思いがけないまねっこ
幼児は大人を真似て育つ。ひまりがうさぎのぬいぐるみに「は~い、抱っこ。ぎゅ~っ。もう離さないよ」と笑顔で話しかけている。驚いた。まるっきり自分の言葉だったから。ひまりは散歩中に抱っこをねだる。私はできるだけ、外ではひまりの足で元気に歩いて欲しい。丈夫な体に育ってほしいから。ひまりが「抱っこして」と頻繁にお願いするようになったのは夏の始まり頃。初めは、なんとか抱っこしないで歩かせようとしていた。けれども「抱っこしないよ、歩こうね」というと、「抱っこ~、抱っこ~」と泣かれてしまう。ひまりは自分の感情が否定されるほど、ぎゅっと私にしがみつき、泣いて自分の欲求を通そうとした。小さな体で求める「抱っこ」は特別で、愛情をたくさん受けとめて元気になるために必要なこと。今のひまりには一番大事なことなのだ。そういうわけで、私は「抱っこ」と言われたらすぐに抱きしめてあげることにした。「抱っこしないよ」というと、悲しくてすぐに泣いてしまうひまり。抱っこしてあげるとあっという間に笑顔になる。抱き上げて「ぎゅ~。もう離さないよ」と言うと、はじめはニコニコしていても、だんだん動けないのがもどかしくなるらしい。「降りる~」と言われても、一度は「離さないよ~」ともっとギュッと抱きしめる。そうすると俄然抱っこから解放されたくなるようで、体をひねって腕の中から抜け出そうとする。それから下ろすと、再び自分の足で歩きだす。もちろん、ずっと抱っこしたままになってしまう時もあるけれど、そういう時はきっと母親の温もりが必要な時。私から少し離れて歩いて、しばらくするとまた「抱っこ」で元気をチャージして、また離れて歩く。きっとこうして、じょじょに離れる時間が増えていく。それはちょっと寂しいことだけど、自分の愛情が確かにひまりに伝わった証拠でもある。体が離れても、絆は強くなっている。ひまりが笑顔で、私と同じ言葉をかけて、うさぎを抱きしめている。それはひまりの中に、確かに自分がいる証拠。