弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、clatas様からお与かりした記念リクエストの続きをお届けです。
前話こちら↓
■ 夕焼けを探しに ◇4 ■
予定通り朝7時30分に羽田を離陸した飛行機は、定刻通りの10時15分に那覇空港に到着した。
そう。俺が計画したプライベート修学旅行先は沖縄だった。
「 到着!すごーい、那覇。わぁ、暑い 」
「 感動するのは早いよ、キョーコちゃん 」
「 社さん。確かレンタカーを予約してあるんでしたよね 」
「 そー。窓口あっちだな。手続してくるから、2人は少し離れた所で待っていてくれるか 」
「「 了解です 」」
行き先を沖縄に決めたのは俺自身の判断で、社長の指示ではなかった。
あの日、唐突に社長室を訪問し、二人を修学旅行に連れて行きたいのですが、と言った俺に、社長は苦笑を漏らした。
「 修学旅行?それはまたお前も妙なことを考えたな、社 」
「 妙…でしょうか。でも、思いついたきっかけはキョーコちゃんですよ。学校からもらった2年生の年間行事予定表を見て、修学旅行が無いことにひどく落ち込んじゃった姿が本当に可哀想で、行かせてあげたいなって思ったんです 」
「 ほーん、なるほど 」
「 それに蓮も 」
「 なんだ、蓮まで落ち込んだのか 」
「 じゃなくて、落胆しているキョーコちゃんに蓮がこう言って慰めたんです。君だけがそうじゃない、自分も行った事が無いって。
そう言えばそうだったなって思い出したんですよ、俺。アイツ、今までずーっと走って来たじゃないですか。だからここらへんで少し深呼吸をさせてあげてもいいんじゃないか…と、思った次第でして 」
「 ・・・・・マネージャーの鑑だな、お前は 」
「 それは、誉め言葉と受け止めて良いのでしょうか 」
「 それ以外になかろう。それで?何泊するつもりだ? 」
「 二人のスケジュールを総合して考えると、2泊…なら何とかなるかな、と 」
「 ふむ。ま、そのぐらいなら良いだろう。行き先は?もう決めてあるのか? 」
「 いえ、さっき思いついたばかりで、取り敢えず許可を頂いてからと思ったので 」
「 そうか。ま、騒動にならんように気を付けてくれれば、時期も場所も特に俺から言うことはない。が、とうぜん国内だろ? 」
「 ええ、そのつもりです。ありがとうございます 」
「 なぁに。・・・とするとあれだな。その旅行、蓮と最上くんはともかく、お前は出勤扱いにしておけよ 」
「 はい?いえ、それは流石に… 」
「 そうしておけ。恐らくどこに行ってもお前のサポートがあの二人には必要だ。場合によってはマネージャーとして対応しなければならんことが起こるかもしれん。その時は頼む 」
「 …はい、分かりました。お心遣いありがとうございます 」
「 お前の話は分かった 」
「 失礼しました。詳細は後に報告します 」
許可をもらったあと俺は、仕事の合間に高校の修学旅行について調べた。
今まで特に気にした事も無かったが、修学旅行の実施時期は地方によって差があって、全国平均では10~12月が一番多く、次いで1~3月に集中していた。
時期の変動は行き先によるもので、1~3月はほぼスキー旅行となる流れらしい。
旅行先の人気度は出発地によって異なるようだが、関東圏から行く場合、京都や奈良、北海道、沖縄などが人気スポットらしかった。
「 沖縄か、いいかもな。前に行った時はほぼトンボ帰りだったしな、俺は。羽田から休む間もなく軽井沢に向かったんだ。蓮がお願いしますとか言って俺に頭を下げたから。
懐かしいな。あの時にはもう、蓮はキョーコちゃんのことが好きだったんだよな。本人は認めていなかったけど 」
記憶の蘇りと同時に自然と心が沖縄に向いた。けれど即決した訳じゃなかった。
なにしろ沖縄は屈指の観光地だから。時期を見誤れば社長からの条件をクリアできなくなってしまうし、それどころか下手したらとんでもないことになってしまう。
なぜなら沖縄は陸島だから。台風でもやって来ようものなら何日も足止めを食らう事だって有り得る。従って判断は慎重に下さねば。
「 そうか、沖縄は5月下旬から6月半ばまでは梅雨なんだ。それでこの時期は観光客が少なくなるのか。…うん、それいいかも。梅雨なら少なくとも台風は来ないだろうし、間違いなく修学旅行客もいないだろうし、さらに平日を選べば観光客も少ないだろうし 」
