夕焼けを探しに ◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら↓

 15】



■ 夕焼けを探しに ◇6 ■





 17時になったばかりの沖縄は、まだ昼間のように明るかった。

 この時期、沖縄の日の入りは夜7時30分を過ぎるらしい。


 車窓の向こうに海が見えた。それで思い出したのだろう、昼間カレーを食べたことを最上さんが反芻した。



「 敦賀さん。ランチで食べたカレー、清々しいほど美味しかったですね 」


「 そうだね 」


「 オリジナルベースのカレーに、ほうれん草のペーストを合わせて、チキンとか、マトンとかキーマとか。沖縄の野菜をふんだんに使って、しかも辛さも選べる本格派で…。美味しかったー。もう一回食べてもいいかもって思うぐらい 」


「 そうだね。地元の人からの情報って侮れないよな。社さんの情報収集に感謝だね 」


「 本当にそうですね!社さん、ありがとうございます 」


「 そんな褒めてくれなくても。ハードル上げちゃわないでくれる?キョーコちゃん 」



 そんなことを話しながら、40分ほど走っただろうか。


 沖縄本島中部の北谷町美浜地区という所にやって来た。


 その風景に驚く。

 町並みは完全にアメリカ風で、最上さんもあんぐりと口を開いた。



「 え?なんですか、ここぉ!アメリカ?海外?! 」


「 ぷっ。ナイスな反応をありがとう。ここはね、美浜アメリカンビレッジっていう、沖縄なのにアメリカンな雰囲気が楽しめるところ 」


「 そんなのがあるんですね 」


「 ショッピングモールや映画館、観覧車、アミューズメント施設が集合しているのって今はどこでも見られるけど、ここが他と違うのはアメリカ風で、しかもシティビーチリゾートだってことかな 」



 道行く人を何となく眺めた。

 カジュアルなタウンビーチなのだろう、明らかに地元民かと思われる人が数多く目に入り、また家族連れや外国人の姿も見受けられた。



「 ここのビーチリゾートはバーベキューが出来る施設があって、東京と違って日暮れでも結構楽しむ人がいるらしいんだ 」


「 え。まさか、これからバーベキューをするんですか? 」


「 いや、しないし。今のはただ言ってみただけだ。目的地はモールの中。そこに本日の晩御飯を堪能する店があるんだ 」



 駐車場に車を停め、さぁ行くぞという掛け声に押されて車を降りた。

 俺と最上さんは横並びになり、2歩先を行く社さんの後ろを付いて行った。



「 修学旅行1日目の夜は、ちょっと豪華にステーキだから 」


「 ステーキ?すごい、アメリカンな街並みに裏切らないメニューですね。でも、それって沖縄っぽいんですか?社さん 」


「 ふっふっふ。実はね、キョーコちゃん。沖縄では昔からステーキっていうと、目の前でシェフが調理してくれる鉄板焼きスタイルが根付いているらしいんだ。…で、聞いたところによると、その店がとにかく凄くてお勧めらしいんだよ。是非行くべきって太鼓判を押されたぐらいなんだ 」


「 太鼓判を押されちゃったんですか。すごい?って、具体的にどう凄いんですか?まさかボリュームがスゴイとか量がスゴイとか?? 」


「 それ、どっちも同じ意味に聞こえる 」


「 味がスゴイとか食材がスゴイとか、そういう凄いでしょうか、社さん 」


「 それは行ってからのお楽しみだよ・・・と言いたいところだけど、本音は俺も知らないんだ。とにかく凄いから行ってみなって言われただけ。でもそれだけ押すんだからとにかく凄いんだろうなと思って夜ご飯にしてみたんだ 」


「 種明かしは無かったんですか。でも地元出身の人が推薦してくださるぐらいですからきっと何かあるんでしょうね。はっきりとした魅力が 」


「 ああ、そうだと思う。あ、着いたみたいだ。入るぞ 」


「「 はい 」」



 社さんが導いてくれたのは、キャプテンズ・インという店だった。


 店舗前に船長と思われる小ぶりな人形が客の訪れを待っている。

 その横に、鉄板焼きステーキ&イセエビと書かれた看板が立っていた。


 なるほど、鉄板焼きの店に違いない。



「 予約してあるからすぐ食べられるからな 」


「 はい!楽しみです 」


「 いらっしゃいませ 」



 一歩踏み入って目を見張った。

 船長らしき人形を店先に置くぐらいだから船をコンセプトにしているのだろうと予想はしていたが、店内はまるで豪華客船のように重厚感ある造りだった。



「 予約していた社です 」


「 おまちしておりました。どうぞお席にご案内します 」



 店内にある一つ一つのテーブルに、鉄板がドッキングしている。

 日本伝来のお好み焼き屋のような造りだと言えばイメージしやすいだろうか。実際にはそれよりもっと豪華な造りではあるけれど。


 夜営業は18時オープンらしく、開店間際の店内に客の姿は見えなかった。



「 ようこそいらっしゃいました。今宵ひと時、どうぞお楽しみください 」



 俺たちが席について間もなく、シェフがテーブルにやって来た。

 どうやらテーブル毎にシェフが付き、目の前の鉄板で調理をしてくれるらしい。


 簡単な自己紹介をしたあと、早速シェフは調理に入った。



「 …っっ…わぁぁぁっ、すごい!! 」



 その途端に歓声を上げたのは最上さんだけではなかった。

 社さんも俺も驚いた。


 専属シェフがピーマンを早切りし、ガーリックトーストを空中で回転させ、華麗なクッキングパフォーマンスを披露する。

 分厚い肉を取り出したシェフはにっこりと微笑んだ。



「 こちらは沖縄のブランド肉、石垣牛です。こちらをステーキにいたします。それからこちらがイセエビ。火を通し、食べやすくほぐしますので少々お待ちください 」



 調理を続けるシェフの手さばきは圧巻で、鉄板の熱さに焦げ跡を付けたステーキがあっという間に一口大にカットされて行く。これらのパフォーマンスを目の当りにして声をあげない人などきっといないに違いない。


