SS はぐくむ彼 ◇後編 | 有限実践組-skipbeat-

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 一葉です。(。-人-。) 藤道奨物語シリーズ本編最終話、お届けいたします。

 ラストなだけに長いです。お楽しみいただけたら幸いです。



 前のお話はこちら↓

 その時の彼

 そのあとの彼【前編 後編】

 諦めたくない大切なこと

 その次の彼

 お休みの日の彼

 翌日の彼(5話目のおまけ)

 接近する彼

 後押しする彼

 広がる波紋(番外編)

 探察する彼

 閃きを得る彼

 結託する彼

 愛おしむ彼

 攫取する彼

 胸を張る彼

 はぐくむ彼◇前編


藤道奨物語シリーズ本編14話目

■ はぐくむ彼 ◇後編 ■





「 どうも、初めまして、Mr.クー・ヒズリ。キョーコちゃんの父親になりたての藤道です 」



 ローリィの予想通り、クーが日本の地を踏んだのはキョーコ達の手続きが全て終わった翌日のことだった。


 ご丁寧にもクーは後回しに出来る仕事を全て後に回し、回避できない仕事のみを寝る間を惜しんで巻きでこなし、出国手続きは自前ジェット機の中で済ませ、10時間余りのフライトをすべて睡眠にあててきたという徹底ぶり。


 それでもクーがローリィの私邸に着いたのは夜10時をまわろうか、という頃だった。



 ローリィ宝田私邸玄関。家主であるローリィより堂々とした態度で出迎えた藤道から差し出された名刺を受け取りそれを一瞥したクーは、こめかみに血管を浮き上がらせた。



「 ……どうも、Mr.藤道。弁護士?信じられんな。日本の弁護士レベルがかくも低いものだったとは 」



 ネットの中で偶然見つけたキョーコの蜜愛発覚記事。タイトルはそのまま、数時間後には感動的な親子愛に記事は訂正され、キョーコの目を隠していた黒いラインさえ消えていた。


 が、たとえなんであろうとクーは気に入らなかった。



 義理父?それが何だというのだ。

 弁護士だというならなお一層腹が立つ。



 そもそもスキャンダラスな記事が出る前に何とかすることはできたはず。

 それを未然に防げなかったことがまず許せないし、だいたいキョーコに義理父が出来るという報告を自分は受けていないのだ。


 クーの心情としては当然、笑顔で握手をする気になどなれず、空港まで自分を迎えに来てくれたローリィの秘書に続いて応接室へ足を進めるクーの苦言は止まらなかった。



「 キョーコの父親となるのは、もっと細やかな配慮をしてくれる男がわたしは良かったがな。キョーコは未成年だというのにあんな記事が出回るなど、信じられん 」


「 ええ、申し訳ありませんね。僕がキョーコちゃんのことをあまりにも自分の娘として愛しすぎるあまり、あんな誤解を招くような記事になってしまったことは申し開きの仕様もありません。

 ですがそのおかげで僕はキョーコちゃんと正式な親子となれた訳なのでご容赦頂きたい…なんて言うと思ったら大間違い。僕は別に誰に許しを貰わなくても結構。何しろあなたはキョーコちゃんの親でも何でもない訳だから 」



 一方、藤道は藤道でクーに不満を持っていた。


 そもそも藤道はキョーコの実の父親ですら父親とは認めていなかった。彼は自分がキョーコの父親第一号になりたかったのだ。


 それだけに、蓮からもたらされたクー情報は青天の霹靂以外のなにものでもなかった。



 クーと対面できると知ってから、弁護士という職業柄か藤道はクーのこともリサーチしていた。

 現在、クーがハリウッドを拠点に活動している事も、キョーコより4歳年上の息子がいることももちろん把握済みだった。



「 なにが娘だ!ポッと出の父親のくせに 」


「 おや、日本にずーっといらっしゃらなかったので無理はないかと思いますが、僕は案外キョーコちゃんの近くにずっといたんですよ。降ってわいた父親気取りの外国人俳優よりずっと近くにね 」


