2025年1月5日 午後3時10分
 

ソウル・論峴洞 観察ログ

対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。

経歴:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年。

 

 

「目撃」

 

 

10年前まで、この江南にはホストバーの男たちが多くいた。

YouTubeで見る日本のホストとは違い、当時の韓国では、

指名客のためにもっと良い部屋に移りたいとか、

追われている借金を清算したい、そんな話をよく口にしていた。

 

私の友人も、そうした事情に巻き込まれ、

ローンやカードの借金まで抱えて、家賃を肩代わりしていた。

 

今は、ほとんど見かけない。

江南の家賃が上がり、この辺りの空気も変わった。

借金を返せば終われる、という言葉も、もう繰り返されない。

代わりに、似た生活水準の会社員の男性たちがその場所を埋めている。

場所は、最近急に増えた趣味のサークルだ。

 

女性向けのセルフプレジャー用品をよく見かける。

コミュニティでは、その話題が繰り返され、

カフェの隣の席の女性のバッグの隙間に、

ふと見える光景も、もう珍しくない。

 

いつものように、塾の前のカフェで子どもを待っている。

まだ10分前で、気持ちはそれほど慌ただしくない。

コーヒーを飲みながら、窓の外を見る。

閑散とした道路を走る車、たまに通り過ぎる人。

すべてが、はっきりと目に入ってくる。

 

見慣れた車が、向かいに止まる。

キャメルコートを着た若い女性が車を降り、

そのまま目の前のカフェに入っていく。

しばらくして、コーヒーを二つ持ち、早足で戻ってくる。

車に乗る。

車は去っていく。

私は、ずっと見ている。考え込んだまま。

 

電話が鳴る。

その時になって、ようやく視線を窓から離す。

授業が終わったのに、なぜ迎えに来ないのかという、塾の先生からの電話だ。

もう?

 

子どもを、今日最後の塾へ連れて行く。

一度家に戻ろうか。書店に寄ろうか。

エンジンをかける。

また家に戻ろうかという気持ち。まとまらない。

どうしてだろう。

 

排卵期でもない。

したいという気持ちでもない。

とりあえず目を閉じる。少し、自分がどんな気持ちなのか考える。

したいことも、したくないこともない。

運転席は、どうしてこんなに居心地が悪いのだろう。

 

一時間、車の中で身じろぎする。目を閉じたまま。

また電話が鳴り、目を開ける。

塾が終わった。

 

本来なら、今日は7時にすべての塾が終わる。

一つの授業が冬休みに入り、5時に終わった。

 

少し落ち着かず、早く帰ろうとする。

すると子どもが、ハンバーガーを食べたいと言う。

近くでバーガーセットを買い、

またコーヒーを手に取る。

温かさで、ざわついた気持ちを溶かそうとして。

 

家に着くと、6時。

なぜ、家にぬくもりがあるのだろう。

 

ボイラーの温かさとは違う、熱。

急いで、まず寝室を確認する。

小さな部屋にもいない。

キッチンにも行く。何の痕跡もない。

何が違うのだろう。全部、変わらないのに。

 

「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。」

この時間に、誰。

 

夫だ。

驚いて、「明日帰るんじゃなかった?」

「うん。予定が一つキャンセルになって、一日早く戻った。」

「シャワー浴びる。」

目を合わせない。

 

一つの場面が、瞬間的に浮かぶ。

手足が冷える。

 

見慣れた車。

キャメルコート。

でも、

運転手は見ていなかった。

 


 

【観察メモ】

 

数日後、彼女と約束をした。

二つ三つのきっかけが重なると、決断は比較的容易になる。

ただし、誰もが同じ方法で決めるわけではない。

それぞれ、違う形で続いていく。

 


 


 

Ennd
by. N≠N

 


 

 連する察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

2024年12月12日 午後6時20分

ソウル・論峴洞 観察ログ
対象:専業主婦 43歳/結婚7年目/男児5歳
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務、退職3年
 

