「結果さえ良ければ、手段は常に正
当化される」。菅義偉首相が信奉す
るイタリアの政治思想家、マキァベ
リの言葉である。その首相が自分
を首相にした恩人の二階俊博自民
幹事長を交代させる人事を決断し
た。総裁選の対抗馬になる岸田文
雄前政調会長が二階氏の続投に
否定的な見解を示して、党内の支
持が高まったことのへの争点つぶ
しと見られる。これまでの菅首相の
経歴をみれば、二階氏への背信さ
え驚くにはあたらない。
もちろん、二階氏が安易に首相の
引導を受諾したわけではないはず
だ。陰で二階氏の息子への好遇や
二階派幹部の三役起用などの取
引があったと見るのが自然だろう。
併せて衆院選の投開票日を10月
17日にする選挙案が有力になっ
た。
緊急事態宣言の解除が見通せな
くなり、29日の総裁選前の解散が
難しくなった。このため首相は自ら
の解散権を封じ、10月21日の衆院
議員任期満了日前の総選挙を選
択したとみられる。「二階引き下ろ
し」で岸田氏の党改革スローガン
を骨抜きにし、「キングメーカー」と
しての権力維持を狙う安倍晋三前
首相と麻生太郎財務相の支持を
確かにして中央突破する狙いがは
っきり見えてきた。
新型コロナウイルスの感染拡大が
止まらないこの月末、首相が発した
のは「この先の光が見えている」と
根拠のない楽観的な言葉しかなか
った。作家の村上春樹氏から「首
相は目がいいようだが、耳は良く
ないようだ」と皮肉られたように、さ
らに有権者の反発を招いた。毎日
新聞の世論調査では内閣支持率
はついに30%を割り込み、26%に
落ち込んだ。安倍内閣での最低の
数字に並び、衆院選での大幅議席
減を予感させる。並の心臓なら、も
う総辞職してもおかしくない支持離
れだが、首相のあくなき権力欲から
はそんな選択はないようだ。
その権力に固執するすさまじいエ
ネルギーは何を源にしているのか
。様々な見方があるが、エコノミス
トの浜矩子氏が先週号の「サンデ
ー毎日」に注目すべき分析をして
いた。
浜氏は「官僚の書いた原稿もまと
もに読めず、頼りない風貌。世の
中には『無能なオヤジ』とバカに
する風潮がありますが、決して侮
ってはいけません。この間にも着
々と自分の野望を達成すべく、な
りふり構わず行動しています」と警
告する。
野望とは何か。浜氏は安倍前首
相のように「21世紀版大日本帝国
」を作るという危険な目標もない代
わりに、理念もない。菅首相にある
のは「自らの権力の絶対化」という
野望と喝破している。首相が自ら
の胸に刻んでいるというマキャベリ
は暴力や圧政を是としたことを紹介
。菅首相が目的のために手段を選
ばぬマキャベリストであることを改
めて強調している。
一つ一つの指弾が腑に落ちる。中
でも前首相との比較が鋭い。
「カッコつけの安倍前首相は国民の
評判を気にしました。しかし、菅首相
はそれすらありません。撥水性が高
いと申しましょうか、国民からの批判
も弾いてしまう。見て見ぬふりの目と
聞く耳を持たずの耳の持ち主です。
「奸佞」(心が曲がり悪賢い)ほど菅
首相に似合う言葉はありません。こ
の政権はスガならぬハズレくじのスカ
。彼を権力の座から引きずり降ろさ
なければ早晩、日本は終わります」
激しくうなずきたい。五輪強行開催や
コロナ無策……。ひたすら歩む亡国
への道。マキャベリはこんな言葉も
残した。首相も今かみしめているか
もしれない。
「人はささいな侮辱には復讐しようと
するが、強力な攻撃には復讐する気
が失せる」
【2021・8・31】