いつもお付き合いくださりありがとうございます。
この連載は一葉のハートを救済するためのものです。
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パラレルが苦手な方、蓮キョ以外に興味がない方、知識系のお話に興味がない方は回れ右をお願いします。
ところで、なんか長くなっちゃうんですよね。それもいつものことと言えばそうなのですが。
その1はこちら⇒農学博士の偉大な研究・その1
農学博士の偉大な研究
■ その2 ◇出発点 ■
謝恩会が終了し
お別れ会が終了し
卒業式も終わったというのに私の心は曇っている。
なぜか…と言えば
ユキちゃんからお祝いをされていないからだ。
確かに自分の誕生日の頃、日々私は受験勉強に勤しんでいた。そして同時期、ユキちゃんがサケの遡上を見に行っていたらしいことを知る。
その恩恵と言えるだろう、回るお寿司は確かに美味しかったけれど、あれが私へのバースディ祝いだったのかも、なんて発想転換できるほど私はデキた幼なじみではないのだ。
だってユキちゃんはこう言っていた。
単にサーモンが食べたくなっただけだって。
だから私は不満なのだ。
何しろ物心ついた頃にはこう私は宣言していたのだから。
『 私、ユキちゃんからお祝いをされなきゃ歳をとらないことにする! 』
またあのお寿司屋さんでウナギの握りを食べたいな、と思うから、是非ユキちゃんには甘えてみたいと思うけど。
でも誕生日のお祝いで♡…なんて自分から言うつもりは毛頭ない。
なぜならユキちゃんから言って来て欲しいから。
キョーコちゃん、お誕生日おめでとうって。
……そう言ってくれるだけでいいのに……。
こういう事を同級生に話すと、まるで恋人みたいと言われて羨ましがられたりするけれど、それを聞くたびになんて低レベルな思考かしらと毎回考えるに至り、以来誰にも話していなかった。
だから不満も溜まり気味。
ネコの額ほどの居間からネコの額ほどの庭を眺め、ふと、懐かしい思い出が沸きだす。
物心がついた頃…と言えば、ユキちゃんと出会ってから迎えた最初の夏、私はユキちゃんと二人でこの庭の手入れをしたのだ。
今でこそ綺麗に整えられている我が家の庭は30㎡ほどしかなく、けれど忙しかった母の手は庭までとても回らなかった。
私が小さかった頃は雑草ばかりが生えている不快な庭でしかなかったのだ。
なのに。
そんな殺伐とした我が家の庭がユキちゃんの目には特別区域のように映ったようで、雑草が鬱蒼と生い茂った我が家の庭をまるで宝箱みたいだね、とユキちゃんは私に言ったのだ。
「 すごいね、キョーコちゃんのお家。まるで自然の宝箱だ。こんなに草が生えているなんて 」
「 本当にすごいのよ。だって蚊とか虫とかいっぱいいるの!嫌だよ 」
「 そうか、キョーコちゃんは嫌なんだ。そうだよね、これじゃ庭で遊べないもんなー。じゃ、俺が片付けてあげようか? 」
「 え?ユキちゃんがぁぁ? 」
冬は雑草も枯れるけど、お盆になると悲惨になる。
たぶん、お母さんは期待していなかったと思うけど、ユキちゃんが少し変わっていることはもう知っていたに違いなくて、だからユキちゃんからの申し出を断ることはしなかった。
ちょうど夏休みだったこともあって、その翌日からユキちゃんは庭の手入れに来てくれて、私もそれを手伝った。
もっとも、4歳の私では役に立つどころか、邪魔だったに違いないけれど。
「 よし、やるか!おー、すごいね、色んな種類の植物がいっぱいある 」
「 種類?種類なんてあるの?だってこれ、みんな雑草だよねぇ? 」
私がへの字口になってそう言うと、ユキちゃんは面白そうな顔で人差し指をユラユラと揺らした。
「 キョーコちゃんはまだまだだね。雑草っていうのはね、人の手を借りずに自然に生える草の総称のことなんだ。だから草の一つ一つにはちゃんと名前がついている。例えば、キョーコちゃんはたんぽぽを知ってる? 」