「 …っっ!! 」


「 お二人とも、どうぞ 」



 導かれた応接室に一歩を進んでクーは目を瞠る。そこには物凄い数のご馳走が大皿に盛られた状態でクーを待っていたのだ。

 それらは大食漢クーのためにキョーコが用意したものだった。


「 あ、先生、お疲れ様です。お腹が空いていませんか?たくさん作ってお待ちしておりましたよ!! 」


「 おお、キョーコ!わたしのためにか!嬉しいぞ!! 」


「 はぎゅうぅぅ…。先生、感激し過ぎです! 」


「 なにを言う。これ以上の嬉しい歓迎がどこにあるというのだ!! 」


「 僕に苦言を吐いた人と同一人物とは思えない抱擁ぶりだ。キョーコちゃんを可愛いと思ってくださるのは有難いですけどね、過度の接触は我慢して頂きたい。僕と違ってあなたは赤の他人なのだから 」



 棘のあるセリフを発してはいたが藤道は終始笑顔を浮かべていた。決して歓迎ではない笑顔を。

 そしてこの場にいたローリィは外野を決め込んでいるのか敢えて二人の会話に口を挟もうとはしなかった。



「 藤道さん、やめて下さい!先生はわざわざアメリカからいらして下さったんですよ!さぁ、先生、どうぞ 」


「 嬉しいぞ、キョーコ。またお前の料理が食べられるなんて、それだけでも日本に来た甲斐があった 」


「 大袈裟ですよ、先生 」


「 本当に、こんなに食べきれるんですかね 」


「 なんだ。羨ましいのか? 」


「 羨ましくはありませんね。僕はどちらかというと可愛い娘の為に自分が何かをしてあげたいタイプなので。

 そうそう、ちょうどあなたがご覧になった写真を撮られた日は、僕の父性愛をみっちり込めて作った手料理をキョーコちゃんにご馳走した日だったんだ。ね、キョーコちゃん 」


「 はい。その節はごちそうさまでした 」


「 なにを言う!親が子供の為に何かをするのは当たり前だろう。わたしだって料理ぐらい出来る!以前日本に来たときはキョーコと一緒に料理だってしたんだ。なぁ、キョーコ 」


「 はい!先生、包丁さばきが凄くお上手でビックリしたんです 」


「 当たり前ね…。当たり前じゃない親だって世の中にはいるっていうのに 」


「 いいから!藤道さんも先生と一緒に召し上がって下さい!! 」


「 もちろん頂くよ。嬉しいな、娘の手料理が食べられるなんて僕は幸せ者だ。そうだ、今度は最上と一緒に三人で食卓を囲もう。正式に家族となったことだし 」


「 それだ!キョーコ、本当なのか?!ほんっとーにこの男がお前の父親に?! 」


「 え?はい、そうですよ。もしかしたら訂正記事、先生はまだご覧になっていませんでした? 」


「 いや、見た。見たが、それならどうしてこの男とのあんな記事を書かれたんだ! 」


「 え、っとそれは… 」


「 書かれたのではなく書かせた、が正解です。それは策の一つだったんだ。僕の同僚でありキョーコちゃんの母親でもある彼女を捕まえたくてね 」


「 捕まえる?とはどういうことだ?まさか、合意の上での結婚ではないのか?! 」


「 もちろん合意の上に決まってる。彼女の意思でちゃんとサインをもらいました。まぁ、それでも今は夫の立場を手に入れただけですが、体はそこそこ陥落しているので……。あとは彼女の心を振り向かせるだけ。これからが真の楽しみです 」


「 はぁっ?正気か、キョーコ!!こんなゲスな男が父親でお前は本当にいいのか!? 」


「 ……いいも何も、もう藤道さんは私のお父さんになりましたし… 」


「 だよね、キョーコちゃん。大丈夫。無理強いするのは僕の主義に反する。彼女には心から振り向いてもらえるよう、誠心誠意尽くしていくから 」


「 あ、ははは。はい 」


「 信じられん!!夫婦なのに愛し合っていないだと?!世も末だ!! 」


「 Mr.クー・ヒズリ。世の中には様々な愛の形がある。あなたは数多の人間を演じる身だ。ご存じないとは言わせませんよ 」


「 そりゃそうかもしれんが、しかしそれでは将来子供が生まれた時はどうするんだ!キョーコとその子で格差が出来ないとは言い切れないだろう! 」


「 それこそバカバカしい。血のつながりだけが愛を深める訳じゃない。そもそも夫婦自体が赤の他人なんだ。それとも、あなたはそうだってことですか?キョーコちゃんの父親面は嘘の仮面だとお認めになる? 」