「重なり」
 

「もう疲れた」「正直しんどい」
そう思うことはある。
けれど、人生を変えるほどの理由ではない。
 

夫が悪いわけでもない。
誠実で、安定している。
それでも、どこか足りない。
 

問題は、いつも排卵期の前後だ。
その日は、子どもが体調を崩し、
一日に二度、病院へ行った夜だった。

 

注射と薬。止まらない咳。
子どもは疲れきり、
睡眠導入剤の影響で早く眠った。

 

溜まった家事を最低限だけ片づけ、
ただ静かになりたかった。
排卵期だった。

 

夫は出張中。
韓国にいても、正直、頼りにはならない。

 

身支度を急いで整え、ベッドに横になる。
目を閉じ、まずは落ち着く。
欲求を扱うためだった。

 

子どものことはいったん脇に置き、
呼吸を整える。

 

余計な考えは切り捨てる。
1分、2分。

 

身体の感覚が、
次第に一か所へ集まっていく。
呼吸が浅くなり、
意識が内側へ引き寄せられる。

 

そのとき、電話が鳴った。
義母だった。

 

「はい……わかっています」
翌日の夕食についての確認だった。

 

夫は翌朝帰国するが、
義父の誕生日で、欠かせない席だ。

 

体調の悪い子ども。
排卵期で増幅する欲求。
気の重い義実家との食事。

 

ひとつひとつは、取るに足らない。
けれど、重なった瞬間、
心が溢れてしまう。

 

食事に向かう車の中。
結婚前に大切に履いていた冬用のスラックスが、
体重増加で窮屈になっている。

 

わずかな動きでも、
不快な圧迫が一か所に集中する。
きちんとしようとして、選択を誤った。

 

太ももに力が入り、
頭がぼんやりして、目を閉じてしまう。

 

さらに、
久しぶりに戻った夫は気分が高揚しているのか、
距離が近すぎる。
意図を隠さない接触が続く。

 

意味のない刺激に、苛立ちが限界まで高まる。
どうせ先に眠ってしまうことも多く、
正直、嬉しくない。

 

「 溢れ出してしまったら?」
「この状態を、私は処理できるだろうか」

 

段差を越えるたびに刺激が重なり、
神経が一点に集中する。

 

車が止まると同時に降り、
トイレへ駆け込む。

 

一瞬の静けさ。
そして、 呆気なく、果ててしまう。

 

接触事故。
夫から派生した事故だった。

 

手を洗いながら、結論を出す。
明日、観察者に連絡しよう。

 


 

察メモ]

 

日常は、思っている以上にドラマティックだ。
ただ、まだ言葉を与えられていないだけ。

構成が変わった瞬間、
個人は主役になる。

生のまま始め、構造へ入る。 


 

 



Ennd
by N≠N

 


 

 関連する観察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

 

2024年11月20日。午後9時30分。

ソウル、ノンヒョンドン 観察ログ。
対象:専業主婦・43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理職まで勤務。退職3年。
彼女の記録です。

 

「  距離(distance)」

 

夫は大企業の部長職で、役員昇進を控えた最も忙しい時期にあります。
年間で3〜4か月は海外出張に出ています。

韓国では、5歳から塾が最低でも3〜4つあります。


専業主婦でなければ、事実上バックアップは困難です。
送迎、移動、食事まで一日の予定はびっしりですが、
合間の1〜2時間はオンラインショッピングでやり過ごしています。

 

新婚の頃とは違い、
夫が部長職になって以降、関係はかなり疎遠になりました。
仲が悪いわけではありませんが、
出張が多く、子どももいるため、
年間の性行為の回数は指で数えられる程度です。
事実上、セックスレスに近い状態です。

 

それでも、私の欲求は次第に強くなっています。
夫が出張に出ると、
衝動を抑えるのが難しくなります。

 

夜、子どもが眠ったあとの時間は、
ほぼ欠かさず、そうして過ぎていきます。

 

ブログを見る短い隙間にも、
気持ちを落ち着かせようとしました。
時には、その速さが
自分の身体を先に行ってしまうこともありました。

 

ここまで来ていると気づいたのは、
子どもが四歳くらいの頃でした。

 

ふと振り返ってみると、
その時間の中で、
夫を思い浮かべていなかったことに
自分で気づきました。

 

