『Pickup Cinema』

『Pickup Cinema』

新作も思い出の作品も おすすめ映画を紹介!

©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

2026年製作/119分/PG12/アメリカ 監督:リドリー・スコット 脚本:マーク・L・スミス 原作:ピーター・ヘラー 出演:ジェイコブ・エロルディ ジョシュ・ブローリン マーガレット・クアリー ガイ・ピアース アリソン・ジャネイ 原題:The Dog Stars 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 劇場公開日:2026年8月28日 ★マスコミ試写会で8月24日鑑賞

 

舞台は2035年のアメリカ。謎のパンデミックにより人類の90%が死滅した終末世界。廃墟と化した街では人間性を失った荒くれ者たちが略奪し合い、殺し合っていた。

生き残った整備士のヒッグ(ジェイコブ・エロルディ)は、元海兵隊員のバングリー(ジョシュ・ブローリン)と山奥のアジトで暮らしている。ヒッグは、ボロボロのセスナ機で愛犬のジャスパーと共に荒廃した街にでかけ、わずかな必需品を調達してくる。そんな時、ヒッグが必ず立ち寄るのは、亡き妻と暮らした懐かしい自宅。幸せの記憶と愛犬の存在がヒッグの心の支えとなっていた。

ヒッグたちが暮らす山奥にもならず者たちの影が忍び寄っていた。バングリーと共同戦線を張ってはいるが、殺すか殺されるかの危険と隣り合わせの日々だった。

そんなある日、ヒッグはセスナの無線で「謎の声」をキャッチする。自分たち以外に人間的な生活をしている人々がどこかにきっと生存している。そう思ったヒッグは、未知の空へと飛び立っていく。こうして愛する存在を失ったヒッグの心の旅は続く。喪失感を乗り越え、最後に彼がたどり着いた場所とは。彼が選んだ生き方とは…。

 

パンデミックに襲われた都会は廃墟と化したが、山や湖など大自然の美しさは変わりなく、そこに生きる動物たちにもさほどの変化はみられない。一方で、極限状態に置かれた人類は、どんな行動をとるのか。希望か暴力か権力にしがみつくのか。

この作品は、リドリー・スコット監督がこれまで製作してきた「エイリアン」や「グラディエイター」のような映画とはテイストが異なる。恐怖を煽るような効果音はほとんどなく、時折、懐かしいカントリーミュージックが流れる。文明が崩壊した後の制限された世界で、人間らしく幸せに生きるために必要なのは、戦い合うのではなく、自然の中で助け合うことなのではないか、という監督のメッセージが伝わってくるように感じた。

主人公のヒッグを演じたジェイコブ・エロルディの優しくてどこか寂しげな表情には、「ラスト・サバイバー」というより、原題の「The Dog Stars」の方がしっくりくるように思えた。

 

 

©2026 K2 Pictures・3Top

2026年製作/G/日本 監督:三池崇史 出演:市川團十郎 市川新之助 祝幕:村上隆 ナレーション:杏 配給:K2 Pictures 劇場公開日:2026年9月25日 ★マスコミ試写会で8月16日鑑賞

歌舞伎界の名門・市川宗家に受け継がれる最大の節目「十三代目市川團十郎白猿襲名披露」。

2019年、市川海老蔵が市川團十郎を襲名することが発表され、粛々と準備が行われている最中にコロナ禍が世界を襲った。2年半におよぶ襲名延期を経た2022年、市川團十郎と息子・市川新之助の親子同時襲名が行われた。

この作品は、その様子を3年半にわたって記録したドキュメンタリー映画である。

そもそも歌舞伎とは何なのか?その歴史を紐解くところから始まり、歌舞伎の名門・市川家とはどういう存在なのか。300年以上も続く成田山新勝寺との絆。そして市川團十郎が、なぜここまで人々の注目を集めるのかなどが丁寧に描かれており、歌舞伎ファンはもちろん、そうでない人もその魅力に引き込まれていくことだろう。

 

