つやま自然のふしぎ館(津山科学教育博物館)
往訪日:2025年4月25日
所在地:岡山県津山市山下98-1
開館:9時~17時(月曜休館・不定休)
料金:一般800円 小中生600円 幼児400円
※歴史民俗館との共通券がお得
アクセス:中国道・津山ICから15分
駐車場:あり
《表現が東宝怪獣祭》

奥津温泉の仙郷を離れて、初日にいく予定だった津山科学教育博物館をめざした。博物館は僕のテリトリーだが、そのトンデモぶりがSNSで話題ということで、おサルのたっての希望で見学することにした。

通称「つやま自然のふしぎ館」。硬い名前ではファミリー層を呼び込めない。そう判断したのだろう。ならばいっその事変えてしまえばいいのに。そう思うが、キリスト教と科学を信奉した設立者・森本慶三の思いを忖度すれば安易なこともできないのだろう。

全部で14室。化石、人体、貝、昆虫に始まり、展示対象は世界中の野生動物の剥製まで網羅。展示総数20,000点。設立は1963(昭和38)年。よく集めたと感心するしかない。なお今上天皇も皇太子時代に来訪されている。

しかし、絶滅危惧種をどうして剥製にできたのか。動物園で亡くなった個体だろうか。
第1室 化石の世界

化石と現代の珍獣を同レベルで陳列。このあたりが昭和的。

本家のビカリアミュージアムすら足許にも及ばない完成度と収集の幅。それはこの若くして亡くなった少年の化石愛がなしえたものだった。剥製以外はコレクターの寄贈が多い。
第2室 人体の神秘と動物の骨格

博物学と宗教の接点に万物の霊長たる人類がいる。そういう切り口で人体が語られる。胎児の成長に合わせて造られた子宮や眼球などの解剖模型が陳列されていた。昭和の模型は表面がツルツルで逆にそのプアな仕上がりが生々しさを助長して胸苦しくなる。
「目のやり場に困るのー」
隣りの若い父親は幼い息子に「●●君もこうしてお母さんのおなかに入っていたんだよ」と朗らかに説明するが、想像するとモヤモヤする。なぜ多くの人体模型は女性なのか。猟奇的に感じる僕がおかしいのだろうか。

「やっぱりヒツは科学者にはなれんね」
そのうち一つ目の畸形の仔牛や人間の胎児のホルマリン標本が出てくる。刑法上死産の胎児は人格を附与されないからだろう。かなり重いテーマだが、子供に見せていいのか。いや、科学的視点からいえば早くから識るべきかもしれない。
「理科の実験室、怖かった」
実はこの裏側でまさにおサルが実見中なのだが、当館が《トンデモ系》と言われる最大の根拠が展示されていた。それは当館の設立者である篤志家・森本慶三その人の臓器のホルマリン漬けが、脳、肺、心臓と腑分けされて展示されていたのだ。
特定の人間の臓器を展示する。その行為は刑法190条に抵触しかねない。解剖に当たった岡山大の医師は本人の遺志を汲みつつも関係者と十分な議論を交わした。その結果、ホルマリン漬け標本は「死体」ではないという結論にいたった。もちろん、当時の倫理観が現在と違っていたこともある。ここで感じるショックは、モノそれ自体のあまりの生々しさもあるが、戦前の科学思想がそのまま化石化したかのように今も残っている事実にある。
「そういえば人体の不思議展は怖くなかったにゃ」
プラスティネーションを施した人体標本を展示する「人体の不思議展」が20年余り前に大きな話題になり、現在も続いているようだが、あのモノ化した標本とはまるで違う。匿名性の有無も大きい。

いきなりキリンか。

ヘンなところで雑。
「昭和昭和」
第3室 世界と日本の珍しい貝

やっぱり昭和の科学少年には貝だよ。

ツキヒガイ。幼稚園の砂場でゲットしたときは夢のようだった。

アオイガイ。貝に似ているけど蛸の仲間。殻を向かい合わせにすると葵の葉に見えるのでこの名がある。

南の海の貝はどれも美しい。持っていたよ。どれもこれも。きっと亡くなる前にオヤジが勝手に処分したと思うが。
第4室 昆虫の世界

昭和の科学少年は昆虫も好き。

殆どは寄贈。日本昆虫学会で日本一の折り紙つきだった鴨脚慶夫氏のコレクション。
第11室 日本の鉱石・岩石

観客に一顧だにされない岩石コーナー。雑な扱いでちと不憫。
第5室 日本とアジアの動物

(左)ベンガルヤマネコ (右)タイワンヤマネコ
もうちょっとどうにかならなかったのか。その辺の縫いぐるみより悪い。
「足も反対に曲がってるし」

なんでも咆哮すればいいというものではない。
第6室 世界の鳥

全部同じ形。これが昭和の頃のはやりなんだろう。応接間向き。
第7室 北米大陸の動物

そういえば三毛別羆事件で駆除されたヒグマの胃から出てきた子供の足やズタズタにされ切除された成人の腕のホルマリン漬け(写真)なんてのも展示されていて貧血を起こしそうだったが、昨今の熊害騒動なんかにはいい啓発資料だ。
「怖すぎゆ~」
「熊が可愛い可愛くない」というのは人間側の勝手な印象論。熊はただ飢えと本能に突き動かされた野生動物。その本能的行動の拡大が脅威なのであり、害を及ぼすというだけのこと。クランシーではないが“今そこにある危機”は排除するしかない。
第8室 日本の野生動物

エゾシカとニホンジカの体格差。寒い地域では体温放出を減らすために動物は大きくなる。ベルクマンの法則だ。
「ちびっこおサルが寒さに弱い理由が判った!」
でも最近平気じゃん。
「慣れた」
コーカソイドが大柄でアジア人が小柄なのもこれかな。
第9室 極地と南米の動物

昔の剥製らしく縫合痕が痛々しい。
第10室 爬虫類・両生類

昭和38年8月4日。津山市内の中学生・大上博少年が吉井川の川底からヒゲクジラの仲間の化石を発見した。それまでも部分化石は発見されていたが、ほぼ完全な頭部の化石という学術的価値の高さが話題になったらしい。その再現展示。

昭和40年前後って空前の化石ブームだったんだよ。

岩魚を丸呑みして息絶えたオオサンショウウオ(手前)。標本にも物語がある。

学芸員のセンスを感じる。第11室(日本の鉱石・岩石)、第12(世界の珍鳥)と第13室(オーストラリア)はたいしたことないので省略。
第14室 日本及びアジアの野鳥

昭和50年5月に島根県の日御﨑灯台で起きた大竜巻に巻き込まれて2000羽に及ぶウミネコが墜死した。前代未聞の自然現象を伝えるために、地元の役場から贈られたそうだ。
第15室 西アジア・アフリカの動物

「牛ってジッと見るよね」
制作者はよく観察してる。
ここに載せた剥製はごく一部。モノによっては雑なものもあるが、それも御愛嬌。博物学全書をリアルに再現しようとした慶三翁の執念を感じた。
(つづく)
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