キケンなメに遭いたいの? ◇8 | 有限実践組-skipbeat-

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 弊宅閲覧者数・延べ50万人様を記念して、sei様からお与かりした記念リクエストの最終話をお届け致します。



 前話こちら⇒キケンなメに遭いたいの?<17>



■ キケンなメに遭いたいの? ◇8 ■





 その後日のこと。


 所属事務所の社長に呼び出されたキョーコは社長室を訪れた。

 なぜかその後ろには蓮と社の姿もある。



「 あの…。どうしてお二人も一緒にいらっしゃるのでしょう? 」


「 君の引っ越しの件については俺もかかわりがあるから 」


「 俺は、蓮とキョーコちゃんのマネージャーだから 」



 二人はそう言ってにーっこりとほほ笑んだ。

 どこか有無を言わせない迫力があるのは気のせいだろうか。



 何も言えなくなったキョーコはそのまま扉をノックした。現れた秘書に導かれてキョーコを先頭に歩みを進める。

 しかし間もなく現れた3人の姿を見ても、ローリィは顔色を変えたりはしなかった。



「 どうだ、最上くん。引っ越し先は決めたか? 」


「 まだです。だってとてもじゃないけど選べません。100万なんて高すぎて… 」


「 うむ。まぁ、そう言うだろうと思って別の物件を用意しておいた 」


「 え? 」


「 これがそうだ。部屋数も少なく、今までよりかなりリーズナブルなやつだ 」



 ローリィが差し出してきた書類をキョーコは両手で受け取った。

 見ると確かに部屋数も2つしかなく、今までの物件と比べればずいぶん彼女の希望寄り。なのに今のマンションと同じセキュリティーもついている。


 それを横目で見た蓮は口元をうすら笑いで歪めた。この手で来たか…と思った。



「 どうだ。これなら格段に安いだろう。何しろ今までの半額だからな! 」


「 そうですね 」


「 これ以上の物件は他にはないぞ。何しろ100万物件と同じセキュリティーを有しているのに家賃は2分の1しかないのだ! 」


「 確かに、これで半額は安いかも… 」



 いわゆる、詐欺の手口である。


 人の中には相場基準というものがあり、それは実生活が元になっている場合がほぼ。

 しかし基準というのは案外簡単にすり替えることが出来るのだ。




 たとえば、高級羽毛布団の手口が分かりやすいだろうか。


 閉鎖的な空間で、50万円もする羽毛布団を紹介されたとする。

 するとその金額の高さに誰もが辟易するに違いない。何しろ一般家庭における布団一組の平均価格はその5分の1にも満たないのだから。


 ところが、その具体的な数字を何度も何度も聞いているうちにそれが耳に馴染んでくる。そして馴染んだタイミングで25万、あるいは20万円の品物を紹介されると、つい50万円と比較してしまって安いと錯覚を覚えてしまうのだ。


 これはどうしてかと言うと、人が一つのものを比較検討するとき、自然と相似点を見比べるからである。

 同じ人物から順番に紹介された羽毛布団で、50万と25万なら確かに25万は安いじゃないか、と思うのだ。


 同様にいまキョーコの脳内では、100万円の物件と比較して50万円は確かに破格だと考えていた。



 ・・・・・・で。

 簡単に詐欺の手口に引っかかりそうになっているキョーコを見て、この子を一人にするのはやはり危険すぎると蓮は改めて認識を深めていた。



「 見せて最上さん 」


「 はいどうぞ 」


「 本当だね。設備もしっかりしているみたいだ。バスもトイレも別だし、三口タイプのIHコンロ付きでカードキータイプの玄関施錠。しかもマンションの入り口もフロントオートロックで完璧なのに半額なのは確かに安いかも 」


「 ですよね。すごいです! 」


「 そうだね。半額ってことは、つまり今までの家賃の5.5倍って所か。11倍よりは遥かに安いよな。ね、最上さん 」


「 チッ 」


「 え?5.5倍?……はぅ!? 」


「 ……キョーコちゃん 」


「 ダメですよ、社長さん!!危うく騙されるところでした!こんな高額な物件、私にはとても無理です! 」


「 蓮。お前な…… 」


「 何です?俺はただ本当のことを言っただけですよ? 」


「 最上くんを守るには最低限このセキュリティーが必要なのだ!それぐらいお前だって判ってんだろうが! 」


「 ええ、判っています。正直、危なっかしくて見ているこっちが怖いぐらいですから 」


「 どこがですか! 」


「 どこが?…なんて確認するまでもないだろう。俺としてはまたいつ君が自分の家に男を連れ込もうとするのか、それを想像するだけで肝が冷える 」


「 キョーコちゃん。それ、俺も蓮から聞いたけどダメだよ。確かにそういう席では年配者から立ち去って行くものだけど、女の子なんだからそこらへんはある程度で見切りをつけていかないと… 」