「市川團十郎」を継承することの重圧と覚悟。そこには人知れず悩み、苦しみ、努力をする、主人公・海老蔵(当時)の姿があった。心身を極限まで追い込むような稽古、そして修行。

私たちがメディアを通して知っている彼とは別人のような海老蔵が映像の中にいた。そして、成長著しい息子・新之助の今後の活躍からも目を離せない。

祝幕を製作したのは世界的に活躍する現代美術家・村上隆。その創作の様子も記録されている。歌舞伎界の「今」を知ることのできる壮大なドキュメンタリーだ。

江戸時代から次々と悲劇に襲われる市川團十郎という家系の不思議。それは何を意味するのだろう。今回、コロナ禍により襲名披露が延期されたのも、その一環のように思えてならない。いや、この程度で済まされるなら、それにこしたことはないと感じた。

2026年・第83回ベネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門出品作品。

 

 

🄫2026「八つ墓村」製作委員会 🄫Yokomizo Seishi/KADOKAWA

2026年製作/日本 監督:清水崇 出演:尾上松也、奥智哉、堀田真由、高島礼子、滝藤賢一ほか 配給:松竹、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 劇場公開日:2026年9月18日 ★マスコミ試写会で8月3日鑑賞

 

井川辰弥(奥智哉)は、彼女もおらず、就活の内定ももらえない、冴えない大学生。

ある日、生き別れになった母の訃報を受け、辰弥は気が進まないまま、自らのルーツである岡山県の八つ墓村を訪れる。

途中、奇妙な探偵・金田一耕助(尾上松也)と出会い、美しい未亡人・森美也子(堀田真由)を紹介される。辰弥は、名家・田治見家の莫大な遺産相続人なのだった。

辰弥が村に戻ってきたことを喜ぶ人がいれば、そうでない人もいた。奇妙な行動をとる双子の大叔母(高島礼子)。病の床にふせっていて、突然、暴れ出す叔父の久弥(滝藤賢一)、そして、辰弥を見張るかのような不気味な村人たち。

村に着いた翌日から辰弥と金田一の周囲で、連続殺人事件が起こる。自らの意志とは裏腹に、事件に巻き込まれていく辰弥。八つ墓村に隠された怨念とは?八つ墓の意味とは?金田一と共に謎を解いていくうちに、村に隠された恐ろしい過去が浮かび上がって…。

過去に何度も映画化、ドラマ化された横溝正史の代表作のひとつ「八つ墓村」。日本の原風景とも言える、のどかな山村を舞台に、尾上松也が金田一耕助に扮することで、このミステリー作品に新風を吹き込んでいる。一方、咲き乱れる桜の下での悪夢のような殺戮シーン。狂気に駆られたかのような滝藤賢一の怪演はあまりにも衝撃的だ。

※エンドロールの後に、一瞬、衝撃的なシーンが組み込まれているのでお見逃しなく!

 

©2025 Pallas Film-Twenty Twenty Vision-View Master Films-ZDF

 

2025年製作/96分/G/ギリシャ・ドイツ・ハンガリー合作 監督:パールフィ・ジョルジ 原題または英題:Kota 配給:ハーク 劇場公開日:2026年9月25日 ★マスコミ試写会で8月1日鑑賞

 

羽毛が黒かったため、出荷をまぬがれた1羽の雌鶏。トラックの助手席から脱出し、人間社会へ飛び出した。キツネに追われスーパーに逃げ込んだり、交通量の多い車道を横切ったり、デモに遭遇したり、刺激と危険がいっぱいの世界をなんとか渡り歩いていく。しかし、とうとう猟犬に捕まり、食堂を経営する家へと連れていかれる。

九死に一生を得た雌鶏は、食堂の庭の鶏小屋に入れられ、そこで出会った雄鶏との間に初めての卵を産み落とす。ヒヨコが生まれるのを心待ちにするのだが、卵はあっさりと人間に取り上げられてしまう。

