コロナがもたらす黄昏 | 北奥のドライバー

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思いついた事をつらつらと書いて行こうと思います。

このコロナ騒ぎは未曽有のものです。他の産業のみならず、運輸業界も未体験のものでしょう。運輸業の多くは貨物にせよ旅客にせよ、長らく続く不景気と過当競争の中でも多数の会社が生き残ってこられた訳ですが、これは運輸業の収益モデルが特段に優れていたのではなく、単に長時間労働と出来高制に頼っていたところに起因します。しかし、これとて『運転手候補たる失業者が次々と再生産される不景気な社会構造と、ある程度以上の世間の金回り』が担保された状態で成り立つものです。

 

しかし、長らく続いた不景気とそれに伴う少子化の中で働き手の減少が起こり、昨今はわざわざ不利な労働環境を受け入れてくれる様な『都合の良い労働者』は年々減少傾向です。そして戦後の日本でこれほど人と金の流れが極端に停滞した時代というのは恐らくないのではないでしょうか。こうなればどんな産業でもお手上げです。当然、運輸業だって同様でしょう。しかも昨年の消費税増税で、ただでさえGDPがダダ下がりであったところにこのコロナ騒ぎです。正直な話、将棋やチェスで言うところの「詰み」といえる状態に近づいている会社も相当数あろうかと思われます。

 

運輸業に限らず、仕事一回当たりの利益が小さい飲食、小売り、宿泊のような労働集約型の接客業は、ただでさえ景気が下降気味だったことに加え、「ウイルスパニック」で年度末から始めの3~4月に稼げなかったのは痛かったでしょう。コイツは後々もボディブローのように経営にダメージを与え続ける筈です。で、ここで経営者さんが事業継続の為に選ぶ選択肢の一つが雇用調整助成金ですが、こいつは手続きが複雑で大変なうえに現在は順番待ちも激しいでしょうから大変だと思います。

 

そして大概の場合は、手続きの面倒臭さから、概ね社会保険労務士なんかに申請絡みの作業が一任されるわけですが、中には労基法違反を犯していたり、或いは帳簿改竄等の不正を働いていた会社も恐らく少なからず存在する事でしょう。当然、手続きの面倒さだけではなく、助成制度を利用する際にそこらへんも国にバレちゃうわけです。こういった場合、確信犯的にインチキの手伝いをしていた場合でも、悪意がなく、単純に会社側の不正を見抜けずにいた場合でも、社労士は原則「連座制」で経営陣ともども罪に問われます。

 

四月下旬になって国から「社労士の連座制を一時的に緩和して仕事をしやすい状態にしてやろうか」という話が出たの出なかったの、という報道がチラッと日経新聞あたりで報じられましたが、仮に具体的な罪に問われなくても、自分の経歴に「ミソ」が付きかねない事態であるのは変わりありません。及び腰になって顧問をする会社を厳しく選定する社労士が大量発生する可能性は大いにあります。というか、そうなるでしょう。

 

まあ、つまりです、そもそもこんな感じで助成制度を利用したくても利用できない背景を背負っている企業が世間には少なからず存在するわけですね。また制度の構造上、国からの助成が開始されても、それが末端で働く従業員に必ず還元される保証はなく、ここら辺はハッキリ言って事業者のモラル任せです。

 

まあまあ、日本国はとにかく企業を沢山作って手厚く守り、失業者を減らすことに腐心してきました。これは明治開闢から150年余り、江戸末期ごろにはたかだか3000万人ほどしかいなかった日本人が、栄養状態の改善と西洋医学の普及により急速に増え始め、半世紀後の大正末期~昭和初期には一億人に達するという「人口爆発」を経験します。

 

それに伴う失業者、都市貧民の大量発生とそれに付随する様々な社会問題は国や地方自治体の悩みの種でした。また戦後の日本も同様で、満州等の入植地から逃げ延びてきた人々はそっちこっちの地域に溢れ、これが深刻な失業問題や治安悪化、衛生環境低下の元凶となった。そんな日本国にしてみれば「多少怪しげでいい加減な会社でも、手厚く保護して失業者を雇用してもらわなければ」と考えることは自然の成り行きでありました。

 

往々にして日本の労働基準法が「ザル」でいい加減なのも、元を辿ればそういった企業保護を優先してきた国の方針があったからなのです。しかし、これらの問題も昨今の少子高齢化をもって遂に一区切りとなり、、現在は「少ない数の国民でどうやって効率よく儲けを出し、社会を回していくか」といった方向にシフトチェンジしなければいけない時代となりました。

 

「仕事があるだけ有り難い」なんて時代は終わりつつあるし、終わりにしなければならないのです、もしかすれば、このコロナ騒ぎはその大きな区切りとなるかもしれません。