ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうとおサル妻の山旅日記

ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

名建築シリーズ298

群馬県立図書館

 

往訪日:2025年7月13日

所在地:群馬県前橋市日吉町1-14-8

開館:平日9時~17時(日曜休館)

アクセス:JR前橋駅から25分

■設計:岡田新一設計事務所

■施工:鹿島建設、池下工業

■竣工:1978年

 

《まるで巨獣のような造形》

 

続いてもうひとつの岡田建築の群馬県立図書館も見ておこう。取壊し対象だが、こちらはまだ現役施設だ。

 

 

白いタイルが岡田建築の象徴。

 

「いかにも昭和の建築だの」サル

 

 

エントランスに至るスロープをピロティ下に大胆に採っている。こうした建築は今となってはザラにあるが当時としては画期的だったに違いない。


 

丹下門下のモダニズムの巨匠たちがそのシンメトリーに美を追求したのに対して、岡田の建築は迷路のような非対称性に美がある。もちろん僕個人の印象論だ。

 

 

階段部の摺り寄せも直角ではないんだよね。

 

 

ピロティの下。一部打ちっ放しも。

 

 

玄関正面。これだけ頑張っている建築だけど内部は思いのほか普通だった。

 

 

裏側。コンクリートにしてもタイルにしても白は水垢問題がつきまとうね。これが余計に建物を老けてみせてしまう。初期の菊竹の建築と(構造の違いは別として)似たような状況を感じてしまった。

 

「汚れやすいしにゃ」サル

 

いよいよ雲が多くなってきたのでこれにて前橋建築巡礼は終わり。帰路につくことにした。

 

(つづく)

 

ご訪問ありがとうございました。

名建築シリーズ297

群馬県民会館(現 ベイシア文化ホール)

 

往訪日:2025年7月13日

所在地:群馬県前橋市日吉町1-10-1

開館:閉業

アクセス:JR前橋駅から徒歩25分

■設計:岡田新一設計事務所

■施工:鹿島建設

■竣工:1971年

 

《スーパーの名前は合わないかなあ》

 

昨年7月の滝沢温泉投宿の翌日。天気はやはり今ひとつ。それでも青空は見えていたので前橋市内の建築を拾うことにした。向かった先は最高裁判所警視庁本庁舎で知られる岡田新一が初期に手がけた群馬県民会館。2009年にネーミングライツによってベイシア文化ホールに代わった。その後、大規模改修工事による延命化が計画されたが、県知事が不要論を唱えて一気に取壊しに軸足が変わった。

 

(石版を重ねたような意匠は最高裁判所にも踏襲されている)

 

有志によって“群馬県民会館を守る会”も立ち上げられ、長らく存廃の議論が続いていたが、老朽化と利用者減少を理由に「廃止」の最終判断がくだったことが先日5月15日に報道された。

 

「どこかで聞いたような話だにゃ」サル

 

今後は隣接する(やはり岡田が携わった)群馬県立図書館ともども取壊して新たな公共施設が建設されると聞く。しかし、不要を唱えながら新たな箱物を造るという考えには首を傾げざるをえない。

 

(かなり広い車寄せ)

 

明治100年事業として建設。「県民文化の殿堂」として親しまれてきた。ドアには「2025年3月31日に閉館しました」と貼り紙があった。あと三箇月あまり早ければ内部見学できたのに。もはや周囲を遠巻きに見るだけだ。

 

 

施工は岡田の出身である鹿島建設が担当した。寄ってみよう。

 

 

かつての名前の右下に神田坤六の名前もある。内務官僚出身の神田知事は群馬県の文化行政と土木行政に心血を注いだ名知事だった。

 

 

1969年に鹿島建設から独立したばかりの岡田は最高裁判所の設計コンペを勝ち取る。その最高裁の竣工の三年後の仕事だ。図書館、美術館、病院建築を得意としたが、相対的におだやかで目立たない、まさに白い箱と言ったデザインが後に主流になるが、この神殿を思わせる権威主義的な造形に若さを感じた。

 

 

かつての群馬県師範学校(現 群馬大教育学部)の跡地に建っている。1934(昭和9)年の特別軍事演習の際に天皇陛下を迎えて授業の様子を御覧いただき、終了後に5000人の教職員が奉拝したと記されている。

 

「判るとなんでも面白いね」サル

 

 

南側。

 

 

北側。

 

 

西側。つまり建物の真裏になる。

 

(使われなくなればすぐに傷んでしまうのが建築)

 

ホワイエからは阿弥陀になった窓枠越しに裏庭が美しく見えたはず。

 

