マイク・ニコルズ1)監督

 

ダスティン・ホフマンは「真夜中のカーボーイ」では社会の底辺に生きる人間を演じていましたが,この映画では大学を優秀な成績で卒業した言わば「勝ち組」が約束されている若者を演じています。

全く違うキャラクターです。すごいです。

 

 

アメリカ東部の大学を卒業し,アイビールック2)に身を包んだベン(ダスティン・ホフマン)がロサンジェルスの実家に帰郷する場面からこの映画は始まります。流れている曲はサイモン&ガーファンクルの “サウンド オブ サイレンス3)

 

 

卒業を祝うパーティーでベンは今後の進路に漠然とした不安や疑問を持っているように見えます。

そこにミセス・ロビンソン(アン・バンクロフト4))登場

 

誘惑されて,案の定,ズルズルと深みにはまっていきます。ベンにとっては初めてであろうことなので端から見ているとおもしろく感じます。ホテルでのフロントとのやりとりも秀逸です。

 

 

プールから部屋に戻るとそこはホテルの一室だったり,プールで泳いでマットに飛び乗るとそこにミセス・ロビンソンがいたり,いろいろなシーンが繋がるところは独創的な撮影です。

 

ミセス・ロビンソンから娘のエレン(キャサリン・ロス5))に会うなと釘を刺されていたのに,親からエレンを誘わないならロビンソン一家を夕食に招待するといわれてしぶしぶドライブに出かけます。

ストリップ劇場に連れて行ってエレンの涙を見て恋に落ちます。

 

何故そうなったの?こんなことで人を好きになるものなの?

でも恋に落ちるということはそういうことでしょう。理由なんてないんです。

エレンもそうだったのでしょう。そうでなければ話が進みません。

 

そしてベンと母親との情事を知ったショックでエレンは去っていきます。

ロサンジェルスからエレンの入っていたカリフォルニア大学バークリー校までGoogle Mapのよると約600km。アルファロメオ(初代スパイダー)で飛ばしても遠いですね。

 

エレンを忘れられないベンは大学のそばにアパートを借りて,待ち伏せしてエレンが乗ったバスに乗り込みます。

エレンのとなりに座っていた女性はセリフもないのにエンドクレジットで名前が出ていました。エドラ・ゲイルという俳優のようです。

そのあとエレンがアパートに押しかけ,ミセス・ロビンソンがベンを誘惑したのだという話を聞いて,そんな話は嘘だといって叫び,管理人が現れます。

ノーマン・フェルという俳優でオーシャンと十一人の仲間(1960),ブリット(1968)なんかに出演していました。管理人はベンがアパートを借りる時からベンを不審な目で見ていました。この頃は学生運動が活発な時期でカリフォルニア大学バークリー校はその中でも特にリベラルな基質の学校だったという背景もあったようです。

 

この時に管理人に後ろから警察を呼びますかという一言だけのセリフの若者が後の名優リチャード・ドレイファスです。

 

エレンが大学をやめて結婚すると知り,急いでミセス・ロビンソンに会いに行きます。バークリー~ロサンジェルス,600km,とんぼ返りして600km,結婚式場を聞き出してバークリーからサンタバーバラまで520km,合計おおよそ1720km,下関から東京を経由して青森まで本州縦断と同じくらいです。

 

恋する人間はすごいですね。

アルファロメオなんて燃費悪そうだし何回給油が必要なのでしょうか。まあ映画の世界ですから考えてもしかたがありません。

 

The Graduate Wedding scene

 

 

花嫁を結婚式の最中に,花婿から奪うシーンは有名ですね。

このシーンは大好きです。

なんでエレンがベンについていったのかわからないという人もいますがこれが恋なんでしょう。好きになった理由なんて人それぞれ。

 

バスの中で笑顔の二人がだんだん不安になっていく様子が映されます。

二人の未来が決して明るいだけではないことを暗示させるシーンですが,そんなことはどうでもいいです。

何年か後に二人はあの時こうしておけば良かったと思うかもしれませんし,離婚しているかもしれません。でもこの時の二人にはそんなことを考える理由はないはずです。

 

この映画もアメリカン・ニュー・シネマの代表作です。アメリカン・ニュー・シネマの定義は難しいですが一言のキーワードで表すのなら「反体制」なのだと思います。

この映画での「体制」は一流大学を卒業して大学院に行って “Plastics”(最初の卒業を祝うパーティーで出てきた言葉で,AFIアメリカ映画・名セリフ・ベスト100に入っています)で経済的に豊かな生活を送るといったところでしょうか。ベンはそれを拒否し,親の考えに丸め込まれることから抜け出しました。それが「反体制」ということなのでしょう。

いずれにしろ,この映画は観る人の心を揺さぶる青春ストーリーであり,名作に値すると思います。

 

1)    マイク・ニコルズ

バージニア・ウルフなんかこわくない(1966)で監督デビューしました。この映画ではエリザベス・テイラーがバターフィールド8(1960)に続く2度目のアカデミー主演女優賞を受賞しています。続いて監督したこの卒業(1967)でアカデミー監督賞を受賞しました。映画監督以外にも舞台演出も行なっていてトニー賞,エミー賞なども受賞しています。

 

2)    アイビールック

アメリカ東海岸のアイビー・リーグ(ブラウン大学,コロンビア大学,コーネル大学,ダートマス大学,ハーバード大学,ペンシルベニア大学,プリンストン大学,イェール大学)の学生らが好んで着ていたファッションです。この映画ではベンもアイビー・リーグを卒業したということでしょう。

典型的なアイビースタイルは,(A)オックスフォード織のボタンダウンシャツ,(B)絞りがなく,ナチュラルショルダーで,段返り三つボタン中ひとつ掛け,センターフックベントのブレザー,(C)パンツはノータック,脇ポケットは垂直な切り口のバーティカル・スリット・ポケットということになります。日本でのアイビールックはVANがリードしていました。現在もこのファッションは引き継がれていますがセンターフックベントのブレザーやバーティカル・スリット・ポケットのパンツは普通はお目にかからないデザインです。

 

3)    サウンド・オブ・サイレンス

題名を直訳すると「沈黙の音」。なんのこと?僕は有名すぎるこの曲の意味が知りたいと高校生の頃,辞書片手に訳したことがあります。何となく訳せましたけれど意味が全くわかりませんでした。”Silence like a cancer grows”,癌のように大きくなる沈黙。なんのこっちゃ。でもこの歌詞でcancer=癌を覚えました。ついでに蟹座の意味もあることも。歌詞の意味は理解できなくともとてもに美しい曲です。全米ビルボードチャートではNo.1を獲得しています。当然でしょう。

 

4)    アン・バンクロフト

この映画のクレジットタイトルではダステン・ホフマン,キャサリン・ロスより先に名前が出てきます。映画発表の時点では実績があったのはアン・バンクロフトです。この人もアクターズ・スタジオ出身です。舞台で活躍し,舞台の奇跡の人でトニー賞を受賞し,映画の奇跡の人(1962)ではアカデミー賞主演女優賞を受賞しています。奇跡の人(1962)もいい映画でした。愛と喝采の日々(1977)のバレエプリマ役,G.I.ジェーン(1997)の上院議員役なども印象に残っています。

 

5)    キャサリン・ロス

この映画でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ,明日に向って撃て!(1969)では英国アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。婦人服のブランド名にもなっていますが何か関係あるのでしょうか。