「 何を言う!わたしはキョーコがわたしの息子を演じてくれた時からキョーコを本当の子のように思っている!役者とはそういうものなんだ! 」


「 どうだか。仮にあなたの目の前であなたの息子とキョーコちゃんが窮地状態にあったとする。たった一人しか助けることが出来ない場面に遭遇したときあなたはどうする?

 僕が想像するに、あなたはきっと自分の息子を助けるはずだ!!だけど僕は違う。僕ならキョーコちゃんを助ける。なぜなら僕はこの子の父親だから。その自覚はもうずっと前から持っていた! 」



 藤道から強く言われてクーは思わず視線を逸らした。もしかしたら息子の姿を脳裏に思い描いたのかも知れない。

 そんなことを想像しながら藤道もまたクーから視線を外した。



 所詮、世の中には二通りの人間しかいないのだ。藤道はそれを良く知っていた。

 血縁か、血縁でないか。たったそれだけの違いで愛の形や大きさが変わる親子など幾らでもいるのだ。そんな人間を数えきれないほど目の当たりにして来た。


 そして元来、人間はひどく利己的な生き物なのだ。



 どんなに心優しいヒーローが居たとしても、たった一人しか助けられない場面に遭遇したらヒーローですら自分の大切な人を一番に助ける。

 人の心はそういう仕組みになっているのだ。




 ……息子か、と藤道は思った。


 正直に言えば、冴菜の子供が娘で良かったと思ったことが彼にはあった。

 息子…という立場の人間は、知らず父親の人生をなぞらえる生き方を選択するものだ。


 例えば冴菜の子供が息子だったとしても、今と同じように自分の子のように思えただろう。だが、もしその息子の生き方が彼の父親を彷彿とさせるものだったとしたら。

 それに自分が気付いてしまったら、どうにもできない感情が渦巻くのは目に見えている。


 そんな家族を自分は多く見て来た。だから…。

 冴菜の子供がキョーコで良かった、と藤道は思っていた。




「 ……藤道さん


「 うん?なに? 」


息子さんのことをあまり口にしないであげて下さい


「 え? 」


先生はもう息子さんと会えないんです


会えない?なぜ?


先生の息子さんは、本当なら今ごろは20歳になっているはずなんです。でも先生の中で息子さんの姿は15歳で時を止めてしまったままなんです。きっといま先生はその姿を思い描いて悲しんでいらっしゃるんだと思います


「 ……15歳?本当に?


はい。以前、先生がそうおっしゃっていましたから



 どういうことだ?

 藤道は眉を顰めた。



 クー・ヒズリは自分とほぼ同年代の役者だ。

 だから彼が自分の芸名である保津周平という名を葬り、以降はアメリカに活動拠点を移し、本名クー・ヒズリで役者を続けるとしたことを藤道はリアルタイムで知っていた。


 その後、結婚して子供が生まれたことすら調べるまでもなく藤道は知っていたのだ。


 それ以外になにか自分が知らないことは無いだろうか…とリサーチをしたがそれ以外は何も出て来なかった。せいぜい自分が見たことの無い映画やドラマのタイトルが信じられないほど多く列挙されたぐらいだ。


 つまり彼の息子が亡くなった…という話はどこからも出て来ていなかった。


 どういうことだ?報道規制を敷いたとか?