何度、産んでも、どこに隠しても大切な卵は人間に見つけられ料理されてしまう。いつかヒヨコを育てたいという雌鶏の願いは叶えられることはなく、次々と新たな危険が彼女を襲う。一方で、雌鶏が身を寄せていた一家も事情を抱えており、優しかった飼い主はある事件に巻き込まれてしまう。

1羽の雌鶏の視点で人間社会を描いた異色の作品。子孫を残す、というたった一つの目標の為に生きる鶏と、欲望にまみれた人間たちとの対比が面白い。

カメラアングルやBGMの効果で、言葉を発することもなく無表情の雌鶏の気持ちがこちらに伝わってくる。ユーモアの中に本来「生きる」とは何なのか?を問いかけてくるような作品。

CGIや特殊効果はほぼ使用せず、世界的に著名な動物トレーナーの指導のもと、8羽の雌鶏が役割を分担しながら主人公の雌鶏を実演したという。

 

©2026「白鳥とコウモリ」製作委員会

2026年製作/145分/G/日本 原作:東野東吾 監督:岸善幸 出演:松村北斗、今田美桜、柄本佑、三浦友和、中村芝翫、前原愰、風吹ジュン、井川遥、吉田羊ほか 配給:松竹 劇場公開日:2026年9月4日 ★マスコミ試写会で8月4日鑑賞

 

ある日、港区の路上に放置された車の中から善良な弁護士•白石健介(中村芝翫)の死体が発見される。刑事の五代(柄本佑)と中町(前原愰)は、容疑者として浮上した愛知県に住む倉木達郎(三浦友和)の自宅へ事情聴取に訪れる。倉木はあっさりと犯行を自供し、この事件は解決したと思われていた。

しかし、容疑者の息子・倉木和真(松村北斗)は、父親が人を殺害するとは思えず、またその供述にも不自然さが目立つことから、誰かをかばっているのではないか、と考える。一方、被害者の娘・白石美令(今田美桜)も父親の言動に違和感を抱く。

二人は連絡を取り合い、事件の真相を突き止めようとするが、当然、美令の母(吉田羊)は和真と会うことに反対する。

母の反対を振り切り、美令は和真と共に数十年前の古い写真を手掛かりに、愛知県を訪ねる。すこしずつ明らかになっていく二人の父親の生い立ちや秘密。そして、幾重にもからまった糸がほどかれていくように真実が明らかになっていく。

ベストセラー作家・東野圭吾が「罪と罰」という核心的なテーマで描いた最高傑作「白鳥とコウモリ」。松村北斗、今田美桜を中心に、江本佑、吉田羊、そして三浦友和らベテラン俳優陣の丁寧な演技で重厚さのある作品に仕上げられている。

 

 

 

© 2026 Gaga Corporation/Storm Labels Inc./Studio i3

2026年製作/G/日本 監督:近藤亮太 出演:重岡大毅(WEST.)、原菜乃華、田中みな実、石丸幹二、伊藤歩ほか 配給:ギャガ 劇場公開日:2026年9月11日 ★マスコミ試写会で8月1日鑑賞

 

仕事帰りに自転車を走らせていたフリーライターの初海航(重岡大毅)の携帯に、妹の幸来(原菜乃華)から電話がかかってくる。高校生の幸来は部活帰りに顧問の教師の家で勉強の指導を受けていたのだが、関係を迫られ、相手を殺害してしまったのだという。両親が亡くなった後、10歳違いの妹の成長を見守ってきた航は、何としてでも幸来を守りたかった。

そこで航が思いついたのは、対話型生成AIに「完全犯罪を成立させる方法」を問うことだった。二人はAIに教えられた通りに幸来の指紋を消し、アリバイを工作し、死者には風変わりな死化粧を施した。

警察の取り調べも何とかクリアし、このまま一件落着か、と思われたのだが、同じように死化粧が施された殺人事件が他にも起こっていることがわかる。航は何者かに襲われそうになり、自分たちが想像以上の危険にさらされていると覚悟する。

予期せぬ出来事が次々と起こり、兄妹は連続殺人事件に巻き込まれていく。そんな時に、出会ったのが鍵を握る謎の女・七希(田中みな実)。七希もまた、自らカスタマイズした生成AIの指南を仰いでおり、事態は益々悪化の途を辿っていく。

