キケンなメに遭いたいの? ◇2 | 有限実践組-skipbeat-

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 ※今回、時事問題を組み込んでおりますが、配役等はリアルを忘れ、どうかおおらかにお受け止め下さい。



 前話こちら⇒キケンなメに遭いたいの?1



■ キケンなメに遭いたいの? ◇2 ■





「 蓮。正式に決まった。お前の正妻 」


 予定通りに社長からの電話を受け、社が了解しましたと答えた以上、その内容など聞かなくても想像がつく。

 けれど敢えて蓮はその質問を口にした。



「 そうですか。それで、誰になったんです? 」


「 キョーコちゃんだよ!お前、判っていてわざと聞いているだろ? 」



 マネージャーの言を受けて蓮は柔らかく笑みを浮かべた。



「 もちろん 」


「 お前、ときどきそういうヤツになるよな。それより、どうだ?蓮くん。キョーコちゃんを嫁に貰う感想は? 」


「 役の上での話に感想を求められてもね 」


「 張り合い無いなぁ。それでもなんか言えるだろうが。嬉しいですとか、楽しみですとか 」


「 え?そんな通り一遍な答えが聞きたかったんですか?だったら答えてあげましょう。もちろん俺は楽しみですよ 」



 蓮の言を受けて、今度は社が笑いながら、あーそうですか…と、答えた。



「 …で、な。キョーコちゃんの引っ越しの件、正式に進めることになったって話だ 」


「 そうですか。だとしたらそれは早急に進めることになるんでしょうね 」


「 だろうな。なにしろキョーコちゃんがだるまやを出た理由が理由だったからな 」



 映画が完成すると、上映までのわずかな期間にメインの配役たちは様々な場所で宣伝活動を行う。

 最近は特に演じるだけが仕事ではあり得ない。


 それはキョーコも例外ではなかった。キョーコもまた様々な所で宣伝広報に励んでいた。


 そのとき人々が目にする京子は、彼女が本来持ち得る彼女の個性そのもの。それは良くも悪くも人に先入観を与えたに違いない。



 その後、泥中の蓮を鑑賞した人々は、京子に何を思うのか…。


 それは京子を身近に知っている人間ほど正しい未来を想像できた。



 キョーコが出演した泥中の蓮を、マネージャーの社はプレの段階で、蓮は関係者というコネを使って一般人より一足も二足も早く鑑賞した。


 映画の感想を一言で語れば、それは見事だった…に尽きる。



 常に葛藤とともにあり、泥臭く、人間臭く、嫉妬を抱く女としての心を持ちながら、けれど忍者として他者を圧倒する実力と腕前、技のキレ味を併せ持った紅葉は、時に危うく、時にたくましく、時に慰めたくなるほど繊細な者だった。


 それは、番宣で常に素朴な笑顔をたたえていた彼女からは想像もつかない様だっただろう。



 原作小説やコミックスと同様、キャラクターが持つ魅力を余すことなく体現した京子は、映画番宣で見せた姿とは大きく隔たるギャップがあった。


 その落差が激しければ激しいほど、人は京子が持っている演技力の高さを実感するに至ったはず。


 それでなくても京子のキャスティングはもともと注目を浴びていた。

 今だって彼女はLMEの俳優セクションではなく、タレントセクションのままなのだ。



 だからこそ、大勢の人間が京子の魅力に取り付かれるだろう事は簡単に予想しえたし、むしろそうならない未来の方が考えにくいものだった。



 キョーコの撮影風景を見守っていたマネージャーの社もそれを当然の如く予見していた。

 映画がクランクアップしてから動いたのでは遅すぎる。


 だからキョーコは、泥中の蓮がクランクアップするずっと前から引っ越し先を探していた。

 正確には、探させられていた、と言うべきか。





 ――――――― 敦賀さん。実は私、LMEに引っ越し先を探せって言われたんです。社さんからも、だるまやに迷惑をかけることになるかもしれないから、いつでも引っ越せるように準備をしておこうって。敦賀さん、それをどう思いますか?




 心許なげに、自分に相談してきたあの子のそれが、蓮はとても嬉しかった。


 社から理由を聞いたはずなのに、とても納得できない風で、彼女は己がどれほどの実力者であるのか想像できなかったらしい。


 セキュリティーを重視せよ、というLMEからのお達しすら理解できず、キョーコは途方にくれていた。



『 でも最上さん。社さんや事務所が言うそれを信じる、信じないは別として、もしだるまやに迷惑をかけることになったら君はどうする?その時になって慌てたって、時すでに遅しだろ?事務所としてもそれは困る事態だってことは判るよな? 』


『 ……はい 』


『 使うかもしれない、使わないかもしれない。それがどちらに転ぶか分からないなら、準備しておくに越したことはないんじゃないかな?転ばぬ先の杖ってやつだよ。

 それに、いつか必ず君はだるまやを出る日がやってくる。だったらその日のための予行練習だと思って動いてみても良いんじゃない? 』



 蓮の言葉にキョーコは素直に首を縦に振った。そんな反応も密かに蓮を喜ばせた。



『 …はい、そうですね。敦賀さんの言う通りです。分かりました。引っ越し先を探してみようと思います 』


『 うん。俺で良ければ何でも相談して? 』


『 ありがとうございます。その時はよろしくお願いします 』




 結果として、学生支援機構を通じて部屋を借りたらいいのでは…と、アドバイスを出したのは社だったが、その情報をキョーコに与えたのは蓮だった。


 社も以前、それを利用したことがあったらしい。



『 キョーコちゃんにそうアドバイスをしてやってくれないか、蓮 』


『 何故ですか?そんなの、自分の経験談だって言って、社さんがその話をあの子にしてあげればいいじゃないですか 』


『 立場的に出来なくなった。LMEはキョーコちゃんを本格的に役者として育てたいと思っている。マネージャーとしてその道を示唆しろと言われたんだ。

 でも俺は、キョーコちゃんが進学したいと思っているならその道を阻みたくない。あの子の意思を尊重したいと思っているんだ 』



 思えば社は知っていたのだ。


 社長の計らいで高校に通えることになったキョーコが、それをどれほど喜んでいたのか。

 どれだけ張り切って高校に通っているのか。


 それをもちろん蓮も承知していた。



 幼なじみに騙されて東京に出てきたキョーコは、かなり高いマンションの家賃を頑張って支払っていたという経緯がある。


 でももし彼女がそのとき、学生支援機構の事を知っていたら、あの子は進学を諦めただろうか?