 その可能性は確かにゼロではないだろう。しかし仮にそうだとして、子供の死亡を隠す必要が何処にあるというのか。



「 ……Mr.クー・ヒズリ。あなたの元ファンとして質問をしても? 」


「 なんだ 」


「 僕はずっと疑問だった。あなたはどうして日本で芸能活動をしていたとき、保津周平という芸名を使っていたんですか。クー・ヒズリではダメだったんですか? 」


「 そんなもの、日本人になり切るために決まっているだろう 」


「 なり切る? 」


「 今はそうでもないが、当時わたしは日本人としてはかなり大柄な方だった。そんな中でクー・ヒズリとして芸能活動をしてみろ。たちまち外国人枠になってしまう。

 わたし自身はどんな役でもこなせる自信があった。だからわたしは日本人らしい芸名を使い、保津周平という個人すらも演じてみせていたんだ。そんなのは取るに足らないことだった。わたしは根っからの役者だから 」


「 ……なるほど。今でも日本にはそういう節がある。日本でずっと仕事を貰えている外国人名の役者を僕は見たことが無い 」



 実は過去、藤道はクー・ヒズリが保津周平の名を葬ると言った事にとても驚いた。


 本名、または芸名のどちらかで芸能人が活動するものであることは知っていた。だが少なくとも藤道は保津周平という名前が彼の芸名だと思ったことがなかったのだ。それぐらい彼は日本人らしかった。


 そういうキャラクターを演じていたのだと言われて初めて納得できた気がした。だとしたら名の弔いは彼のけじめでもあったのだろう。


 ならば余計、彼の息子が既に亡くなっていて、その事実を彼が隠しているとは考えにくかった。自分の芸名さえ弔う彼ならきっと、埋没者を手厚く扱うに違いない。

 つまり子供は絶対に生きているはずなのだ。


 では、なぜキョーコにそんな話を…?

 15歳で時を止めたとは一体どういうことだろう。


 彼がそんな嘘をつくこともまた考えにくいと思った。



「 旦那様。敦賀様がご到着なさいました 」


「 あん?なんでだ。俺は呼んでねぇぞ 」


「 あ!すみません、私です!!もうすぐ11時になっちゃうから 」


「 11時?ああ、あれか 」


「 そうか、ごめん、キョーコちゃん。今日は僕が居たのに… 」


「 いえ、私も敦賀さんにそう言ったんです。けど、約束したから今日もちゃんと連絡してくるようにって敦賀さんに言われて… 」


「 敦賀くん? 」


「 ええ、ご存じですか?敦賀くんを 」


「 もちろん知っている。敦賀くんはかつてわたしが演じた嘉月を演じてくれた役者だから 」



 瞬間、クーの雰囲気がふわりと柔らかいそれに変わり、藤道は静かに目を瞠った。



「 失礼します。……最上さん 」


「 敦賀さん、すみません、来ていただいちゃって 」


「 いいよ。君を安全に送迎する約束をしたのは俺なんだから 」


「 やぁ、敦賀くん。日本に来てまさか君にも会えるとは思っていなかった。どうだ?頑張っているのかな 」


「 こんばんは。お久しぶりです。もちろん頑張っているつもりです。それより、歓談中にお邪魔してすみません 」



 キョーコに続いてクー・ヒズリが腰を上げて蓮に近づいた。

 三人が並ぶと蓮の大きさが一層際立つ。


 そういえば日本人としては敦賀君もかなり大柄な方だよな、と藤道は考えた。



「 邪魔だなんて思っていないぞ。君も少しどうだ?キョーコが作ってくれたご馳走が山ほどあるんだ 」


「 いえ、俺は…… 」



 リバイバルされた月籠りは20年前の作品だ。

 同じ役を演じただけだろうに、それだけで役者にしか判らない繋がりのようなものが出来るのだろうか。


 もしかしたらそうなのかもしれない。

 息子を演じたキョーコちゃんを実の娘のように思うぐらいだ。よく考えたら敦賀くんなどまんま彼の息子ぐらいの年齢だろう。だとしたら余計、そう思えたとしても不思議はない。