果たして航がAIと共に企てた完全犯罪は成立するのか。思いもよらないラストが待ち受けていた。

 

 

 

©2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

2026年製作/36分/日本 監督:片野坂亮 声の出演:あの、花澤香菜、三木眞一郎ほか 配給:ギャガ 劇場公開日:2026年8月21日 ★マスコミ試写会で7月21日鑑賞

 

舞台は1996年の熊本、夏の終わり。

10才の少年・湊(みなと)は、海辺の町で酒に溺れる父と二人暮らし。毎夜のように繰り返される父からの暴力、暴言におびえ、息をひそめるように生きていた。

湊には、海に浮かぶ不思議な光「しらぬひ」に、母との想い出がつまっていた。

「しらぬひ」は、「あるもの」と引き換えに、ひとつだけ願いをかなえてくれるという。

夜になると弁天島に現れる少女の神さま“べんちゃん”と遊びながら、湊は「しらぬひ」に祈りを捧げていた。

父からの虐待はエスカレートし、湊は児童保護施設に一時保護されることになった。

“べんちゃん”と会えなくなる・・・。湊の願いは、やがて父への恨み、呪いへと変化していくのだった。

36分のアニメーションに凝縮された「愛」の物語。

湊の母とはいったい、どんな女性だったのだろう。湊が父と二人暮らしをすることになったいきさつは。湊を手放したくない父親の愛と狂気。願いを叶えたい一心で、湊がとった行動とは。

暗い海に浮かぶ一筋の光「しらぬひ」とは、なになのか。

繊細な映像に、想像力がかき立てられていく。

 

 

© 2026 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

2026年製作/115分/G/アメリカ 監督:トーマス・ケイル 出演:キャサリン・ランガイア ドウェイン・ジョンソンほか 声の出演:TSUZUMI (ME:I) 尾上松也 キムラ緑子ほか 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 劇場公開日:2026年7月31日 ★マスコミ試写会で7月22日鑑賞

モトゥヌイ島の村長の一人娘・モアナ(キャサリン・ランガイア)は父の跡を継ぐことが期待されている16才の少女。海に囲まれた島で育ったモアナは、サンゴ礁の外に出ていきたいのだが、それは村の掟で禁じられていた。

ある日、次々と異変が起こる。祖母のタラから島に伝わる伝説を聞いたモアナは、女神テ・フィティの心をしずめるため、サンゴ礁を乗り越え、外の世界に旅立つ決心をする。

 

冒険の旅に出たモアナは、半神半人のマウイ(ドウェイン・ジョンソン)と出会うが、二人は対立し、ぶつかってばかり。しかし、真っすぐに進もうとするモアナの姿を見て、マウイは徐々に心を開いていく。次々と襲う困難に、勇気と知恵をふりしぼって立ち向かう二人。

果たして、モアナは女神の心をしずめ、村を救うことができるのだろうか。

 

うっとりするような南国の美しい海。アニメと融合したファンタジックな世界を舞台に、健康美に輝くモアナとドウェイン・ジョンソン演じる逞しくも愉快なマウイが大活躍。

冒険の旅を経て、さらに美しく強く成長していくモアナの姿に、きっと勇気がもらえるにちがいない。

 

 

©2026「あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。」製作委員会

2026年製作/128分/G/日本 監督:新城毅彦 出演:福原遥、細田佳央太、出口夏希、伊藤健太郎、倍賞千恵子ほか 配給:松竹 劇場公開日:2026年8月7日 ★マスコミ試写会で7月21日鑑賞

     

2023年の大ヒット作「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」の続編にして完結編。

現代から1945年の戦争末期の日本にタイムスリップした女子高生・百合(福原遥)は、特攻隊員・彰(水上恒司)との哀しい別れを経験する。

それから7年が経ち、百合は彰の夢でもあった高校教師となり、忙しい日々を過ごしていた。しかし、その心は彰と過ごした百合の花の咲く丘に残してきたままだった。

そんなある日、彰の面影をもつ青年・涼(細田佳央太)が現れ、臨時教員として百合のクラスの副担任になる。自分を真っすぐに想ってくれる涼の気持ちに百合の心は揺れ動くが、彰を裏切るような気がして、一歩が踏み出せないでいた。

