キケンなメに遭いたいの? ◇5 | 有限実践組-skipbeat-

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 前話こちら⇒キケンなメに遭いたいの?<14>



■ キケンなメに遭いたいの? ◇5 ■





 それから一週間が経ってしまった。

 その間、蓮とキョーコは共演者であるにもかかわらず、お互いに顔を合わせる機会が無かった。


 理由は至極単純で、もともとキョーコの役は配役されていた女優が社会的な問題を起こして出演できない事態となり、急遽決定したものだったから。


 大河の放送は例年通り、新年からスタートすることになっている。そのため撮影は半年前から始まっていたのだ。


 しかし前述した事情により、既に完成して放送を待つだけとなっていた放送回の、元配役が出演していたシーンの全てをキョーコでリテイクし直さねばならなくなった。



 しかも新年の番組編成は予定通りに進むという。その際、放送時に穴があるシーンなど許されるはずもない。

 例年と等しく問題なく新年放送に間に合わせるには、キョーコがほぼ現場に出ずっぱりの形となるしかなかった。


 しかし撮影をリテイクシーンだけに集中させる訳にもいかない。何しろドラマは一年間続くのだ。


 そのため予定通りのシーンも放送回に合わせて並行撮影してゆく必要があり、リテイクシーンとともに、いくつものスタジオで撮影は同時進行していた。



 そんな事情に加えて、蓮とキョーコ、二人が共演するシーンは初日に全て撮り終えていたこともあり、また蓮の仕事が大河以外にもあったことから、蓮が現場に居ない時間の方が圧倒的に多かった。



 それ故、二人は夫婦という役柄での共演にも関わらず、なかなか顔を合わせることが出来ずにいた。



 マネージャーの社はキョーコを大河の現場に送ると、以降は細かく移動を要する蓮の元へ駆けつけ、最後まで蓮に付き添っている。一方のキョーコはその日の撮影が何時に終わるのかが不明なため、帰る時はタクシーを利用していた。



 そして今日、蓮の仕事は予定より早く終わった。

 帰路に就く途中、車内の後部座席から蓮は運転席の社に声を掛けた。



「 社さん。今日の最上さんの仕事って… 」


「 お前より先に終わっている。一時間ぐらい前に連絡が来た 」


「 そうですか。その後、最上さんの引っ越しの件ってどうなっているか分かりますか? 」


「 それ、たぶんどうなってもいないと思うぞ。キョーコちゃんも何も言ってこないし、社長も何も言って来てないからな 」


「 そうですか 」



 もしかしたら社長はギリギリまで放置しておいて、後がない状態を作ることで思惑通りの物件にキョーコを入居させるつもりなのかもしれない。

 何しろ最終的にはあの子の今の収入に見合う物件を用意してやると言っていたのだから。



 それでもいいのかな、とは思う。ローリィがそのまま高額自腹をキョーコに強要しないのならば。

 ただ、自分としてはやはり近くに住んで欲しいのだ。身勝手だなとは思うけれども。



 ところで・・・



「 社さん。収入に見合う物件って、そういう目安や指針がどこかにあったりするんですか? 」


「 あるだろ、それは。けど人によって異なるぞ。だいたい住む場所によって物価も違うしな。自炊の有無とか、生活スタイルによっても変化するだろうし。ま、一般的なサラリーマンを基準にするなら適正家賃は収入の3割が基本だと言われているけど、あくまでも目安な 」


「 へー、3割ですか 」


「 言っておくけど、それは芸能人には当てはめられないからな。人付き合いでサラリーマンよりよっぽど金を使ったりするだろ。お前だったらホワイトデーとかな 」


「 あぁ…。まぁ、多少はそういうこともありますよね 」


「 キョーコちゃんもこれからそうなっていくだろうな。進学しないで芸能界で頑張るって言うのなら 」


「 そうかもですね。ちなみに社さんは最上さんの収入がいくらかご存知だったりします? 」


「 知る訳ないだろ。お前の稼ぎだって俺は知らないんだから。逆に言えば俺の給料がいくらかなんて、お前だって知らないだろ 」


「 知らないですね 」


「 そういうことだ!なんだよ。気になるならキョーコちゃんに直接聞いてみればいいだろ。だいたい、キョーコちゃんが俺に何も言って来ないのは、お前からの朗報を待っているからかもしれないんだから 」


「 はいそうします。せっかく今日は早く終わったことですしね。家に帰ったら電話してみようと思います 」


「 ああ 」



 すっかり暗くなった街の景色を車窓越しに眺めながら、蓮の脳裏にふと淡い期待が浮かんだ。

 もしかしたら今日、自分は初めてキョーコの家に入ることが出来るかもしれない。



 見下ろせるほど近くに住んでいるのに、蓮にとってキョーコの住まいは少し遠い場所だった。




 何しろ訪ねるのに勇気がいる。

 第一関門はそこが学生支援機構の管理下にあるマンションだということ。


 多くは大学生が利用しているらしいマンションの住人は、ほぼが蓮と同年代である。間違いなく自分が行けば目立つだろうし、変装したとて、一目で敦賀蓮と見破られてしまうかもしれない。


