キケンなメに遭いたいの? ◇6 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら⇒キケンなメに遭いたいの?<15>



■ キケンなメに遭いたいの? ◇6 ■





「 届きました、社さん!ありがとうございました 」


『 おー、気を付けてな。何かあればまた連絡しろよ 』


「 もちろんです! 」



 通話を切り、蓮は慌てて駆けだした。

 敏腕マネージャー社に依頼したのは現在キョーコがいるはずの店情報。


 キョーコから聞いた店名だけを頼りに自分で居場所を検索するより、社に確認したほうが確実だと踏んだ蓮の判断は正しかった。



「 お世話になります。この店までお願いします 」


 社から送られてきた地図情報を持って、蓮はタクシーに乗り込む。

 画面を見せると運転手はハイヨと了解の意を示し、タクシーは難なく発車した。




 ――――――― まったく、あの子は!!




 腹立たしさと、焦燥感と、何を考えているんだ…という苛立ちが交錯する。


 後部座席に背中を預けた蓮は、スマホ画面に表示されている地図情報を見下ろしながら眉間に皺を寄せた。




『 いま、共演者の皆さんや撮影現場の皆さんと晩御飯を食べに来ているのですけど… 』



 大河の撮影は半年も前から始まっていた。

 長期間の撮影となっているから、共演者はもちろん、スタッフ達もすっかり顔なじみとなっている。


 あの子は途中参加だから。

 少しでも早く現場に馴染みたい…という気持ちがあったのだろうとは思うけれど…。



「 それにしたってあり得ないだろう 」


 言っても仕方が無いと判っていたけど、口にせずにはいられなかった。




『 それが、ちょっといま困ったことになっていまして…。実は、何人かの人がお酒を飲んで酔っ払ってしまいまして… 』



 役者交代によるリテイクは、余計な手間と時間を要する。にもかかわらず厳しいリミットに間に合うよう、帰りたくても帰れないスタッフは相当数に上っていた。


 編集等に必要な時間不足もさることながら、通常の撮影に加えてキョーコでのリテイクを行うのにスタッフの人数が足りておらず、先日から現場には新規の顔ぶれが増えている。



 しかし役者にとっては新規でも、同じ仕事をしている者同士なら見知った顔もいただろう。

 抱え込んだストレスだって多少はあったのだろうし、それを思えばアルコールを口にしたこと自体は察するに余り有ると思った。



 だけど……



「 お待たせしました。到着しましたよ 」


 タクシーの運転手の声がけに蓮はハッと顔を上げた。

 少し待っていて欲しいとお願いして車外に出る。


 辺りを見回して、キョーコがいるはずの店の看板を見つけた蓮は、足早に歩を進めた先に見えた光景にギョッとした。


 酔っ払って路上で寝ているのだろう男性に、キョーコが寄り添っていたのだ。



「 最上さん!! 」


「 敦賀さん!わー、本当にいらしてくださったんですね 」


「 当たり前だろう。何をやっているんだ、君は!! 」


「 だって、しょうがないじゃないですか。放って帰る訳にはいきませんし 」


「 だからって君がそれをする必要はないだろう!酔っぱらいはこの人だけ?他は? 」


「 他は顔見知りのスタッフさんが連れて帰ったり、自力で起きて帰ったりした人もいましたので、残ったのはこの人だけで… 」


「 年上の共演者やその他のスタッフは?みんなと一緒だったんだろう? 」


「 そうですけど、共演者さんはご飯を食べ終わったら皆さん割と早めに席を立ってしまったんです。その際、大目にお会計をしてくださったみたいで…。

 スタッフさんたちの多くは現場に戻らなければならなかったので現場に。久しぶりにおうちに帰れる人は知らぬふりしてそそくさと帰ってしまって 」


「 だからって… 」



 つまり、こういう事だ。


 キョーコは共演者や撮影現場のスタッフたちと連れ立ち、現場では馴染みの店に晩御飯を食べに来た。


 支払いは大御所俳優が胸を叩いてくれたらしく、しかも彼は食事が終わると誰よりも早く席を立ち、全員分の支払いを済ませて帰ってしまった。

 その際、労いの意味を込めてだろう。一人一杯程度のアルコール代も置いて行ってくれたらしい。


 お相伴にあずかったスタッフ達はそれを喜んで口にした。

 すると今度は次に席を立った目上の者が、同様にアルコール代を置いて帰っていった。



 支払いが済まされれば、店側としては提供するのが当たり前。


 スタッフの中には体調や体質で始めから飲めない者もいただろうし、このあと現場に戻るのならば、飲みたくても飲めない者もいただろう。


 しかし、アルコールグラスは誰かが席を立つたびに微妙に増えていって、帰宅予定のスタッフ達がそれを頑張って飲んでいたという。


 そして、そろそろ帰ろうか、という時に問題が発覚。



「 お店の中でいつの間にか、この人が寝てしまっていたんです 」



 どうやらこの男性は、急遽駆り出されて加わったスタッフの一人だったらしい。それゆえ、この男性の家を知っている者が皆無で、それどころか顔なじみの人間すら居なかった。



 キョーコたちは撮影所からここまで歩いてやって来ている。

 泥酔した人間を再び撮影所に連れて行くのは困難すぎて、誰もがそれを嫌がった。