いつからだったのかは、正確には覚えていません。
アイドルや俳優、スポーツ選手のような
画面の中の人物を思い浮かべ、
気持ちをそらしていた時期がありました。

 

しかし、ある時から、
そのリストから
夫の名前が消えていることに気づきました。

 

今、心が向かう対象は、
とても近いところに移っています。
子どもの塾で会う英語講師です。

 

40代で、背も低く、
目立つ外見ではありません。

 

それでも、印象がよく、
いつも私を見ると笑ってくれます。

 

私が最も孤独だった瞬間、
その表情に
慰められてしまいました。

 

ある日、
子どもの手を渡すとき、
ほんの一瞬、指先が触れました。

 

大した接触ではなかったのに、
車に乗り込むと、
心が先に崩れていきました。
息が詰まり、顔が熱くなりました。

 

目を閉じたとき、
頭の中は
空っぽになったようでした。

 

何も起きたわけではありません。
ただ最近は、
心があの講師のほうへ
向かってしまうというだけです。
夫が韓国にいるときでさえ。

 

それでも、
このままではいけないと思うようになりました。

 

ひとりで過ごすやり方も、
慣れきった選択も、
次第に空虚に感じられるようになっています。

 

だからといって、
塾の講師とこっそり会うつもりはありません。
子どもに知られる可能性。
その場面を想像するだけで、
恐ろしくなります。

 

すべての恐怖には、理由があります。

 

だから今は、
目も合わせていません。

 

そして、
友人を通じて
「Enndの観察」を知りました。

 

ちょうどその頃でした。
夫から、
説明しがたい気配を感じていた時期です。

 

あり得ないと思いながらも、
その名前が
頭から離れませんでした。

 

不思議と、
そのやり方が
心に触れました。

 

「彼に自分の状態を質問し、答える。」
その構造を思い浮かべるだけで、
考えが長く留まりました。

 

彼は私の身近な人ではなく、
私も彼を、
彼も私を知りません。

 

匿名の長い距離の中で、
私は情報を渡し、
彼は私を観察します。

 

そのあいだの緊張が、
ゆっくりと高まっていきます。

 


 

察メモ]

 

彼女から最初の連絡を受けたのは、
土曜日の夜でした。

冬。
昼に少し雨が降った日でした。

通話は短く、
必要な説明だけを伝えて終了しました。

その後、
電話番号は削除します。
連絡はテキストのみで維持します。

こちらから先に尋ねることはありません。
質問は、
提供された情報に限ります。

 

※更新は基本的に1日1話ペースです(状況により前後する場合があります)。
続きも読んでいただけたら嬉しいです。
 

 


 

Ennd
by. N≠N
 


 

 関連する観察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

 


 

 

この記録は、
韓国の30〜50代の既婚女性が生きる中で出会う孤独を、
誰にも頼らず、
静かに自分自身へと向き合いながら、
整理し、通過していく過程を綴ったものです。

この物語は、
特別な誰かの記録ではありません。
多くの読者は、
大きな期待もなく、
あるいは「まさか自分が」と思いながら
読み始めます。

けれど、自分の答えを組み直した瞬間、
一日一日が、
感覚のドラマとして
立ち上がってくることに気づいていきます。

ときには不道徳だと感じ、
ときには口に出しにくいものとして、
短く切り捨ててきた、
あの大切な時間。
それらが前後の文脈を持ったとき、
一日のクライマックスとして、
もう一度、居場所を取り戻します。

質問と応答、
観察とレポートを通して
再構成されていくのは、
意味を求め続けてきた
わたし自身の嗜好と、
再び息を吹き返す身体の感覚です。

この記録は、もしかすると、
感覚とともに成熟していく
「わたし自身」の物語なのかもしれません。

今日も、
ふと訪れた感覚を
見なかったことにしたり、
不道徳だとして片づけたり、
夫や子どもの出来事の陰に
押しやってしまったのなら——

その感覚は、
もう一度、取り戻すことができます。

この物語は、
韓国の30〜50代の女性たちが
自ら蘇らせた感覚を、
丁寧に再構成してお届けする記録です。