「 うううう・・・・・。だって・・・ 」


「 判ってる。君は早く現場の人間と仲良くなりたかったんだよな。でも方法は考えるべきだ。俺の話、君はちゃんと覚えているか? 」


「 覚えていますよ、それぐらい!!この前うかがったばかりじゃないですか! 」


「 言っておくけど、覚えているだけで実行できないんじゃ意味はないよ?それも判ってる? 」


「 わかってます 」


「 そう。でも残念ながら俺はそれを信用していないんだよな。…と、いうことでですね、社長 」


「 なんだ? 」


「 最上さんには外側のセキュリティーだけ強化しても意味がない事が分かりました。この子に関しては家の中にもセキュリティーが必要です 」


「 ……ほう、家の中な。それは、ホームセキュリティーを入れるという意味か? 」


「 言い方としてはそうですね。ただし、そういう会社と契約を、という意味ではありません。それをしたところで意味なんて無いと思いますし。

 彼女の家の中のセキュリティーには俺がなります 」


「 へ? 」


「 ほほぅ。面白いことを言うな、お前。お前が最上くんの?でもやろうとしていることは同棲だろうが 」


「 わざとそういう言葉を選ばないでください。平たく言うとシェアハウスです 」


「「「 シェアハウス?!! 」」」



 オウム返しをされた蓮のセリフは見事にハモったのだが、そのどれもが違う感情で発せられていた。



「 シェアハウスって、私と敦賀さんがって意味ですか?! 」


「 まぁ、悪くないんじゃねーか。案としては 」


「 まさかそれを言い出すとは 」



 キョーコは心臓がバクバクしていた。

 社長は内心でにんまりしていた。

 そしてマネージャーの社は心の中で大応援団を組んでいた。




 すごいぞ、蓮!偉いぞ蓮!!

 お前、やっと告白する勇気を持ったってことなんだな?!


 そうだよな、これはまたとないチャンスだもんな。

 よし、行け、蓮!この勢いに乗って堂々とキョーコちゃんに告白するんだ!!


 君が心配だから俺の家に住んで欲しいって言え!キョーコちゃんが好きだからそうしたいんだって言え!!

 大丈夫。お前ならイケるって!!




「 どうするんだ、最上くん。蓮はこう言っているが 」


「 でもでも…敦賀さんのお家は成功の証だって… 」


「 そうだよ。だからこそあの家に誰かを連れ帰るなんて真似は絶対に止めて欲しい。それがシェアハウスの条件だ 」


「 お家賃はどうするんですか…… 」


「 今までのそれと同じでいいよ。君の今の家賃のままで… 」



 蓮の言葉に社長はこっそりほくそ笑んだ。ほら見ろと思う。

 約束通り、ちょうどいい物件紹介になっただろう。



「 本当にいいんですか?! 」


「 いいよ、それで 」



 そうだよ。最初からこうしていれば良かったんだ。


 それならこの子が自分の家に誰かを連れ帰ることは出来ないだろうし、俺としてはいつでもこの子の顔が見られる。

 双眼鏡の必要もなくなる。



 それにもしかしたら

 そのうち何かのタイミングが来て、告白できるかもしれないじゃないか。




 キョーコに微笑みかける蓮のそれは紳士然としていた。


 その顔を見て社の気持ちは下降していた。

 どうやら有能なマネージャーには、いま蓮が何を考えているのか、瞬時に悟ることが出来たらしい。





 ――――――― あーあ、ダメだ、これじゃ



 このタイミングで告白できないのなら

 この先どんなに待ってもこの男は二の足を踏むに違いない。




「 社はどう思うよ? 」


「 ふえっ?! 」


「 二人のシェアハウスの件をよ 」


「 あ・・・あぁ、はい 」



 いきなり話を振られて戸惑いはしたものの、社はすぐ自分を取り戻した。


 いや、気分的には

 いつもの社とは90度ほど違っていたかも。



「 そうですね。送迎だけを見るなら俺としては格段楽になって有難いと思います。けど、マネージャーとして言うならキョーコちゃんの身が心配なのに変わりないですね 」


「 ほう? 」


「 だってそうでしょう。蓮がいつ狼に化けるか見当もつかない訳ですから。寝ても覚めても好きな子が目の前にいるなんて普通なら狂喜乱舞の日常ですよ。あ、でも蓮は普通の男と違って若干ヘタレな所がありますので、そういう意味で言えば蓮の身もちょっとは心配かもですね。そうすると 」


