタニスラフスキー・システムとは、何なのでしょう??
今回は、それにまつわる、いくつかのお話をしてみたいと思います。
ここからのお話は、非常に抽象的な表現が多かったりして、僕のいつもの記事よりも難しく感じると思います。
ぜひ、ご興味のある方は、頑張って読み進めてみてくださいね。
そして、もしかすると。
この記事を最後まで読んでいただけたら、この「システム」や「演劇」への考えが少しばかり変わる方もいらっしゃるかもしれません……。
まず、ちょっと乱暴ですが、こんなことをお伝えしてみたいと思います……。
……スタニスラフスキー・システムとは、実は、特定の「演技メソッド(演技法)」のことを指すものではありません。
まず、この部分で多くの誤解が生じている可能性があります。
確かに、この「システム」の中では、さまざまな技法が語られています。
が、それは、俳優一人一人の中に、それぞれの「独自のメソッド(方法)」を作り出してもらうための「手引き書」に過ぎないとも言えるのです。
……早速、ちょっと混乱されてしまった方もいらっしゃるかもしれませんね。
少し、詳しくお話ししていきます。
スタニスラフスキーは、「ただ一つの正しい道を主張する教条的教師」を嫌っていました。
そうではなく、彼は、「皆さん自身が、このシステムを元に『自分だけのメソッド(方法)』を探究しなさい」と言っていたのです。
だから、この理論を「スタニスラフスキー・メソッド」とは言わず、「システム」と名付けたのですね。
彼は、こうも言っています。
「家では『システム』を検討しなさい、でも舞台ではそれについては忘れなさい。
『システム』を演じることなどできません。
『システム』など存在しません。自然があるだけです。」
何らかの「メソッド(方法)」に縛りつけられることを、彼は嫌っていたのです。
そうではなく、演技とは、その方法そのものがもっと「自由で、創造的」でなくていけない。
そうした信念の中で、もっと「土台となるもの、本質的なもの、根源的なもの」を目指していたのです。
スタニスラフスキーを敬愛し、パリで実際に彼と面会してそのシステムを直接学んだ、アメリカの演技講師ステラ・アドラーは。
やはり同じように、彼女の著書の中で、
「私を通して、あなた方自身で見出すものが『メソッド』です。」
と、演技を学ぶ若者たちに対して言っています。
演技を教える講師でありながら、彼女が目指すところは、「私から独立して、あなたが、あなた自身のメソッドを手に入れること」だと、はっきり言っているのです。
こうした感覚は、「ただ一つの正しい正解」や、「何らかの後ろ盾や、ネームバリューによる承認」といったものを求める体質の人には、ちょっと理解し難いことかもしれません。
でも、自由で創造的な心を持っている人は、この話はとっても理解できることだと思いますし、むしろそうした考えの人ほど、ただの自己流ではなく、その土台にある「本質」を非常に重んじて、先人たちからきちんと学ぶことを怠らないものだと思います。
ここで、ちょっと面白い話があります。
スタニスラフスキー・システムを継承している、ある非常に著名なロシア人の演技講師が、スウェーデンの演出家兼演技教師に会った時、いきなりこんな質問をぶつけられたそうです。
「あなたは、いまだにスタニスラフスキーを基本として教えているのか?」
それに対し、このロシア人講師は、こう答えました。
「あなた方は、いまだにアイザック・ニュートンを基本として物理学を教えているのですか?」
……このエピソードは、すなわち。
「どんな理論や演技メソッドであるにせよ、俳優たちの行動についての客観的な法則を探すという話をするのであれば、その議論は必ず、人間の心理学、身体学の探究の旅になる。
そうした俳優たちの悩みに応えようとすれば、必ず、心理、身体にまつわる探究をしていたスタニスラフスキーと道が交差し。
その答えは一つでなかったとしても、すべて彼が検討したことに立ち戻ることになる。」
ということだと考えられるのです。
……いかがでしょうか??
このあたりまでお伝えしてくると、少し、スタニスラフスキー・システムというものの意味が分かってくるのではないでしょうか??