 

いずれこの建築も見られなくなると思うと切ない気分になる。

 

(つづく)

 

ご訪問ありがとうございました。

サルヒツの温泉めぐり♪【第191回】

滝沢温泉 滝沢館

℡)027-283-5711

 

往訪日:2025年7月12日~7月13日

所在地:群馬県前橋市粕川町室沢滝沢241

源泉名:滝沢の湯

泉質:カルシウム・ナトリウム・マグネシウムー炭酸水素塩冷鉱泉

泉温:(源泉)23.8℃(浴室)42℃

匂味:金気臭・収斂性のある酸味、まろやかな甘味、苦味

色調:無色透明(加温直後は灰褐色に濁る)

pH:6.1

湧量:52.3L/min

その他:(源泉)掘削自噴・かけ流し

■営業時間:(IN)15時(OUT)10時

■料金:13,500円/人(税別)

■客室:15室

■アクセス:北関東道・駒形ICから30分

■駐車場:25台

■日帰り:あり

■日本秘湯を守る会会員

 

《冷たくても効能最高な冷鉱泉》

 

季節を問わず「温泉は激熱に限る」と豪語していたのも今は昔。ここ数年の加速度的な酷暑に音を上げて「夏は冷鉱泉」が恒例になった。ということで2025年の夏(というにはまだ早いが)の温泉第一弾。赤城山の山懐にある滝沢館にお邪魔した。

 

「おサルのリクエストなのち」サル

 

 

北関東道・駒形ICから扇状地を北に進み、小沼に続くクネクネ道に入る手前で右に逸れた。このあたりは赤城温泉郷と称して、玄人好みのいい宿が幾つもあったが、コロナ禍以降、後継者難も手伝い、多くの宿が畳んでしまった。

 

 

まもなく濃い緑の森の先に宿が見えてくる。この季節になると(冷泉を求めて)あたり一帯を訪ねる機会が増えた。そして、必ずと言っていいほどガスに覆われる。山の形状と湿度と気温のなせる業なのだろう。判っていながら懲りずに通っている。

 

 

日帰り利用もやっているので、到着時は宿の手前が塞がっていることが多い。一段下の沢の手前にも駐車場はある。

 

 

少し早かったがチェックインさせてくれた。

 

 

泉質の良さで知られる滝沢館だが、開業は1979(昭和54)年とその歴史は意外に浅い。

 

 

今回の僕らの部屋は二階の桜の間。二人で使うには広すぎるほどだった。

 

 

さっそく主婦はお片づけ。

 

 

間取りはこんな感じだ。15室あるが少し客の数を減らしているようだった。

 

 

前を流れる渓流の音がさわやか。

 

 

ということで温泉探検へ!

 

滝沢館はこんな宿

・赤城山南麓の静かな一軒宿

・鉄分豊富な炭酸冷鉱泉がすばらしい

・地産食材の素朴な料理がおいしい

・とてもリーズナブルな料金設定

 

温泉利用法

■浴場…内風呂・露天風呂(冷鉱泉つき)

 ※露天風呂は冬季閉鎖

■利用時間…15時~翌日10時

入替利用…なし

■貸切利用…なし

■日帰利用…10時~15時(700円)

 

日帰り利用者とかち合うことはない。また露天風呂は沸かし湯で溜めるには半日かかるために湯の入替頻度は高くなく、加温泉のヴァージン湯にこだわる意味は然程ない。むしろ源泉かけ流しの水風呂にジックリ浸かるのが通の作法。

 

 

まずは体を洗うべく内湯へ。

 

 

サッと洗うだけ。

 

 

なかなかいい風呂だが、ここが目的ではない。

 

 

一階のラウンジに戻り(写真左奥の)靴脱ぎ場でサンダルに履き替えて外に出る。

 

 

建物の一段下に目当ての露天風呂があった。

 

 

最近やり直したのだろうか。やけに新しいが、脱衣場だけに奇麗に越したことはない。待ちきれない思いをかかえて外に飛び出した。だが…

 

 

「なによ。これ」サル

 

アブ対策なのだろう。カスミ網が張ってあった…。判るけどね。でもなんか風情が…。

 

「アブくらい追い払え!」サル ←登山で毒虫に強くなった

 

都会の人はそうもいかないよね(笑)。

 

 

その一方でこの湯の花の豊富さ。

 

「ホンモノの温泉である証しだニャ」サル

 

だが、一番の目当てはここでもない。

 

 

そうこれ。天然冷鉱泉。

 

 