「 Mr.クー 」


「 ああ? 」


「 実は僕、敦賀くんが凄く気に入っているんです。敦賀くんならキョーコちゃんを託しても良いと思えるぐらいに 」


「 藤道さん!!なんてこと言うんですか、敦賀さんを前にして!!やめて下さい! 」


「 どうして。これは僕が勝手に思っていることなんだから別にいいじゃないか 」


「 いやです!やめて下さい、やめて!! 」



 キョーコの父親になるにあたり、藤道はこんなことを漠然と考えた。


 もしかしたら、キョーコが藤道を名乗る日は来ないかもしれない。



 もしその日が来るとしたら、きっと冴菜に頭を撫でてもらえた時だろう…と想像しながら、その前にキョーコが名字を変える日が来るかもしれない、そんな未来を想像した。


 それならそれでいいと思った。こだわる気持ちは微塵もなかった。

 親子の絆は名前や血だけではないことを藤道は知っていたから。



 ふと思い出す。

 そう言えば、敦賀くんにもキョーコちゃんと同じように心に決めた目標があるんだっけ、と。


 あんなに真剣なまなざしの若者を久しぶりに見た気がした。

 強い決意のようなものさえ垣間見えた。


 証人サインを断られたのは完璧に想定外で、それだけに彼の真剣さが伺えた。よほどの事情かこだわりがあるのだろう、と察するに十分な出来事だった。


 そう言えばデビュー前の彼を知っている人は業界内に居なかったのだ。たしかデビューは5年ほど前。そう、彼が15~16歳の頃だったはず。



「 …っっっ?!! 」



 突如、藤道の中で突拍子もない考えが浮かんだ。

 なぜそんな事を思いついたのかは自分でも良く分からない。


 ただ、自分の心臓が止まるかと思うほど藤道は本気で驚愕していた。






 ――――――― 敦賀くん?彼は生まれながらの紳士だと思うよ。





 敦賀蓮という名が彼の芸名であることは本人から直に聞いている。



 自分自身では違和感を覚えた、けれど誰に聞いても口を揃えた彼の印象。もしその理由が


 彼が、敦賀蓮をそういう男として演じていたからだとしたら…?




 息を飲み、藤道は蓮を一瞥してから目だけを動かし今度はクーを見つめた。

 職業柄、いままで色々な親子を見て来た。中には血がつながっていない家族もいた。

 逆に、これでもかというほど強固なつながりを感じられる親子も……。




 息子…という立場の人間は、知らず父親の人生をなぞらえる生き方を選択する。



 もしそうだとしたらまるでそのものの様だ、と思った。

 刹那、藤道の目がクーとあった。恐らく視線を感じていたのだろう。


 明らかに表情を変えている藤道を見つけたクーもまた、藤道から何かを感じ取ったのかもしれない。先ほどとは比べるべくもなくクーの瞳が明らかに揺れ動いた。


 人は咄嗟の時に素直な感情が浮かぶ生き物。

 まさか本当に?そんな考えが湧き上がる。



 それでも藤道は疑っていた。自分の考えに確信が持てたのは、LMEの社長もまた自分を神妙な面持ちで見ていたことに気付けたからだった。



 しばしの間をおいてから藤道はふと口元を緩め、自分の娘となったキョーコに近づきキョーコの顔を覗き込んだ。




「 ……だけどキョーコちゃん。よく考えてごらん? 」


「 なんですか 」


「 僕と君は親子の関係と訂正された。…ということはだよ、始めに流れた噂、覚えているだろう?

 キョーコちゃんが、自分の彼氏に自分の父親を紹介していたように見えたってアレ。あれが正しい噂になったって事にならないかな? 」


「 はっ?!……っや…違う!正しくなんかありません!だって私、敦賀さんの彼女でも何でもないですから!! 」


「 だからね、僕はいっそ、それを正しい噂にすればいいと思うんだよね。ね?敦賀くん、どうだろう? 」


「 何てこと言うんですか、何てこと聞くんですか!敦賀さんになんてことを!!! 」


「 聞くぐらい別にいいじゃないか。それに、噂はもうだいぶ流れちゃったんだよな?敦賀くん、否定するの面倒になったんだろう? 」


「 そうだ!どうして敦賀さん、その噂が流れたときにはっきり否定し続けなかったんですか!! 」


「 え…なんでって言われても… 」


「 なんだ?それは何の話だ? 」


「 ああ、そうか。海外にまではこの噂、流れていないんだ。実は最初、キョーコちゃんと敦賀くんのそういう噂が流れて…で、大幅に内容を端折ると今回はそれを利用して僕とキョーコちゃんが親子になれたって経緯で 」