そして、僕が「義務教育」と表現したことの真意も、だいぶ読み取っていただけたかと思います。
ここまでの話に関連して。
イギリスの俳優養成について、こんな話も聞きました。
この演劇大国では、はっきりと、「スタニスラフスキーは中等教育までに修了する」と位置付けられているそうです。
ここで言う中等教育とは、日本で言う中学校。
つまり「義務教育」ということですね。
まず、ここまでの段階で、土台の部分を学び。
そこから先の俳優教育として、さらに先の(それ以外の)方法論も学んでいくということのようです。
ちなみに、イギリスの俳優教育がすごいのはここから。
彼らの「出口教育」、つまり日本で言うところの、就職を目前に控えた大学最後の年あたりは、「演技のプロとして何をするか?」を学ぶそうなのですが。
その授業内容は、ただ「舞台に出る」「映画のオーディションを受ける」なんてことだけじゃなく、「税金の扱い方」「助成金の申請の仕方」みたいなことまで学ぶそうです……!!
イギリスの俳優教育、恐るべし!!……と言いたいところですが、いえいえ、本来「プロ」になるということは、こうしたこともしっかり学んでおかないといけないですよね。
さらに、彼らの「プロとしての活動」とは、演劇や映画の、いわゆる「業界」だけにとどまらず、「応用演劇」(教育や福祉の現場など、他の分野において、俳優として学んできた演劇的手法を活用するという演劇の考え方や、その活動)にまで及びます。
いかに、演劇が、広く一般社会にまで浸透しているかがよく分かりますね。
こういうところの「演劇への考え方」が、日本とはまったく違うんです。
……ちょっと話が逸れてしまいましたが。
スタニスラフスキー・システムの「位置付け」というのが、少しお分かりいただけたでしょうか??
それは、俳優の演技の土台であり、その創作活動を底で支える「人間の心理学、身体学の探究」だと言えるのです。
そうしたところから、俳優のトレーニングということも語られているわけです。
それは、土台であり、本質の部分であるから。
その先で幾多にも枝分かれし、決して一つの正解に絞り込むことなど不可能な今日の演劇や、俳優の演技について語ろうとした時、必ず「システム」に交差し、そこに立ち戻ることになる。
こうしたことが、このシステムを「義務教育」という表現でお伝えした理由です。
僕個人で言えば。
スタニスラフスキー・システムを、ただ継承するということ「だけ」で生きていくつもりは全くありません。
それは、スタニスラフスキー自身も望んでおらず、このシステムの本質でもないと、僕は思っています。
僕の演技ワークショップ "EQ-LAB" は、2020年の末にコロナ禍でスタートし。
その一年後、受講生の一般募集が始まりました。
つまり、まだまだこの活動は年月の浅いものです。
だからこそ今は、スタニスラフスキーの「システム」を、とにかくしっかり理解し、それをお伝えしていくことが僕の仕事だと思っていますが。
"EQ-LAB" の活動は、ずっとそこだけをやり続けるという考えではなく。
受講生の皆さんとともに、義務教育から、もっと先の演劇へと一緒に進んでいくことを大きな目標としています。
(もちろん、これから新しく入られる方のためにも、その「義務教育」は今後も伝え続けていきます!!)
実際、クラスの中では。
スタニスラフスキー・システムがアメリカに渡って新たな発展を遂げたメソッド演技法等のお話を交えたり。
(マイズナー・テクニックに関しては、僕のクラスの重要な内容として扱っています)
戦後の「ブレヒト演劇」をはじめ、その他の演劇論や、映画やミュージカルの話、あるいはシェイクスピアの古典演劇などにも触れながら、できるだけ広い視野に立って「俳優」というものを理解していただけるように努めています。
これは同時に、そうしていくことで、スタニスラフスキー・システムの重要性にも改めて気づいていただけるだろう、という思いも込めてのことです。
それは、俳優の自由や創造性、あるいは人間というもの、演劇というもの、創造というものの「本質」を知ることでもあると考えているからです。
……今回の記事は、ちょっと難しいお話だったかもしれません。
また、特にスタニスラフスキーに詳しい方からすれば、だいぶ「乱暴な」解説部分もあったかもしれないこと、ご了承ください。
最後までお読みくださって、ありがとうございました。
皆さんの中で、何か少しでも発見があったなら幸いです。
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