小さい注ぎ口ながら毎分40㍑以上の湧量。ひとり入ればいっぱいの小さな壺湯だが、これが意外に深くて大のおとなでもスッポリ嵌まるから不思議。そして泡つきのいいこと!(※キチンと体を洗わないと泡を堪能できません)

 

 

金粉のように舞う鉄分由来の湯の花。飲泉できるので飲んでみる。鉄の匂いは想定内。収斂味、まろやかな甘み、マグネシウム由来の苦みと味に深みがある。つまり極上泉の証し。ただあまり飲み過ぎると歯のエナメル質によくなさそうだ(笑)。

 

 

渓流のせせらぎとエゾハルゼミの鳴き声が少し早い夏山の旅情を誘う。

 

 

実はここにも洗い場はあった。

 

 

撃退オニヤンマ君でやぶ蚊対策もばっちり。

 

(成分分析表)

 

なにかが突出しているわけではないが、全てにおいて豊富なイオン量。このあとは部屋でおサルとプチ宴会。そしてまた風呂。やはり夏場は冷鉱泉に如くはない。

 

=夕 食=

 

 

会場は別室。二組セットの割振り。

 

 

宿泊料13,500円でこの内容はなかなか。

 

 

まずは食前酒で乾杯。

 

 

量より質。派手さよりも丁寧さ。そんな心が籠った田舎料理だ。

 

(手前)セロリ醤油漬け、胡桃牛蒡、モロッコインゲン。

(奥)鴨ロースト、茄子真丈、生ハム、筍、蓮根、蕗の砂糖煮。

 

 

イワタバコ、ミズの天麩羅は初めて。

 

「揚げれば何でも食える」サル

 

 

刺身盛り合わせ。鮪にギンヒカリ(群馬の最高級ニジマス)。

 

 

酒は地元の結人・特別純米を。酸がすごい。結局ふたりで四合頂戴してしまった。

 

 

もう食えん。

 

 

最後の陶板焼き。

 

 

ご飯がつやつや。

 

 

充実の夕食だった。

 

 

最後に黒糖カスタード。つるりとして美味しく頂いた。

 

=翌 朝=

 

もちろんジョグ。但し急坂の往復。熊も怖い。怖いが、意識の高い人が鈴を付けてまでしてジョグしている。なので僕らもやめる訳にいかないのだった。

 

 

翌朝は小雨だったが、奇蹟の疑似晴天。(なので外の写真はほぼ二日目)汗を流して体の火照りをとった。

 

=朝 食=

 

 

朝食も同じ部屋で。

 

 

白味噌仕立ての味噌汁でホッと一息ついた。しかし、温泉宿の時間のたつのはなぜ早いのか。毎回読みたい本を持参するが読んだ例がない。老眼が進んでからはますますひどくなり、専ら酒に逃げている。それもまた愉しみのひとつであるのも違いないのだが。

 

既に隠居の身なのだろうが、矍鑠と館内を闊歩する先代は元バリバリの証券マンだったという。そして熱心な山ヤで、閑さえあれば登山に明け暮れていたとか。ロビーに架かった山の絵。もしかしたら先代が絵筆を振るったものかもしれない。そんな宿の“素顔”がまたひとつ旅情を誘うのだった。
 

「ベリー愉しかった!」サル

 

(つづく)

 

ご訪問ありがとうございます。

渡良瀬遊水地

 

往訪日:2025年7月12日

場所:栃木県栃木市藤岡町藤岡

開館:24時間オープン

料金:無料

駐車場:あり

アクセス:東北道・館林ICから20分

 

《群馬・栃木・埼玉をわずか二秒で周回》

 

2025年7月の二週目。北関東の温泉旅に出た。山に温泉と行き尽くした感のある北関東だが、いまだ平野部は未踏の領域。今回旅のついでに訪ねたのが渡良瀬遊水地三県境だった。三県境とは文字通り、三つの県が交わる一点を差す。全国に40箇所以上あるが(山稜を境界にあてるのが一般である以上)殆どが山の頂になる。北アルプスの三俣蓮華岳や奥秩父の甲武信ヶ岳などがその好例だ。そのため、平野部での三県境は珍しく、人の暮らしの場に存在するのは極めて珍しい(国立公園では尾瀬沼がそれにあたる)。

 

「ホントに物好きだのー」サル

 

この存在を聞き知り、ジオサイトマニアとして一度は行かねばと思っていた。確かに「県境」は人間が拵えた眼に見えない仕切りに過ぎず、地質や構造と何の関係もないといえばそうなのだが。

 

