人の不幸につけ込んで、利を貪る
ハイエナの如き不祥事が経済産
業省で発覚した。コロナ禍で売り
上げが減った中小企業の関係者
を装った28歳のキャリア官僚二
人が国の家賃支援給付金をだま
し取った事件を生んだ腐敗の温
床は何か。「バレなければ何もし
ても、罪を問われることはない」。
「モリカケ・サクラ」の政権スキャ
ンダルは、そんな思い上がりを
霞ヶ関全体に浸透させてしまった
。その後菅政権でも総務省接待
疑惑が相次ぎ、もう「公僕」という
言葉が死語になったとさえ思わ
せる。国家運営の中枢であるべ
き官僚がシロアリのように屋台骨
を蝕んでいる。
公文書という民主主義の根幹を改
ざんという行為で損壊させた森友事
件で、ようやく安倍晋三前首相夫
妻が関わった一端を明らかにする
「赤木ファイル」が開示された。まだ
全容解明への第一歩ではあるが、
佐川宣寿理財局長が改ざんを直
接指示していたことが裏付けられ
た。しかし、なぜ指示したのか、隠
蔽は誰の了解を得たのか、依然不
明のままだ。改ざんを忖度させた
張本人の安部前首相と麻生太郎
財務相は「決着済み」と逃げ回る。
加計学園の獣医学部認可を交渉
した首相補佐官(経産省から出向)
は国会で「記憶にない」と追及をか
わし続けたあげく、民間に天下った
。東北新社やNTT幹部らと高額接
待を受け続けた総務官僚は甘い処
分を受けただけで、武田良太総務
相は居直ったままだ。鶏卵汚職の
農水省では、白昼堂々と大臣室で
賄賂の授受が判明した。それでも
当の農水相は逮捕されず、在宅起
訴という中途半端な捜査に終わった。
霞ヶ関全体から腐臭が漂ってくる。
給付金詐取した若手官僚が登用
され、手口を思いついたのは、省
益ばかりを優先し政治家の言い
なりになって不正に甘い雰囲気が
全体に横溢しているからだろう。
今回の手口はあまりに大胆だ。逮
捕された二人のキャリアは事前に
ペーパーカンパニーまで設立、実
態のない事務所三カ所をでっち上
げ、月に200万円もの家賃給付
金をだまし取った。自宅と親族の
自宅や実家が書かれていたとい
い、少しチェックするだけで詐取行
為が分かるはずだったのに、申請
通り支払われたという。所管官庁
のキャリアの立場として血税をだ
まし取るという大胆極まりない発想
に言葉が出ない。国家機関の柱石
がガラガラと崩れ落ちるような感覚
に陥ってしまう。
悪用された今回の給付金は今春
までに9千億円が交付された。こ
れまで11の事件が摘発され、中央
官庁では初めての摘発だったが、
ほかにもあるのでは推察したくなる
。詐取に走った官僚の一人は月の
家賃が50万円の高級タワーマンシ
ョンに住み、外車二台を乗り回して
いたという。優秀であるべき官僚ら
がいつから道を踏み外し、人生を
台無しにしてしまうような行為に走
ったのだろう。詳細な供述を知り
たくなる。
それぞれ立場は違うが、末路は哀
れではないか。佐川元局長は末代
まで汚名を残し、今は家からも出ら
れない日々という。今回の若手官
僚も一生、その汚名を背負わなけ
ればならない。青雲の志に燃えた
時ははたしてあったのか。いつの
間にか物欲や地位ばかりを追い
求めていたのだろう。志のないま
ま官僚になったのか。私利ばかり
を追い求める生き方の空しさを説
いた中国の思想家、老子の言葉
が重く響く。
「富貴にして驕れば、自らその咎
(とが)を遺す」
おごりたかぶると、おのずととが
められねばならないという悔いを
残すという意味だ。前・現首相に
もかみしめてもらいたい。欲望の
高まりを諭すこんな警句もある。
「多く蔵すれば、必ず厚く失う」
」
【2021・6・28】