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■ 夕焼けを探しに ◇10 ■
沖縄旅行3日目である修学旅行最終日は、最終的にはゆったりとした朝だった。
ホテルで朝食バイキングをいただき、身支度を整えて、チェックアウトをしたのが9時ちょっと過ぎ。
ホテルを出て30分ぐらいで目的地に到着し、駐車場に車を停めた社さんが後部座席を振り返った。
最終日だと思う寂しい気持ちが心のどこかにあったのか、それまで全員が無言だった。
最も、そうなったのは寂しいとは違う理由が大いに含まれていた。
「 はい、お待たせ。首里城公園に到着 」
「 …っ…わあ、ここが有名な首里城なんですね。敦賀さん、着きましたよ、首里城 」
「 大丈夫そうか、蓮? 」
「 分かりません。俺、もしかしたらこのまま腹がはちきれて死ぬかも… 」
言いながら敦賀さんが力弱く私の肩に額を置いた。
その弱々しい態度に私は慌てて両手を宙に浮かせた。
「 あわわわわ、大丈夫ですか、敦賀さん?! 」
「 ぷっ!へーきだよ、キョーコちゃん。きっとこいつ、これ幸いと甘えているだけだ 」
「 ……冷たいですね、社さん。もう少しぐらい心配してくれてもいいんじゃないですか? 」
「 心配?しているけど、俺なりに。言葉より態度が欲しいのなら、俺がお前の腹でもさすってやろうか? 」
「 …っっっ結構です 」
実は敦賀さんがこんな状態になってしまったそもそもは、昨日の夕食時間にまで遡る。
美ら海水族館から宿泊先のホテルまでは2時間という道のりで、つまり昨夜私たちがホテルに着いたのは21時過ぎだった。
ホテルに一旦戻ってから私たちは、晩御飯を食べに出かけた。
沖縄の夜の街は、東京とは違う活気があった。
たまに聞きなれない言葉が耳に触れると3人で顔を見合わせ小さく笑った。
「 最近は全国展開しているチェーン店が多いから、どこに行っても見たような景色の街並みで、特別感を抱く事って無かったけど…な、蓮 」
「 そうですね。そこを考えると沖縄は明らかに他の土地とは違いますよね。景色も、言葉も、食べ物も 」
「 私もそう思います!旅行に来たーって感じを確かに受けます 」
「 …ということで、ちょうどあそこに24時間営業の食堂があるから、あそこで食べないか?もっと沖縄を感じてみよう 」
社さんが指さした方向に視線を向けると、看板には確かに24時間営業の文字。
「 なんと、初めて見ました、24時間営業の食堂なんて 」
「 こういうのも沖縄らしいって事ですかね 」
3人の意見が一致し、そのお店の暖簾をくぐった。お邪魔した食堂には、21時と遅い時間だったのにも関わらず、多くの人が食事を楽しんでいた。
「 いらっしゃいませー 」
「 ……っっ???! 」
「 なんだ、なんだ、敦賀蓮?! 」
「 すげぇ、有名人だ!! 」
入店と同時に敦賀さんの存在に誰もがすぐに気が付いて、中には私が京子と気づいてくれる人もいて
番組の撮影か何かで来たのか?と質問を投げてきた人に、プライベートで沖縄旅行に来た事を伝えると、お店の人も、店内でご飯を食べていた地元民の人たちもいきなり陽気な笑顔になって、大歓迎だと歓待しながらいきなり踊り出してくれた。
「 そうか、沖縄旅行か。そりゃあいい。有名俳優は目の付け所が違うな! 」
「 おう、大歓迎だぞぉ。こっち、席空いてるからここ、どうぞ! 」
「 よぅし、そういうことなら、沖縄の泡盛飲め!おっちゃんがおごっちゃる! 」
「 おっ、そりゃあいいな。おごってもらえ。古酒はうんめぇぞぉ 」
「 あ、俺は運転手なので、すみません、お気持ちだけで。この子は未成年ですので飲めませんので… 」
そう言って社さんが自分の分と私の分を断ると、その矛先が敦賀さんに向いてしまった。
「 そうか。運転手と未成年はダメだな 」
「 イケメン俳優ならオッケーだろ 」
「 ええ、まぁ… 」
それで、琉球王朝という古酒から順に、沖縄ワイン、グァバのリキュール、紅芋梅酒が振る舞われ、そのうち島唄と三線ライブが始まった。
酒には肴も必要だと、おきなわちゃんぽんやゴーヤチャンプル、沖縄おでんやジーマミー豆腐、パパイヤリチー、タコライス、沖縄天ぷら、しまらっきょう、海ブドウなどが順番にテーブルに並べられ、あっという間に置き場がなくなってしまうほど。
「 これは沖縄地元の料理だ。遠慮せずに食べ!それで、テレビで沖縄はいいところだったーって宣伝してくれ!宣伝料としておごってやるから 」
「「「 あはははは。はい、ありがとうございます。ご馳走になります 」」」
もちろん、死に物狂いで食べました。
だって次から次へと注文してくれるんだもの。
