おは一葉です。(・ω・)/
まさかこのシリーズの続きをこんな早くお届け出来るとは夢にも思っていませんでしたが、思いついたので書いてみました。
ちなみに今回、38巻収録のACT.227から派生している内容になっておりますが、ちゃんとシリーズの続きでもあります。そこらへんはお読み頂いたらご理解いただけるかと。
それでは、かなり長めですがお楽しみいただけたら嬉しいです。
ちなみに前のお話はこちら↓
藤道奨物語シリーズ4話目
■ その次の彼 ■
自分が心惹かれる女性の娘、最上キョーコから感謝の気持ちとしてプレゼントされたのはカーネーションの小さな鉢植え。
これを僕の知り合いの誰かが目撃しようものなら間違いなく目を剥くだろうそれが、いま自分の家にあるという事実がとてつもなく誇らしかった。
「 ……よし完璧。今日も綺麗に咲いている 」
受け取ったあの日からずっと、決して欠かすことなくやり続けている朝晩の花チェック。
これは育て方を検索して知ったことだが、カーネーションは案外、繊細な花である事が分かった。
日照不足になると葉が黄色くなって途端に育ちが悪くなるだけでなく、カーネーションは高温多湿に弱く、植物のくせに特に水は天敵で、花に水滴がかかるとすぐダメになってしまうらしい。
だから開花時期である今は雨が当たらないよう室内の一番明るい場所に置いていた。
多湿になると根腐れしやすいらしいので都度、土の状態を確かめ、表面が乾いていたらたっぷりと水をやる。当然、花に水がかからないよう細心の注意を払うのは忘れず。
そして、咲き切った花がいつまでもついていると灰色カビ病が発生することがあるらしいと知り、花がらは朝のチェック時にマメに摘むようにしていた。
「 …ふむ。この分だと梅雨前に一通り花が咲き終わるだろうから、そうなったら茎を半分くらいに切り戻してやって、込み合った部分は根元から切って風通しを良くしてやれば良い訳だな。
うん。そうしたらそのとき一回り大きな鉢植えに変えようか。大きくしてみたいし 」
既にこの花の世話は日々の楽しみとなっている。
もし、この鉢植えを自分ではない誰か。たとえば別の男が受け取ったとしたら。
いや、たとえそうでなくても。
当初自分が考えていた通り、もし譲渡主の母親である最上に渡していたとしたら、こんなに手間のかかる植物を渡すなんて…と、文句の一つも言ったかもしれない。
けれど、自分は少しもそうは思わなかった。
手間がかかるほど笑みが浮かび
世話数が多いほど喜びが込み上げる。
花の世話を通し、僕は勝手にこう解釈していた。
自分はこんな風に手間がかかる娘だけど、それでも本当に良いのか…と尋ねられているみたいだと。
「 やっぱりこれ、僕が受け取って正解だったな 」
もっとも、当の本人はそんなつもりなど微塵も無かっただろうが。
真実などどうでもいいのだ。カーネーションを通して勝手に自分がメッセージ性を見出しているだけなのだから。
将来、自分の娘になるだろう最上キョーコから貰った鉢植えは、いまや自分の中で一二を争う金玉そのもの。
そのうち同僚の最上冴菜がまたいつこの家の敷居をまたぐ日が来るかも知れない。その時、きっとこの鉢植えが存分に力を発揮してくれることだろう。
そんな日を想像して口元に笑いを含め、現在時刻を確認して腰を上げた。
「 ……っと、いかん。もう行かないと 」
――――――― 藤道奨は、言わずと知れた腕利きの弁護士である。
彼はいまも、若い頃からずっとお世話になっている恩師、片桐と職場を共にしていた。
その恩師は現在、笑いも取れる鰐顔弁護士として有名であるが、しかし最近は本人の体調がいまいち優れないため、同じ事務所に所属している弁護士たちで恩師の仕事を代行していた。
そして今日、その恩師の代わりに藤道には行かねばならない場所があった。
彼は慣れた手つきで手早く身支度を整えると、速やかに自宅を後にし、本日の目的地であるテレビ局へ向かった。
自分の意思で車を走らせ到着した先で、藤道は未知との遭遇とはこのことだろうか…と歓喜に肩を震わせることになる。