(この日は生憎の天気。雨に降られないだけマシ)


ネット情報によれば道の駅かぞわたらせを起点に歩くのが近道。南側に案内が出ている。

 

 

まずは階段をくだる。眼の前の道をまっすぐ進んだ。

 

 

400㍍ほど歩いたところで右に折れる(案内板あり)。

 

 

田圃のなかにゲートボール場のような空き地がみえてきた。

 

 

ここだ。時間が早いせいだろう。まだ誰もいない。

 

「ヒツジだけだよ。こんな朝から」サル

 

奇麗に整備されてご意見BOXまである。盛りあがっている感じ(笑)。

 

 

用水路で区切られた領域が埼玉、群馬、栃木の三県だ。

 

 

しかし、こんな用水路がなぜ県境になったのかという疑問が残る。実はかつて渡良瀬川とその支流である谷田川がここを流れていた。度々氾濫する暴れ川は明治の河川付け替え工事によって東に移動。旧河川は埋め立てによって幅を狭められ、最後は用水路になり果てて、その殆どが圃場に代わったそうだ。

 

 

確かに境界が打ってある。

 

「いろいろいそうで気持ち悪い」サル

 

モノアラガイとかタニシとかじゃない?

 

なにか珍しいものがあるとか、景色がいいとか、そういうものではないので記念写真をとればもうやることはない。そのまま道路を渡って渡良瀬遊水地を大きく周回することにした。運動になりそう。

 

 

ハート型をした池は堤防によって三ブロックに分割されている。そもそもは1890(明治23)年の大洪水が造成の引き金になった。完成後、渡良瀬川の溢れた洪水を吸収し、流出した足尾銅山の鉱毒を沈殿させ、無害化の役割を担うことになる。

 

 

堤防上は立派な舗装路になっていてジョガーはもちろん、サイクリストのオアシスになっている。

 

 

そして遊水地の東側にはその四倍以上はある広大な葦原が広がり、縄張りを主張するオオヨシキリの甲高い鳴き声が重なり合っていた。

 

 

堤防沿いには和紙の原料となるカジノキや桑が青々とした巨樹に成長していた。かつての村民が生活のために植えた名残りかもしれない。

 

 

こんなにいい公園なのに誰もいないのが不思議だ。横浜や東京であれば犬の散歩で大賑わいになるはずなのに。広すぎて車でアプローチするしかないのがバカバカしいということ?

 

 

北ブロック北岸のあたりには広い駐車場と展望台が幾つもある。

 

「あれに昇ってみよう!」サル

 

 

立派な櫓だよ。

 

 

2019年の台風19号の時は青い矢印まで増水したそうな。まず生きて帰れない。

 

 

こんな感じで洪水の際にはひと廻り以上巨大な池に化ける。

 

 

晴れていれば最高の景色なんだよね。ここ。

 

 

渡良瀬川の源頭である皇海山は…曇っていて見えない。

 

(小さく写るおサルの姿)

 

ということで歴史と自然を学ぶジョグロードだった。

 

「一路温泉へ!」サル

 

(つづく)

 

ご訪問ありがとうございます。

名建築シリーズ296

横浜市中区役所

 

往訪日:2025年7月9日

所在地:神奈川県横浜市中区日本大通35

開館:8時45分~17時(土日休館)

アクセス:JR関内駅から徒歩3分

■設計:前川建築設計事務所

■施工:不詳

■竣工:1983年

 

《改めてみればいい建築》

 

昨年の7月初旬。とある要件を抱えて横浜市中区役所を訪ねた。過去幾度か訪れているが、業務終了後に最晩年の前川が設計に携わった建築を拝んでおくことにした。

 

 

水平展開を基本とする前川建築にあって、こうした(垂直とはいかないまでも)矩形の建築はあまりなかったことに今更ながら気づいた。

 

 

その意味ではトレードマークの連続アーチの他は工夫の余地が限られている。

 

 

ハニカムっぽいコンクリートパネルや中二階の側壁に用いられたスチールパネルが眼を惹く要素かも。

 

 

異素材の組み合わせで印象の単純化を抑えたのか。

 

 

ラダーのような軽快なポチ窓の配置がモダンだ。

 

 

この建築をみたとき、磯崎の西日本シティ銀行を思いだした。外壁のインド砂岩や著しく扁平なフォルムなど、もちろんすべてが同じというのではない。ただ、色彩感と窓の配置、とりわけ側壁のポチ窓、金属製のエントランスなどに、普段の前川事務所のデザインと異なる匂いを感じた。

 

 