特に敦賀さんは体が大きいから、もっと食えだの、もっと飲めだの、散々、散々勧められ、私たちがホテルに戻って来られたのは夜中の1時過ぎ。
さすがに敦賀さんはかなり打ちひしがれていた。
「 ……明日、出発何時ですか?社さん 」
「 あ?あーあー、明日は大丈夫だ、蓮。明日はこの辺を観光する予定だから特に時間に制約はない 」
「 そう、です、か… 」
それで、敦賀さんの体調…というよりお腹の状態を考慮して、今朝は少しゆっくりめに起きたのだけど、敦賀さんの悲劇はこれだけでは終わらなかった。
朝食は要らない、部屋でコーヒーでも飲んでいますと言う敦賀さんを引っ張って、私たちはホテルの朝食バイキングに向かった。
最悪、トーストと卵焼きとコーヒーだけでも、と言って敦賀さんを説き伏せたのだ。
大きな食堂だったから、私たちはバイキングから一番遠い席に着いた。
ひとまず敦賀さんが先にコーヒーを取りに行き、戻って来た敦賀さんと入れ替わるように私と社さんが席を立とうとしたときだった。
少しご年配と思しき女性たちの集団が、私たちの元にやって来たのは。
「 ねぇ、あなた敦賀蓮じゃない?!間違いないでしょ!? 」
「 え…はい、そうですけど 」
「 ほらぁ、やっぱりそうじゃない!! 」
「「 きゃー!!すごいわ、こんな所で有名人に会えちゃうなんて!!」」
敦賀さんのファンだと言ったその女性たちが、一生の思い出として近くのテーブルで食べていいかと訊ねて来たので、了承した。もともとテーブルは自由席なのだ。
そのとき、敦賀さんの前にコーヒーしか置かれていなかったことに気付いた一人の女性が、朝はちゃんと食べなきゃダメよと言って、あっという間にお勧めの品を持って来た。
「 敦賀蓮さん、ほら、これ食べてみて。美味しいのよぉ。私はこのホテルに何度も来ているから知っているの。どうぞ、お召し上がりになってみて! 」
一人のそれを受け取れば、どうなるかは分かり切っている。
もちろん、敦賀さんは断ろうとしていたのだけど、熟年のご婦人たちはその隙すら与えなかった。
「 あら、美味しい物ならあっちにもあるわよ。ちょっと待っててくださいな。わたくしのおすすめも持ってきてさしあげますから 」
「 え?いや、あの… 」
「 私もお勧めのがありますわ!あら、大丈夫よ、あなたは座っていらして。いま持ってきますから待っていてくださいね! 」
そこからは入れ代わり立ち代わり…。ご婦人たちのお勧め品があっという間に敦賀さんの前に並べられた。
このホテルの朝食バイキングの種類はめちゃくちゃ多い。サラダの具材だけでも10種類の野菜が揃えられているし、トッピング材料は3種類、ドレッシングは6種類。
それだけではなく、冷製コーナーにはライスサラダ、野菜マリネ、フリッタータ。
和食コーナーには朝食の定番である納豆や卵焼きはもちろんのこと、焼き魚が3種類、煮物が5種類、汁物が4種類。
洋食コーナーにはカレー、ポトフ、ウィンナー、スクランブルエッグなどの他に、スープが5種類、シェフに注文して出来立てが味わえるオムレツが3種類、他にもクロワッサンなどの焼き立てパンが10種類、ホテル自家製コーンフレークからフレンチトースト、果ては5種類のスィーツ及び新鮮フルーツまで盛りだくさんなバイキング。
一つずつ味わったとしてもとても食べ切れるような品揃えではなかった。
たぶん最後の方、敦賀さんは死ぬんじゃないかって予感が過ぎっていたと思う。
最初は面白そうに見守っていた社さんもそのうち真剣な顔つきになって、最後は敦賀さんを助け出したほどだった。
部屋についた時点で敦賀さんはかなり衰弱していた。いえ、間違いなく瀕死に近かった。
「 ・・・・・もっと、早く助けてくださいよ・・ 」
「 お前が自分で何とかすると思ったんだよ 」
それで、このあと2時間ぐらい部屋でまったりしたのだけど、その間、会話は皆無だった。
当然と言えば当然だ。
それで、こんな時間になっちゃったわけで、敦賀さんはこんな状態だという訳。
「 敦賀さん、どうしますか?首里城に行くの、やめます? 」
「 いや、行くよ!歩けばそのぶん消費できると思うから 」
「 でも…あまり無理はしないほうが 」
「 平気。今までだってこういうことが全く無かった訳じゃないから 」
「 そうだよな。過去には朝食二度食いしたこともあったもんな 」
「 え? 」
「 はい、行きましょうか、社さん!! 」
「 敦賀さん、本当に大丈夫なんですか? 」
「 …うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて 」
そう言って敦賀さんは甘く笑った。
