Carl Stamitz : Concertante Quartet in G major, Op.14 No.2
カール・シュターミッツの作品14には6曲入っている。そのうちの1番と4番がオーケストラ四重奏曲(Orchestral Quartet) つまり弦楽合奏曲、2番と5番が協奏的四重奏曲(Concertante Quartet)、そして3番と6番が普通の弦楽四重奏曲(String Quartet) になっている。
このシュターミッツの作品14の全般に言えることだが、モーツァルトの初期の作品で人気のある3曲のディヴェルティメント(Divertiment, K.136, 137, 138)に楽曲スタイルが酷似していることだ。 ここで大事なのはマネをしたのはモーツァルトのほうだったことである。旅行の途中に立ち寄って、当時最高のオケと賞賛されたマンハイムの宮廷楽団の演奏を目の当たりにする機会を得た10代の少年モーツァルトがそこから大きな影響を受けたのだ。
今回取り上げた第2番の協奏的四重奏曲は、タイトルからすれば弦楽四重奏曲の一ジャンル(カルテット・コンチェルタンテ Quartet Concertante) と考えることもできる。つまり、各パートに順繰りにソロが回ってくる様式で曲ができているものだ。しかしこの曲に関する限り、現在の演奏例を見ると、バロック時代の合奏協奏曲(Concerto Grosso) のようにトゥッティとソロが交錯して、ソロ以外の部分は弦楽合奏で奏いていることが多い。
しかしながら IMSLP に最近収容された同じ曲のオリジナルの手書き譜(下記)の表題は「弦楽四重奏曲ト長調」と記されており、普通のカルテットとして演奏されていたと考えられる。実際、私もこれまで数回弦四として奏いてみる機会があり、モーツァルトのディヴェルティメントや初期の弦楽四重奏曲と同様に、単純明快な響きを楽しめた思い出がある。
IMSLP - Stamitz : String Quartet in G major, DTB XVI G3
https://imslp.org/wiki/String_Quartet_in_G_major%2C_DTB_XVI_G3_(Stamitz%2C_Carl_Philipp)
譜例に使った楽譜は、珍しいニュージーランドのアルタリア社(Artaria Editions) のもので、下記URLの「KMSA室内楽譜面倉庫」でスコアとパート譜を参照できる。
https://onedrive.live.com/?authkey=%21ACN8DNizjzp5md4&id=2C898DB920FC5C30%217451&cid=2C898DB920FC5C30
Youtube では「合奏+ソロ」スタイルでニュージーランド室内合奏団が天真爛漫な演奏を聴かせてくれる。(楽譜も演奏もニュージーランドなのは偶然の一致か?)
このCDでは作品14の中の4曲とも収録されていて、希少な演奏例でありがたい。
Concertante Quartet in G Major, Op. 14, No.2
New Zealand Chamber Orchestra
II. Andante gracioso
https://www.youtube.com/watch?v=-k8UOf-BaBE
III. Presto
https://www.youtube.com/watch?v=zfQEhjTZEHs
第1楽章 アレグロ・コンスピリート
元気のいいテーマがユニゾンで始められる。単純明快な様式美の魅力に満ちている。まさに喜遊曲(ディヴェルティメント)の世界である。
第2主題は、もろにモーツァルト的(というかマンハイム楽派的)の典型で、第1ヴァイオリンから第2ヴァイオリンに引き継がれ、その後を追うようにヴィオラとチェロが3度和声を保ちながら別のテーマで補う。
新しい旋律が次々に繰り出され、まるでメドレーを聴くように楽しめる。第1ヴァイオリンが高音で伸ばす下で第2ヴァイオリンが歌う装飾音型が美しい。
再現部に入る直前の上記のヴァイオリンのパッセージにはどこかのコンチェルトで聞き覚えがあるような華やかさを感じる。
第2楽章 アンダンテ・グラチオーゾ
しっとりした典型的なセレナード楽章。
チェロの出番のソロ。カルテットの譜面にソロの表記があるが、これは合奏曲のトゥッティ Tutti に対するソロ Solo ではなく、4人の奏者の中で一番目立つように奏くという意味だと思っている。
第3楽章 プレスト
フィナーレの追い出し曲そのもの。速すぎると舌が回らなくなるが、うまく付けられれば気分がいい。
[余談] この曲の演奏例として、カペラ・コロニエンシス Cappella Coloniensis のものもよく見つかる。これも合奏で演奏しているが、問題が一つある。それはソの音程がファのあたりまで下がっている点である。この曲はト長調だから、ソ=G の音が主音のはず。しかし合わせてみると調性が違っている。現代のA音のピッチ 440~442 Hz ではなく、昔のバロック時代の 415 Hz を採用しているのかもという憶測もありうるが、その差はせいぜい半音程度(G⇒ F#)だという。ところがこの団体の音程は1音近くは低くなっている。ヘ長調に「移調」して演奏しているとしか考えられない。なぜそうなのか?答をご存じの方はお教えいただきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=VeeThF1dufA
※カール・シュターミッツ(Carl Phillipp Stamitz, Karel Filip Stamic, 1745-1801) はボヘミア出身の父ヨハン・シュターミッツ(Johann Stamitz, 1717-1757)の息子としてマンハイムで生まれた。父親がマンハイムの宮廷楽長として欧州随一の楽団を作り上げ、マンハイム楽派として、リヒター、カンナビヒ、ホルツバウアーなどの作曲家に引き継がれて繁栄した環境に育った。12歳で父親を亡くしたが、17歳から8年間このオーケストラの第2ヴァイオリン奏者として働いた。1770年にパリに赴き、ノアイユ公爵の宮廷楽師として数年間過ごした。その後は作曲家・演奏家として欧州各国の都市を巡り、特定の雇用先を持たずに、作曲と演奏活動を続けた。その名声にもかかわらず晩年は経済的に困窮し、ドイツのイエナで56歳で世を去った。作品としては交響曲、協奏交響曲、様々な独奏楽器のための協奏曲を数多く残した。近年チェコの演奏家たちを中心に多くの作品がCD化されている。