 だからといって道端に転がして放置するわけにもいかず、キョーコが残っていたのだ。



「 …で、私のマンションに連れて行こうかと 」


「 ダメに決まっているだろ!何を考えているんだ。タクシーに乗せて、たたき起こして住所を運転手に伝えられればちゃんと家まで帰れる! 」


「 ダメですよ、敦賀さん。そんな事をしたら運転手さんに迷惑じゃないですか。しかもタクシーに乗せたとしても起きてくれる保証だって無いんですよ 」


「 だからってなんで君がそこまで 」


「 同じ現場の人間だからです!放ってはおけません 」


「 あのね、最上さん。言っちゃ悪いけど君、何も考えていないだろ?男に対する警戒心が無さすぎる! 」


「 はぁ?失礼ですね!ありますよ、めっちゃあります!!でも、こんなに泥酔しているんですよ?何もできる訳がないじゃないですか 」


「 出来るよ!どう見たってこの人、20代の男性だろう。時間が過ぎて、アルコールが抜けてくれば体だって動くようになる。そのとき理性的な行動をする保証なんてどこにも無いんだ! 」


「 何でそう言い切れるんですか?言っておきますけどね、私に手を出すって相当なリスクですよ?!大丈夫です!この人はかなり張り切って飲んでいたと思いますから、朝までずっと寝たままに違いないです。警戒するに値しません 」


「 酔っている男がリスクなんて考えるか!キケンなメに遭わなきゃわからないのか、君は!! 」


「 大丈夫です! 」


「 大丈夫なもんか。俺がこれだけ忠告しているのにそれでも君がこの男を連れ帰るって言うなら、俺も君の家に泊まる!それなら安心だ 」



 もちろん、蓮は初めからそのつもりでいた。

 キョーコが素直に自分の言に従ってくれればそれに越したことはないが、そうならない場合も蓮はちゃんと想定していた。


 だからタクシーを使って来たのだ。



 本来なら蓮がこの男を連れ帰ればいいのかもしれない。

 けれど自分の城に見知らぬ人間を入れる気にはなれなかった。ましてや泊めるなんて。


 そもそも蓮は今日、キョーコの家に行きたかったのだ。

 従ってこれが、蓮のギリギリの妥協点であり、譲歩だった。



「 えっ?!嘘ですよね?待ってください、敦賀さん。私としてはシラフの敦賀さんを泊める方に抵抗がありますけど 」


「 なんでだよ。そっちの方が100倍は安心できるだろう。言っておくけど何もしないよ、俺は。それに、君じゃこの男性を運ぶ事だって出来ないだろ。どうやって自分の家まで連れ帰るつもりなんだ 」


「 あう…… 」



 口ごもったキョーコを一瞥後、蓮は真っ赤な顔で路上に寝転ぶ男を抱え上げた。

 いびきをかいている所を見れば相当深く眠っている事が判る。


 もしここが合戦場なら間違いなく、敵の陣地に放り込んで捨て置くところだ。



「 最上さん、行くよ。タクシーを待たせてある 」


「 はい 」


「 …っ… 」



 掛け声に軽快な返事をして後をついて来るキョーコを気にしながら、蓮は頭を抱えたくなった。


 先日の社長の言葉が鮮やかに蘇る。






 ――――――― では、どうすればあの子は理解できるようになるとお前なら思うのか。

 あの子が持つ、役者としての市場価値を。





 蓮としては、そこの所の説得を意図的に避けたつもりではなかった。

 けれど社長が言ったようにしておくべきだったのだと思った。


 そうすれば、こんなキケンな選択をキョーコはしなかったかもしれない。



「 運転手さん、お待たせしました 」


「 はいはい、いまドアを開けますね 」


「 はい、お願いします 」


「 今度はどちらまででしょう? 」


「 最上さん 」


「 はい!あの、行き先は… 」



 キョーコが奥の席へ詰め、泥酔男を真ん中に蓮が最後に乗り込む。


 タクシーがキョーコのマンションへ向けて走り出した直後、キョーコは待てよと我に返った。



 あれ?ちょっと待って!

 ウチ、余分な布団はモー子さん用の一組しか無かったんだった。あとは自分のベッドだけ。


 え?じゃ、敦賀さんはどうしよう?



 たとえ暖房を入れっぱなしにしたとしても、まさか尊敬する大先輩を床に寝かせる訳にはいかない。

 だってそれ、絶対痛いし、寒いに決まっているし。



 ……とすると、敦賀さんは私のベッドで一緒に?!!え?泥酔男がいるのに、そんな破廉恥な真似を?!



 自分のベッドの上で蓮と肩を寄せ合うシーンを想像したキョーコは、自分の顔に血が昇るのを感じた。

 思わず両手で頬を抑え、ゆっくりと蓮の顔を覗き見る。


 その微かな動きを蓮は敏くキャッチした。



「 …どうした? 」


「 いえ、何でもないんです。……ご迷惑をおかけして申し訳ありません 」


「 分かっているなら自重して欲しいな 」


「 すみません 」



 謝罪の言葉を口にした以上、気を引き締めなきゃと思うのに、油断せずとも簡単に頬が緩んでしまいそうだった。

 キョーコは微細に何度も首を横に振り、最後には前を見据えて、とにかく落ち着こう…と何度も自分に言い聞かせた。






 ⇒◇7 に続く


残りあと2話!



⇒キケンなメに遭いたいの?◇6・拍手

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