SS 農学博士の偉大な研究◇その5 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら⇒【その1その2その3その4番外1】


農学博士の偉大な研究

■ その5 ◇花が咲く理由 ■





 ユキちゃん管轄・農学研究室管理のチューリップ畑から、山ほどチューリップをもらって帰った翌週の金曜日。

 再びユキちゃんから招集がかかった。



『 キョーコちゃん、ヘルプ!チューリップを取りに来て!! 』



 もはや差し入れ要求さえないユキちゃんからのヘルプコールに、私の口から笑いが漏れる。


 実はユキちゃんからこんなメールが来ることは予想済みだった。なぜかと言うと、農学研究科がチューリップを育てている理由は花を咲かせるためではなく、チューリップの球根を秋の文化祭で一般販売するためだからだ。


 チューリップの球根はある程度大きくなると子球が出来て、それを分球することで数を増やすことが出来る。つまり、肥料と水やりの手間以外の費用を抑えることが出来るのだ。

 そのため、今は球根を育てる目的で、咲き始めの花首を折って球根の生長を促さなければならないのである。


 ちなみに、販売で得られた利益が研究費の足しになるというわけ。



 どうやらゴールデンウイーク直前になって、いよいよユキちゃんは焦ったみたい。

 私はクスクス笑いながら手短にメールを返信した。



『 了解。帰って着替えてから行きまーす!ところで、今日は敦賀さん、いる? 』


『 ・・・・いるけど 』



 やった、いるんだ!



 気分が高揚するのが判った。

 敦賀さんに会えたら話したいと思っていたことがあったのだ。



 ありがとう、行くね!とメールを返信し、家に着いた私は意気揚々と着替えを済ませて速攻大学に向かった。


 私にとってLME総合大学キャンパスは慣れ親しんだ敷地だ。

 最も、そうなったのはユキちゃんが大学にいるからであって、それまで私は母の職場である事務棟ぐらいしか行ったことがなかった。



 チューリップ畑に直行すると、たくさんの人が作業をしていた。中には家族連れの姿もある。

 つまり、恒例なのである。



「 ユキちゃん、来たよ 」


「 おー、キョーコちゃん、よく来た、エライ!花はいくらでも持って行っていいから、少しばかり労働力を提供して 」


「 あははは。はーい、了解。・・・・・ところで、敦賀さんは? 」


「 それ、な。メールでは敢えて聞かなかったけど、アイツに何の用事? 」


「 用…ってほどじゃないんだけど、この前、授業でプランクトンについてやったばかりだから、それで敦賀さんから何か面白い話が聞けたらなって思っただけだったんだけど 」


