キケンなメに遭いましょう | 有限実践組-skipbeat-

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こちらは蓮キョ中心、スキビの二次創作ブログです。


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 いつもありがとうございます、一葉です。

 弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、sei様からお与かりした記念リクエストの最終話その後のおまけをお届け致します。



 本編こちら⇒キケンなメに遭いたいの?<18>



■ キケンなメに遭いましょう ■





 それからキョーコは幾日も経たずに蓮の家へ引っ越した。


 家賃は約束通り、学生支援機構が提供していたのと同じ月9万円。


 シェアハウスは家に誰も連れ込まないことを条件としていたが、キョーコが来てから蓮は別の条件も盛り込んだ。



「 食事は君が作ること。そして食費代は毎月の家賃で賄うこと。その方が手渡しとか振り込みとかの面倒がなくていいだろ 」


「 いぃぃぃぃっっ?!それって敦賀さん、私たちの食費は毎月9万円でやりくりするってことですか!? 」


「 そう。あ……少なすぎるか、ごめん。だったら俺がいくらかそこにプラスして… 」


「 めっっっっっそうもございませんっっっ!もちろん9万円で大丈夫でございます!! 」


「 ほんとに?じゃあ、それでよろしく 」



 このあと、キョーコは大いに悩んだ。

 なぜあのとき大丈夫と言い切ってしまったのか。



 ひと月9万円の食費ということは、すなわち一日が3000円ということに。

 ひいては一人一食分が500円ということだ。


 そう考えると何とかなりそうな気はするが、けれど実際には毎日3食必要となることはまずあり得まい。


 蓮の毎日が目まぐるしいほど忙しいことは以前から承知しているし、場合によっては深夜の帰宅になることだってある。

 それに、いま一緒の現場だから良く判るのだ。大河の現場はかなり気を使ったお弁当を毎日用意してくれている。

 つまり、蓮がこの家で食事をする回数は一日3回どころか1回あればいい方だと予想できた。


 弁当を作るにしても限界はあるし、月9万円などどう考えても使い切れない。



「 9万円なんてムリよ!!いっそ9000円でやりくりしてくれって言われた方が楽だったわ!! 」



 安い食材を使って美味しい料理を作ることにやりがいを感じられても、意図的に高い食材を購入して普通の食事を作ることに抵抗があるのは自分が庶民だからだろうか。



 結局、シェアハウスと称した蓮との初同居で、もうすぐ一ヶ月…という頃になって、キョーコは5万もの大金を残した。

 言わなければ分からないものを、それをキョーコはちゃんと蓮に告白した。残ったそれをちゃんと家賃として納めようと考えたのだ。



 すると蓮が



「 そっか、残ったんだ。そうだよな、俺、ほとんど家で食べなかったし 」


「 そうなんです。なので残りは家賃として敦賀さんにお渡ししたく… 」


「 じゃあ外食でもしようか 」



 …と切り出した。



「 へ?外食? 」


「 そう。それなら使い切れるだろ。そうだ、これからそういうことにしよう。月9万円の食費が使い切れなかった場合は残ったお金で外食する 」


「 え…でも……5万円ですよ? 」


「 そうだね。5万もあればそれなりに美味しいものが食べられると思うよ。君もそのうちプロデューサーや映画の配給会社の人とそういう所に食べに行く機会も出てくるだろうし、だとしたら経験しておくに越したことはない。うん、我ながらいいアイディアだ 」


「 え…でも…… 」


「 もちろん分からないことがあるなら俺が教えてあげるし。その時はどこで誰に見られても胸を張れるように君の服は俺が用意してあげる。俺もそれなりの服を着てちゃんと君をエスコートするから何も心配しないでいいよ。あ、店も俺が探しておくから 」 ←お前、確信犯だろう・笑


「 は?いえ、それ、おかしいでしょ!!! 」



 当然、キョーコの意見は却下され

 後日、キョーコは蓮が用意してくれた明らかに外食代より高いだろうと思われる服に身を包み、蓮にエスコートされる形で一日3組しか予約受付をしないという噂の超人気店で優雅な食事を実体験。



 それを月イチで3度繰り返した。

 つまり、3ヶ月があっという間に過ぎ去った。


 そして今日、4度目の外食をする約束でキョーコは蓮の帰りを家のリビングで待っていた。

 今回のためにと蓮が用意してくれていたワンピースを着用し、毎月服が増えていく現実にキョーコは頭を抱えた。



「 ……っ…そりゃ、嬉しいのよ!敦賀さんとコース料理を食べたり、かなり気張った和食専門店でご飯を食べたりするのはちょっとしたデートみたいでとても嬉しいのだけど!! 」



 家賃という名の食事代を毎月使い切ることが出来ないのは、蓮の帰りが遅いから、も理由のひとつだ。

 最初の頃はそれでもお弁当を作りますと言うと喜んでくれていた蓮も、最近では無理をしなくていいから、というばかりで食費は余る一方だった。




 ああ、どうしてこんな感じに収まっているのか。





 ――――――― さて君はどうする?