思い悩む百合が浜辺で出会ったのは、ホスピスで穏やかに余生を過ごす年老いた千代(倍賞千恵子)だった。

あの時、特攻隊員・石丸(伊藤健太郎)を失った千代(出口夏希)は、その後、どんな人生を送ってきたのか。千代が大切にしている石丸が遺した言葉とは…。

千代の話に耳を傾けながら、百合は自らがどう生きていけば良いのかにうっすらと気づき始める。そんな百合に千代は彰が出撃前に「未来の百合へ」と遺した1冊の本を託す。

ともすれば夢を持つことを否定してしまいがちな現代の若者たちに向け、夢があっても諦めざるを得なかった青年たちがいたこと。大切な人の為に、死ぬことがわかっていても飛び立たなければならなかった特攻隊員たちがいたことを、彼らの写真や手紙も紹介しながら平和の尊さや、夢を抱いて一生懸命生きることの大切さを訴えかけてくる。

辛い経験を経て、明日へと一歩を踏み出す決心をした百合の “奇跡と再生”の物語。ファンタジー要素も含みながら、主要キャストの想いや役割がきちんと描かれ見応えのある作品に仕上げられている。

 

 

 

©2026 ポニーキャニオン/東京テアトル/NHKエンタープライズ/RIKIプロジェクト

2026年製作/G/日本 監督:石井裕也 出演:池松壮亮、仲野太賀、岩田剛典、中村蒼、三浦貴大、國村隼、佐藤隆太、江口洋介、佐藤浩市ほか 配給:東京テアトル 劇場公開日:2026年7月31日 ★マスコミ試写で7月1日鑑賞

 

昭和16年4月、真珠湾攻撃の8カ月前。官僚・軍・民間からエリートたちが集められ「総力戦研究所」という組織がつくられた。

メンバーは、産業組合中央金庫の調査課⻑の宇治田(池松壮亮)、新聞記者の樺島(仲野太賀)、海軍の村井(岩田剛典)ら二十人。彼らに課せられたのは、戦争の行方を「予測」することだった。

日米が開戦した場合の戦局をシミュレーションし、その結果を内閣に報告するため、彼らは“模擬内閣”を結成して議論を重ねていく。

張り詰めた空気のなか、膨大な機密データを解析し、シミュレーションを繰り返した末、彼らが予測したのは「日本の敗北」だった。

原爆の投下以外ほぼ全てを的中させた彼らだったが「導き出した真実」は、時代の「空気のようなもの」に飲み込まれ、日本は「負けることがわかっている戦い」へと突き進んでいくのだった。

「昭和16年夏の敗戦」(猪瀬直樹著)を原案に、昨年8月に放送されたNHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」のドラマパートに約40分の追加シーンを加えた完全版。歴史の分岐点に実在した人々が抱いた焦燥や無力感が、役者たちの迫真の演技を通してひしひしと伝わってくる。

理性と情熱を傾け、祖国や家族のために議論を重ねる若きエリートたちの苦悩と恐怖。戦闘シーンを描くことなく、日米開戦前夜の流れを描く。こんなにも優秀な若者たちがいたのに、なぜ?という疑問が沸き起こる。「わかっているのに、なぜやめられないのか」「引き返せなかったのか」。そこには正論に相対する「世の中の空気」があったのだ。

134分の大作。しかも重いテーマなのだが、冒頭からぐいぐいと引き込まれ、緊張感を維持したままラストまで一気だった。初めて知ったことも多かった。

コントロール不能の「空気」に包み込まれてしまった80年以上前の状況と、現代の私たちの日常に通じるものはないのか。国家をゆるがすような大きな問題ではなくても…。今一度、振り返り、考えてみたいと思わせる作品だった。