「 知ってるぅ 」
「 たんぽぽだって雑草だよ? 」
「 えー?名前があるのにぃ? 」
「 だから、雑草にも一つ一つにちゃんと名前があるんだよ。ほら、これもそうだよ、見てごらん? 」
導かれるまま雑草を見て、ユキちゃんからの講釈を聞いた。
引っこ抜いては講義、引っこ抜いては講義で進みは遅々としたものだったけれど、不思議と飽きることはなかった。
2時間があっという間に過ぎ去って、それ以上は暑いからやめようということになり、たぶん庭をきれいにするのに2週間以上はかかったんじゃなかったかな。
「 雑草はね、2000種類ぐらいあるって言われているんだ。うち、動物や人にとって危険だと言われているのが100種類以上。だからね、庭に生えているからって、素手で雑草を抜いたりしたらダメだよ。必ず手袋や軍手をするんだ。中には毒を持った雑草もあるからね 」
「 そうなの、わかった! 」
「 ほんとか(笑) ほら、これを見てごらん。アカザ、シロザ、スペリヒュ。こっちはカヤツリにカタバミ、エノコログサだ。まるで雑草博覧会だな 」
「 ユキちゃん、これエロコログサ?でもこれ、猫じゃらしよ? 」
「 今はそう言われるね。でもこの草の名前の由来は犬の尾に似ている所からついたんだ。狗尾草ってね。エロコロじゃないよ 」
「 そうなの。イヌからネコに変身しちゃったのね 」
「 ぷっ! 」
「 ・・・・・なにかオカシイ? 」
「 いや、かわいい発想だなーって思って。雑草の種はね、機械的な影響を恐れず、5~40年ほど発芽能力を保持しているんだ。抜いてもすぐ生えて来ちゃうのは、だからだよ 」
「 え。抜いても生えて来ちゃうの?この、いま抜いたのもまた生えて来る? 」
「 うん、そうか。キョーコちゃんはまだ4歳だもんな 」
雑草を抜いている間に虫の死骸を見つけたりして。
そもそも死骸だけじゃなくて、生きているムカデやクモもいたのだけど、それらを見つけるたびに虫怖い!…と言っていたら、それに我慢が出来なくなったのか、ユキちゃんはそもそもクモは虫じゃない、と説明してくれたりもした。
ちなみに、クモって動物だって、知ってた?
二人で汗をかきながらの作業だった。
ユキちゃんは毎日楽しそうに雑草を抜いては観察していた。
この人の少年時代は間違いなく、農学博士となるべく…だったのではと思う。
そう言えば、数年前。
我が家の庭にGが来て、私が少々パニックになったことがある。
私は小学3年生ぐらいだったか。
ユキちゃんは大学生になったばかりだった。
「 いやー、殺虫剤!殺虫剤!天中殺!! 」
取り乱した私が、闘い出した途端にユキちゃんは冷めた目で私を見て、私の手から殺虫剤を取り上げると、あろうことか私の目の前で勢いよくGを踏み潰した。
問答無用の電光石火行動だった。
「 …っ!!!やだ、ユキちゃん、なんでここで殺すの?!いやぁぁぁ……こわっ!! 」
「 言っておくけど、俺から言わせると怖いのはキョーコちゃんの方だからね? 」
「 なんでよ!?だって怖いじゃない。いつこっちに飛んでくるか分からない恐怖があるでしょう? 」
「 あのね、ゴキブリはそもそも… 」
「 名指ししないで!!Gって言って!! 」
「 ・・・Gはそもそもあまり目が良くないんだ。だから確かに飛んで逃げることもあるけど、そんなのは稀。なぜなら視力が良くないからどこに飛んで行ったら安全かが分からないから。けど、自分の体色と同じ色を見分けるぐらいはできるから。黒いところに隠れようとして飛んでくるのかもだよね 」
「 え・・・ユキちゃん、それって…。この髪の毛の中に隠れようとして飛んでくるかもってことぉぉぉ? 」
さすがにこの時はゾッとしたよね。なんて説明してくれるんだって思った。
だから平然とした顔で淡々と説明してくれたユキちゃんを少しだけ憎らしく思ったのだ。本当にちょっとだけど。
「 まぁ、そうだね 」