後年定番化した打ち込みタイル。数種の色がランダムに組み合わされている。塩釉っぽい飴色にしばらく見入る。スーツ姿でこんなものをガン見する奴もそうそういない。ヘンなヤツだと思われたか、あるいは素直に業界の人と思われたか。

 

「そこまで見てないって」サル

 

 

2020年の改修工事によって天井装飾など幾分変更点があるものの、ホールはほぼ当時のまま。奥の壁画は元永定正の《ぱぱぴぴぽぽぽ》。宇宙人もしくは宇宙船がモチーフと思われるが、チラシが邪魔で全体を観ることができないのが残念。

 

「利活用するためのホールだしにゃ」サル

 

 

床の装飾タイル。

 

 

天井。

 

 

幾つか彫刻も。神奈川区にアトリエを開いた井上信道(1909-2008)の作品。

 

 

肉感的というか丈夫そうというか。モダニズムから遠く離れた昭和の造形だ。周辺には新旧含めて名建築が集まっているが、この日はこれにて帰宅。また後日。

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございました。

サルヒツの酒【第345回】

ささまさむね 純米吟醸 愛山

 

製造年月:2025年5月

生産者:笹正宗酒造㈱

所在地:福島県喜多方市

タイプ:純米吟醸 一回火入れ

使用米:兵庫県産愛山100%

精米歩合:50%

アルコール:16%

杜氏:岩田悠二郎氏

販売価格:1,818円(税別)

※特約店限定品

 

※味覚の表現は飽くまで個人的なものです

 

今夜の酒は福島のささまさむね。初の正宗銘柄だ。買い求めたのは福島の泉屋。鮮やかなショッキングピンクに惹かれてのジャケ買いの一本だった。(2025年7月5日賞味)

 

 

笹正宗酒造の創業は1818年。ラーメンの街・喜多方の北方に位置する老舗蔵で建物が国の登録有形文化財に指定されている。兄弟二人三脚で小商いに徹する。青森の豊盃を造る三浦酒造と同じだ。こういう蔵にハズレはない。

 

「派手なラベルだの」サル

 

 

そんな笹正宗酒造ささまさむね。日本酒ルネサンスにあたる2014年に初登場した。

 

 

広告にはライトでジューシーな飲み口とあったが、いやいやズッシリした熟女のテイスト。この重さが愛山らしいといえばらしいが、とかく油断すると甘くなる。十分に冷やして飲めば旨いが、冷やしすぎると芳醇さが消える。なんとも扱いにくいじゃじゃ馬淑女。

 

 

胡瓜ゆかり昆布。オクラの豚バラ巻き。朝採れ甘唐辛子天ぷら。味わいの濃さは装幀済みなのでこんなものをリクエスト。それでも素材は野菜。そのあたりはこだわり。

 

 

ビンナガマグロで山かけ。万能ねぎをこれでもかと掛けるのがミソ。まんまでは今ひとつのビンナガも、手間をかけるだけで美味くなる。

 

 

奈良漬けの余った酒粕を二次利用した豚バラの滓焼き。麹の働きがすごい。

 

「SGDSだの」サル

 

SDG‘sでしょ。

 

「SGGSなんじゃね?」サル

 

といつもの不毛な会話。

 

 

想像とは違って後年のエリザベス・テーラーのような酒だった。

 

「余計判らん!」サル

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。

黙黙たる反骨 安藤照

 

往訪日:2025年7月5日

会場:松濤美術館

会期:2025年6月21日~8月17日

開館:10時~18時(月曜休館)

料金:一般1000円 大学生800円 高校生500円

アクセス:井の頭線・神泉駅から5分

※撮影一部OK

 

 

2026年7月最初の週末は松濤美術館安藤照の回顧展を観た。安藤といえば渋谷のハチ公像でおなじみだが、残念ながら現物は戦時中の金属供出で失われ、戦後、惜しむ市民の声に応えて息子の安藤士(たけし)が再制作したものだ。

 

(ハチ公と並ぶ。垂れ耳など今の秋田犬とかなり違う)

 

その程度の事も浦島茂世さんの『パブリックアート入門』を読むまで知らなかった。だが、多くの人が知りうるのはハチ公像そのものまでではないだろうか。作品に触れる前に、改めて渋谷駅前に立ち寄ることにした。

 

(触られまくって前足ピカピカ)

 

当然のように早朝からインバウンドの長い列。きちんと並んで互いに撮りあうというルールができていた。僕の前はシンガポールのカップル。撮りましょうかと言われ、彫像だけでいいと答えると怪訝な顔をされた。

