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■ 夕焼けを探しに ◇3 ■
社さんが修学旅行に行こうと言い出したときは、何をバカなことを…と、正直思った。
プライベートで旅行など、デビューしてから一度もしたことがなかったのだ。
そんな俺の胸中など知る由もなく、社さんは日を追うごとにどんどん話を煮詰めて行って、敏腕マネージャーの本気をいよいよ感じられるようになった頃、本当に行く気なんだと実感した。
カインとセツカの時とは違う変装で、あの子と二人きりでジャンヌダルクに行った時にはかなり気持ちが右肩上がりになっていて・・・というより、もしかしたら俺はかなり浮かれていたのかも。
『 大丈夫なんだろうね、キョーちゃん?
明後日は絶対に遅刻せずに空港に来るんだよ? 』
恐らくそうだったに違いない。だからあんなことを言ったのだ。
俺でさえこれだけ楽しみになっているのだからこの子もきっとそうだろう。
あるいはそうに違いない、そうであって欲しい、と。
そして一昨日より昨日、昨日よりも今日、もっとワクワクしている自分がいる。
だから確信は強かった。
俺の予想通りにあの子は寝坊をするんじゃないかって。
「 蓮、キョーコちゃんは何時に出てくると思う? 」
だるまやの裏手に停車すると、社さんはエンジンを止めた。
半分ほど開けた窓から朝の爽やかな空気が入って来る。
夜のだるまや周辺はそれなりに賑わう。
しかし平日朝5時30分では道行く人の姿も少なく、流石に閑散としていた。
そんな中でのアイドリングは近所迷惑この上ない。だからエンジンを止めたのだろうと想像できた。
「 そうですね。社さんが言っていた朝7時までには空港に…から普通に考えると、6時前後の電車に乗るはずかなと予想できますけど 」
「 だよな。とすると、あと30分以内に出て来るかな 」
「 だと思います 」
なんてことを言っていた、まさにこの時だった。
「 …っっ……寝坊!!遅刻ぅぅぅぅぅっっっ!!! 」
「「 ぷっ!! 」」
2階の窓の隙間からあの子の声が漏れ聞こえた。
俺の予想通り、最上さんは見事に寝坊をしたらしい。
社さんと顔を見合わせ、俺たちは声を潜めて笑い合った。
「 お前が言った通り、迎えに来て正解だったな 」
「 でしょう?絶対やらかすと思ったんですよ 」
「 …っていうか、そんな先読みが出来ていたなら今日迎えに行くよって初めから言っておけば良かっただろうが。お前と俺は最初から車で空港に行くつもりだったんだから 」
「 なに言ってるんですか、それじゃ面白味が無いじゃないですか。それに、せっかく社さんが計画してくださった修学旅行ですよ。何かを学べた方が意義があっていいでしょう 」
ちなみに鉄道を使用する場合、最上さんがお世話になっているだるまやから空港までの所要は約1時間というところ。※ナビタイム検索
つまり空港に7時に到着するためには、最低でも6時発の電車じゃないと間に合わないということに。
一方、車両で移動した場合、だるまやから空港までの距離は約25kmしかなく、従って上を使えば30分、下で行っても50分程度で空港には到着できるのだ。
つまりあの子がたとえ6時の電車に遅刻したとしても、車なら余裕で間に合う計算だった。
バタバタと小さく、時には大きく漏れ聞こえる足音を聞きながら、25分が経過した。
もうそろそろ出て来るかな…と、俺が降車したタイミングで最上さんが飛び出した。
「 おかみさん、行ってきます!! 」
「 行っておいで。気を付けてね。慌てて道を間違えたり、転んでうっかりケガをしたりしないようにするんだよ 」
「 はい、頑張ります! 」
「 最上さん 」
「 ごめんなさい、私いまとても急いでいるんですぅ 」
だろうね。
いま5時56分だし。
「 最上さん! 」
「 …っっはうっ?……敦賀さん?!どうしてここに 」
「 遅刻ですか? 」
「 してないですよ!6時の電車に乗れれば7時に間に合うんですから! 」
「 でも寝坊はしただろ。聞こえていたよ、ばっちりと 」
「 うにゅうっっ!! 」
「 取り敢えずおいで。車で一緒に行こう 」
「 ふええっ?あっ、社さん! 」
「 おはよう、キョーコちゃん。電車より車の方が早いからこっちにおいで 」
「 うそ。どうしてお二人がここに?まさか、迎えに来てくださったんですか!? 」
「 そう。絶対に君は寝坊するだろうと見越して 」
「 あうっ 」
「 とにかくおいで。さっき起きたばかりで朝食も食べていないんだろ?朝は余裕を持って起き、絶対に食べるべきの朝食を… 」
「 ……っっ… 」
「 くす。その顔が見たかった 」
「 敦賀さんの意地悪ぅ!! 」
「 どこがだよ。日頃君が口酸っぱく訴えてくれていることを言ってみただけじゃないか 」
「 こら、蓮。いつまでもじゃれていないで早く乗れ! 」
「 あ、すみません。荷物ごとどうぞ、最上さん 」
「 はい、お手数おかけしてすみません。お邪魔します 」
「 君のためにコンビニおにぎりを用意しておいたから食べるといいよ。君のために俺が用意しておいたから 」
バツが悪そうな表情を浮かべた最上さんの隣に座りながら、否定できないほど楽しんでいる自分がいることに苦笑が浮かぶ。
「 はい、どうぞ。お茶もあるよ。ペットボトルだけどね 」
「 ……ありがとうございます 」
「 残念ながらおかずの用意はないんだ。ごめんね? 」
「 っっっ…いえ。お手数おかけしてすみません。いただきます 」
素直にもくもく食べ始めた最上さんを眺めて、口元が静かに弧を描いた。
心から楽しみたいな、と思う。
だから一緒に楽しもうね、最上さん。
せっかく社さんが計画してくれた旅行だから。
同時に、俺が日本に来て初めて行く旅行だから。
ゆっくり右手を浮かせ
ポンポン…と彼女の頭に触れると
俺の真意を汲み取ってくれたかのように、俺に視線を移した最上さんが愛らしい笑顔を浮かべてくれた。
⇒◇4 に続く
キョーコちゃんの家(だるまや)については、ネタバレになってしまうので、敢えて明言を避けました。※2019年3/1号ザ花に掲載・SP番外編及び、コミックス41巻参照のこと。
⇒夕焼けを探しに◇3・拍手
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