山菜料理 出羽屋
℡)0237-74-2323
往訪日:2025年6月21日~8月22日
所在地:山形県西村山郡西川町大字間沢58
■営業時間:(IN)16時(OUT)10時
■料金:28,000円/人(税別)
■客室:10室
■アクセス:山形道・西川ICから5分
■駐車場:約10台
《パッと見は普通の旅館》

2025年山形の旅。一連の建築巡礼を終えて、いよいよ一番の目的である宿・出羽屋に向かった。

右に旧館、左に新館が並ぶ。一見至って昭和な造りだが、内部は重厚感ある数寄屋風だった(駐車場は向かって左隣り)。

創業1929(昭和4)年の老舗旅館。現在四代目が暖簾を受け継いでいる。「山菜料理」と銘打たれているように、二代目の頃から山菜尽くしの料理を得意としてきた。

西川の街に鉄道が引かれた昭和の初めに湯殿山や月山詣の行者宿として営業を始めたそうだ。現在は配線となり、宿の正面に駅舎の跡が残っている。

民藝の世界。
「風格あるにゃー」
外からの眺めと大違い

現在稼働しているのは全10室。それぞれ趣きの異なる部屋が用意されている。

残念ながら客のほうで部屋を選ぶことはできない。

中庭を中心に新旧の建物がL字型に並ぶ。

宛がわれたのは離れの「雲海」という一室。突当りがその離れになる。

この左手だ。HPによれば「湯殿山神社の一本杉で造られた昔からファンの多い部屋」とあるのでいい部屋なのだろう。

手前に二の部屋がついたひと間。二人で過ごすには十分な広さだ。

逆サイドから。

緩い船底になっている。

トイレは脱衣所兼手洗い場とのユニット式。

その奥がバス。最近改修したのだろう。新品だった。

お風呂(本館三階)が使えるとのことだったので早速頂くことにした。
「汗を流しゅ」
午前中の建築散歩でかなり汗ばんでしまった。

ここにもラダーバック風が。奈義町現代美術館、仁摩サンドミュージアムと、この年に入って矢鱈とみる。

この奥に男女それぞれの入り口がある。

脱衣場はこんな感じ。きわめて清潔。

温泉ではない。ないが宿の宿泊料は結構な額である。
「その分料理が素晴らしいのち」
所詮、山菜ではないですか、という感想をお持ちの方に、この宿の、とりわけ料理の醍醐味は理解できないだろう。ということで夕食まで部屋で寛ぐことにした。寛ぐといった処でやることはひとつだが。

吾有事 純米大吟醸 尖鋭辛口
生産者:奥羽自慢㈱
タイプ:純米大吟醸
使用米:山形県産 美山錦100%
精米歩合:60%
アルコール:15%
杜氏:阿部龍弥氏
出荷時期:2025年5月
販売価格:1,700円(税別)
夕食まで時間がある。山形のモダン酒・吾有事の尖鋭辛口をチビチビやることに。スッキリしつつも華やかなバナナの香りが鼻をうつ。酒肴いらず旨い酒だった。
=夕 食=

食事は本館の個室で。

本日の献立。

まずは雅山流極月・純米大吟醸(2500円)を花冷えで。
「いい値段だの」
一応、雅山流だし。酒米は出羽燦々で磨き40%の度数16%。

唐塗の五段のお重の美しいこと。

並べてみた。

前菜ひと揃え ふきのとうコロッケ わらび みず 行者にんにく あいこ
ジュレ、山葵、葉山椒で香りと味を添える。

うどの胡桃味噌あえ

二輪草からし和え

赤こごみの黒胡麻あえ
「こごみ」の名がついているがキヨタキシダという別種の新芽。やや苦味が勝る。

じゅうなの切り和え

こごみの胡麻和え

五重 きぶのり
これは珍味。標高の高いブナに着生する地衣類。正式和名はヨコワサルオガセ。たぶんこれを食材として出すのは全国でもここ出羽屋だけではないだろうか。調査し尽くしたわけではないが。
「これ自体に味はないにゃ」
地衣類だからね。岩ノリと同じだよ。赤い色素はリトマス試験紙の原料になるそうな。

