キケンなメに遭いたいの? ◇3 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら⇒キケンなメに遭いたいの?<12>



■ キケンなメに遭いたいの? ◇3 ■





 その日の夜、仕事が終わるとマネージャーに送ってもらう形で所属事務所に立ち寄った蓮は、気が進まないながら社長室の扉をくぐった。

 社長の腹心である秘書に案内され、蓮がソファに腰を下ろしてすぐ、ローリィは無言のまま用意してあった書類を蓮に手渡す。


 書類はA4サイズで10枚ほどの重なりだった。



「 なんです? 」


「 最上くんに選ばせるつもりの新たな賃貸物件情報だ 」



 なるほど、見れば確かにその通り。

 その一枚、一枚には平面図とマンション情報が載っていた。


 上から順に4枚目までにざっと目を通した蓮はすぐに呆れかえり、目の前の社長に向けて実に冷ややかな視線を投げつけた。



「 ……社長、なんですか、この物件たちは。とても正気の沙汰とは思えませんね 」


「 だからお前を呼んだのだ 」


「 はた迷惑ですよ。まさか俺に、このいずれかをあの子が受け入れるよう、あの子を説き伏せろとでも? 」


「 そのまさかだ 」


「 もう一度言います。はた迷惑です 」


「 前はやってくれただろう。今回もやってくれ 」


「 どうやら誤解があるようですね。前回、俺があの子に引っ越しの準備をするよう勧めたのは、あなたから根回しをされたからではありません。その方があの子が傷つかないで済むと考えたからです 」


「 冷てーな 」


「 なんとでも 」



 きっぱりと言い放ち、再び書類の続きに視線を落とした蓮は、マンション情報を一つ一つ確認しながら、失敗したな…と思っていた。



 キョーコがだるまやを出る羽目になったのは、大勢のファンが店に押し寄せ、営業に支障をきたしたことが原因だ。

 そうなることが目に見えていたから、LMEのお達し通りにセキュリティー重視は外せないと、蓮もそう考えた。


 なによりキョーコが安全に過ごせる場所でなければ。

 だからこそ完璧だと思える現在のマンションをキョーコに勧めたのだ。



 それ故だろう。社長がこんな物件ばかりを揃えた理由は蓮にも責任の一端がある。手元の物件情報を確認したからこそ、そのことに蓮は気づいた。



「 社長。さすがに無理でしょう。こんな部屋数がある3桁物件ばかり、あの子が受け入れるはずがない。それともこれ、事務所が家賃の面倒を見るんですか? 」


「 いや、あくまでも最上くんに払ってもらうつもりでおる。…というか、よく見ろ、蓮。一応2桁の物件もあるはずだぞ? 」


「 98万なんて100万と大差ありませんよ。あの子なら絶対にそう言います 」


 最後の一枚まで確認して、蓮は深いため息を吐き出した。


 社長が用意したキョーコの新居候補はどれも3桁のものばかりで、しかもいずれも蓮のマンションからかなり離れている。


 こんなの、冗談じゃない、と蓮は思った。

 ただでさえ引っ越して欲しくないと思っているのに、さらに遠い所の物件など勧める気など起きるはずもない。



「 仕方ないだろう。現在あの子が住んでいるのと同等のセキュリティーを備えた物件で探せば自然とそうなる 」


「 だからって…。いえ、理屈は判りますけど 」


「 いま、最上くんが住んでいる一般的なワンルームという枠なら、月額20万前後ぐらいか。だがそうなるとセキュリティーレベルは格段に落ちる。当然だ。市場はそういう風に出来ておらんからな 」



 社長の言はもっともである。

 セキュリティーを要するということは、すなわち相応の身分があるということ。

 相応の身分がある…という事は、それに見合った収入もあるということだ。


 現在の住居に合わせて、セキュリティーレベルを下げずに市場を探せば、物件は必然的に高くなる。

 何しろ、ワンルームでそれほどのセキュリティーを誇る物件など、探せばどこかにはあるのかもしれないが、一般的には存在しないのだ。


 部屋数が多ければ家賃が跳ね上がるのは道理。セキュリティー重視である以上、それも避けては通れなかった。



「 お前の家がまさにそれだろうが 」


「 俺の話をしても意味なんて無いでしょう。10代の女の子に自腹で毎月100万払わなきゃならない賃貸物件を勧めるなんて、まるで悪徳事務所じゃないですか 」


「 そうか?お前だって10代でもう今の家に住んでいただろうが? 」


「 …っっ!! 」



 ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。

 恐らく社長はこんなやりとり、シミュレーション済みだったに違いない。


 しかし蓮は引かなかった。

 キョーコがどんな反応をするのかなんて、もはや想像せずとも脳裏に浮かんでいる。



「 俺を引き合いに出さないでください。俺とあの子では置かれた状況が全く違います。

 それに、いくら御託を並べた所で、社長だってそうなると判っているから俺を呼びつけたのでしょう?これを見せてあの子が何を思うのか、何と答えるのか 」


「 無論だ。納得せんだろう姿が目に浮かぶようだ 」


「 俺もですよ 」


「 だからと言って、あの子が自ら見つけて来る物件など到底受け入れられん。だからお前を呼んだのだ。先駆者としてのお前を。先輩として最上くんから尊敬されているお前を 」