「 それだけ? 」


「 それだけだけど? 」


「 ふーん。・・・・蓮なら、向こうのハウス 」


「 あ、もしかしたらこの前の、海草が入った水槽が置いてあるとこ? 」


「 そ 」


「 ちょっとだけ行って来ていい?ユキちゃん 」


「 いいよ。ついでに、とっとと終わらせてこっちを手伝えって言って蓮を連れてきて 」


「 うん、分かった! 」



 急ぎ足でそちらに向かった。

 ハウスはこの前と同じようにすべての窓が開け放たれた状態だった。

 だから近づいただけで話し声が聞こえてきて、それで気づけた。


 敦賀さんだけじゃなく、そこに複数の女性もいるってことに。



「 水草もこうしてみると綺麗ねぇ 」


「 ホントね。思わずこの前の水族館を連想しちゃう 」


「 言えてる!!ねぇ、また水族館に行きたくない? 」


「 えー、行きたい!じゃあさ、このメンバーで水族館に行くってどう? 」


「 それ、いいと思う!ね、敦賀くんも一緒に行きましょうよ。それで海洋生物のことを私たちに色々教えて? 」


「 ・・・・・別に、いいけど 」


「 きゃー!やった!! 」


「 じゃあいつにする?ゴールデンウイーク期間中でも平気? 」


「 私たちはいつでもオッケーだから、敦賀くんに合わせる。その方が楽でしょ、敦賀くんは 」


「 まぁね。ただ、その前に確認したいんだけど・・・ 」


「 ・・・・・・・ 」


 一応、ユキちゃんにお願いされたからハウスに入ろうとしたけれど。


 敦賀さんを取り巻いていた3人の女性のうちの一人が私に気付き、思いっきり私を睨んだ。それで私は180度方向を変えた。

 敦賀さんはたぶん、そのことにも私にも気付かなかったと思う。



 睨んできた女性は、この前の水族館で敦賀さんに、子守りは終わったかと笑いながら近づいて、敦賀さんの腕に絡みつこうとした人だった。


 そのシーンをリフレインして面倒くさいって思った。


 こういう場合、触らぬ神に祟りなしって言うから。

 私自身は敦賀さんの話を聞くのは別に今日でなくても構わない。だからいいのだ。


 そういうのって、本当に面倒だし!




「 あれ、キョーコちゃん。敦賀くんを呼びに行ってくれたんじゃなかったっけ? 」


「 そのつもりだったんですけど、お取込み中のようでしたのでやめてきました 」



 緒方さんの質問に答えた私のそれに、村雨さんが作業の手を止め、眉尻を思いっきり吊り上げた。



「 お取込み中?何してたんだよ、あいつは 」


「 聞こえた範囲でお答えすると、どうやら複数の女性たちとゴールデンウイークの予定を埋めていたみたいです 」


「 なんだと?そういうのは邪魔して来ればいいんだ!もう一度行って邪魔して来い! 」


「 ヤですよ!!近づこうとしただけで睨むような女性が一緒だったんですよ。そんなことしたらこっちにどんな火の粉が飛んでくるか判らないじゃないですか。そんなこと言うなら村雨さんが行って来てくださいよ 」


「 あら、キョーコちゃん、可哀想に。女の嫉妬を受けちゃったの?相手にされてもいないクセに醜いわねー。最悪 」


「 私は平気です。誰もが香凪さんみたいに余裕がある訳じゃないってことぐらいは知っていますから。ただ、私相手に大人げないなと思うだけです 」



 言いながら軍手を拾って花壇に踏み入り、私も作業に加わった。

 すると、私よりよっぽどお花が似合う緒方さんがクスリ…と笑った。



「 大人げない…ね 」


「 なにか反論でもあるんですか、緒方さん? 」


「 んー?反論って訳じゃないけど、年齢は関係なかったんだろうなって思って 」


「 ありますよ!だって子供は近づくなって目でしたから!でも私から言わせてもらえば、子供だと思っている相手に近づくなオーラを全開にするなんて、心が狭すぎると思っちゃいますけどね! 」


「 は?……っ……ふ……ふふふ 」


「 どこも面白くない!! 」


「 ああ、違う、ごめんね。いま僕が笑ったのは、キョーコちゃんが自分のことをよく分かっていない風だったからだよ 」


「 分かってるもん 」


「 そうかなぁ?人って結構自分のことには無頓着なもんだよ。

 たとえばキョーコちゃんは、いまどうして僕たちがチューリップの花を手折っているのか知ってる? 」


「 もちろんです。球根にエネルギーを蓄えさせるためですよね。球根類は、芽を出したり花を咲かせたりするときに球根内にあるエネルギーを使ってしまうから、それを使い切っちゃう前に花を手折って、それ以上のエネルギーを使われないようにするんですよね。それで、残った茎や葉が光合成をすることでまた球根にエネルギーが蓄えられて、ついでに子球根も作られる 」


「 そう、そう。さすが、社教授仕込み。じゃあね、どうしてチューリップの花は咲くか知ってる? 」


「 えー?それは、そういう時期だからじゃ… 」


「 それを言っちゃうと身も蓋も無いでしょ。だからもうちょっと深く考えてみて?そもそもチューリップは花を咲かせるために、球根に蓄えた大量のエネルギーを使い切っちゃうんだよ。でも、どうして花を咲かせる必要があるの?だってチューリップは球根で増えていく花なのに 」


「 ・・・・・あれ?ほんとだ。そんなこと、考えたこと無かったかも 」



 朝顔は咲いたあとにやがて黒い種が出来るけど

 チューリップは大きな球根の周りに新たな球根が生まれて数が増える植物だ。


 だとしたらなぜチューリップに蕾を付ける必要が?