気が向かないまでも致し方なく向かったテレビ局の廊下で、なんと先日会ったばかりの想い人の娘を発見したのだ。
最上キョーコは少々奇抜な格好をしていた。だが彼女であることに相違なかった。
藤道は静かに口元を緩め、片手で顎に触れた。まるで微笑を隠す様に。
――――――― すごい色のツナギだな。最上が見たら最上川が0.1秒で決壊しそうだ。
遠目から見た限りだがキョーコの笑顔に曇りはない。その事から、どうやら嫌々着用しているという訳ではなさそうだ。
腕時計に目をやりまだ時間に余裕があることを確認すると、挨拶ぐらいはしておこうとキョーコの方へ歩みを進めた。
その時である。
藤道の視界では横顔のままのキョーコが、誰かの姿を見つけてより一層笑顔を輝かせたのは。
彼はそこで一旦歩みを止めた。
「 あっ!!敦賀さん、社さん、お疲れ様です! 」
「 キョーコちゃん。ナイスタイミングぅ! 」
聞き受けて視線をそちらへと動かし、藤道はハッとした。
弁護士の仕事は多忙で、唯一意識的に見るテレビと言えばニュース番組程度のものである。
そんな自分の頭の中でさえ、敦賀蓮といえば名前と顔が一致する数少ない芸能人の一人として存在していた。
その彼の名を、先日思いがけない場所で聞いた気がしたのだ。
――――――― あっ、そうだ。確かキョーコちゃんが……。
先ごろあの鉢植えを自分に渡したいがために彼女が連絡をくれたとき、自分の母親に気付かれないようにと彼女は偽名を使ったのだ。
その名前が敦賀だった。そうだ、間違うはずが無い。
どうして敦賀?…と驚いたことはまだ記憶に新しい。
……そうか。だとするともしかしたら、彼女が名乗ったあの偽名の元は彼の名前ということに。
人間が偽りの名を口にするとき、当然そこにはそれを選択した背景というものが存在する。
名乗ることを予め決めていたのだとしたら、その名は彼女にとって特別な名前だと言えるだろうし、もしそれを突然名乗ったのだとしたら、その名が彼女の心を大きく占めているという証明になる。
どちらにせよその名は彼女にとって深い意味があるモノに相違ない。
藤道はフ…と笑みを漏らし、俄然、歩みを強めた。
将来、自分の娘となるであろう最上キョーコは、現在、芸能関係の仕事に就くことを希望している。 ←もう仕事をしている事実をまだ知らない。
奇しくも本人からその事実を聞き及んでいた藤道は、娘の未来を案じる父親よろしく彼らに挨拶をしておこうと思ったのだ。
そうだ。
そもそも自分がその話を聞いたとき、本当に大丈夫なのかこの子…と少々心配になったのだ。
母親である最上冴菜は自分よりもっと正確に娘の現状を把握している様子だったが、後々のことを勘案するならやはり自分自身の手で具体的に、そしてより現実に沿って探りを入れた方が安心できる。
駆け寄って行ったキョーコに向かってふんわりと微笑んだ敦賀蓮のそれは、大抵の女性だったら腰砕けになってしまいそうな神々しさで煌めいていた。
そして彼を見上げて微笑んだキョーコの横顔は頬を赤らめた少女顔。
いい加減、年を重ねていれば図らずとも見える事柄など幾つもある。
当然藤道の中でふと、一つの答えが浮かび上がった。
……ビンゴだな。
思わず表情を崩した。
何ともくすぐったいではないか。
家業を継ぐのが嫌で逃げ出した大好きな幼馴染にホイホイついて行った挙句、別れて人生を棒に振ったバカな娘…などと母親である最上は愚痴っていたが。
なんてことはない。母親はあれからずっと立ち止まったままだというのに、娘の方はもうとっくにそんなものとはおさらばしていたのだ。
少なくとも自分の目に映った彼女に後悔は一つも見えないし、そもそも母親と対峙したあの時、自分と交わしたセリフの端々からもこの子は母親が持つ芯の強さをちゃんと受け継いでいるようだと自分は思ったのだ。
いや。実際には自分の予想を超えている。
むしろ最上より娘の方が何倍も逞しいではないか。
好きな人がいる世界に自らも身を投じたいと考え、行動に移す様はそれこそ微笑ましいとしか言い様がない。
……でも、まてよ。
たしか、幼馴染も芸能人になったんだっけ?
