夕焼けを探しに ◇8 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら↓

 17】



■ 夕焼けを探しに ◇8 ■





 翌日の沖縄は、残念ながら曇天だった。

 しかも今にも振り出しそうな空模様。


 梅雨だから仕方ないね、と呟いた社さんが修学旅行直前に絶対持ってきてと念押ししていた雨合羽及び軍手と帽子、それから下着を含めた着替えを持って、予定通り私たちは朝7時にホテルを出発。


 その2時間後には、沖縄本島北部、国頭郡東村慶佐次という所に来ていた。



「 はーい、これがみなさんにお渡しするパドルでーす。船の場合はオールという名前ですが、カヌーを漕ぐときに使う櫂のことをパドルと言います 」



 これでお察し頂けますか。

 そうです、私たちはカヌーに乗りに来ているのです。


 ここは国立公園区内で、カヤック体験をしながら国の天然記念物である沖縄本島最大のマングローブを鑑賞できるという所。そこで現在、ガイドさんからカヌーを乗りこなすためのレクチャーを受講中。



「 水かきが両端についているのが見えますか?このパドルで漕ぐことをパドリングと言いますが、サーフィンでボードに腹ばいになり、手で水をかいて沖に出ることもパドリングと言うんですよー。あ、これは余談ですから覚える必要ありませ~ん 」



 真面目な顔だったインストラクターさんが急にひょうきんになった様子に周囲から笑いが漏れる。

 もちろん私も笑ってしまった。


 隣を見ると、敦賀さんも甘く口元を緩めていた。



「 カヤックは、コクピット内部に下半身をすっぽりと入れ、足を伸ばして座ります。そこでパドリングをすることになるのでちょっと漕いだだけでも水飛沫がかかります。濡れるのが嫌だという人はあらかじめ雨合羽を着用してくださいね 」



 なるほど。それで雨合羽が必要だったんだ。

 しかも今日は雨も降って来そうだものね。



 レクチャー時間は30分。

 そこでようやく移動になった。



「 では実際に川に行きましょう。2時間半コースの方はこちらに、1時間半コースの方は向こうのインストラクターの元に移動してください 」



 ちなみに、1時間半コースはマングローブの本流のみを通るツアー。

 2時間半コースはマングローブの本流から支流に入り、状況が良ければ海まで出るツアーで、どちらの場合もガイドさんがマングローブの成り立ちや地域の話をしてくれるらしい。

