雨の中の茶会
台風の影響か、今朝からかなり激しい雨です。 雨の音を聞きながら、昔のことを思い出しました。根津美術館で大寄せがあった時、凄い雨で、弘仁亭に並んでいる時、人数が溢れて傘の行列が軒下から、後ろの坂の上まで連なりました。当時の根津美術館の庭は、今のようにきちんと石畳に整備されておらず、土剥き出しの階段で、木で段を止めていたと思います。そんな中で、一人の中年女性が、水屋にでも行こうとしたのか、人の傘をかき分けて通り抜けようとして、滑ってしまったのです。和服は泥まみれ。周囲が助け起こして、とりあえず本館の方に連れて行き、その後はどうなったか、ともかくあんな悲惨な状態は見たことがありません。実際、茶会の一番の大敵は雨かもしれません。ことに大寄せの場合がそうです。会場が美術倶楽部などビルの中なら、会場まで辿り着けば、後は屋内に並ぶので平気ですが、東京で言えば、根津や畠山、護国寺など茶室が点在しているところの大寄せは、傘の行列となり大変です。大寄せではなく、茶事ならば、行列になることもないので、その辺はいいのですが、露地笠の扱いがまた難しい。夜咄茶事で雨が降ったら、片手に笠、片手に手燭で正客を務めるには、よほどの熟練がいるでしょう。おまけに露地下駄、正直言って、かなり履きにくく歩きにくい。気をつけないと捻挫しそうです。武野紹鴎でしたか「露地で雪駄を上手に履ける人は自分と誰々だけだ」と言ったとかいうような逸話があったと思いますが、昔から下駄は履きにくいものなのでしょう。それに、シトシト雨なら、多少の風情もあり、笠の体験が出来たと喜ぶ人もいるかも知れませんが、今日のような土砂降りでは、露地笠は、ほとんど役に立たないのではないでしょうか。東都茶会記などを読むと「雨が強くなったので廊下伝いに席入りした」というような記事がありますが、そういう構造の茶室ならいいけれど、離れた独立の茶室だったらどうするのだろうと思います。茶事が台風のど真ん中にぶつかったりしたらどうするのか。現代なら電話一本で中止をるげること出来、天気予報で前もって延期を決めるとかいうことになるでしょうが、電話も予報もない江戸時代以前はどうだったんだろうと想像がつきません。昔は、茶事の約束は重いもので、招かれて承諾したら、絶対に行かねばならないという暗黙のルールがあって、親の死を隠してまで出席したというような話がありますが、台風にぶつかったりしたらどうしたんでしょう。亭主側が人を走らせて中止を告げたのかなどと、つまらない想像をします。昔の会記は、メモ的な道具組、客組しかし記していないものが多く、あんまり天候のことを記しているものもないので、状況がわかりませんが。ともあれ、「結構なお湿りで」とか「濡れた露地の風情がまことに素敵で」と挨拶出来るくらいの雨の茶会でありたいもので、やはり基本的には茶会は晴天が良いのでしょう。これから梅雨に向かう折、茶会は少ないのかもしれません。しかし、この数年、茶会に行くことも少ないと、たまには雨の茶会でもいいから行く機会がないものか、などと、ふっと思ったりもします。 萍亭主