 どうして球根を痩せさせてまで花を咲かせる必要があるんだろう?



 考えながら私はもう咲いてしまっているチューリップの花を覗き見た。その中央にはおしべとめしべがちゃんとあった。



「 改めて考えるとすごく不思議ですね。普通、花は咲くことでおしべとめしべが受精して、それで種が残るんですよね。でも、チューリップは? 」


「 さすが、キョーコちゃん、それでいいの、正解。植物がね、花を咲かせるのは種子を残すためなんだ。それはどんな植物でも同じだよ。花が咲いたあとには実が出来て、やがて種が出来るの 」


「 チューリップも?知らなかった 」


「 もちろんチューリップも。でもね、チューリップに種が出来るのは稀なんだ。なぜかと言うと、チューリップには自家不和合成という性質があるから 」


「 自家不和合成?知らない言葉。どういう意味ですか? 」


「 自分の花粉が自分のめしべについても種が出来ないことを自家不和合成って言うんだ。チューリップは他の株の花粉がめしべにつくことで初めて種子が作られる植物なんだよ。

 一般的に、球根を使って仲間や子孫を残していく方法を無性生殖、または栄養生殖と言うんだけど、そういう風に身体の一部から育つ生物は全てクローンなんだ 」


「 ・・・ということは、このチューリップたちは全部クローンで、だからこっちとこっちで受精をさせても種は出来ないってこと? 」


「 そういうこと。種子で増やす場合、オスとメスの二つの性質が交じり合うわけでしょ。つまりそうして出来たチューリップの種は親と同じ種類じゃないんだ。

 植物が花を咲かせるのは単純に、自分の種族を存続させるためばかりではなくて、チューリップのように新たな種族を生み出すためって場合もある 」


「 えー、知らなかった。そうだったんだ 」


「 それを考えると人間はチューリップより過酷だよ。なぜなら人は自分ひとりでは血を残せないんだから。だからその女性はキョーコちゃんを睨んだんだよ。キョーコちゃんと自分の立場は対等だと分かっているから 」


「 対等?どこが。その人、このまえ水族館で敦賀さんに、子守り終わった?って聞いてきた人なんですけど。それって対等じゃないですよね? 」


「 それは牽制だな。少しでも自分を有利にするための 」


「 村雨さん 」


「 てめーが生き残るための戦略ってことだ。それなりに必死ってことだろ。自分の血を繋ぐための相手を選択できる自由ってのが人にはある。そこが植物との決定的な違いだ 」


「 だね。だから人は相手を求めるし、ライバルを蹴落としたくなるものなんだ。キョーコちゃんだって、今はまだそんな自分を想像出来ないかもしれないけど、きっといつか気づくよ。そんな感情が自分の中にもあるってこと 」


「 残念ながら、そういう感情が世の中にあるってことは分かっているつもりです。だから面倒くさいって思って放って来たんですから。でも私自身はそういうことに全く興味がないんデス。異性とか恋愛とか、どうでもいい 」