「 はた迷惑ですよ 」


「 では、どうすればあの子は理解できるとお前なら思うのか 」


「 なにを理解させるつもりです? 」


「 あの子が持つ、役者としての市場価値だよ、蓮。そこの所の説得をお前は敢えて避けただろう? 」


「 …っ…それは… 」


「 この高額マンション物件は、何も最上くんを破産させる目的で用意した訳じゃねぇ。事務所が考える、いまあの子が住むべき住宅はすでにこのレベルなのだと、社長である俺が自ら提示することであの子に自覚を促すのが目的なのだ 」



 これが京子の価値なのだと。



「 確かに今の最上くんでは、月額100万は破格だろう。無理だ、破産しちゃいます、と叫ぶ姿すら目に浮かんでいるわ。だがすぐに払える日はやってくるぞ。それこそお前のようにな。それまでのわずかな期間ぐらい、不足分をLMEが負担してやってもいい。そう言おうと俺は思っているのだが 」


「 ……気持ちは判らないでもありません。ですが、たとえ社長がそう言ったとしてもあの子がそれを素直に受け入れる姿は考えにくいです。かといって無理やり押し付けても反発するでしょうしね 」


「 無論、そんなのは分かっている。だから何度も言っているだろう。それでお前を呼んだのだと 」



 言葉になっておらずとも、社長の本音はちゃんと蓮に伝わっていた。



 ローリィは、キョーコが着実に上を目指せるようにしてやりたいのだ。


 既に一流の階段に一歩を踏み出したあの子が、この先、確実に役者としての高みを目指せるよう。


 あの子の意思とはかけ離れた場所で、理由で、決してあの子が足を踏み外したりしない様、環境を整えてやりたいということなのだろう。つまりこの高額なタワーマンション情報は。



 だが、それに理解が及んだ所でやはり蓮はキョーコに引っ越して欲しくないと思っていた。

 やっと自分の近くに来てくれたキョーコを容易く手放すような真似をしたくない。



 いずれそうなるしかなくとも。

 今しばらくの間は…。




「 ……はた迷惑ですよ 」


「 そう言うな。最終的にはあの子の今の収入に見合う物件を用意してやるつもりではいるのだ 」



 社長のつぶやきを聞いて、ああ、なるほど、と蓮は頭の片隅で思った。


 つまりこれらは布石なのだ。


 べらぼうに高い物件を先に見せておいて、最終的には当初の目的であるこれより安い物件にあの子を入居させる作戦ということだろう。

 ただしそれは、最初に見せればあの子が反発を覚える程度には高い賃料に違いない。



 …とすると、おそらく月50万というところか。


 それならまだ打つ手はあるのかもしれない。探せば自分の家の周りにそんな物件があるのかも。


 だったら自分でも探してみよう。



 あの子のために

 自分のために



「 お話は確かに伺いました。しかし残念ながらご依頼にはお応えできません。俺はあの子の味方ですからね。

 もちろん、引っ越しの件に関してあの子と話をしない訳ではありませんよ。俺は最上さんが俺にSOSを発して来たらちゃんと受け止める気でいますので 」



 きっぱりと断りを入れた蓮のそれに、社長はニヤリと笑った。



「 まぁ、俺としてはそれを聞けただけでも十分だ。お前なら絶対にあの子の気持ちを蔑ろにはせんだろうし、都合よく転がしてくれるだろうからな 」


「 転がすって何ですか。人聞き悪い 」


「 ところで、どうだ?最上くんを妻に貰う感想は? 」


「 は?役の上でのことで感想を求められても、楽しみです…としかお答えできませんが? 」


「 なんだ、張り合いねぇなぁ。なんかあんだろうが。もっとこう、違う感じが!! 」


「 社長。そんなね、社さんと同じ反応をしないでくださいますか 」


「 なんだ?社も俺と同意見だったのか。…ということはだ!蓮。まさしくそれが世間の評価ってことだ。少しは肝に銘じとけ 」


「 へー、そうなんですか 」


「 なんだ、その暖簾に腕押しな感じは。これからほぼ毎日のように共演者として現場で顔を合わせるんだろう?だったら、役にかこつけていっそ最上くんにこう言ってみたらどうだ? 」


「 なにをですか 」


「 高額のマンションに一人で引っ越すぐらいなら、セキュリティーのしっかりした物件に住んでいるうつけの所に嫁に来ないか?…ってな。信長風によ、言ってみろよ、蓮。最上くんに 」


「 絶対言いません!なにがうつけですか。そもそも敦賀蓮はそういう男ではありません 」


「 じゃあどういう男なんだよ。いつまで経っても告白のひとつもしやがらねぇ、惚れた女を指くわえて見守っているだけの紳士が敦賀蓮のスタンスなのか? 」


「 そう思って下さっていいですよ、別に 」


「 ほーん、いいのか。じゃ、そのままにしとくわ。どちらにせよ期待しているぞ。結果としてお前が最上くんを説得してくれることを 」


「 期待されても困ります。あの子が相談してきたら俺はそれを受け止める、という、ただそれだけのつもりですから 」



 言ってから、そうだな、と思った。


 引っ越しはして欲しくないけど、今の所それだけは楽しみかもしれない。

 あの子と二人で話すことが出来るのは。


 それではこれで失礼します、と断りを入れてソファから腰を上げた蓮は、社長に頭を下げて踵を返すと、こっそりと薄い破顔を浮かべた。






 ⇒◇4 に続く


実は、このお話を書いている途中にUSBのデータが読めない事態になりまして…。メッチャ肝が冷えました!

結果としてUSBに不具合はなく、PCとUSBを繋いでいたケーブルが壊れたことが原因でした。何事もなくって本当に良かった!!



⇒キケンなメに遭いたいの?◇3・拍手

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