菊ときくらげの酢味噌あえ

筍の山椒味噌あえ
昨今の熊問題が加速すると近い将来、ネマガリタケも幻の食材といわれるようになるかもね。

山女魚

蕗油炒め

そばの実豆腐

焼物 アユの塩焼き
顎の開いた顔がいかがわしいミイラのようだ。

次はこれ。亀治好日の純米吟醸(度数15%・精米55%)。ずっとお安くなって1400円。

椀物 じゅんさい きくらげ 出羽屋農園の野菜
じゅんさいといえば秋田が一大産地。まさにこの時期が旬の食材。

月山焼き筍
これも旬。鯖と煮るのも旨いが、やはり焼いて喰うのが一番。
「甘味も増すしの」

剝いちゃうと小さくなるけどね。

口直し じゅんさいの酢の物

季節の天麩羅 ウコギ 山独活 ネマガリタケ
「もう酒はいいかも」

最後はハイボールで〆。

静かでいい。

筍ご飯

やたら漬

味噌汁も具がたっぷり。

太いワラビがゴロゴロ。東北はワラビが旨い。

氷菓 季節のデザート(さくらんぼ 林檎ゼリー)

もうお腹いっぱいだ。
=翌 朝=
この朝もジョグして回った。熊とバッタリは嫌だが、しこたま飲み食いしたので気配に注意しながら寒河江川を沼山取水場まで遡り、そこで野生の気配に怖気づいてきた道を戻り、それならばと高台にある長沼公園に向かった。

長沼は浮島のような突端に大沼神社の奥宮が浮かぶ厳かな雰囲気に満ちていた。ここは地元の高校のカヌーの練習場になっているようで、近くにはキャンプ場もあるが人の気配は皆無だった。だから至近距離に若いカモシカが現れた時はクマだと勘違いして、喉から心臓が飛び出そうになった。いやほんと。笑い事ではなく。

竜神信仰があるらしい。

長い坂をくだって宿に戻っていく。

そういえば本館一階に茶室があったはず。まだ見てない。

利休好みの茶室ということになるのだろうか。
=朝 食=

いよいよこの旅館での愉しみも最後。一階の食事処で頂戴する。大女将みずから配膳に立つ。

ご飯は羽根釜炊きでツヤツヤ。
「お米が立ってゆ」

上段の小鉢は(左から)鯉旨煮、独活、あさつきと蕨の和え物。独活は歯が要らないほど柔らかく、ワラビもコクがある。
「鯉は甘いね」
信楽焼の長平皿に載るのはツルムラサキのぬた和え。サーモンの塩焼き。玉子焼き。そこにゼンマイと胡瓜の浅漬けがつく。ワラビを象った箸置きがキュート。

筍、じゃが芋、大根、厚揚げ、そしてワラビ。朝も具だくさん。

苺のコンポートと自家製ヨーグルト。御馳走さまでした。食後も館内を散策していると何かが飛んでいる。見ればツバメではないか。

まるで置物だ。開いた窓から当たり前のようにツガイで侵入し、廊下を低空飛行で飛び回っている。全然人間を恐れていないらしい。

みれば絶賛営巣中だった。その様子を愛おしそうに眺めていると、会計を終えた大女将がフロントに現れた。「ツバメが巣を作っていますね」というと、案に反して「あら。もう。ちょっと眼を放すとすぐこうですから」と、いささか不愉快そうに眉根を寄せた。数日の雨でぬかるんだ田圃の畦から運んできたのだろうか。器用に柱にしがみついたツバメは、巣作りを始めたばかりのようで、一心不乱に泥を捏ねていた。どうやら宿では歓迎されていないらしい(職業柄仕方ない。それに屋内だし)。ツバメと宿の飽くなき抗争はしばらく続きそうだ。いい宿だった。
(つづく)
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