で、結局スケジュールを調整して6月に行こうと決めた。
6月の沖縄の平均気温は25~29℃と意外にも高く、一足先に夏気分も味わえる。
「 湿度が高そうだから半袖は必須だな。んじゃ、それで蓮を喜ばせてやるか。キョーコちゃんとペアルックがしやすいように、修学旅行気分を煽る名目をぶら下げて。最も、キョーコちゃんが嫌がるかもだけど 」
でも大丈夫だったみたいだ。
二人は今日、淡いグレーの半袖に蓮は濃紺のパンツ、キョーコちゃんは同色のキュロットスカートを履いていた。
思わずにやけてしまったぞ、お兄ちゃんは。
ちなみに、政令指定都市修学旅行基準概要一覧を見てみると、国内旅行ケースの予算は7万9800円、海外の場合は燃料サーチャージを考慮せず9万5000円以内という費用基準も載っていた。
旅行期間は96時間以内だとも。
2泊3日だから期間は別にいいのだが
蓮とキョーコちゃんの安全を考えるとホテル宿泊は外せないし、そもそも3人での沖縄旅行となると団体割引は使えない。
…で、もろもろ計算した結果、修学旅行費用での旅行は無理だと分かり、費用に関しては基準を無視。
「 予算に関しては仕方がない。社長が50万までなら面倒見てやるって言ってくれたし、有難くその言葉に甘えよう。でも期間中に俺の給料は出る訳だから、なるべく自分の分は除外して、あとは不足が出ないように気を付けるようにすれば… 」
とはいえ、3人分の往復フライト代と宿泊代、プラスレンタカー代金で既に半分以上を使ってしまった。
あとは贅沢さえしなければ、残り20万でなんとかなるだろう。
不安はなかった。たぶん、蓮は出費を惜しまないだろうから。
「 …以上です。こちらがキーとなります。あとは表で車庫スタッフの説明を受けてください、どうぞ 」
「 はい、お世話になります 」
「 いってらっしゃいませ 」
一通りの説明を受け、キーを受け取って踵を返した。
二人の元に近づくと、蓮とキョーコちゃんは仲睦まじい言い争いをしていた。
「 もう、いつまで笑い続けるつもりなんですか、敦賀さん 」
「 いや、だって本当に面白かったから。俺、誰かに最近何か面白いことはありましたかって聞かれたら、間違いなく君の話をしちゃうと思う。いいよな? 」
「 むきぃぃぃぃっ!! 」
二人の会話から察するに、フライト直前の話のようだと思った。
この話の出発点は、羽田の駐車場に車を止めたときだ。
蓮がこんな事を言い出した。
「 社さん。優先搭乗ってさせてもらえるか確認してありますか? 」
「 え… 」
正直、予想外な事を言い出したな、と思った。
なぜなら、一般客より先に蓮が搭乗してしまうと、後から乗り込んで来た人が蓮を見つけて集まってしまったことがあってから、俺達の搭乗はいつも最後の方…が暗黙の了解になっていたのだ。
もっとも、撮影クルーと一緒の時はその限りではないのだが。
ただ、蓮がこんな事を言い出した理由は何となく察しがついていた。
たぶんコイツはキョーコちゃんを保護しておきたかったのだ。
機内に着席してしまえば、誰もキョーコちゃんに近寄れなく出来るから。
「 なんだ、先に搭乗したいのか? 」
「 そうですね。安全面を考慮すると出来れば先に… 」
「 敦賀さん、そんなこと出来るんですか 」
「 出来るよ。一般的にはお得意様とか小さい子供を連れたご家族とか、優先させてもらえるだろ。芸能人もそういう感じで扱ってもらえるんだ。航空会社によって対応は異なるけどね 」
「 そうなんですね!さすが敦賀さんです! 」
それで、今回はそうしようということになった。
一般客とは別行動というのが、修学旅行っぽくていいじゃないかと思ったのだ。
窓口に行って蓮と京子、そして自分が二人のマネージャーであることを説明し、優先搭乗の了解をもらった。
搭乗手続きを済ませ、保安検査場で荷物検査を済ませたあと、俺達は誰よりも早く機内に乗り込むことに。
3人でボーディング・ブリッジを渡り始めると、キョーコちゃんがとびきりの笑顔になった。
「 わぁ、グアムに行った時のことを思い出します。あのときは女神様と一緒で、今度は敦賀さんや社さんと一緒で、しかも修学旅行なんて。本当に嬉しいです 」
「 そう? 」
「 はい!社さん、本当にありがとうございます! 」