「 ほら、見なさい。だから私に任せてくれればいいのに。社くんってば… 」


「 香凪さん、何か言いました? 」


「 うん、ちょっとね。私もキョーコちゃんと同じって言ったのよ。私も異性には興味ないから 」


「 えー?香凪さんもそうなんですか?メチャクチャ意外です。だってそんな、いかにもモテそうな感じなのに、もったいない 」


「 あら、嬉しいことを言ってくれるのね、キョーコちゃん。じゃあ、どう?異性に興味が無い者同士で今度どこかに遊びに行かない? 」


「 えー、いいです、お断りします 」


「 即答なんて悲しいわよ、キョーコちゃん 」


「 すみません。でも、この前ユキちゃんから言われたんです。香凪さんとは二人きりにならないようにって 」


「 …社くん、なんてことをっ! 」


「 それで私、いよいよなのかなってドキドキしていたんですけど!実は私、密かにユキちゃんと香凪さんのことを応援しているんです!どうなんですか、香凪さん? 」


「 やめてよ、キョーコちゃん。さっきも言ったでしょ、異性に興味はないって。社くんとも絶対ナイ 」


「 ・・・・ダメですか?ユキちゃん、すっごく優しいし、いい人なのに 」



 高まったテンションがあっけなく折られてしまって、しゅんと視線を沈めてしまった。

 祈るように組んだ自分の両手をしおらしく見下ろすと、左手に蕾のチューリップをたくさん抱いた香凪さんが、まるで懐かしむように笑った。



「 人のことより自分のことよ、キョーコちゃん。ここだけの話だけどね、この前の社くん、そりゃあ面白かったのよ。忙しく百面相をしていて 」


「 百面相?ユキちゃんが? 」


「 そうよ。自分でプリンを持って行けって言ったくせに、3分と経たないうちに、遅くないか?妙に静かじゃないか?二人でよからぬことをしているんじゃないか?…ってね。笑っちゃったわ 」


「 あー、それ、ユキちゃんから実際に言われました。良からぬことをしているんじゃないかと思ったって 」


「 でしょう?あのときね、あんまり鬱陶しいから、心配なら見に行けって蹴っ飛ばしてやったの 」


「 あー、あははは。あのとき、そうだったんだ 」


「 おかしいわよね。今日だってなにあれ。どんな用事?なんてわざわざ確認するなんて 」


「 ん? 」



 ・・・・・あら?・・・・何やら雲行きが・・・。



「 自分で決めた後任候補に今から任せることが出来なくてどうするつもりなのかしら、社くんったら。海外に行ったらすぐに帰ってくるなんて無理だって、最初から分かっているからこそ目星をつけた後任でしょうに。ねぇ、キョーコちゃん? 」


「 ……っ……海外? 」



 きょとんとした私の目の前で

 緒方さんと村雨さんが焦った様子で同時に香凪さんの背中と腕をつついた。


 でも香凪さんの発言は決して失言ではなかったみたい。なぜなら、そうされても香凪さんに焦った様子はひとつも見られなかったから。



 大きく目を見開き、唇を結んだ私に向かって、香凪さんは小首をかしげてニコっと笑った。



「 ほら、社くんってばすぐどこかに飛んで行っちゃうでしょ?半年前のシルバーウイークの時もそうだったじゃない。カリブ海のどこぞの国に行っちゃってたでしょ 」


「 あ、うん、確かに・・・ 」



 確かにそう。

 確かにユキちゃんは半年前、海外に行っていた。



 でも、念押しするようにそう言われてむしろ違和感を抱いた。



 今の、緒方さん、村雨さん、香凪さんの様子から察するに、ユキちゃんが海外に行くのは決定事項のように思える。

 だけど、もしかしたらそれを、私には内緒にしているってこと?



 ユキちゃんはいつも

 国内の場合はその限りではないけれど、海外に行くときは必ず私にその予定を教えてくれていた。



 だから半年前の海外旅行のときも、だいぶ前から私に行って来ると宣言してくれていたのだ。


 だけど、今の話はなに?私は何も聞いてない。


 つまり、なに?私には言いにくい話ってこと?

 つまり短い旅行じゃないってこと?



 チューリップ畑で立ち尽くした私の瞳に敦賀さんが映りこんだ。

 どうやらハウスから出てきたらしい。


 瞬間、私と目があって、敦賀さんは笑いかけてくれたのだけど

 私は八つ当たりの如く無表情でそっぽを向いた。



 疑問が思考を席巻していた。そのくせ、後任候補ってなんですか?なんて疑問はどこかに消え失せてしまっていた。






     E N D


このシリーズは10話完結の見込みとなりました。残り5話(プラス番外あり)にもお付き合い頂けたら嬉しいです。



⇒農学博士の偉大な研究◇その5・拍手

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※続きはこちら⇒農学博士の偉大な研究◇その6



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