首里城公園には2時間ほどいたと思う。
守礼門から始まり、歓会門、久慶門を通った。
いくつもの荘厳な城門を通り抜け、城壁の中に入るとそこは圧倒されるほど鮮やかな朱色の世界。
そのあと、銭蔵、北城郭を巡って、公園東側にある高台でしばし場外の街一帯を展望しながら足を休めた。
休憩後、今後は継世門を通り、首里城近くにあった泡盛蔵元へ。
その蔵元見学をしながら社さんがお土産を買って、首里城公園観光は終了した。
首里城の後に向かったのは、国内旅行でも免税ショッピングが楽しめるという大型ストア・Tギャラリア沖縄。
実は沖縄には特別制度というものがあって、そこでは沖縄県外に出発する人なら誰でも免税価格でお買い物が楽しめるという。
140以上ものブランドがひしめき合い、最新コレクションが一堂に集結しているTギャラリア沖縄なら、国内小売価格より最大30%もお得になる品もあるらしい。
しかも、ブティックホールは上品で高級感が漂っている。身分違いな気がする…と思わず私が臆しちゃうぐらい。
敦賀さんや社さんは慣れた雰囲気なのだろう、堂々と歩いていたけれど、昨夜や今朝のことが影響していたのか、社さんはマネージャー顔で鉄壁ガードに徹していて、敦賀さんは敦賀さんで人を寄せ付けまいとキュラキュラ笑顔を一段と輝かせていた。
「 あれ?あ…最上さん、こら! 」
「 はい?なんですか、敦賀さん 」
「 あんまり離れて歩かない!俺の隣においで。見たいのがあるなら俺に声かけて 」
「 ……ハイ 」
やばい、全身で笑っちゃいそう。
そんな特別扱いをされたら嬉しくて笑い転げちゃう。
「 キョーコちゃん 」
「 はい? 」
「 ここでの買い物はフライト時刻の2時間前までしか出来ないから、欲しいものがあったらさっさと買っちゃったほうが良いよ 」
「 え?そうなんですか? 」
「 そう。免税品を購入した場合、商品はこの場で受け取るのではなく、那覇空港内のDFS商品受け取りカウンターでしか受け取れないんだ。だから 」
「 わっかりましたぁ!! 」
モー子さんにお土産を買わなくちゃ!
そう思うだけで喜びが湧いた。
そう言えば私、出かけた先でお土産を買うことは今までにも何度かあったけど、特定の友人にお土産を…という経験は初めてだ。
ついでに言うと、こんな風に修学旅行を楽しんだのも初めて。
これは、修学旅行とはちょっと、かなり違うかもしれないけど。
「 社さん、敦賀さん 」
「 うん? 」
「 どうした?最上さん 」
「 いえ、ただお礼を言っておこうと思って。ありがとうございました!修学旅行を味わわせてくださって 」
「 時期はめちゃくちゃずれちゃったけどね。楽しかった?キョーコちゃん 」
「 はい!とっても楽しめました 」
「 それは良かった。引率した甲斐があったよ 」
「 俺も、楽しかったよ。生まれて初めての修学旅行を君と出来て 」
「 え?敦賀さんは人生で初めての修学旅行だったんですか?うそ? 」
「 ・・・そのうち、そういう話もしてあげるよ 」
会話をしながら3人で免税店をしらみつぶしに歩き回り、モー子さんへのお土産をゲットした。
その途中、全然お腹が空かない敦賀さんと一緒に沖縄ぜんざいも味わった。私と社さんはそこで軽めの昼食も。
午後3時頃に那覇空港に向かってレンタカーを返却し、DFS商品受け取り窓口で購入した免税品を受け取った。
過ぎてしまえば2泊3日なんてあっという間だった。
それとも、こんなにも楽しかったからそう思うのだろうか。
特に最終日はゆっくりしていたから、疲れたなんて感覚はまるでなかった。そのはずなのに、行きと同じように優先搭乗させてもらった飛行機に着席してほんと直ぐ、私は電池が切れたおもちゃのように爆睡してしまった。
正確には、敦賀さんと一緒に。
お互いにもたれかかりながら。
「 ・・・・・おーい。どういうこと?運転していたのは俺だけなんだけど? 」
本当に、その通りですよね、社さん。
敦賀さんより、私より
誰より疲れていたのは社さんのはずなのに、帰りの飛行機で先に寝ちゃってすみません。
でも、私思うんです。
敏腕マネージャーが近くにいてくれるから、私たちは安心出来るんだって。
だから寝ちゃったんだと思います。
でも不思議。この言葉には嘘も偽りも入ってないのに、こんな風に言うと言い訳がましく聞こえるのは何故かしら。
ねぇ、敦賀さん。不思議よね?
⇒◇11 に続く
首里城は2020年現在、入れない場所がありますが、観光できる場所もちゃんとあるみたいです。
次回、最終話。
⇒夕焼けを探しに◇10・拍手
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