10年考えてきた問いのひとつ。
郷土料理のおもしろさと豊かさが、世界遺産「和食~washoku」をつぎの世の中へとつなぐことができるのでは?
この10年の間にコロナ渦なんていう100年に1回のヤバい出来事もありながら、滋賀と郷土と日本というキーワードをぐるぐる考えてきました。
ここ滋賀jack「ここ八幡」
「もうこれが東京で滋賀の料理を作るのも最後かなあ・・・」
なんて漠然なことを個人的に考えながら、日本橋「ここ滋賀」でのディナーの料理をみんなで作った夜。
思い出に残る一夜。
(奥村吉男の金柑鮒ずし)
ここ滋賀が滋賀県のアンテナショップとして開業したのは2017年。
オープニングにビワマス特集ディナー、1周年記念ディナーは近江商人のナラティブとジビエの会席、そしてコロナ渦でしたが2022年は「湖魚づくし寿し割烹」で12種のにぎりコース。
どれもこれも滋賀と琵琶湖を伝えるための料理を考えて、いろんな人たちに助けてもらいながら、特別な体験をさせてもらってきました。何もかもありがとうございました。
2024年の4月、仲間4人が地元観光物産協会総会の二次会で飲みながらノリで発想した瞬間。
「いっちょここ滋賀をjackしたろけ!!」
「ここ八幡や!」
まあそんな簡単なことでは無いにしても、仲間で飲んでたらそういう冗談も出るというもんです。
話がひろがって、いろんな経緯があったものの、結局話がなかなかまとまらないままで時間がすぎました。
事が動き始めたのはやはり当初の4人が集まったときでした。
「やろけ!」
「やったろけ!」
そんな八幡弁ともいえるあんまり綺麗ではない関西訛りのしゃべり方で、再びノリ始めた4人の夜でした。
4人のたくらみはAIも使う

(生成AIチャッピーにさっきの画像を「戦国風に」とオーダーすると、こういうやつが出来上がります。市田姫加工への批判はAIによろしくお願いいたします。)
ひさご寿し、奥村佃煮、湖の国のかたちの3人は、ひさご寿しポップアップイベント「醸空kamosky」なんかでやってきた事もあって、お互いの持ち味を知った仲。あれから数えたらもう10年以上も前のイベント。
寛閑観という近江牛のパワープレイヤーの森嶋君と新庄料理長を加えて、どうやって滋賀を、琵琶湖を、近江牛を、歴史を、発酵を、そして自分たちをどうやって料理に投影するのかは簡単ではありません。
そして近江商人は勘定を合わせてこそ。
ピンポイントイベントであったとしても、ちゃんとビジネスとして成立させる収支計算が大切です。
短い時間でいろんな交渉と計画立案、今回も市田ディレクションがキレキレの冴えまくりでしたが、収支計画が整ったのも3週間前のこと。
イベントとしてのお題は「安土城築城450年記念」
このタイトルを食として表現できるものか、普通なら絶対にやりません。
だがしかし
滋賀を、近江八幡を深く知る者にとって、安土城や織田信長から紐解けるナラティブなど、何パターンも表現することができます。
・時代の転換点
・近江商人の本質
・物流が生んだ新しい時代
・現代だからこそできる食体験
大爆笑!
近江商人がもたらした日本の食
安土城と近江商人の発生は相互関係にあります。
地図で説明するとわかりやすいのですが、琵琶湖の湖上流通の拠点五か所(小幡、薩摩、八坂、田中江、高島南市)をおさえていた近江商人ギルド。「五箇商人」というこのギルドの名称は五個荘町という地名に残る通り、その集積拠点は安土城のある安土山繖山のすぐ裏側の中山道沿いで、なおかつ愛知川からすぐに琵琶湖に出ることができるエリア。
水陸の両方の街道クロスポイントがもたらした物流と情報は、内需経済の利益と新しい文化を生み出してきたと言ってもいいでしょう。
そうした往来の行くさきざき日本全国に近江商人と食にまつわる事績は見つけることができます。
中でも北海道の開拓と北前船によって運ばれた食は、今の和食全般に影響していることが見えます。
昆布、鰊、そして塩鯖。
北海道の開拓は、アイヌの首領・シャコマインとの紛争を経て、松前にその最初の橋頭保を得て以後、京都へ向けた北海の産品を運ぶことができるようになったのです。
昆布が市場にでまわり、日本料理の出汁におおく使われるようになったのも、近江商人が北前船から琵琶湖の湖上流通を利用し、京の都へとどんどん運んだことが大きいと思います。
北前船は福井・敦賀港でいったん荷揚げして、琵琶湖の最北端から丸小船に乗せ換えると、あとは自然な水の流れに任せ、大津港に到着です。今でも福井県に昆布問屋が多いのはこうした事情なのです。
逆に、近江商人が各地の仕入れ先に向かう際、様々な蕪を持ち込んでいます。野菜の蕪です。蕪の種は粒マスタードと同様の小ささなので、きっと持ち運びも簡単。
湖と陸と人のナラティブ6つ
いよいよ始まる直前で。
第一章 湖と陸の知恵 出発点は湖国
「水上幻城」~みずのまぼろし
