止まらない機能不全と不作為 | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


「不要不急はご本人が判断されるこ

と」。五輪閉会直後、東京・銀座を妻

とぶらついたバッハIOC会長をかば

った丸川珠代五輪相の言葉を聞い

て、空いた口がふさがらなかった。

ずっと不都合なことに目をつぶり通

しの17日間だった。選手たちのパフ

ォーマンスの陰で、コロナの感染爆

発に手を拱ねくだけの政府の実態

がさらに明白になった。残念ながら

前回書いた「悪魔のシナリオ」通り

の展開になり、政府の機能不全と

不作為が止まらない。

「こんなはずではなかった」。菅義偉

首相の頭の中はこんな思いを繰り

返しテイルのではないか。広島と長

崎の原爆犠牲者慰霊式典に参列し

た首相は演説原稿で最も重要な部

分を読み飛ばしたり、式に遅刻する

など「心ここにあらず」の振る舞いが

目立った。それもそのはずである。

五輪開幕前は「選手たちがメダルで

もとれば、世の中の雰囲気がガラッ

と変わるはず」と側近に語っていた

。しかし、その目論見は見事に外れ

てしまった。首相が「開催国としての

責任を果たした」といくら胸を張って

も、有権者は首相自らの打算のた

めの強行開催だったことを見透かし

ていたのである。

各メディアの数字がそれを示してい

る。政府寄りの読売新聞と「政府広

報」という批判の高いのNHKでさえ、

発足後最低を更新した。NHKの支

持率がついに29%と3割を切ってし

まったのは与党に衝撃をもたらした

。前日の朝日新聞の28%という数

字と大差がない。どのメディアも「菅

首相で選挙は戦えない」という議員

の声を伝えている。

支持率急落は、コロナの感染爆発

に有効な手を打てず、五輪賛美の

ツイッターばかりを流していた首相

への有権者からの事実上の「退場

勧告」にみえる。東京都で先週、4

000人を超える数字が三日連続で

続き、誰もが身に危険を覚える状

況に陥った。五輪開幕前は1日7

27人だったのに、わずか3週間た

らずで実に6倍の感染拡大を招い

てしまったのである。この間、菅首

相は事前に何の相談もなく「中等症

以下の患者の入院拒否」を宣言し

た。コロナで陽性判定されても、病

院で手当を受けられない。国民皆保

険が機能しない事実上の医療崩壊

である。戦後最大の国難である。高

まる批判に抗しきれず、首相は「中

等症でも医者の判断で入院できる」

とあわてて軌道修正したが、遅かっ

た。都内では重症患者以外を受け

入れる余力はもうなくなっている。

すでに都内には約3万人の自宅療

養と自宅待機を強いられた患者が

いるとされる。突然症状が悪化して、

死者も出始めた。昨日、立憲民主

の対策会議に呼ばれた厚労省の

担当者は「自宅療養の死者数は把

握していない」と答えた。自治体の

システム入力が遅れていると説明し

たが、田村憲久厚労相の「肺炎症

状のある人は、原則入院」という閉

会中審査での答弁について聞かれ

、「入院できている」と言えなかった

。このままでは、春の大阪のように

「自宅死」が激増する「地獄絵」がま

た迫ってきた。



それでも、こんな酷薄な惨状を変

える方策はまだある。例えば、臨時

の「コロナ病棟」を設け、軽症、中等

症患者を収容する。昨年春から多く

の医療関係者が提言してきたのに、

国や東京都は動かなかった。福井

県などは既に体育館などを利用、臨

時の収容者施設を作って機能し始

めた。東京都でも、五輪選手村を一

時的に収容施設に転用する案が浮

上しているのに、まだ首相や小池百

合子知事は知らぬ顔を決めている

。事実上の「棄民政策」が進行して

いると言えまいか。

「人間こそウィルスかもしれない」(9

日付け朝日新聞)。米国を代表する

シンガーソングライター、ジャクソン

ブラウンの言葉が胸に重たく響く。

        【2021・8・11】