旅の思い出「岩本楼」贅沢風呂で往時を偲ぶ(神奈川県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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ひつぞうです。
おサル妻との山旅を中心に日々の出来事を綴ってみます。

名建築シリーズ6

江の島 岩本楼本館

℡)066-26-4121

 

往訪日:2022年2月12日~13日

所在地:神奈川県藤沢市江の島2-2-7

営業時間:(IN)15時(OUT)10時

料金:17,000円(税別)

客室:28室

駐車場:江の島観光駐車場を利用(1,500円)

■竣工:1930年(風呂)

■国登録有形文化財(2006)風呂

 

≪ローマ風呂もいいけれど洞窟風呂もまた格別≫

 

ひつぞうです。ようやく岩本楼の投宿日記です。年度末はやっぱり忙しい…。

 

★ ★ ★

 

岩本楼は江ノ島の宗像三女神を司った総別当岩本坊が前身。のちに真言宗仁和寺の末寺となると「院」を名乗る資格を与えられ一大伽藍を形成。御維新までは岩本院として栄華を誇った。当時の古地図を見ると、島の大半が岩本院の敷地であることが判る。しかし、世は明治になり、神仏分離が発令された五年後の明治六年、仏式は廃されて江島神社に改組。岩本院は旅館・岩本楼に姿を変えて今日に至っている。

 

 

立派な門の手前に古色蒼然たる木造建築が聳えていた。これが岩本楼か。訳知り顔でスタッフに訊く。しかし、それはオーナーの居宅だった。旅館本館は三階建ての鉄筋コンクリート造。そりゃそうだよね。

 

「相変わらずそそっかしいのー♪」サル

 

つまり旅館自体はごく普通で、注目の登録有形文化財は風呂。それも贅の限りを尽くしたローマ風呂。

 

「温泉でなくても風呂ならGood!」サル

 

と我が家の風呂好きがいう。ならばと(登山も中止したことだし)急遽投宿を決め込んだ。(都合よく空室があったのも幸いした)

 

★ ★ ★

 

少し早かったが案内を乞うと部屋の準備はできているとのこと。

 

「お邪魔しますにゃ」サル

 

 

フロントの左奥に当館の守り神とも云える八臂弁財天坐像が祀られていた。

 

 

富士山が見える眺めのいい部屋だった。ゆっくりした広縁つきの十畳間。

 

 

あいにく霞がかかって輪郭を微かに現しているに過ぎなかったが。

 

 

手前には穏やかな冬の海が広がっていた。

 

 

館内の配置は御覧のとおり。

 

 

では湯がへたる前に風呂に向かうとしよう。

 

=岩本楼の風呂について=

 

●貸切利用なし

●日帰り利用なし

●男女入替制

 

《ローマ風呂》

 

女性 15時~19時30分

男性 20時~22時30分

女性 23時~  9時30分

 

《弁天洞窟風呂》

 

男性 15時~19時30分

女性 20時~22時30分

男性 23時~  9時30分

 

つまり、基本はローマ風呂が女性用で洞窟風呂が男性用。夜の20時から2時間半だけ入れ替えになる。それ以外は清掃時間の30分を除けば一日中入り放題。そう理解すると早い。

 

=弁天洞窟風呂=

 

 

ではさっそく。

 

 

脱衣場の硝子の奥に岩壁が見える。これを刳り抜いたものが、かつて岩本院で悪さを働いた稚児(若衆)が投じられた牢獄らしい。

 

歌舞伎『青砥稿花紅彩画』の「浜松屋の場」での菊之助の口上にその事実が刻まれている。

 

〽岩本院で講中の枕捜しも度重なり、である。

 

 

牢に閉じ込められても懲りない菊之助はついには“追放”される仕置きになった。

 

 

奥の引き戸を開けると…

 

 

物物しい洞窟風呂の入り口が…。とにかく寒い!早く入ろう。

 

 

なるほど。奥は二股になっている。

 

 

左奥は洗い場になっていて…

 

 

最奥には、やはり弁天様が祀られている。なんかちょっと怖い。

 

 

右奥が風呂になっている。仔細にみれば天井や側壁に鑿の跡が。

 

 

結構広い…というより長い。飽くまで風呂なので塩素消毒はしかたない。但し、しっかり加温されているので気持ちよく温まることができた。しかもバージン湯。

 

=ローマ風呂=

 

 

因みに女湯はどうかというと…

 

 

脱衣場からして豪華。以前はここから外の小庭に出ることができたようだ。

 

 

脱衣駕籠もお洒落。意匠はアーチを取り入れたベネチア様式。

 

 

扉を開けるとドーンとローマ風呂がお出迎え。1927年(昭和二)に当時の経営者が「熱海や伊豆に負けないように」と豪華なステンドグラス貼りの面積45㎡の洋式風呂を拵えたそうだ。

 

 

その巨大なドーム型天井に圧倒される。

 

 

孔雀のステンドグラスがまたすごい。

 

 

イタリア製で30㌢四方で約15万円するそうだ。なので「御取り扱いには何卒ご注意下さいます様お願い致します」と慇懃に記されていた。前回の東京オリンピックの際に一度補修工事をしているそうで、その工事費用が約4000万円近く(今ならばその10倍は軽い…)。カネの話ばかりで無粋だが、まあ、ここまで書かれると恐ろしくて無暗にいろいろ触れない。

 

だれ?無闇に触っているひと?