 そうなって声を掛けられても迷惑だし、写真を撮られても迷惑だし、だいいちキョーコとの仲を詮索されたら最大級に困じる。



 時間帯によっては無人の時もあるのかもしれないが、蓮にはそれが何時頃なのかが判らないし、そもそも昼間は仕事があるからキョーコの家を訪ねるなら必然的に遅くなる。

 それがよしんば運よく人が少ない時間だったとしても、第二の関門が立ちふさがるのだ。



 それは、フロントオートロックシステムだ。


 キョーコが住んでいるマンションの入り口は、住人でないと容易に立ち入ることが出来ない作りとなっている。

 キョーコの部屋に行くには呼び出しベルを鳴らし、キョーコに入り口を開けてもらわねばならない。


 例えば呼び出しベルを鳴らす。そのとき自分の周りに誰もいなかったとしても、キョーコの部屋に行くまでには誰かと出くわすかもしれないし、そもそも一体どんな用事をひっさげれば大手を振ってあの子の部屋に上がり込めるというのか。



 キョーコに迷惑をかける訳にもいかないし、蓮としても迂闊なことはしたくない。

 万が一にも自分の想いをキョーコに気取られ、距離を取られたくないし、警戒だってされたくないのだ。



 社は毎朝キョーコを迎えに行っているが、実のところは社も呼び出しベルを鳴らしたことは無いと言う。

 それというのも、社が約束した時間にキョーコを迎えに行くと、キョーコは既にマンションの入り口で社の到着を待っているらしいのだ。



 そういう所があの子らしい…と思う。


 同時になんて優秀なセキュリティー設備だろう、と思っていた。


 自分でその物件を勧めたくせに、蓮はずっとそれを歯がゆく思っていたのだ。




 しかし、今日の蓮は違った。

 キョーコの相談に乗る、という大義名分がしっかりある。


 そして物件を探すにあたって本当にワンルームで間に合うのか、同じワンルームでもどれぐらいの広さならいいのか、部屋の中を確認させて欲しい…と言えば、キョーコはそれを拒まないに違いない。



 淡い期待が徐々に色濃くなってゆく。

 蓮の胸は高揚感に弾んでいた。



 送迎してくれたマネージャーと別れ、自宅に戻った蓮はキョーコの家が見下ろせる部屋の窓を解放した。


 あの建物の5階にキョーコの部屋があるはずだ。だが蓮の家からそれを目視することは出来なかった。

 けれどあの子がそこに居ると思うだけで何やら景色が温かく見える。



 実を言うと、蓮はキョーコの部屋の様子が見たくて、双眼鏡を構えた事があった。


 ある夏の日のことだ。

 その日は久しぶりの一日オフで、日差しがきつく、夏らしい暑さが充満していた。けれど湿度はそれほど高くなく、ときおり心地よい風が吹いていたと記憶している。


 風があるなら窓が開いているかもしれない。

 窓が開いているなら部屋の様子が見られるかもしれない。


 直接部屋に行くことが出来ないのなら、せめて…と思ってのことだったのだが、残念ながら窓にはレースのカーテンがかかっていた。

 風に揺れていたから窓は開いていたのだろうが、それが蓮の視界を遮り、部屋の中をうかがい知ることは出来なかった。



「 こんなこと、やるなってことかな 」



 蓮は苦笑を浮かべならそう自分に言い聞かせたけれど、どうしても諦めきれなくて、それから2時間ほど格闘した。



 ダメだと言われたらやりたくなる。

 望んではいけないと考えるほどに望んでしまう。


 それが認知的不協和だという事は判っていた。それでも諦められなかった。



 キョーコの家が見える窓の近くには、相変わらず双眼鏡が待機している。

 久しぶりにそれを手にした蓮は、12月の夜風の冷たさなど物ともせず、目的の建物をレンズ越しに視界に捉え、そして目を瞠った。



「 ……あ、れ? 」



 あの子の家は5階だ。

 それは間違うはずもない。


 けれど、5階は一様にどの部屋も電気が点いていなかった。



「 おかしいな?俺より1時間も前に終わったはずなのに。まさか、もう寝てるとか?いや…まさか 」



 ひょっとしたらまだ撮影所にいるのだろうか。何か予期せぬことが起こったとか?

 それとも別の用事があって…?





 ――――――― 人付き合いで金を使うだろ、芸能人は。進学しないならキョーコちゃんもこれからそうなっていくだろうな




「 あ…… 」



 可能性は否定できないと思った。


 蓮はすぐ携帯を手に取り、キョーコのナンバーをコールした。



『 はい、もしもし? 』


「 最上さん?俺だけど… 」 ←オレオレ詐欺(笑)


『 はい、分かります。敦賀さん、お疲れ様です 』


「 うん、お疲れ様。君、いま家にいるんじゃないよな?バックヤードがうるさい 」


『 はい、そうなんです。いま、共演者の皆さんや撮影現場の皆さんと晩御飯を食べに来ているのですけど… 』



 思った通り。



「 あ、そうなんだ。何時ごろ帰る予定? 」


『 それが、ちょっといま困ったことになっていまして… 』


「 困ったこと?どうした? 」


『 実は、何人かの人がお酒を飲んで酔っ払ってしまいまして… 』


「 うん、それで? 」


『 それで…… 』



 続いて報告されたキョーコの言葉に

 蓮はこめかみに怒りの青筋をはっきりと浮かべてヒクついた。







 ⇒◇6 に続く


(/ω\)イヤン♡キョコちゃんったら。キ・ケ・ン



⇒キケンなメに遭いたいの?◇5・拍手

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