シドニー・ポラック1) 監督

 

CIAの末端の情報分析官が自分の提出したレポートが原因でCIA内部の陰謀に巻き込まれ危機を乗り越えていくお話

 

 

エクソシスト(1973)とはマックス・フォン・シドー2) つながりです。

最初はマックス・フォン・シドー つながりで デイヴィッド・リンチ監督の デューン/砂の惑星(1984)にしようかと思っていましたがこの映画に関しては記憶が曖昧でDVDなども持っていなかったのでやめました

 

「コンドル」 とは主人公ターナー(ロバート・レッドフォード)のコード名です。

原題は "Three Days of the Condor",コンドルの3日間です。

 

 

CIA は,アメリカ国内外の情報収集とその分析,および国家安全保障のための活動を行なっています。

情報収集にはいわゆるスパイ活動も含まれますし,国家安全保障のためという名目での非合法な作戦も行なっています。

 

 

ターナーもCIAの端くれにいた人物です。ただ,彼は情報分析官として各国のミステリー関係の小説や雑誌などを解読し,PCに入力する仕事でした。最初の何気ない職場でのセリフがあとから振り返るとこの映画で描かれたできごとの説明になっていることが分かります。

 

ターナーはランチを買いに裏口から抜け出します。

ここでの会話でゴッホは30歳で絵を描き始めたけど生涯一枚も絵を売れなかったと言っていました。

実際には「赤い葡萄畑」が売れています。

 

ゴッホの「赤い葡萄畑」

 

職場に戻ってみると全員が射殺されていました。何が何だけ分からない恐怖と戦慄

自分の所属する職場が,テロの標的になる理由があるのか,わからないまま CIA のパニック・センターに連絡します。

 

保護してくれるはずのCIA本部からも銃撃され,とにかく逃げます。

CIAの職員とはいえ,本を読んで分析しているだけで,スパイ映画に出てくるCIAとはかけ離れた一般人のターナーがどうやって逃げおおせるのか,一気に引き込まれますね。

 

自己防衛のため,行きずりの女子キャシー(フェイ・ダナウェイ)を誘拐 (というより略取と言った方が正しいのでしょうか)して,彼女のアパートに逃げ込みます。巻きこまれた彼女はたまったもんじゃありませんね。

 

そんな危機的な環境にあって,あとあと男女の関係になっていくのもチョットなあと思いましたが,ストックホルム症候群(被害者が犯人と心理的なつながりを築くことについて好意的な感情を抱く心理状態)というのもありますのでここはスルーしました。

 

殺し屋のジョベールを演じたマックス・フォン・シドーがいいですねぇ。

キチンとした身なりで淡々と仕事 (殺人)をこなしていくという様がピッタリです。

 

なぜ,自分の職場の人々が殺害されたのか,なぜ,自分を保護するためにやってきたはずの同級生が殺害されたのか,CIAの内部に暴走したグループがあると考えたターナーが反撃に出ます。

 

ワシントンのCIAの本部に重役が集合し,対策を検討しますが,担当しているヒギンズ(クリフ・ロバートソン)がターナーについて説明します。

「どうしてこんなに証拠も残さず逃げられる,逃亡法をどこで学んだ?」そう聞かれたヒギンズは一言

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本を読んでそれを実行したということでしょう

 

そして殺し屋のジョベールが会った人物はCIAの本部の会議に同席していた作戦部副部長でした。

ただこの人物,華麗なる賭け(1968)などにも出演しているアディソン・パウエルが演じていていますが,影が薄すぎます。

CIAの本部の会議に同席していた人物だと気付いたのはだいぶ話が進んでからでした。

ターナーの職場を襲撃した人間がこいつの指示だということが明らかになります。

しかもターナーが同級生サムを銃殺したことにしています。

そしてさらにターナー襲撃に失敗した部下も口封じのためにジョベールに殺害を依頼。

わりーヤツだのぉ

 

キャシーの部屋でニュースを見て自分を保護するためにやってきた同級生サムが殺害されたことを知ります。

サムの奥さんにそれを知らせて安全な場所にすぐ行くよう追い立てるターナー。

サムの家の玄関に飾ってあった絵はパウル・クレー3) の絵です。

ぼくはこの絵が使われただけでこの映画が好きになりました。

 

キャシーの住居がバレて郵便局員扮する殺し屋がやってきます。

ここがこの映画,唯一のアクションシーンです。

受け取りのサインをする時,ロバート・レッドフォードは右手でボーペンを握りました。

でも銃は左手で撃っていました。サウスポーだけど文字は右手で書くのですかね?

 

何とか撃退して殺し屋が持っていたメモ用紙の電話番号からCIA,Section 17のチーフと関係があることが分かりました。会ったことはありませんがターナーが所属する部署の上司ということです。CIAの闇に近づいていきます。

 

まず,何とかヒギンズに話をつけたい

 

キャシーが協力してくれ,彼女がヒギンズのオフィスに入ります。

 

ヒギンズのオフィスは今はなきワールド・トレード・センターの中でしたね。2001/09/11,アルカイダのテロの2ヵ月後,ニューヨーク・タイムズ紙が実際にCIAのオフィスがワールド・トレード・センターの中に存在したことを報じました。伝えられるところによれば,何気ない政府組織の看板を掲げて,近くの国連ビルに勤務する外国外交官をスパイし,リクルートするためのニューヨークの拠点として機能していたようです。

 

ヒギンズを拉致して,CIAが自分を殺しに来たと責め立てますが,外注したジョベールという暗殺者がやったと説明されました。CIA内部に問題となるグループがあるならターナーを保護できないといわれます。