 蓮と社、双方の意見はNOだった。

 キョーコほど頭が良く根性があれば、学業とバイトを両立出来ていたに違いない。


 事実、彼女が苦しみながら維持していた高額なマンションと同等の物件が、支援機構では半額、もしくはそれ以下の家賃で貸し出されているのだ。



 高校に通うキョーコの姿を見ていれば、大学に進学する道を選んでも少しもおかしなことではない。

 もしそうなるのならば安心して住み続けられる場所が要る。


 それを用意してやることは、すなわち蓮と社の心の安寧にも結びつく。



 蓮は親身になってキョーコの相談に応じた。そしてキョーコもかなり蓮を頼りにしていた。



 結果として紅葉の役は当たり過ぎるほどに当たり、映画の封切りとほぼ同時にキョーコはだるまやを出ることに。


 そうして引っ越した先が、いまキョーコが住んでいる場所だった。



 その物件は、蓮とキョーコが二人で見つけた。

 セキュリティーが完璧で、しかも蓮の家から目と鼻の先の距離。


 もちろん蓮はその物件を勧めたし、キョーコもそれに賛同した。



『 最上さん。これ、今までで一番いい物件だと俺は思う 』


『 はい、私もそう思います。なにより、敦賀さんの家と近ければ、送り迎えをしてくださる社さんの手間もずいぶん減りますよね 』


『 ……うん、そうだね 』



 そんな賛成の仕方が実にキョーコらしい。


 それでも、どんな理由でも構わないと蓮は思った。


 キョーコが自分の近くに来て

 そこで生活をしてくれると言うのなら……。





 ――――――― たぶん、何でもいいんだ。あの子が高校を卒業しても。

 きっと俺はまた新しい理由を見つけてロックする。





 迷いはグアムで確かに取り払ったはずなのに。

 一度自分に掛けた呪縛はそう簡単にははがれないらしい。


 それでも微かな自覚はあった。


 欲求を全く持っていない訳じゃない自分のそれを…。



 相も変わらず片想いだけれど。



「 社さん。あの子の引っ越しの話が出たってことは、つまりあの子は進学しないってことですよね 」


「 そうなんだろうな。社長の話では進学しないとはっきりキョーコちゃんが言った訳じゃないみたいだけど、でも高校がラストで十分だろうって言ったそれに、特に意見を口にしなかったらしいから 」


「 そうですか… 」


「 ま、こうなったら直接キョーコちゃんに聞いてみるけどな。ちょうどキョーコちゃんもこの現場になったことだし 」


「 それ。せっかくあの子が望んだとおりの状況になったって言うのに、なんだか皮肉です 」


「 ん? 」


「 あの子が今の家に決めたのって、俺の家と近ければ社さんの負担が減るからって理由もあったんですよ。なのにせっかく現場も一緒になったのに引っ越しなんて… 」


「 初めて聞いた。でもそれ、キョーコちゃんらしい 」


「 今度は最上さん、どこに住むことになるのかな 」


「 あ、その件なんだけど… 」



 控室の時計を確認し、腰を上げた蓮が社を見て、その視線を受け止めた社が立ち上がった所で会話が途切れた。

 蓮の携帯が震えたのだ。



「 メール?あれ、社長だ 」



 素早く画面を操作し、メールを開く。



『 社から話を聞いたと思う。その件でお前に相談がある。

 何時になっても構わんから、今日LMEに戻って来い 』



「 ……って、書いてありますけど、社さん 」


「 いま言おうとしたんだよ。さっきの電話で社長が言ってた。今度キョーコちゃんが住む家は社長が自ら探すって。それについて蓮に頼みたいことがあるから仕事が終わってから社長室に、って 」


「 それ、話なんて聞かなくても俺には判る気がします。どうせあの子がすんなり引っ越す気になるように、また俺に口添えしろって言う気なんじゃないですか? 」


「 そうかな?案外社長はキョーコちゃんをお前の家に住まわせろって言って来るのかも知れないぞ?何しろ社長はゲスなラブモンスターだからな 」


「 あり得ませんよ、そんなこと。だって社長は本気であの子を育てる気になったんでしょう?だったら… 」


「 それもそうだな。せっかく羽ばたき始めた小鳥を地上に叩き落す様な真似、いくら何でもするはずがないな 」


「 でしょう? 」



 言わば引っ越しをさせるのはキョーコが成長した証。

 そうだと理解していても、蓮の脳裏を過ぎる思いは離れて欲しくないな…だった。


 今だって決して近すぎるという訳ではないのだ。



 廊下で顔を見合わせた蓮と社の目の前で、控室の扉がゆっくりと閉ざされる。マネージャーの社が手際よくドアに鍵をかけた。






 ⇒◇3 に続く


・・・です。期待通りでなくてすみません。



⇒キケンなメに遭いたいの?◇2・拍手

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