 

「もう壊れていて鑑賞用らしいにゃ」サル

 

蛇口ね。

 

 

デザインがアンティークだね。

 

 

このテラコッタは陶芸家の小森忍氏の作品らしい。あいにく焼き物は門外漢。

 

 

お湯がどんどん湧きあがっているね。

 

 

モルタルやタイルなど全てがやや草臥れていて(失礼)、逆にそれが廃園的な懶惰な情緒を生み出している。いつも口にしている事だが、古いということと不潔は別もの。僕は決して悪いとは思わない。これが嫌だという人もいるが、そういう向きにはスーパーラグジュアリー系をお薦めする。

 

「それはそれで好きかも💛」サル

 

 

どうです。一度這入ってみませんか?

 

★ ★ ★

 

さて。訪ねたい場所はもうひとつある。

 

 

岩本楼のお宝が陳列された資料館である。

 

 

皇室御用達らしく高級什器の数々。右上のミミズが這ったようなサインは戦前のハリウッド俳優・早川雪洲の直筆。他にも福澤諭吉など、多くの著名人が宿泊したそうだ。

 

 

鎌倉彫の乱れ駕籠。

 

 

古い時代の調度が収蔵されている。詳しい事情は知らないが、かつての唐破風の玄関は撤去されて今のコンクリートの建物に変わったらしい。その一部が陳列されている。

 

 

明治天皇の江の島行幸は明治6年。大正天皇は明治16年~24年の間に幾度か立ち寄られている。そして海外の賓客も休憩されている。

 

★ ★ ★

 

時節柄アルコールの提供ができないということで持ち込みを勧められた。外はまだ明るい。島外まで買い出しに出ることにした。

 

 

陽が落ちるとあっという間に闇が降りてくる。富士山と箱根の山が見えていた。

 

 

残照のなかを二人で歩く。しかし、うまい具合に酒が見つからない。なんとか一本みやげ屋で買うことができた。

 

 

夕暮れ時になったものの、人の流れは絶えない。たぶん夜景なんぞを観るのだろう。江の島は若者の街だった。

 

 

戻ってきた。

 

 

残照を眺めながらチューハイで。

 

=夕 食=

 

夕食は部屋食。

 

 

いわゆる“旅館料理”だろうと、さして期待はしていなかったが、意外(ほんと何度も失礼)に美味しい。そして、きちんと料理されていた。なので全品掲載。

 

 

湘南といえば熊澤酒造。良い蔵が醸す酒は清酒でも旨いというひとつの証拠。猪口は旅館が貸してくださいました。

 

 

まずは前菜。

左から黒豆、トビコ、貝柱、蕗の薹味噌の小鉢。芋寒天寄せ。鰆の西京焼き。だし巻き玉子。

 

 

子持ち昆布

 

 

御凌ぎ(鶏そぼろ飯)

 

一度に配膳する関係で“お凌ぎ”になっていない(笑)。

 

 

お造りと紅芯大根

 

 

カブ、サーモンフライ、牡蠣

 

 

蓬真丈、スナップエンドウ、蟹爪、干し柿の天婦羅

 

蓬真丈はむしろ生麩のような食感で美味。

 

 

海老のグラタン風。花豆。

 

 

江島と云えばサザエなのだそうな。ワタは砂を噛んでいなくて美味。

 

 

最後につみれ鍋。

 

 

本ハマグリの吸い物

 

 

ベイクドアップルと餡子のスイーツ

 

大層お腹いっぱいになった。

 

 

結局こうなるのであった。

 

=翌 朝=

 

予報どおり天気はいまひとつ。それでも朝の散歩に。

 

 

やはり早朝はいい。殆ど誰もいない。

 

=朝 食=

 

 

朝食は割とあっさりした感じ。スタッフが薦めてくるのでご飯をお代わりしてしまった。

 

★ ★ ★

 

 

ということでサルヒツジの江ノ島詣ではこれにて終了。このあと一箇所寄り道して帰った。

 

(おわり)

 

ご訪問ありがとうございます。