 思い返せば4か月前。

 蓮の家に世話になると決めたのは自分だった。



『 俺が提示した50万の安心物件に引っ越すか、あるいは自分を狙っている狼の巣に自ら飛び込む度胸を見せるか。さて、君はどちらにする? 』



 それを受け入れたのは自分だ。

 蓮がお相手ならそんなキケンなメに遭ってみたいと本気で思ったし、今だってそう思っているのだ。

 だというのに・・・・・・



「 ぜんっぜんキケンじゃないんですけど!!!むしろこっちの方が安心物件過ぎるぐらい 」



 なにしろ家賃の心配はしなくていいし

 食費なんて足りないどころか余り過ぎて困っている。


 しかも身の危険など微塵も感じたことがないのだ。




 蓮と一緒に暮らし始めたらどんなキケンが待ち受けているのだろう、とキョーコは期待に胸を膨らませていた。

 一体どんな胸ドキシーンが待ち受けているのかと。



 例えば、起きてきたばかりの蓮が、食事の支度をしている自分を見つけて優しくバックハグをしてくれるとか。

 仕事を終えて帰って来た蓮を玄関に迎えに行った途端に強引に腕を引かれ、壁ドンされてみたりとか。


 深夜に目が覚めてしまって気まぐれにリビングに足を運び、偶然ばったり遭遇してぶつかって、床に転がってしまった自分を蓮が優しく抱き起しながら愛を囁いてくれるとか、あるいはそのまま床ドンされてみたりとか。



 ところがそんな胸キュンは一度も訪れていなかった。


 寝ぼけて一緒のベッドの入り、いつの間にか添い寝をして朝を迎えた…なんてお決まりのハプニングさえないのだ。


 夢や期待が大きく膨らんでいただけに、平穏無事に過ぎて行く毎日にキョーコは不満を募らせていた。



「 もおぉぉぉ!社長さんの嘘つき!!なにが自分を狙っている狼の巣よ!全然キケンなメになんて遭わないじゃない!! 」



 言った瞬間、キョーコの心臓が飛び上がった。リビングのソファに座っていた状態で後ろから抱きしめられたのだ。


 いつの間にか蓮が帰って来ていたらしい。



「 そう、知らなかった。君は本気でキケンなメに遭いたいの? 」


「 ……っっ… 」


「 それは、食前と食後、どちらがお好み? 」


「 ……っ……答えたら、遭わせて下さるんですか、キケンなメに 」


「 そうだね。徐々に行く?一気に行く? 」


「 一気…って? 」


「 バックハグは今やったから、あとは壁ドンと床ドンだろ。そのあと、身の危険を感じさせる…でいいのかな? 」


「 それ、聞いていたんですか、今の私のひとり言を! 」


「 聞いていた…と言うより聞こえたんだよ。だいぶ不満を大爆発させていたようで。…で?どうするのがお好みなのかな 」


「 ……っ……一気、がいいです。出来れば今すぐ 」



 途端に強引に腕を引かれ、キョーコは壁に追い詰められた。

 部屋の照明が見えなくなるほど狼の顔が自分に近づく。


 リップを塗って待機していた唇に熱い呼吸が覆いかぶさり、暗黙で閉ざした瞼の向こうに大きな熱を感じた。

 いいえ、目の前だけじゃなく。胸も、腰も、足も、すべてで自分のじゃない熱を感じている。




 こんなに近づかれたのは初めてで、待ち焦がれていたぶん余計に息苦しさを覚えた。それは、愛しいほどに狂おしく。




「 ……ごめん、最上さん。このまま床ドンまでしちゃうと今夜の外食は無しになっちゃう可能性が高いんだけど 」



 背中をピタリと壁に貼り付けたキョーコの頭上右側には蓮の左腕。

 リビングの明かりが見えないほどの距離から自分を見下ろしている蓮の右手は自分の左腰を抱いていた。



 期待に胸が疼いている。

 激しく繰り返す心音が次のキケンを渇望している。



 初めて味わうキケンなメ。


 きちんと堪能しなければ……。




「 そうですよね。いまそれどころじゃないですもん。私はそれでいいです 」


「 …っ!! 」




 赤ずきんちゃんから許可を受けた狼は

 この夜、彼女にプレゼントしたワンピースを自らの手ではぎ取った。






   E N D


我ながら悪乗りし過ぎちゃったw

ともかく、お付き合いくださってありがとうございました!!



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