「五輪が世界規模のメガ拡散イベ
ントになるかもしれない」。米国イリ
ノイ大シカゴ校のニー・スパロー助
教の1カ月前の警鐘が現実になっ
てきた。新型コロナウイルスの感
染再拡大が続く東京の7日の感染
者は920人に急増、来月22日まで
緊急事態宣言が出されることにな
った。スパロー助教が変異株によ
るエアロゾル感染を懸念した通り、
この日は35%が変異株による感
染に置き換わっていた。先月、多
くの専門家も同じ危惧を菅義偉首
相に伝えていた。しかし、それを聞
き入れず前回の宣言を解除した。
内閣総辞職に相当する大失態で
ある。宣言を繰り返すだけでなく、
今は「五輪中止」を表明すべき最
後の機会ではないか。
菅首相はずっと専門家の意見を軽
視し続けてきたが、さすがに東京の
感染者数が1日900人を超えると、
聞き入れざるを得なくなった。重症
者数数も4月から6月までの数を超
えてしまった。感染状況の悪化は予
想以上だ。京大ウイルス研の試算
では、今月中旬1000人に達する
見通しだ。このままでは来月初め、
スパロー助教の警鐘通り、「メガ拡
散」が進み1日4000人になり、重
症病床も逼迫するという。
政府は3回目の宣言解除後、「早く
ワクチン打って」と呼びかけるだけ
で、PCR検査拡大など有効な措置
を何一つ講じなかった。そのあげく
がこの体たらくである。東京都議選
では有権者が「自公与党の過半数
割れ」という厳しい審判を下した。自
らの足下に火がついたと見られる
菅首相は、五輪強行開催だけにし
がみつき、専門家の指摘を聞き入
れるしか術がなくなった。
先月21日の五者協議では最大1万
人と決めていたはずだが、事態の
悪化でそれも無理になって、組織委
関係者は唐突に「無観客」と言い出
した。それでも菅首相はなお「一部
の有観客開催」にこだわっていると
いう。無観客なら「コロナに打ち勝
った証し」と言えなくなるからだ。2
週間後に迫っても、なお開催規模
が決まらない前代未聞の事態だ。
萩生田光一文科相はスパコン「富
岳」のデータまで引用、国立競技場
の感染リスクが低いことをアピール
して、有観客にしたい菅首相に追
従した。VIP、IOC関係者、スポンサ
ー枠は約1万人いるとされ、観客と
は別枠扱いである。いわば「五輪特
権ファミリー」だけはどうしても入場
させたい意図が見え見えである。そ
んな姿を映像でみせつけたら、また
世論の反発を招くはずだ。スポンサ
ー企業を優遇するのは、政権与党
幹部が彼らの政治献金を受けると
いう「五輪利権」が基盤にある。今
回の大会は特権者だけがその恩恵
を受ける構図がより鮮明化しつつあ
る。
彼らが絶対「中止」を口にすることは
ないが、感染の「メガ拡散」が広がれ
ば、中止の判断もあり得るかもしれ
ない。その場合、国内外へ多大な影
響を及ぼすのは必至で、内閣総辞
職に追い込まれるだろう。
今朝の毎日新聞はワクチン配送を
めぐる混乱は菅首相と加藤勝信官
房長官の二人が「自治体に回す予
定だったモデルナ社製ワクチンを職
域接種に回せ」と指示したためだっ
た内幕を伝えている。首相指示で自
治体に回すモデルナ社製ワクチンが
先月30日から一挙に500万回も減
ってしまった。政権が頼りにしたワク
チン接種さえも、自ら判断の誤りで、
全国の自治体が予約をキャンセル
するという大混乱をもたらした。「や
る事なす事すべて裏目」。自治体か
らも政権への批判が一段と高まっ
ている。
【2021・7・8】