 社さんが事前に申し込んでくれていたのは、2時間半のコースだった。



「 キョーコちゃん、蓮 」


「 はい! 」


「 はい? 」


「 カヤックは二人乗りだから蓮とキョーコちゃんで乗ってくれるか?俺はガイドさんと一緒に乗るから 」


「 ええ 」


「 はい、了解しました!! 」



 嬉しいなって思った。


 いえ、敦賀さんと一緒に乗れるのが嬉しいってことじゃないわよ?それも決して嬉しくない訳じゃないけれど。



 昨日、社さんは

 敦賀さんのことも私のことも、常に平等に扱うべきだと思っているから…と言ってくれた。あれが本当に嬉しかった。

 あれは間違いなく、社さんの本音なのだと思った。



「 生徒同士で乗船してってことですね。敦賀さん、よろしくお願いします 」


「 こちらこそ、よろしく 」



 余談だけど、2時間半及び1時間半にある30分とは、レクチャーの時間だ。従ってカヤックに乗れる時間は残りの2時間ということ。


 社さんに言われて持って来た軍手は、パドルを操作するときに使うらしい。聞くところによると、カヤックは水面が近いこともあって、手が常に濡れてしまうらしい。

 ふやけた手で長時間パドルを漕ぐことになるので、素手だとすぐに手の皮が剝けてしまうらしいのだ。


 軍手はそれを予防するためだったみたい。



 万が一のための着替えはロッカーに預け

 必需品だけを持ち込んで

 敦賀さんを後ろに私は前に


 迎え入れてくれたプラスチック製のカヤックは颯爽と川面に浮かんでくれた。



「 わあ、すごい。見てくださいよ、敦賀さん。水深10センチぐらいしかないのに浮いてますよ 」


「 確かに 」


「 ははは、それがカヤックの凄いところなんだよ。さあ、漕ぎ出しましょうか 」


「「「 はい 」」」



 社さんの後ろに座ったインストラクターさんの指示で、パドルをゆっくり水面に挿し込む。

 力強く後ろに送ると、カヤックは静かに前に進んだ。



「 わぁ、風を感じるぅ 」


「 本当だね。気持ちいいね、最上さん 」


「 はい!もう大興奮しちゃいます 」


「 では、最初は川の上流を目指します。あっちの方ですよ。ゆっくり漕いでもらって大丈夫なので、途中で休憩したり、前の人と後ろの人で交互に漕いだりしてくださいね 」


「「 はい 」」



 カヤックは、水面により近い分、操作性においては他に類を見ないほどの運動性能があるらしい。

 ちょっとリーニング(傾けること)を掛けただけでもカヤックは簡単に行き先を曲げてしまうのだ。


 敦賀さんから話しかけられるたびに後ろを振り向こうとすると、私の動きを察したカヤックが瞬時にリーニングしてしまって、最初はなかなか上手く前に進むことが出来なかった。



「 ああ、やだ、また方向が曲がっちゃったぁ! 」


「 大丈夫だよ、最上さん。落ち着いて。俺が漕いでバランスを取るから、少しパドルをあげていてくれる? 」


「 はい、すみません 」



 そんなことを何度か繰り返しているうち、振り向き加減も慣れてきた。


 そうこうしているうちにマングローブの本流が見えてきて、気持ちが一気に昂る。



「 うわぁぁぁ、すごい、景色が違うぅぅ!! 」


「 はい、マングローブ本流に着きましたよ。これから森に入っていきましょう 」


「 はい、行きましょう! 」



 生い茂るマングローブはまるで熱帯雨林の植物のよう。

 景色はあっという間に曇天が見えなくなるほどのジャングルに変貌した。


 密林に入り込むと、辺りはマイナスイオンで満ちていた。



「 マングローブというのは、熱帯・亜熱帯地域の淡水と海水が混ざり合う場所に育成している植物のことを言います 」


「 え?そうなんですか?私、てっきりマングローブって名前の植物なんだと思ってました 」


「 そうですね。そう思っている人、意外に多いんですよ。マングローブの種類は現在でも未確定で、それでも100以上あると言われています。マングローブは花や葉、根に明らかな特徴が見られます 」



 ガイドさんの話によると

 満潮時や干潮時による水位の差の影響を受ける場所を潮間帯…と呼ぶらしく、マングローブはその潮間帯に生える植物全般を指す総称とのこと。


 潮間帯は干潮時には陸上の森林のように見えるけど、潮が満ちて満潮になると、まるで海の中に生えている森のよう。


 根に特徴があることから、カヤックを使ったこのツアーは満潮時にしか行うことが出来ないらしく、だから社さんはその時間に間に合うよう、朝7時にホテルを出ると言ったのだ。


 ホテルからこの地までは2時間ほどの距離だった。



「 潮間帯は全部同じ環境ではなく、土壌や塩分濃度、気温や冠水時間などが場所によって異なります。そのため環境条件の差によって、生えてくるマングローブの樹種や大きさが異なるんです 」