食べるお茶。
信長が安土で点てたお茶の湧き水を政所茶玉味噌で食べる一皿。
敷き紙は信長が安土城下で始めた奇祭「左義長祭」に使われるものです。
三饗応皿~さんきょうおうさら
奥村佃煮、寛閑観、ひさご寿し、それぞれの持ち味の前菜。
奥村佃煮のウロリは飴煮と佃煮、琵琶湖固有種のホンモロコ、琵琶湖固有種の小鮎、それぞれに違う炊き方。湖魚、醤油、砂糖の使い方は熟年の日本料理人よりも詳しい。
寛閑観は近江牛のローストビーフ。
そしてひさご寿しは琵琶湖産真近の酢締めと丁字麩の辛し和え。近江八幡の郷土料理であり、出汁が発達する以前からある古典的日本人の味付けを現代風に再構築したもの。
器は古九谷・寿楽窯の揃え。近江八幡の豪農の蔵に眠っていたもの。
第二章 安土城築城 人と物が集まるハブの誕生
「重なりの城」
奥村吉男と市田恭子のチャッピー遊びをヒントに、寛閑観の新庄料理長が本物を創造したもの。7層で造られた安土城天守閣をバーガーする、しかも信長イメージを重ねて。
・鴨ロース低温調理たれ漬け
・赤こんにゃく塩胡椒焼
・丁字麩白味噌マスタード和え
・信長ネギ黒胡椒ソース
・ドフィノワーズ ツヤコブルー飯チーズを合わせて
・日野菜タルタル
黒のバンズは竹炭入りで作られたオリジナル。ソースや肉汁などが染み込むことで美味しくなるタイプ。
織田信長という人物にはいろいろな脚色が後世に行われてきましたが、進取の気性に富んだ人物であったことに疑うところはありません。
1人づつにはミニバーガーですが、どど~んとラージサイズも作ってみたの図。
安土城の周り楽市楽座ではタックスヘイブン、商人にとってもっとも儲かる場所。野心ギラギラの起業家、商人たちエネルギーがほとばしっていたことでしょう。
安土落城ののち、彼らは豊臣秀次が治める八幡城下に集まり、現在の近江八幡旧市街地が形成されてゆきます。物流の湖上利権は織田家から豊臣家へと引き継がれ、やがて江戸時代には八幡城下の「八幡商人」が近江商人として台頭してゆくのです。
第三章 北前船 海が近江につながる
「潮の余路」~しおのよろ
塩鯖を柔らかく塩煮にしたものを、滋賀羽二重糯粉と大根おろしと混ぜた生地でくるんで饅頭にした煮物椀。出汁には道南の真昆布と塩鯖の骨でとった出汁を使って清汁にし、香りには根付芹と生姜を添えて。
近江商人がもたらした食のナラティブは先に書いた通りですが、会席料理の煮物椀に仕立てるとこういう形になります。
湖上流通で京都に持ち込まれた塩鯖は「鯖寿し」として今も名物になっています。同時に海なし県・滋賀の琵琶湖周辺でも塩鯖を使った料理が食文化としてつながれてきました。
湖の鯖街道と陸の鯖街道。
海なし県だからこそ、手に入る鯖が大切にされてきた証拠です。
琵琶湖の漁業を生業にしている沖島でも、塩鯖は食べられてきたのです。塩鯖を使った郷土料理「じゅんじゅん」はおそらく沖島だけかもしれませんが、長浜では焼鯖を使って「鯖そうめん」が名物で、近江八幡でも昔から祭りの時には鯖寿しは家庭で作られてきたものでした。
鯖は大衆魚で、現代ではだれでも食べることができるものですが、高級魚でもない塩鯖をいかに工夫していままで以上に美味しい料理にするのか。そんなことが料理人の仕事の醍醐味だったり趣味だったりするのです。
第四章 御朱印船 世界とつながる近江
「香りの彼方、土の香」
NEO精進。
パプリカの寒天、ブロッコリのゼリー、永源寺蒟蒻、八幡赤蒟蒻、ビタミン大根、紅芯大根、厚揚げ豆腐、人参、8種を精進出汁で別々に仕込んだものを、カカオ田楽味噌と木の芽味噌で。
徳川家光によって与えられた御朱印船。近江商人・西村太郎衛門は安南(現在のベトナム)に渡り、国際ビジネスで安南国王に認められるほどに成功しました。伝統的なものが化学変化をおこすとしたら、それは海外のエッセンス。人口当たりの寺社仏閣数日本一滋賀。精進料理の伝統に近江八幡在住のチョコ職人の発酵カカオの香りを味噌加えました。
カカオ田楽味噌。多くのゲストから称賛をもらうことができて、これはひさご寿しの料理レシピとして再現決定です。
第五章 商いの完成形 日本橋へ 全国の物産が集い、ここで完成する
「商都余章」~しょうとよしょう
それぞれの得意分野、日本橋で近江八幡を食べてもらいたい渾身の一皿を用意しました。
金柑鮒ずし。
滋賀県の名物にして、奥村佃煮・奥村吉男にとっても名物。龍谷大学との共同研究による1匹漬けキットの開発や、江戸時代鮒ずしの再現研究、ツヤコフロマージュとの共同商品づくり、オーストリア・リンツでの鮒ずしワークショップ、といった彼にとって鮒ずしはもはや商品以上にまとわりついている。そんな彼の鮒ずしに金柑をスライスして目一杯のせて食べる。
そもそも淡水魚というのは柑橘の葉っぱやピールの香りとの相性が良いのです。ほかにもレモングラスもその一つ。
