名建築シリーズ36
東京カテドラル 聖マリア大聖堂
℡)03‐3941‐3029
往訪日:2023年11月3日
所在地:東京都文京区関口3-16‐15
開館時間:9時~17時(通年開館)
見学料:無料
アクセス:地下鉄有楽町線・江戸川橋駅から徒歩15分
■設計:丹下健三
■竣工:1964年
■施工:大成建設
■DOCOMOMO《日本におけるモダン・ムーブメントの建築》選定
※内部撮影禁止
《ドレープを広げた白い衣装の貴婦人》
※写真の幾つかをネットより拝借いたしました。
ひつぞうです。続いて往訪したのは東京カテドラル聖マリア大聖堂でした。国立代々木競技場とともに、シェル構造を取り入れた丹下健三60年代の代表作です。以下、往訪記です。
★ ★ ★
鳩山会館でおサルと合流したのち、玄関前の音羽通りから目白坂にそれて、緩い勾配の坂道を登っていった。目指す建物は山縣有朋ゆかりの椿山荘の正面にあった。
ここは1900年に小教区聖堂として設立された関口教会が母体である。その後、戦中戦後の混乱期を経て、カトリック東京大司教区の司教座教会として位置づけられた。
(戦後の仮設聖堂。ロマネスク風の慎ましやかな建物が素敵)
先人の努力によって設立された教会だったが、東京大空襲で全焼。戦後にドイツ・ケルン教区の支援によって大聖堂の建設計画が浮上する。設計は前川國男、谷口吉郎、そして丹下健三の三名に対する指名コンペで競われた。
そして、とりわけ強烈な個性を発揮した丹下案が採用された。
歩道橋の上から俯瞰する。鐘塔と大聖堂が一対の彫刻のようだ。特にこの角度からの大聖堂は、非対称に翼を広げた鳥か舞踏家のようで、ひと際眼を惹く。
「教会っぽくない」
大聖堂の見学は自由。ただし、ミサの時間や、結婚式や葬儀などのセレモニー開催時は入場できない。
まずは鐘塔に向かって進む。
ドイツ製の4つの鐘が縦に連なる。限りなく日本の鐘の響きに近づけるべく、制作者は日本各地を回り、音色を調整したそうだ。
正面に回り込んでみた。この角度では判らないが、上空から見れば美しいクロスになっている。
(参考画像)
注意深いひとならば即座に気づくだろう。十字部分はガラス張りのスリット構造になっている。天空から自然光を取り入れる設計なのだ。
外部の天井部分はHP(hyperbolic paraboloidal)シェル構造。つまり、双曲放物面のRCパネルで構成されている。この形式は女性的な美観と同時に、曲げ加工による物理的な剛度も獲得できる。それによって内部の支保部材は不要になり、空間の広がりも可能になる。
「難しくね?」
拡大してみると判るが、シェル表面の剛度を上げるための縦リブが施されている。
「判らなくね?」
(内部は撮影禁止なのでネットから拝借)
「めっちゃ綺麗だのー!」
いわゆる近世の石造りの教会建築とは、ひと味もふた味も違うよね。
(写真ではその一部しか伝わらない。是非現地に足を運んでほしい)
外面とは一変してコンクリートの打ちっ放し。しかも折り重なる屏風のように重厚感に満ちている。正面の十字架は天井部からのライトでひと際、厳かに浮かび上がる仕組み。極端なまでに装飾を省略しているのに、ここが教会であると実感できるのが不思議だ。
後背には立派なパイプオルガン。2004年に献堂40周年を記念して特注した、丹下のデザインに合わせたイタリア製。教会用では国内最大だそうだ。是非ともコンサートで聴きたい。
「彫刻とか聖遺物とかもあるね」
入り口からすぐの処にミケランジェロの最高傑作《ピエタ》のレプリカが設えてある。本家のサンピエトロ寺院のそれより、やや大きく見えたのは気のせいだろうか(原寸大だそうです)。
ここで再び屋外に眼を転じよう。
「大きな鐘があるにゃ」
《ジョゼフィーヌの鐘》だ。