 

(戦後のレプリカ。初代は1934年製)

 

では安藤照とはどういう人物か。

 

 

安藤照(1892-1945)。鹿児島の士族の生まれ。早大商科に進学するが、彫刻家の夢捨てがたく東京美術学校へ。藤島武二に絵を武石弘三郎に彫刻を学び、若くして才能が認められ、以後、朝倉文夫門下のリーダー格になる。


しかし(光雲、水谷鉄也ら)旧派の君臨に不満な朝倉は帝展を批判し、審査員辞任。他方、朝倉の東台彫塑会と西望・大夢の曠原社の派閥争いもあって、安藤たちは朝倉塾に見切りをつけて翌年塊人社を結成する。

 

「怒れる青年たちだったのね」サル

 

それでは個々の作品を。

 

安藤照《忠犬ハチ公》(制昨年不詳)鹿児島市立美術館

 

まずは(皆の目当て)ハチ公像だろう。狛犬を参考に制作されたと言われれば合点がいく。テラコッタ製の写真の作品は、世間のハチ人気を新聞で知った貞明皇后(大正天皇のお后)が「是非観たい」といっていると人伝に聞き及んだ秋田の実業家・木村泰治が制作依頼したものだ。

 

「皇后陛下も新聞読むんだね」サル

 

シモジモの情報にも敏感だったんだな。

 

のちに銅像制作の寄附への返礼品として京都の瓦屋に量産を依頼するが、友人から「商売人みたいな真似はするな」と忠告されて息子の士に破壊を命じる。幾つか隠し持っていたのが奇蹟的に伝わった。また、安藤には作品贈答の癖があり、同郷の苦学生が結婚すると聞けば「生活の足しに」とミニハチ公を贈っている。これも稀少な生き残り。のちに詳述するが、安藤の作品は東京大空襲でアトリエ諸共焼失して30点あまりしか残存していない。忘れられた天才彫刻家たるゆえんだ。

 

安藤照《女の首》(1923)鹿児島市立美術館

 

朝倉塾時代の作品。ロダン風リアリズム。

 

安藤照《ポイント第二》(1931)鹿児島市立美術館

 

塊土社結成後の作。無類の動物好きだった安藤は、多いときはメジロ70羽、ポインター7頭を飼っていた。ポインターを選んだのは趣味の狩猟からだろう。あまり自作について語らなかったが、殊に犬に関しては饒舌だったらしい。

 

「犬好きアルアルだの」サル

 

安藤照《兎》(制作年不詳)鹿児島市立美術館

 

だからだろうか、動物の小品を幾つも残している。簡略化された造形だが誰が見ても兎だ。

 

安藤照《胸像》(1935)白根記念渋谷区郷土博物館

 

塊人社は思想で結びついた集団というより、一緒に釣りをしたり、旅行をしたりと家庭的な関係だったらしい。総じて牧歌的な作風は(斯界の権威主義に辟易したことも事実だが)彼らの気風そのものだったのかもしれない。この《胸像》などは天平仏のような温かみが感じられる。

 

村田勝四郎《顔を膝にのせて》(1958)松濤美術館

 

メンバーは小笠原貞弘、松田尚之、児島矩一、小室達、そして長谷川勝四郎(1901-1989)。

 

安藤照《裸婦座像》(1942)鹿児島市立美術館

 

ギリシャ、ローマに範をとった古典的なスタイルを変えず、淡々と制作を続けた。だが、時局が戦争へと向かうと、塊土社もまた日立航空機の下請けで部品の石膏型を作るなど協力を強いられるようになる。

 

安藤照《裸婦立像》(1931)個人蔵

 

1944年10月12日にはハチ公像の「出陣式」が決行され、航空機の部品となった。更に不幸は重なる。翌45年5月25日の東京大空襲だ。娘、叔母、女中それに近所の子供ら7名と防空壕に避難したところを焼夷弾にやられ、壕のなかで蒸し焼きにされ、安藤は非業の死をとげた。54歳だった。


「痛ましすぎゆ」サル

 

その後、リアリズム継承者の堀江尚志、仏教彫刻に転じた長谷川栄作、三国慶一、フランス留学後モダニズムに進む武井直也、横江嘉純、パラオでゴーギャンに師事する土方久功など、分裂は近代彫刻の多様化と深化を促した。

 

堀江尚志《ある女》(1920)岩手県立美術館

 