「 まだ現地に着いてもいないのにお礼を言うのは早すぎるよ、キョーコちゃん 」
「 それより最上さん。耳寄りなことを教えてあげるよ 」
「 はい、何ですか、敦賀さん 」
「 国内線の飛行機って、国際線と違って機内に乗り込む前に靴を脱がなきゃいけないんだ。君、知らないだろ? 」
「 え?うそ、そうなんですか? 」
そんな訳あるか。
いくらキョーコちゃんでもそんなウソに騙される訳がないだろう。
蓮がこんなチープな嘘でキョーコちゃんをからかおうとしているのを少し意外に思った。・・・が、よくよく考えたら昨夜キョーコちゃんを迎えに行きたいと言い出した時から、蓮は心なしか浮かれていたのかもしれない。
それを証明するように、今日も朝っぱらから蓮のテンションがやけに高いことに俺は気づいていた。
だから敢えてそれに水を差すような真似はすまいと、俺は心の中のツッコミを口にしないでおいといた。さすがに騙されるわけないだろうし。
しかしキョーコちゃんはまんまとCAさんたちの目の前で奇怪に動いた。
「 あの、すみません。靴はここで脱いで手に持って入ればいいんですか? 」
「 え?いえ、お客様!履いたままでお願いします 」
「 え、でも 」
「 最上さん。CAさんが困っているじゃないか。靴は脱がずにそのままでいいんだよ 」
「 っっ…!! 」
「 ほらほら、早く入って 」
蓮に背中を押され、有無を言わさず一歩を踏み出したキョーコちゃんと、キュラキュラ笑顔でキョーコちゃんの背中に手を添えた蓮を後方から眺めた俺は、思わず頬をひきつらせた。
優先搭乗はこのためだったのだろう、たぶん。
おーい、なんだかな。
好きな子をこんな風にからかうなんて、お前は子供か。
押されるままに機内に乗り込み、着席したキョーコちゃんの隣で蓮は豪快に笑い倒した。
ちなみにキョーコちゃんが窓際。真ん中に蓮、通路側に俺が着席した形である。
「 は……はっはっは…… 」
「 敦賀さん、ひどい、騙すなんて! 」
「 騙したんじゃないよ。ちょっとひっかけてみただけ。それに、飛行機に乗ったことがあるのに騙される方がおかしいだろう 」
「 おかしいとは思いました!でも敦賀さん、真顔だったし、それに敦賀さんも靴を脱ごうとしていたじゃないですか。だからホントなのかなってつい思っちゃったんですぅ! 」
「 クスクスクス。うん、そうだよな。あんなちょっとの動きで信じるなんて、君は本当に騙されやすい。気を付けなきゃダメだろ? 」
「 やっぱり騙そうとしていたんじゃないですか!それを敦賀さんが指摘しないでくださいよ! 」
「 あはははは… 」
キョーコちゃんの言葉を受けて再び腹を抱えて笑い出した蓮の楽しそうな顔と言ったら。
お前の危機管理能力の高さには本気で脱帽するよ、蓮。それが狙いだったんだろ?
この出来事のおかげで二人は二人だけの世界を築き上ることに成功していた。つまり3時間弱のフライトの間、蓮とキョーコちゃんに近づこうとする者は誰一人としていなかったのだ。
恐らく蓮はそれももくろんでいた。
よもやキョーコちゃんにそれと気づかせぬまま、マネージャーの助けを要しないよう仕向けるとは。
ほんと、侮れないやつ。
「 ご歓談中に申し訳ないんだけど、手続き終わったからそろそろ移動したいんだけど? 」
「 はい、社さん!いつでも準備万端です! 」
「 お前も?いいか、蓮 」
「 もちろんです。ところで、本当に社さんがオール運転手をするんですか? 」
「 ああ、そのつもり 」
だって俺、一応ふたりの引率だし。
それに、旅行だって言うのに給料だって出ちゃうから。出来る仕事はしておかないと。
⇒◇5 に続く
このお話を書くにあたって、実は4月に沖縄旅行をする予定でいたのです。けれど全国規模の外出自粛を受けてあえなく断念。結果、実現に至っておりません。そのためどうしても筆が重く。
連載に当たっては出来る限りの資料を集め、またアメンバー様からお寄せ頂いた思い出話を参考に(募集して本当に良かった!)、妄想力と想像力を結集してお届けしてゆく腹積もりです。そのため、どうしてもリアルと異なる部分が出てくることと思います。それに関してはどうぞご容赦ください。
⇒夕焼けを探しに◇4・拍手
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