鮒ずしを鮒ずしのままでありながら、でも美味しいを一歩前に進める。そんな一品でした。
近江牛もりしま寛閑観、最高のすき焼き1枚。
関西風すき焼きと呼ばれるものは、まずは肉を焼いたところに砂糖と醤油を適量入れてさっと焼き上げる「瞬間」の料理です。後から野菜や糸蒟蒻などを入れて結局ぐつぐつと鍋で炊合せるのですが、そうなると最初の焼きたての味は1回しか味わうことができないものです。
関西風すき焼きは最初の1枚が最高。だとするならば、「ゲストには1枚づつ焼こう!」という事になりました。
1枚焼いてキビ砂糖を振り醤油をたらし焼からめる。
そして潔く1枚だけの余韻、残心。
ひさご寿しからは春の湖魚3種にぎり。
じょき、釣りびわます、本諸子新子仕立て。
画像無し
第六章 現代へ 発酵の余韻
「余光」
ツヤコブルー鮒寿しの発酵した飯のジェラードとひさご寿しの名物・琵琶湖の玉子。
発酵飯(はっこういい)は鮒寿しの副産物ですが、その利用はまだまだ発展途上。特に乳製品・クリームとはとても相性がいいもので、塩分があることから甘さと合わさると「甘じょっぱい」良い塩梅になるのです。
添える「琵琶湖の玉子」はほぼカステラの作り方で、すし屋の〆の玉子はほんのり甘く作ります。なぜ「琵琶湖の」と冠が付くのかというと、琵琶湖のモロコとスジエビがすり身で入るからです。
ドリンクのペアリングは市田恭子selectionで。
alcohol
ハッピーどぶろく穂の恵
七本槍80玉栄純米生酒(冨田酒造)
八仙シルバーラベル吟醸生酒(八戸酒造はルーツが滋賀)
ヴェルメンティーノ(Casa Bariconi Italy)
不老泉 玉栄山廃純米大吟醸木樽(上原酒造)
㐂量能 純米生(畑酒造)
non-alcohol
苺&甘糀(ハッピー太郎醸造所)
小谷・和りんごの発酵シードル(近江ワイン)
WABARA&生姜Spring(Rose Fame KEIJI,永源寺相谷ファーム)
wee-wee-wee(空色ワイナリー)
焙じたて秋冬番茶ほうじ茶(かたぎ古香園)
政所100年古樹番茶(滋茶園)
愛東ブルーベリージュース100%(TAKA FARM)
みんなでごあいさつ。
あとがき
滋賀を料理するとき、それはどこに暮らしているのかで全くちがったアウトプットになります。
東西南北に分けるだけでも4つかもしれませんが、信楽や永源寺、葛川のような山間になれば琵琶湖周辺とは全く違った感性が生まれます。また、湖北・湖西の日本海に近いエリアは海の食文化がもっと多く、京都に近づくにつれて都の華やかな感性が育ちやすいものです。
滋賀を代表するトーテム「琵琶湖」であっても、岸辺から離れる距離に比例して、暮らしの中に琵琶湖を感じる濃度が違います。
「湖と陸と人」
滋賀のほぼど真ん中に位置する近江八幡周辺は、海も無く、都会も無く、清流も森も無く、豊かな山海の幸に恵まれない場所。だからこそ近い琵琶湖へのなじみが強く、田畑の米と豆が暮らしの主役を張ってきました。
近江商人の多くは寺への寄進が多く、八幡城下の堀周りには塔頭寺院が数十と並ぶほどだったとか。寺は読み書き算盤を教える今でいう学校。近江商人は教育投資にも力が入っていたことがわかります。現代も近江商人よろしく人の交わりが盛んで、人口8万人の中に経営者ボランティアクラブが5つもアクティブに活動しています。これも近江商人気質が今もこっそり続いているという事なのかもしれません。
最後に。
明治初期、竹中・森嶋兄弟が始めた「米久」によってこの湖東の農耕牛が東京に運ばれ「近江牛」の料理が広がるきっかけとなりました。近江牛もりしま寛閑観の歴史もまた現代の滋賀にとって多彩な食文化の1ページです。この機会と場所を作っていただいた事に感謝いたします。
滋賀を、湖東をディレクションするにはもはや必須の人なのかもしれない、市田恭子女史。
湖魚をパンクで考えてる。その割に根っこが古風。琵琶湖のアルスに挑んでるヤツ、奥村吉男氏。
やっぱり上手い近江商人バリバリ、森嶋正幸氏。
ジャンルは違えど、なんやかんやで職人価値観共有しやすい、新庄裕也氏。
みなさんおおきにありがとうございました。
























































































































































































































































































