「 ……ほぉ?そこ、詳しく話を聞こうじゃないか 」


「 ま、聞きたいならお話ぐらいしますけど。あ、じゃあ敦賀くん。僕たちはまだここに残るからキョーコちゃんを送って貰える?君に任せるから。悪いね 」


「 構いませんよ。もともとそのつもりでしたから。じゃあ帰ろうか、最上さん 」


「 ちょっと待ってください、敦賀さん!私はまだ帰れません!! 」


「 ダメだ。最上君はもう帰れ。蓮、さっさと連れていけ 」


「 はい。…ということで帰ろう、最上さん。帰りたくないなら俺の家に来てもいいから 」


「 あ、いいね、それ。それでもイイよ、敦賀くん 」


「 藤道さん、適当な相槌を打たないで下さい!! 」


「 いいから早よ帰れ! 」


「 気を付けて帰れよ、キョーコ、それと敦賀くん。キョーコが作ってくれたこれらはわたしが全部食べておくから 」


「 はい、それはいいですけど、あっ、敦賀さん!! 」


「 だめだよ、撤収!! 」


「 やだぁぁぁ…!!ちょっと待ってぇぇぇ~~~~!!! 」



 蓮がキョーコを抱き上げ半ば強引に連れ帰った。

 二人の姿が見えなくなるとクーが深く息を吐く。


 藤道はその意を汲み取り、感慨深く笑った。



「 ……僕は弁護士です。自慢じゃないけどこの職業は天職だと思っている。

 そして僕は、世の中には色々な立場の人間がいることも、その中で誰もが大なり小なり事情を抱えて生きている事も承知している。

 僕の仕事は依頼者に寄り添い、依頼者のために力を尽くすこと。だけどそのために依頼者と対立する人間の秘密を暴こうと思ったことは一度もなかった。それが罪過でない限りは。

 強い志を持って生き抜こうとしている若者ならなおさら。それは応援すべきものであって、それ以外の感慨を僕は持ち得えない。…つまり、そういうことです。僕は本気で敦賀くんを気に入っていますしね 」






「 どうやら、キョーコの義理の父親はずいぶん男気のある人間らしい 」


「 あなたこそ。ただ一度息子を演じたという、たったそれだけの理由でこれほどまでキョーコちゃんを可愛がっているとは正直、思っていませんでした 」


「 わたしとキョーコの成り行きを? 」


「 ええ、敦賀くんから少し。キョーコちゃんの演技指導で彼女に息子役を演じさせ、それ以降キョーコちゃんがあなたを父と慕っていると聞いて柄にもなく妬きましてね。

 それだけでそんなことになるのか?なんて考えて正直疑いましたよ、あなたの性癖を。まさか…ってね 」


「 言っておくが、キョーコの才能はそこらへんの役者とは全く違うぞ。義理の父ともなればキョーコのことをそれぐらいは理解しておかないと 」


「 そうですか。ではそのお話を是非うかがいたいですね。ビッグネームな俳優の口から 」


「 いいだろう。キョーコが作ってくれたご馳走はまだたんまりと残っている。それに夜はまだこれからだ。ボス、美味い酒はあるか 」


「 作らせよう。楽しく酔いしれる美酒を 」


「 いいですね。それだけで話が弾みそうだ 」



 以降、二人はキョーコの義理父として

 長きに渡り互いの友情を深く、はぐくみ合ってゆく。






     E N D


お付き合いを頂きまして有難うございました!

最初に申し上げました通り、このシリーズの着地点は「義理父対決」

なので藤道さんシリーズはこれにて終了です。悪しからずご了承下さい。(。-人-。)


ただ、連載中に思いついてしまったお話がありました。

それを番外編として3つお届けし、そこで完全完結と致します。

お付き合い頂けたら嬉しいです。



⇒はぐくむ彼◇後編・拍手

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※番外編1⇒「欲望まみれの彼」



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