安藤の美校の同級生・堀江尚志(1897-1935)の傑作を最後に。習作だったが、その完成度を惜しんだ安藤と松田が無断で石膏を取り作品化したもの。渋る本人を説得し第二回帝展に出展。みごと特選を受賞した。

 

そんな堀江も結核にやられて早逝する。堀江の弟曰く「人生とはどんなものであるかという事を諄々と解き(ママ)聞かせて看護している女親を泣かせたり、死の前に看取っていた医者や弟妹に永い間世話になったと心からの礼を述べて暗黙とさせたり、死期が迫って自ら掌を合わせて死んでいった」という。新制作派の後輩たちが尊敬した堀江の人柄が偲ばれる挿話だ。

 

 

ハチ公像も貴重だったが、安藤の周辺に集った彫刻家たちの才能を一度に見ることができた充実の企画展だった。

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。

ひつぞうの偏愛的読書【第47回】

菊池信義『樹の花にて 装幀の余白から』(白水社)

1993年刊 211P

 

(作者自装。函もいいが本体の無垢な白もいい)

 

たまたま手にすることになった装幀家・菊池信義の本。文章家としても名高い。三年前の訃報に触れたとき、ある時代の終りが近いことを感じた。それは「リアルな書籍として読書人の手に取られることで、初めて本が本として存在しえた時代」とでも言おうか。紙の手触り。インクの匂い(ある時は古書としての埃っぽい匂い)。カバー画とフォントの戯れ。書き手がつむぐ抽象が具体に転じる手助けをする職人、とりわけ詩を解する装幀家として菊地は大きな仕事を残した。(2026年5月16日読了)

 

★ ★ ★

 

半月ほど前。前日の空振りにも関わらず、新橋駅前の古本市に懲りずに立ち寄った。そこで見つけたのがこのエッセイ集。函から引き出して、グラシン紙に覆われた表紙を手にページを繰る。余白をじゅうぶんに取った紙面は、活字を拾うには絶妙で、りきみの抜けた表現で綴られ、仕事場の銀座界隈の風景やなじみの飲食店や喫茶店に話が及んでいた。これは拾い物だ。

 

店の名前は脇役にすぎず、著者の記憶は過去の銀座に飛び、幼い頃のひとり遊びや友達と交わした言葉の反芻に連鎖する。だが、その店のたたずまい、店主の人柄、立ちのぼる珈琲やとんかつの香り。僕を魅了したのは、むしろそうした“老舗”の描写だった。

 

DNPのグラフィック・ギャラリーの開館をひとり待っていたことがある。細い通りを挟んだビルにたくさんの客の行列。みればトンカツ屋。ほろ酔いの父が幼い菊地のために買ってくるカツサンドこそ、ここ梅林本店のそれ。

 

ジョン・レノンゆかりの(表題作でもある)珈琲店《樹の花》。老舗の和菓子屋《空也》の最中もこの本で覚えた。こう書くと、自分の無知をさらけだすようで気恥しいが、読者としての自分と既に黄泉のひととなった装幀家の、ことばを介した出逢いの喜びを記しておきたかった。

 

(他にも未知谷、青土社、幻戯書房に本の雑誌社など。シブい書肆ばかり)

 

偶然だが、昨日建築巡礼で日本橋から駿河台まで歩いた。カザルスホールに続く細い坂道を登り始めた刹那。「たしかここは」と気づいたとき、既に白水社のモダンな建物がみえていた。この週末、神保町はブックフリマが開催中で聞けば二割引き。学生時代に馴染んだUブックスが並んでいる。しかし建築巡礼中。荷物は憚られる。断腸の思いで店頭を後にしたが、やはりギンズブルグは買っておくべきだったと今更ながら後悔している。

 

最後に菊地の言葉から。

 

“本という物は読者の読むという体験を経て、真に存在したといえる物である。(中略)書店や図書館で読者と出会い、一人一人の読むという行為の内で、初めて一冊一冊が存在したといえる物としてある。”(196P)

 

当たり前のことなのに菊地が連ねるとグッとくる。

 

「おサルは本も動画も好き!」サル

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございました。

サルヒツの酒【第344回】

十四代 中取り超極

 

製造年月:2025年(月表示なし)

生産者:高木酒造㈱

所在地:山形県村山市

タイプ:純米大吟醸 一回火入れ

使用米:兵庫県特A地区産山田錦100%

精米歩合:35%

アルコール:15%

杜氏:高木顕統氏

販売価格:6,100円(税別)

※特約店限定品

 

※味覚の表現は飽くまで個人的なものです

 

今夜の酒は山形の十四代。家飲みでは純吟・播州愛山に続いて二回目。(2025年7月4日賞味)