「 はい? 」


「 ちょっ…社さん!! 」


「 なんだよ 」


「 なんで今それをここで言うんですか!それはこれからタイミングを見て、いつか自分から言えるかもって考えていた所で… 」


「 嘘だ。お前が告白なんて絶対できるはずがない 」


「 なぜ断言するんですか。決めつけないでくださいよ。だいたいあなたが俺の何を知っているって言うんですか! 」


「 お前のデビュー前から二人三脚してきた俺を疑うなんて失礼だぞ、蓮。少なくとも俺は誰よりお前を判っているつもりだ。その辺のどんな男より恋愛百戦錬磨な顔をしているお前が、好きな子を目の前にしても告白すら出来ず、そのくせことあるごとに嫉妬の炎を燃え滾らせていたとこなんか、目に余るほど目撃してきた 」


「 なっ…!! 」


「 …と、いうことらしいが。どうするよ?最上くん 」


「 ふぇぇぇぇ?!!! 」


「 LME芸能事務所で特に有能だと評価されている社がこう証言しておるが 」


「 どうって、どうって…。まさかこれってドッキリですか? 」


「 なんでだ。そんな訳がなかろう 」


「 ドッキリじゃないんですか。え……本当に? 」


「 無論だ。さて君はどうする?俺が提示した50万の安心物件に引っ越すか、あるいは自分を狙っている狼の巣に自ら飛び込む度胸を見せるか。さて、君はどちらにする? 」




 社長が悪い笑顔でにやりと笑った。おそらく腹の底から楽しんでいるに違いない。


 キョーコに投げられた社長からの問いの答えを待って、さすがの蓮と社も沈黙した。



 キョーコはそんな二人の視線を感じながら、まっすぐ社長を見据えた。

 たぶん、蓮の顔を見るのが照れ臭かったのだ。



 いま自分が言おうとしているそれを考えてしまうと。



 キョーコは大きく深呼吸した。ごくりと固唾を飲み込んで、それから一歩の勇気を踏み出した。




「 私、敦賀さんがお相手ならそんなキケンなメに遭ってみたいです 」



 キョーコのこの一言で

 めでたく彼女の引っ越し先が決定した。






   E N D


お付き合いくださってありがとうございました!!

お預かりしたリクエストは、「だるまやからそこそこのセキュリティーのワンルームマンションに引っ越し、その後若手人気女優なだけにストーカー対策が出来る、かなりセキュリティーのしっかりした物件に引っ越さねばならなくなったキョーコさんのお話」というざっくりした内容だったのですが、ここからが凄かった!


社長が50万の物件に引っ越せとキョコに言う⇒キョコは引っ越したくなくて必死に抵抗する⇒告白前なのに一緒に住む発言をする蓮くんがヤッシーに止められる漫才シーンは必須⇒ラストはヤッシーの爆弾発言をきっかけに両片想い発覚で。


…と、流れまで指定されていた(笑)


でも、社会通念として社長が所属芸能人に引っ越しを強要、しかも高額物件!!という流れがどうしても自然じゃない気がして、これなら有り得ると自分で思える設定を色々練りこんでいきましたら、蓮と社さんの漫才シーンが不完全燃焼になりました。いや、ほんとにごめん。それが一番見たいと言われていたのに。



さて、このお話のラストはヤッシーの発言で両片想い発覚…までがリクエストだったのですが、実はその後の様子をおまけで、というまさかのおまけおねだりまでをリクエストで頂いていまして…。ちゃっかりしてるな、もう(笑)


そちらは思いついたらお届けする…ということで了解をもらっています。

なのでひとまずこれで終わりと致します。



お付き合いくださってありがとうございました。そしてセーちゃん。リクエストをありがとうございました!!



⇒キケンなメに遭いたいの?◇8・拍手

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