 

ここからが単なる情報分析官らしくないターナーの活躍が始まります。

 

郵便局員扮する殺し屋が持っていた鍵からホテルの部屋を割り出し,電話線を操作して盗聴,そして黒幕を特定するところはスパイ顔負けですね。

しかし,この時代は個人情報が簡単に開示されるということがよく分かりました。

キャシーの部屋にあった電話帳もそうとう分厚いものでした。

 

一方,ヒギンズは郵便局員になりすました暗殺者とウィックの関係からルシファーという人物がかかわっていることを突き止めます。そして,ルシファーがジョベールでした。「ルシファー,Lucifer」 というのはキリスト教において堕天使の長であり,サタン,悪魔のことを指します。エクソシスト(1973)で悪魔と戦った神父役を演じたマックス・フォン・シドーがこの映画では悪魔になっているというのはちょっとおもしろい

 

最後は黒幕の書斎の乗り込み,真相を明らかにしました。

ターナーもひげが濃くなっていましたね。時間の経過を表していますね。

 

 

1972/06,かの有名なウォーターゲート事件が報じられました。

アメリカ史上,最大級の政治スキャンダルです。CIAが,野党だった民主党の本部に盗聴器を仕掛けようとした事件です。これを元にしたロバート・レッドフォードが主演している大統領の陰謀(1976)が詳しいです。

この事件が関係あるのかどうかはわかりませんが,1970年代は陰謀を題材にした映画が多かったようです。チャイナタウン(1974),パララックス・ビュー(1974),カプリコーン・ワン(1977)などなど,こんなところが陰謀が関係しているって感じなのでしょうか。

 

プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスは,最初にウォーレン・ベイティ主演,ピーター・イェーツ監督として契約していました。その後,主役がレッドフォードになった時,レッドフォードは監督としてシドニー・ポラックを希望しました。

そのため,ディノ・デ・ラウレンティスはイェーツに20万ドルのギャラ全額を支払い,この作品の監督をシドニー・ポラックに変えたとのことです。

 

この年はカッコーの巣の上で(ミロス・フォアマン監督),バリー・リンドン(スタンリー・キューブリック監督),狼たちの午後(シドニー・ルメット監督),フェリーニのアマルコルド(フェデリコ・フェリーニ監督),ジョーズスティーヴン・スピルバーグ)といったいい映画がたくさん公開されたためもあり,この映画,アカデミー賞は編集賞以外にはノミネートされませんでした。

アカデミー賞編集賞もジョーズ(1975)が受賞しています。

ただ,この映画の脚本は非常に高く評価されており,今でも大学の映画コースで良い脚本の書き方の例として使われているようです。

 

 

アカデミー賞作曲賞もこの年は「ジョーズ」のジョン・ウイリアムズや「カッコーの巣の上で」のジャック・ニッチェらの曲がノミネートされています。受賞はジョン・ウイリアムズ。この映画のデイヴ・グルーシンもノミネートくらいされても良さそうですけどねぇ。イイ曲ですよね。

 

 

 

 

1)   シドニー・ポラック

雨のニューオリンズ(1966)でロバート・レッドフォードと組んで以来,大いなる勇者 (1972),追憶 (1973),「コンドル」,出逢い(1979),愛と哀しみの果て(1985),ハバナ(1990)とふたりでたくさんの映画を作っています。

「愛と哀しみの果て」ではアカデミー作品賞と監督賞を受賞しています。俳優でもあり,スタンリー・キューブリックのアイズ ワイド シャット(1999)にも出演しています。

「コンドル」にもちょい役で出演しています。職場が襲撃され出て行くターナーがぶつかりそうになったタクシーの運転手とかキャシーの家の前で挨拶された男もそうです。

 

 

2)  マックス・フォン・シドー

スウェーデン人です。名前からドイツ人だと思っていました。第七の封印(1957),野いちご(1957),処女の泉(1960)といったイングマル・ベルイマンの映画の常連でした。堅い映画ばかり出ているかと思えばそうではなかったですね。ネバーセイ・ネバーアゲイン(1983)ではスペクター役だったり,デューン/砂の惑星(1984),ハンナとその姉妹(1986)のどに出演しています。レナードの朝(1990)にもちょっとだけ出ていました。存在感のある俳優だと思います。

 

 

3) パウル・クレー

色彩と線の魔術師と言われています。両親は音楽家でそのためもあってか,その絵はリズムに溢れています。音の響きを視覚化した「ポリフォニー絵画」を描くとも言われています。

抽象画ですが,まったくわけのわからないものではなく,色の付いた四角形や円形を組み合わせたものなどがクレー絵画の基本的な構成要素になっています。

うろ覚えですが中学校の美術の教科書に載っていたような気がします

セネシオ(野菊)という題名です

 

航海者シンドバッド: この色具合がたまらない

本物を見てみたいです

 

 

4)  デイヴ・グルーシン

音楽の一部を担当した映画 卒業(1967)のサウンドトラック・アルバムによりポール・サイモンと共にグラミー賞を受賞しています。グラミー賞はその後も何度も受賞しています。ロバート・レッドフォードが監督したミラグロ/奇跡の地(1988)でアカデミー賞作曲賞を受賞しています。

映画音楽も数多く担当しています。代表的な映画ではグッバイガール(1977),天国から来たチャンピオン(1978),出逢い(1979),黄昏(1981),トッツィー(1982),恋におちて(1984),グーニーズ(1985),ザ・ファーム 法律事務所 The Firm(1993)などです。