 次々と目の前に並べられていく料理は品数も豊富で、見事としか言いようが無かった。



「 わあ、あっという間に! 」


「 うわ、すごいな 」


「 こんなすごいパフォーマンスだなんて想像もしていなかった 」


「 恐れ入ります。どうぞお召し上がりください 」



 コーンスープ、野菜サラダが提供され

 こんがり焼かれたガーリックトースト、手早く炒められたモヤシとピーマン、ニガウリと豆腐のソテー、一口大にカットされた石垣牛のステーキ、貝殻の上に味付けされたこんにゃくの付け合わせが、各自の前に豪華な彩りで並べられた。



「 すごいパフォーマンスをありがとうございました!しかも美味しそう、豪華、贅沢過ぎ!社さん、感動ですね! 」


「 うん、感動した 」


「 ありがとうございます 」


「 頂きます 」



 食事が始まるとシェフは一礼して離れて行った。彼が披露してくれたパフォーマンスの話題で会話は大いに盛り上がった。

 正直、ボリュームが凄くて俺は食べ切れなかったのだが、最上さんや社さんはほぼ完食していた。



「 ご馳走様でした。うー、お腹いっぱいぃぃぃ 」


「 美味かったな、石垣牛。シェフパフォーマンスも本当に凄かったし。信じて来て良かった 」


「 確かに見ごたえありましたよね。でも食べ応えも相当でした 」


「 仕事ならお前も全部食べるんだろうになー。ま、いいけど 」


「 面目ありません 」


「 いいって。それより、早いとこビーチに行こう 」


「「 ビーチ?? 」」


「 そ。今ならまだ間に合うと思うんだよ、日没に!! 」



 店外に出てみると、異国情緒あふれたタウンは真っ赤に染まる夕空に包まれていた。

 マップの案内に従って北谷公園サンセットビーチに向かう。


 到着したビーチの美しさは、サンセット、と名が付くだけのことはあるものだった。



 燃ゆる太陽に照らされて、木々の姿が黒く濃いものになっていた。


 岩やヤシの木のシルエットが象徴的に浮き上がり

 さざめく波音が静かに響く。


 夕日は既に地平線に半分以上沈んでいて、にもかかわらずオレンジ色の太陽が世界を暖色に染めている。


 昼間は白にしか見えないだろう砂浜も闇に支配されつつつあり、浜辺に踏み入ると、昼間の熱さをまだ残しているのが判った。


 視線を最上さんへと移すと彼女も景色に見入っていた。



 渡る風が髪を優しく撫でてゆく。


 その様は

 最高にフォトジェニックな光景だと思った。



「 ……蓮、キョーコちゃんも 」


「 はい? 」


「 なんですか? 」


「 写真、撮るから並んで。夕日をバックに 」


「 え?えええっ?!私、私と敦賀さんのツーショットで、ですか?! 」


「 そりゃそうでしょ、キョーコちゃん。悪いけど協力して。修学旅行に行ったっていう証拠を社長に提出しなきゃいけないんだ、俺 」


「 はうっ、なるほど 」


「 ……社さん。それはいいですけど、あとでその写真… 」


判ってる!お前が言いたいことは全てな!



 本当に?



 これは後から聞いた話。

 ここ最近、このサンセットをバックにプロポーズをするカップルが見受けられるとかで、ここは恋人たちの新たなパワースポットになっているらしい。



 その気持ちが判る気がした。確かにパワーをもらえる気がする。



 俺の気持ちをもう

 彼女は知っている訳だけど



 夕日に染められ、互いに向き合った俺たちの頬は、どちらも同じぐらい赤かった。




 スマホをかざして、社さんがシャッターを切る音が聞こえた。


 その写真、あとで俺にもくださいね。



「 最上さん 」


「 はい? 」


「 海に入ろう 」


「 はいっ?今ですか、敦賀さん、冗談… 」


「 冗談なんか言わないよ。こんなきれいな海と夕日、入らないなんて絶対損だ!! 」



 最上さんの腕を引っ張って、砂浜を駆けてそのまま海に突っ込んだ。

 足を取られてつんのめり、水飛沫が激しく舞う。


 そのまま俺たちは全身がずぶ濡れた。



「 蓮!!キョーコちゃん!! 」


「 ぷはっ!なんてことするんですか、敦賀さんってば。余すところなく濡れちゃったじゃないですか 」


「 あはははは、ごめんね。でも、気持ちいいだろ? 」


「 …っ…否めないのが悔しい 」


「 バカか、びっくりさせるな、何やってるんだ、二人とも。これからホテルに行かなきゃいけないってのに!状況判ってるか? 」


「 分かってます。大丈夫ですよ、社さん。着替えてから行けばいいじゃないですか 」


「 お前ね… 」


「 だから、社さんも一緒に濡れましょう! 」


「 うわ、待てバカ、ちょおっっ…!! 」



 俺に引っ張られて社さんも海に飛び込んだ。

 手にしていたスマホは防水だったらしく、大事に至らなかったらしい。


 顔を見合わせた俺たちは声をあげて笑い合った。



「 青春かっ!! 」






 ⇒◇7 に続く


6話にしてまだ1日目が終わらない(笑)



⇒夕焼けを探しに◇6・拍手

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