名建築シリーズ352
常滑市陶芸研究所本館(現 とこなめ陶の森陶芸研究所)
往訪日:2025年8月15日
所在地:愛知県常滑市奥条7-22
開館:9時~17時(月曜休館)
料金:無料
アクセス:名鉄空港線・常滑駅から徒歩25分
駐車場:あり(無料)
■設計:堀口捨巳
■施工:松井建設
■竣工:1961年
■DOCOMOMO認定(2014年)
■登録有形文化財(2023年)
《昭和30年代にこの色この形》

名古屋建築巡礼の七件目。遂に憧れの常滑市陶芸研究所を訪ねることができた。設計は堀口捨巳。日本の分離派運動を仲間とともに牽引。そして数寄屋建築を深く研究。その融合を図った稀有な建築家である。そして残念なことに堀口の建築ももはや風前の灯火であり、とりわけ表現主義やモダニズム系は絶望的。そんなわけで貴重な作例なのだった。

場所はとこなめ陶芸の森。手前の資料館に駐車したが、中に止めてよかったのかもしれない。

常滑焼を伝承するとともに、陶芸入門者を指導する施設として、常滑市長も務めた伊奈製陶株式会社(現INAX)の創業者・伊奈長三郎の寄附で建設された。
「INAXライブミュージアムでタイル焼いたにゃ」
なつかし~
遥か昔ね。

竣工は1961年。表現主義の平和記念東京博覧会平和塔(1922)に紫烟荘(1924)、モダニズムの吉川邸(1930)、大島測候所(1938)など、目まぐるしく作風を変えつつ後年は数寄屋の世界に沈潜していった。

そんな堀口が明大工学部教授として教鞭を振るっていた時代の、いわば遅咲きの、そして突然のモダニズム回帰だった。

遠目に見た時「紫色に塗ったのか?」と早合点したが、近づいてみるとラベンダー色のグラデーションは色違いの小口タイルで仕上げられていた。RC造というのでグレーのコンクリートだと決めつけていたのだ。

このタイルは伊奈製陶オリジナルの顔料で着色したモザイク用で、堀口自身の提案だったそうだ。しかし、どういう経緯、あるいは着想からこのような色目になったのだろう。

建物側面に付された斜路は、今はなき明治大学泉体育館や第二校舎の斜路を思わせた。

庇の天窓からそそぐ陽光が天使の階段のようだ。

吹抜けの中央ホール。この左手に陶磁器展示室、右手に事務室がある。二階にあがる場合は事務員に声をかけるように書いてあった。あまりの美しさに感動し、車で待つというおサルをわざわざ呼び出したのは云うまでもない。
「めちゃあつい…」
💦
エアコンも扇風機もないからね。それに負けないスタッフがすごい(扇風機は使ってました)。

一見すると木製のような中吊り階段は合金製。この軽快さで荷重を支えるのだからすごい。

天井の照明。サイズの異なる網目から覗く照明の光と形の変容は、山口勝弘が50年代に発表したヴィットリーヌを髣髴とさせるものがある。はたして交流があったのか。それは判らないし、唯の妄想でしかない。

ふり返る。昭和36年竣工の鉄筋コンクリート構造物がいまだ延命されているのは、常滑市がこの建築を後世に残そうと努力しているためだ。

澤田重雄《記憶》(昭和時代)
正面に据えられたオブジェ焼の作者・澤田重雄氏(1931-)は常滑焼の重鎮。優雅な釉調と幾何学的なモダンな作風は今も観る者に何かを訴えてくる。

紫色のガラスブロックは珍しい。

昭和の時代にはやったこの資材も、もはや一社しか製造していないと聞く。

観音開きの玄関の扉。満月?

その奥に伊奈長三郎を顕彰するレリーフがある。保有する伊奈製陶の株式15万株を寄附。その売却益で建設された主旨が記されていた。
「二階にあがってみる」

この和洋が組み合わされた部屋が一番素敵だった。

堀口好みの茶室。炉が切られていないけど。

茶室側から。応接セットも往時のままなんだろうね。ドアノブの赤い装飾と調和しているし。

その奥には会議室が続く。ここは至って実用的。

その奥にも和室。鴨居や欄間が省略された伸びやかな空間。

ベランダ側からの風景。

更に屋上へ。まさか上がれるとは思っても見なかった。

トップライトの採光窓。
「変わった形だの」
下からみるとツノに見えるんだよね。ツノガエルとか。

特にこの形がね。

ガラスの枠は木製。これも和と洋の融合?

モールガラスだった。ザ・昭和。

次は展示室。一室だけだが展示ケースの配置とトップライトのデザインが素晴らしいのだ。

めちゃ幾何学的。

ここで幾つか陶芸もメモを。

《自然釉猫掻き文大甕》(平安時代末期)
中世の自然釉の大甕の魅力は器体のおおらかさと全体のリズム。そして作為のない釉の発露。

二代山田常山《朱泥細字刻急須》(昭和時代)
常滑焼の代名詞・山田常山。三代目の作品は過去鑑賞しているが、二代目は初。より伝統に根差した作風。全体的に丸みを浴びた容がすばらしい。

二代伊奈長三《千筋藻掛水指》(江戸後期)
伊奈長三(いな ちょうざ)は常滑焼の名窯元。名前から判るようにINAX創業者の長三郎はその五代目の兄の息子。本来であれば六代目を踏襲していたところだが、父・初之丞の起業家魂が近代窯業へと一族を導いた。その伝統の技。常滑焼にこんな色目があったとは初めて知った。

大迫みきお《灰釉壺》(昭和時代)
桧原窯を開いた大迫みきお(1940-1995)の壺。大分生まれ。ここ常滑市立陶芸研究所に学ぶ。灰釉を得意とした江崎一生ほか、優れた教授陣に教えを受けている。たしかに他の大迫の作例をみると江崎のようにサッと釉薬を刷いた作品が見られる。こうした子弟の技の伝承も面白い。

ちなみに資料館は常滑焼の歴史や古陶磁器を中心に展示されているそうだ。今回は時間がなかったので割愛したが、陶芸好き、歴史好きの方には興味深い資料館だと思った。
「あと行けても一箇所くらいかにゃ」
(つづく)
ご訪問ありがとうございました。