キリスト教が解禁されると、じゃあそれならとフランスから二つの鐘が海を渡ってきた。寄贈者はボアソナード。関西大学の回でも触れたが、近代法学の父として縁のある大学者だ。そのボアソナード夫妻によってアンドレード・ジョゼフィーヌと命名され、築地教会でしばらく双奏の鐘として親しまれた。
そして、1920年に関口教会が東京大司教区の司教座聖堂に認定されると、ジョゼフィーヌが輿入れした。戦時中は金属供出の危機に瀕するが、明治憲法記念会の嘆願によって免れたらしい。
「貴重な金属文化財がたくさん失われているもんね」
因みに築地教会の鐘ジャン・ルイーズも大切に保存されているそうな。
「奥にもなにかあるにゃ」
ルルドの洞窟だよ。
「それってフランスでしょ?」
1911(明治44)年にフランス人伝道師のマンジェルという神父が再現した原寸大のルルドの洞窟なんだって。聖母マリアに捧げられた教会だからね。
「ふーん」
最近、あちこち体の不調が出ているのでしっかりお祈りしよう。
「おサルは腰が痛い」
ということで素晴らしい建築だったよ。
折角なので近場でランチすることに。
★ ★ ★
Leckermaul(レッカーマウル)
℡)03‐6304‐1225
カテゴリ:ドイツ料理・フラムクーヘン専門店
所在地:東京都文京区目白台1‐24‐8
営業時間:(L)11:30~15:00 (D)17:30~22:00(水木定休)
アクセス:有楽町線・護国寺駅から徒歩7分
■21席 ■カード可
最初おサルは不機嫌だった。
「だってさー。レストランじゃなくってカフェじゃん!」
でも美味しそうだよ。
「フラムクーヘンって何よ」
Kuchenはドイツ語で「菓子」だから、ドイツの焼き菓子…じゃなくて、ピザみたいなものみたい。
「じゃ定番で」 ベーコン&タマネギのやつ
へー。初めて食べるよ。ピザよりも粉っぽさがあるね。旨いよ。
「もう一品喰う」
食べるんかい。
グラーシュ&スペッツェレ
また変わった食感だね。ドイツ風パスタって書いてあるけどパスタというより、中華料理に出てくる揚げた春雨みたいにパリパリでスカスカ。でもなぜか旨い。このミートソースと抜群の相性。
「なんか飲もうぜ」 物足りん
ということでマスターにお薦めのワインをお願いした。(がぶ飲みよりクラス上の自然派ワインを主体に揃えている)
エリック・ロマンジェ シルヴァネール 2017
生産者:エリック・ロマンジェ
ヴィンテージ:2017年
タイプ:白ワイン
品種:シルヴァネール100%
地域:フランス(アルザス地方)
アルコール:13%
輸入:大榮産業㈱
市販価格3,000円に対して4,200円。1.5倍もしない。ここ、すごく優良店。
「複雑で苦みもあって余韻もあゆー」
良かったね。いいワインと出逢えて。
「すごく満足♪」
先程までの不機嫌がウソみたい。そう。おサルは旨いワインさえあればゴキゲンなのだ。
「やっぱりドイツだったらソーセージだよにゃ!」
愉しくなってきたらしい。
本当に食べきれるのだろうか。
自分で言いながら愚問だった。なんのこれしき。
大満足で食事を終えて、護国寺駅から帰ることにした。だが、住宅街にハマってしまい、細い路地はどこも最後は行きどまり。どこに向かえばいいのやら。すると案内板が見えてきた。
そこはかつて文筆家の大町桂月が過ごした旧居跡だった。桂月といえば蔦温泉。
「炬燵の火で股間を大やけどしたという爺さんでしょ」
そういうエピソードって絶対覚えるよね。
元は桂月の義兄で国文学者の塩井雨江が住居だったらしい。その後、蔦温泉に転居する1910(明治43)年まで桂月が暮らした。説明がなければ、瀟洒な個人宅が並ぶただの裏通り。まず知ることはなかっただろう。こうした偶然の発見も街歩きの醍醐味。いい一日だった。
「どこがどこだか判らないにゃ」
脱出するのに無駄な時間を要したのは云うまでもない。
(おわり)
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