「 いやだ、怖い!!余計に怖くなった!!恐怖すぎる!! 」
「 だから、俺から言わせたらキョーコちゃんの方が怖いって。そもそも、殺虫剤なんかで殺すと予期せぬ事態が発生しやすい。今みたいに外で殺すなら尚更だよ。だってキョーコちゃん、俺が踏み潰したこれ、たぶんキョーコちゃんは片づけたりしないだろ? 」
「 当たり前だし!だいたい、ここで死んで欲しくなかったし!!逃げた先で人知れずコロっと逝って欲しいのに!!! 」
「 キョーコちゃん。それ、一番ダメなパターンだよ。全ての命は循環しているんだ 」
「 はい? 」
「 もし今日、キョーコちゃんが殺虫剤でやっつけようとしたGが別の場所で死んだとしよう。その死骸を野鳥が食べたらどうなると思う?あるいはモグラが食べたら?もしアリが巣に持ち帰って食べたら?何も影響がないと本気で思える?自分たちは、汚染水が流れた川で獲れた魚なんて怖くて食べられないって言うくせに 」
「 …っ…そりゃそうでしょ、だって…!! 」
「 だってじゃない。農業に大きな打撃を与える害虫は適切な方法で駆除すべきだと俺も思う。けど例えばGを殺すのに殺虫剤や毒入りのエサを食べさせる駆除方法はよろしくない。
その強い殺傷効果が他の生態系を壊す可能性は十分にあるんだ。例えば魚がそれを食べたとする。虫を食べる魚は普通にいるよ。その魚をさらに大きな魚が食べ、またさらに大きな魚が食べ、最終的には食物連鎖の頂点に立った魚が食卓に上るんだ。自分には関係ないなんて思っていたら思わぬしっぺ返しが来る。たった一つの出発点から問題は大きく膨れ上がるんだから 」
「 そんなこと、言われても… 」
子供ながらに確かにそうかもしれないのかもと思ったけれど、それは自分のせいだろうかとも考えた。
違う。確かに自分のせいはあるかも知れないけれど、それは私のせいだけじゃない。
そう思うのに、ユキちゃんから責められている気分を払拭するには至らなかった。
だって、私はそういうのを考えたことがなかったから。
「 例えば現在、農業ではキツイ農薬を撒くことは少なくなっている。けれど、低農薬の薬を撒いたはずなのにトンボのアキアカネはいなくなってしまった。それがどういう事かキョーコちゃんに判る? 」
今の私にはこれが判る。このあと自分なりに調べたから。
大きな生き物には効果が出ない微量な農薬でも、体内に農薬を蓄積した小さな虫をトンボのヤゴが食べる事でヤゴの体内で農薬が濃縮され、ヤゴが死んでしまった・・・という出来事があったのだ。
他にもこんなことがあった。
高級食材と言われているマツタケは、アカマツ林に生えることが知られているけれど、そのアカマツが枯れる原因はマツ材線虫という線虫が原因だという。
その線虫を広めるのがマツノマダラカミキリなのだとか。
そこで人は、マツノマダラカミキリを殺すために、ホルモン剤を撒いたらしい。するとその薬は他の昆虫にも効いてしまって、マツノマダラカミキリ以外の虫も大量に死んでしまったのだとか。
結果、昆虫を餌にしていた鳥や小動物にまで害が及び、山全体の生態系に大きな打撃を与えてしまったらしいのだ。
そのホルモン剤は人に害はなかったけれど、思わぬ弊害を生んだのだ。
人間は、それと意図せず簡単に世界を壊せる力を持っている。
そうなる原因の一つに無知…というものがあるとユキちゃんはいつも言っていた。
だからユキちゃんは頑張ろうと思ったんですって。
世界がそんなことにならないよう。
視線を沈めて、何も言い返せずシュン…としてしまった私に言い過ぎたと思ったのか。
このときユキちゃんはごめん、と呟いてから、キョーコちゃんに言っても仕方ないのにな、と深く頭を下げてくれたのだけど。
そんなユキちゃんを見て
私は一層強い想いを抱いた。
違うの、ユキちゃん、そうじゃない。
ユキちゃんは偉い。
ユキちゃんは優しい。
ユキちゃんは凄い。
だから謝らないで、ユキちゃん。
だってユキちゃんは私の自慢なのだから!!