ん。やはりここは探りを入れておいた方が…。
再び彼女に近付きながら眼鏡のブリッジに指を添え、視界をクリアにしてから足を止めた。
僕の存在に最初に気付いたのは敦賀蓮。次いでその隣にいた知的風貌な男性で、最後にキョーコちゃんだった。
「 や、キョーコちゃん 」
「 とっ…藤道さん?!どうしてこちらに… 」
「「 藤道さん? 」」
キョーコちゃんの発言に男性二人はどちらも同じ出だしで疑問を投げかけたが、眼鏡の方はキョーコちゃん知り合い?…と続け、敦賀蓮は同じ疑問を彼女の名字で訊ねた。
「 キョーコちゃん、知り合い? 」
「 最上さんの知り合い? 」
「 あっ…と、あの……。藤道さん!先にご紹介させてください 」
「 うん、いいよ 」
「 あの、こちらの方は母と同じ職場にお勤めの藤道さんです 」
「 どうも初めまして 」
「 そして藤道さん。こちらは事務所の大先輩、敦賀蓮さんと、マネージャーさんの社さんです 」
「 どうも 」
「 初めまして 」
キョーコちゃんの紹介で軽く頭を下げた二人は、さすがに芸能人というだけあって美しい所作を見せた。
マネージャーでさえそうであることに感心を覚えた僕は、後々の事を考えるならきちんと名乗るのが得策と胸ポケットから名刺入れを取り出す。
そのとき不意に、キョーコちゃんが子供だった頃
偽名で自己紹介したことを思い出し、名刺を差し出す前に、こう…名乗ってみた。
「 僕は、弁護士をしています。藤道ショウです 」
「「「 なっ…?? 」」」
瞬間、3人が一様に目を見開き、僕を凝視したことに思わず吹き出す。
慌てた様子でキョーコちゃんが口を開いた。
「 藤道さん!どうしてまたそんな嘘をつくんですか! 」
「 ははははは…。だって、面白かっただろう? 」
「 ちっとも面白くないです! 」
「 え?それって冗談なんですか? 」
「 あぁ、ごめん。いま名刺を渡すから…… 」
面白い。
本当に面白かったよ。
たったこれだけのことだけど、案外多くの事が分かるものだ。
マネージャーの方はギョッとした顔を見せて
敦賀蓮の方は弾かれように僕を射抜いた。
もちろん、何故そういう反応をしたのかは、いまは判断のしようもないけれど。
少なくともこの二人は、キョーコちゃんの歴史を少しは知っているってことなのだ。
だからこそ、ショウ…という名前に反応したのだろうから。
「 これが僕の本当の名前です。どうぞ 」
「「 藤道…ススムさん 」」
「 です。キョーコちゃんの母親の…最上の同僚です。最上とはキョーコちゃんが生まれる前からずっと職場が一緒でね 」
「 そうでしたか 」
そう呟いた敦賀蓮の目には、先ほど放たれた鋭さは消えていたけど。
僕の顔を見たあと名刺に視線を落とすふりをしながら、心配そうにキョーコちゃんを見つめた彼の小さな行動が僕の目に微笑ましく映った。
「 おっと、こちらから呼び止めたのに申し訳ない。実は呼ばれた番組があってもう行かないといけないんだ 」
「 そうだったんですね。藤道さん、わざわざお声がけ頂いてありがとうございました 」
「 いや。わざわざじゃないよ。見知らぬ場所で心細くてね。だからキョーコちゃんを見つけて嬉しくなっちゃってつい声をかけてしまったんだ。
おかげで通常だったら会う事すら出来なかっただろうキョーコちゃんの先輩にも挨拶できてむしろ良かったかな 」
「 あっ!そうですね。敦賀さん、有名人ですから… 」
「 いや、そういう意味じゃなくて… 」
「 え?違うんですか? 」
「 おや?キョーコちゃんにしては察しが悪いな。良いのかな?ここで聞いても。彼だろう?キョーコちゃん 」
「 はい? 」
「 ほら。この前、君が名乗った…… 」
「 はぎゅっ?!うぎゃあぁぁぁぁぁあああああ!!!やっ、やめて下さい!やめて下さい!!後生ですからやめて下さいぃぃぃぃ!!!! 」