 その言葉通り、マングローブの森は進んでゆくほど神秘的な空間になっていった。


 よく見れば枝ぶりも葉の形も違う木々が立ち並んでいるのが判る。


 その景色はまさしくジャングルの奥地。

 まるで密林にいるみたいだった。



 もしかしたらそれは、梅雨特有の湿度の高さが、余計にそう錯覚させてくれたのかもだけど。



「 最上さん、あれ見て! 」


「 え? 」


「 あそこ。木の陰に妖精がいるよ!ほらほら 」


「 えええっっっ?!どこですか、どこ?!敦賀さん、どこですか、どこですか!? 」



 敦賀さんの言葉に私は思いっきり視線を弾いた。意図せず声が大きくなる。


 私の鼻息が荒くなったと同時に、敦賀さんがあーぁと呟いた。



「 あーぁ、残念。最上さんの声に驚いて隠れちゃったみたい。見られなくて残念だったね? 」



 振り向いて視界に収めた敦賀さんの顔は、何かを含んだ笑顔だった。

 その顔を、私は最近、見た事がある。


 どこかと言うと、行きの飛行機の中だ。



「 ・・・・敦賀さん。いま、また私を騙しましたね? 」


「 え?やだな、騙したなんて人聞き悪い。俺は、ひっかけてみただけだよ? 」


「 むきいぃぃぃぃっっ!! 」



 ガイドさんは、私たちのやり取りを見て隣のカヤックで笑っていた。

 社さんと一緒に。



「 …ぷっっ…キョーコちゃん… 」


「 あはは。お二人は仲が良いんですね。あ、これは秘密でしょうか? 」


「 いえ、特に隠すつもりはないので大丈夫です 」


「 そうですか、それは良かった。後日、自慢話が出来ます。では今度は海を目指しましょうか 」


「「「 はい! 」」」




 9時30分にツアーを出発し、1時間ほどかけてマングローブの奥へ来た私たちが今度は海に向かって漕ぎだす。


 鬱蒼と生い茂っていたマングローブの密林を抜け

 川から海へ。


 一気に視界が開けた時の解放感は、本当に感動的だった。




「 わぁぁ、敦賀さん、見て!見てください、海を!! 」


「 ん?…っっ…ああ、すごい、凄い澄んでるね 」


「 水底まで見えそうじゃないですか?!すごいキラキラしています 」


「 シーカヤックは普通の船よりも水面が近いので、昼間であれば海の中を肉眼で観察することも出来るんですよ。どうぞお時間までご堪能下さい 」


「 はい!本当に凄いです。覗き込んでいるだけなのに、まるで海の中に飛び込んだみたいな気分になる 」


「 確かにね 」


「 キョーコちゃん、蓮 」


「「 はい?? 」」


「 大自然、堪能してる? 」


「「 そりゃあもう! 」」



 その後、4~50分ほど私たちは波に揺られ、海中の地形やサンゴ礁、熱帯魚などを鑑賞した。

 幸いなことに空は曇天のままで雨は降って来ず、けれど喉はカラカラになった。

 カヤックに乗り込む前に、私たちは自販機でペットボトルの水を購入していたのだけど、ツアーが終わる頃にはそれは空になっていた。



「 ではお時間となりましたのでツアーはこれにて終了となります。海から上がりましょう 」



 カヤックは、水かきが両端についたパドルを自分で漕ぎ、水上を進むアクティビティ。

 ほとんどのカヤックは二人乗りで、自分たちのペースで進むことが出来る。


 海の地形や雄大な景色を楽しみながら、ゆっくり進んだり、スピードアップをして風を感じてみたり、様々な楽しみ方が出来ると思った。



「 ありがとうございました。とっても楽しかったです 」


「 こちらこそ、ご参加いただきましてありがとうございました 」



 余談だけど

 私たちのガイドを誰にするか

 スタッフさんたちはジャンケンで決めていました。



「 意外と汗だくになっちゃったな。着替えるか、蓮? 」


「 着替えたいですね 」


「 私も着替えたいです。雨合羽とライフジャケットのダブルで汗びっしょり 」


「 よし。じゃ、着替えをして集合ってことで! 」


「 はい 」



 こうして修学旅行2日目の午前中は、沖縄の大自然を満喫して終了した。






 ⇒◇9 に続く


カヤック体験は全て私の想像力で執筆しました。



⇒夕焼けを探しに◇8・拍手

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