「悪魔のシナリオ」が始まった | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


あすから始まる東京五輪に想像以

上の厳しい目が国内外から注がれ

ている。米国の全国紙USAツディ

ーの記事は「五輪首脳陣の悪魔の

シナリオが始まりつつある」と心あ

る国際社会の人々怒りを代弁した

。直前には、開会式の作曲担当、

小山田圭吾氏の障がい者虐待や

文化イベントに出演予定だったの

ぶみ氏による教員いじめや先天

性疾患のある子供への差別的発

言が相次いで発覚した。まさに「

悪魔の所業」である。人命を軽視

して大会を強行開催した菅義偉首

相、バッハIOC会長らの酷薄な性

根とどこかで通底しているではない

か。序盤から「史上最低の盛り上

がらない五輪」のネーミングにふさ

わしくなりつつある。

昨日の東京都の感染者は1832人

と1月以来の多さになった。注目す

べきは感染力の高いデルタ株によ

る感染が45%にも広がっていること

だ。重症病床の使用率もついに5割

を超えた。来月早々には2600人

になると専門家が予想。
五輪期間中、感染しても入院治療

を受けられない最悪のシナリオが現

実化しつつある。

一方、小山田氏辞任について橋本聖

子組織委会長は「責任は自分にある

」と謝罪したが、言葉だけで何の処分

も示さなかった。スキャンダルが浮上

するたびに安倍晋三前首相や菅首

相が何度も口にした常套句だった。

批判が高まってからの丸川珠代五輪

相や武藤敏郎組織委事務総長はず

っと知らぬ顔を決めて、記者の質問を

スルーして小山田氏続投を表明してい

た。予想以上に世論の怒りが高まり政

府批判が強まると、神妙な顔で謝った。

ところが、度し難かったのは武藤事務

総長の「組織委が一人一人選んでいる

わけでない」という釈明である。演出チ

ーム全体の責任に転嫁しようとした姑

息さはまた無責任ぶりを一段と増幅さ

せている。

橋本会長が今さら「大会が掲げる多様

性と調和というコンセプトから外れてい

た」と謝っても、誰も納得しないだろう。

「外れている」判断をくだしたのは、いっ

たん続投を決めた橋本会長、武藤事

務総長、丸川五輪相である。こんな五

輪憲章にもとる人事を何度も通したの

は、偶然ではない。ずっと組織委にし

みこんだ体質だった。

なぜなら今年3月、タレントの渡辺直

美さんを開会式に豚の格好で出演さ

せようとした前クリエイティブディレク

ター、佐々木宏氏の影響を払拭でき

なかったからだ。小山田氏の起用も

佐々木氏ら演出チームが決め、組織

委は何のチェックもしなかった。渡辺

直美さんに侮辱的な扱いをした佐々

木氏なら更迭直後、ほかにも同様の

事案がないか疑うべきだった。それ

をしなかったのは、組織委自体が同

じ価値観で動いたせいと批判されて

も仕方ない。

リオ五輪で安部前首相を「マリオ」姿

で登場させたのは、佐々木氏だった

。安部前首相のお気に入りの人物が

仕切る演出に異をとなえることは難

しかったかもしれないが、少し「身体

検査」しておけば、小山田、のぶみ氏

が「危険人物」だったことはすぐ分か

ったはずだ。

小山田氏ばかりが問題視されている

が、のぶみ氏はもっと悪性が高い。元

暴走族の総長で、33回の逮捕歴があ

ったことを自ら明かしていた。その自

伝には中学生時代、黒板消しのクリ

ーナーの後ろに三カ月隠した腐った

牛乳を教師に飲ましたこともツイッタ

ーに記載されていた。「菅官邸」は小

山田氏の所業がSNSで問題視され

た直後に、のぶみ氏の前歴をつかん

だとされるが、「時すでに遅し」である。

バッハ会長は20日、東京都内で開い

たIOC総会で「感動、涙がアスリートに

よって作り出され、五輪のマジックにな

る。日本にとって輝くべき時になる」と

述べた。この言葉にうなずく人はどれ

だけいるだろうか。自分にはブラック

ユーモアにしか聞こえない。アスリート

たちも感動、涙を作るため参加してい

るとは思えない。こんな浅薄なスピーチ

しか発せられない人物に社会が分断さ

れ、人命が軽視されるこの国の悲劇。

暗然とした思いが消えない。

          【2021・7・22】

(都合で、次回は8月11日に掲載します)