「 だから良いのかって聞いたのに… 」
僕の言葉を理解した途端、一瞬でユデダコになった未来の僕の娘が、人知を超えた素早い動きで懸命に首を左右に振り、必死の形相で僕の腕に掴みかかる。
彼らから数歩、僕を引き離した所を見ると、よほど知られたくないのだな、と思った。
「 ……内緒にして欲しい? 」
キョーコちゃんの耳元でそう囁くと、うっすらと涙を浮かべた彼女が今度は勢いよく首を縦に振る。そして縋る目で僕を見上げた。
「 ……お願いしますぅぅぅぅ… 」
…ぷっ。なんだそれ、可愛いな。
そりゃあ、まぁ、恥ずかしいのかも知れないけど。
好きな人の名字を騙ったんだし。
でも、どうせならそれでアプローチしちゃえばいいのに、と僕ならそう考える所。
恋愛の醍醐味は自分で動くことに意味があるんだけどね?キョーコちゃん。
それともショウくんのことが原因で、恋愛成就には消極的になっちゃったのかな。
「 そうか、判った。大丈夫。そんなに心配せずとも 」
小刻みに笑いをかみ殺しながら、小さく肩を揺らした彼女の頭をポン…と叩くと、キョーコちゃんは幼い笑顔でほっと安堵の溜息をついた。
……うん。外見は変わったけど、やっぱり根本的な所は変わっていないんだな。
なにより最上の娘である君の恋路。邪魔する気なんて毛頭ないよ。
僕が本当の父親なら、もしかしたら反対したのかな。
いや。きっと違う。
僕はどんな立場であったとしても君が恋することに反意を持たない。
それどころか、僕で出来る事があるならぜひ…と考えてしまうよ。
どうせなら
とことんまで倖せな恋をして欲しい…と思う。
だって、ショウくんのことだろう?
君が言ってた、愚かで浅はかになり下がる無様な恋をしたハナクソみたいな相手の男って。
そんな恋、とっとと捨てた方が良い。
最上の様にいつまでも引きずるのは良くないから。
…なんて、要らぬお節介かな。
なぜなら君はもうとっくに、自分の足で次の恋を見つけているのだから。
逞しいな、本当に。
「 キョーコちゃん。最上の事だけじゃなく、男性関係であっても困ったことがあったら遠慮なく僕に相談して来ていいよ 」
「 うえっ?!あっ、えと… 」
「 じゃあ失礼する。また会うことがあるかも知れないが、その時は宜しく。敦賀くん…と、社くん?と呼んでいいのかな 」
「「 ええ、どうぞ 」」
軽く手を挙げ素早くその場から離れたのは本当に遅刻しそうだったから。
そうしておいて僕は当初の目的を思い出して足を止めた。
「 あ、キョーコちゃん 」
「 はいぃぃいっ??? 」
「 花!ありがとう。とってもキレイに咲いているよ 」
「 ……あ…。こちらこそ!受け取って頂いて有難うございました!!! 」
そう言って花よりきれいに綻んだ笑顔に小さく手を振り返した。
そうだな。
最上を落とすのは僕にとって一番重要な案件だけど、でもいまはキョーコちゃんの恋の応援をしようと思う。
あわよくば、頼りになる父親気取りで。
さてここから。
僕は、次なる目標に突き進もう。
E N D
今回一番書きたかったシーンは、藤道氏がテレビ局でキョーコちゃんを見つけて、蓮くんと鉢合わせてから全部です♡
とくに「ショウ」と名乗るところは思いついた瞬間、ぶはっと吹き出したので、絶対に入れようと心に誓っていました。
確実にクーに近づいている。ふふふふふ…( ̄ー+ ̄*)
しかし、次からタイトルどうしよぉ(笑)
⇒その次の彼・拍手
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※藤道さんside「お休みの日の彼」に続きます。
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