そんなユキちゃんから、バースディを祝ってもらわなきゃ歳を取らない…と私が宣言したのは何がきっかけだっただろうか。
そんなことはもう忘れちゃっているけれど。
「 ユキちゃん、私の誕生日を忘れちゃったのかなぁ…っ… 」
遅れることもあったけど、毎年必ず祝ってくれたから、無ければないでやっぱり寂しい。
でも、仕方ないのかな。
私はもう高校生になるのだし
ユキちゃんは若干24歳ながらLME総合大学農学研究科で教授のポストにつき、毎日忙しそうに仕事をこなしているのだもの。
…いえ、夏に誕生日が来たはずだから、ユキちゃんはもう25歳になっているはず。
私はまだ14歳だと言い張るつもりでいるけれど。
思い出に浸りながら、ぼーっと庭を眺めていたら、突然クラッカーが弾けた。
たぶん、クラッカーだと思う。
はっきり断言できないのは、音以外に何の変化もなかったから。
でもそのあとすぐ、ユキちゃんが庭に現れた。
「 キョーコちゃん 」
「 ユキちゃん。・・・・・今の音、なに? 」
「 クラッカーだよ。土の上にゴミを撒くわけにはいかないデショ。だから音だけクラッカー 」
「 ふっ… 」
その理由が実にユキちゃんらしいと思った。
「 キョーコちゃん。遅くなっちゃったけどプレゼント進呈 」
「 え? 」
「 春からウチの高校に通うんだよね? 」
「 うん!うん、そう!! 」
かつてユキちゃんも通ったLMEの学び舎。
進学するなら絶対そこと決めていた。
「 その入学祝いとバースディプレゼントを兼ね、水族館にご招待♪はい、あげる 」
「 水族館?わぁ、嬉しい!!あ、チケットに日付が入ってる? 」
「 そ。いま春休みだから平気でしょ?予約を取っておいたんだ・・・って言いたいところだけど、実はそれ、うちの研究科の子たちを連れて行くやつだったりして。それが1枚余ったんだ。そんなのでごめんね?それとも別の何かがいい? 」
「 ふふ、ううん、これでいい!そんなことまで気にしなくていいよ!ありがと、ユキちゃん!私、やっと15歳になれた気分! 」
「 それは良かった。遅くなってごめんね? 」
謝りながらユキちゃんは表情を曇らせてしまった。
もしかしたら当日の事を考えて不安になってしまったのかも。
心配しなくていいよ、ユキちゃん。
だって私はユキちゃんのお仕事の邪魔をする気はないから。
だから当日は離れて行動してあげる。
それなら安心して仕事に励むことが出来るでしょ。
心配はいらないわ。
だって私はいま15歳になったんだから。ねっ!
E N D
前回、キョーコちゃんが中学卒業・14歳ですって言っているそれに誰かツッコミ入れて来るかなと思っていたのですが。どうやら気付かれなかった?
…か、一葉、ボケてんな、ぐらいに思われたのだろうかww
どっちでもいいけど。
⇒農学博士の偉大な研究◇その2・拍手
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※続きはこちら⇒農学博士の偉大な研究◇その3
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