 

 

贅沢なもので、あれだけ憧れ続けた十四代も、入手の手づるができると、有難味を感じなくなった。しかし、定番の《本丸》は相変わらず手に入らない。そんなわけで、取引先の送別会で《本丸》の未開栓があると聞き(どうせ交際費だしと)前後不覚になるまで飲んでしまい、翌日立ち上がれなかったのは苦い思い出。

 

 

話が逸れた。この日、火入れの純大を開けた。超極とあるだけにスペックは鑑評会の賞狙いクラス。磨き35%で特Aの山田錦で醸す。本来は贈答品。家飲みにするものではないが、手に入るとなれば選り好みなどできない(もちろん特約店で購入)。

 

「6000円超えか」サル お値段も超極!

 

 

熟成酒のカテゴリー。飲んでみた。

 

 

前回の播州愛山と同じ15度なのに(味わいは芳醇ながら)なぜか軽く感じる。そしてこれだけ磨いているのに、しっかり米の旨味が乗っている。また、熟成という言葉を忘れるほどフレッシュ。ラムネ、洋梨、ライチのフレーバーがたまらない。

 

 

この年初のハモとコチを肴に。コチの刺身。もう少し薄く刃を入れた方がよかったかな。これは僕の責。

 

 

ハモは天婦羅で。

 

「こっちの方がお酒に合うね」サル

 

昔はおサルも揚げ物は苦手だったのに。うまくなったね。

 

 

重くて軽い。旨味があってフルーティ。甘味メインの最初のひと口とアフターの充実したアルコール感。バランスのとれた酒だった。手に入れるのは大変だが、飲み出したらあっという間だ。

 

(おわり)

 

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「デビル」

アメリカ/コロンビア映画(1997年)

The Devil's Own

 

監督:アラン・J・パクラ

脚本:ケヴィン・ジャール他

製作:ローレンス・ゴードン他

出演:ハリソン・フォード、ブラット・ピット他

音楽:ジェームズ・ホーナー

鑑賞日:2026年5月13日(Amazon Prime)

 

映画鑑賞の備忘録をひとつ。最近ふたりで色々観ているなかで(出色とまではいかずとも)記憶に残る映画だった。

 

★ ★ ★

 

 

最近IRAに関するニュースを耳にしない。自分のアンテナが鈍っているのかもしれないが、初めて訪れた1990年頃の英国では普通にロンドン市内で爆弾テロが発生していた。そんな青年テロリストと愚直なアメリカ人警察官の物語である。監督はアラン・J・パクラ。「大統領の陰謀」「推定無罪」「ペリカン文書」などの社会派サスペンスを撮ってきた名匠。その遺作だ。

 

=STORY=

 

物語はベルフファストでのIRAと英国国防軍との激しい市街地戦から始まる。組織の若き指導者フランキー(ブラット・ピット)は起死回生をめざして、武器商人からスティンガーミサイルを購入するため単身ニューヨークに渡る。組織が寄宿先に選んだのが、アイルランド系の警察官トム(ハリソン・フォード)の家だった。

 

フランキーの素性を知らないトムは同郷の身寄りのない青年を温かく迎える。生真面目で不器用なトムの優しさに触れるうちに、ささくれ立ったフランキーの心にも人間らしい感情が芽生えていく。

 

 

そんなさなか、組織から武器商人との取引に関して内部通報者がいるという連絡が。フランキーは取引相手のバークに延期を申し入れるが、カネの回収を焦ったバークの一団はトムの自宅に押し入ってしまう。

 

 

恩人を危険な眼に合わせるなと、フランキーはバークに警告を与えるが、逆恨みしたバークはフランキーの友人を人質に金を要求。他方、フランキーの正体に気づいたトムは(FBIも英国国防軍もギャングもフランキーの息の根をとめるのが目的である以上)彼の命を救うには逮捕しかないと覚悟を固める。そして最後は望まずして対決することになるのだが…。あとは観てのお楽しみだ。

 

「おサルはリアルタイムで観たにゃ」サル

 

予定調和的で先が読めてしまうシナリオだが、抑制の効いた主演ふたりの演技がいい。アイルランドの鉛色の空のイメージが作品全篇に漂う。体制から見れば悪魔の申し子でしかないテロリストも、視点を変えれば孤独に社会と向き合う僕らと寸毫も変わらない。そんな感情移入もしてしまう。ずっと同じブラピの「バベル」と勘違いしていた(それもまた観ていない)。しかし、二人とも若いね。

 

(おわり)

 

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