私は、少しよれた皮の財布から千円札を狐につままれたかのような気分で一枚そっと出しました。

すると、小さなカメオをビロードの箱にマスターは入れ、何にも包まずそのまま私に渡してくれました。

そして、千円札のしわを何度か伸ばすと大事そうに、着ているベストの内ポケットに入れ

「ありがとうございました。 またのお越しを」

と、マスターは深々と頭を下げながら言ってくれました。

  3日後、カメオをブラウスの胸に着けて、私は店を訪ねました。どうしてもつけている姿をマスターに見せたくなったのです。

「こんにちは、先日はありがとうございました」

マスターも店内もいつもの表情のままでした。

「あの、これほんの気持ちです」

お礼にと小さなすずらんの花束を私は差し出しました。

 しかし、マスターの表情は何も変わらずに、銀製品を磨いていました。

私はちょっと困ってしまい、花束をマスターの前に置いて店内を一回りしました。

すると、品物の動きは何もなく、いつものように…

いつものように…?

??

あれ?

レースがある…

 驚いた私が、マスターのところへ駆け寄るとすでにすずらんの花束は銀の花瓶で微笑んでいました。

「ありがとうございます。またのお越しを」

マスタ―は 人差し指を口びるの前で立てて言いました。

そして、深々と頭を下げたまま動かなくなってしまいました。

私は、胸のカメオに手を当てたまま店を出ました。名曲 サマータイムに見送られながら。

古いドアを開けると夕暮れの初夏の風が心地よく私を包んでくれました。

いつかあのレースを私が全部買おう。

そっと、心に誓いながら、夕焼けがうるむのを私は、しばし店の前でじっと見つめていました。         fine

ママの足は、いろいろなも様や色に変わります。今日のママの足には、きれいなお花がたくさんさいています。
「わあ。もも色のお花!」
ママはとてもごきげんで、ママもあみも大好きなピンクのワンピースを着ています。
どうやら、デパートへおかい物に行くらしいのです。
「パパがね。あみとママと好きなふくをかってもいいよって、いってくれたのよ!」
今日のママは、心もお花がたくさんさいているようです。
あみがママの足のお花をつまもうとすると
「やぶれるからだめっ!」
と、しかられました。
あみは、自分の足をひっぱってみました。
でもママのように、うすいくつ下のような物がつかめなくて、いたいだけでした。
「ママの足お花がいっぱいね」
あみがそう言うと、ママは大わらいしながら、
「これはストッキングっていって、くつ下とズボンがいっしょになってるようなものよ」
と、言いました。
「あみもほしい」
「じゃぁ。今日かおうね」
「やったあ!」
 ママとあみはデパートへ行きました。
そして、あみはママと同じもも色のお花の絵がついたストッキングをかってもらいました。

ある日、ママの足は黒い色でした。
「となりのおばあちゃんが、なくなったから おつやに行ってくるわね」
ママは、かなしそうな顔をして言いました。
「おつやっておやつ?おばあちゃんがどうしたの?」
あみは、おつやがわからなくて、ママにききました。
となりのおばあちゃんは、よくあみにおかしをくれました。あみにとって、とてもやさしいおばあちゃんでした。
「おばあちゃん、遠い所へいっちゃうの。もう会えなくなるから、さよならをしにいくのよ」
「えっ!会えなくなるの?」
あみはおやつがもらえなくなるのと、やさしいおばあちゃんに会えなくなるのとで、なみだが出てきました。
「やさしいおばあちゃんだったものね」
「うん。あみもさよならしに行く」
「あみは、あした行きましょうね」
「なんで、今日はだめなの?」
「今日は、いそがしいの。いいから、明日」
ママは、いそがしいといつも『いいから』と 強く言います。そんな時は言うことをきなかいととてもしかられます。あみはしかたなくしずかにおるすばんをすることにしました。
ママは、エプロンもふくもみんな黒にして、出かけて行きました。     つづく


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  • 次の日、やっぱりママもそしてあみも黒いふくをきました。
    「発表会のワンピース。黒にしてよかったわ」
     ピアノの発表会に着たワンピースです。
    「あみは、赤がよかったのに」
    「あら、白いえりがあみちゃんをおじょう様にしてくれるのに」
    「おじょう様、じゃなくておひめ様がいい!」
    「いいじゃない。今日もやく立つし」
    「なんで、おばあちゃんに会いに行くのに黒でないとだめなの?おばあちゃん、チューリップのポッケがついた赤いスカートをかわいいねって、言ってくれたよ」
    あみは、お気に入りの赤いスカートがはきたくて、そう言いました。
    すると、
    「おばあちゃんと会えなくなるって思ったら どんなかんじ?」
    ママが、あみにききました。
    「あぁ…」

    あみはそうぞうしてみました。
    「赤とかピンクとかじゃないでしょ」
    「うん」
    ママは黒い足になって、あみは黒いくつ下をはいて、おばあちゃんにさよならをするためにとなりの家に行きました。
     あつまった人たちは、みんな黒いお洋ふくや足をしていて、おばあちゃんは木のはこの中にねむっていました。
     そして、あみが「またね」と言ってもだまっていました。
    そこにいた人は、みんな泣いていました。
    おばあちゃんがねむっているはこの中は、白いお花がいっぱいでした。
    それであみのえりは白で良いのかと、あみは思いました。

    日よう日パパとどう物えんに行く時
    「これ、はきなさい」
    と、ママがあみにストッキングをくれました。
    「なんか変なもよう…」
    あみが言うと、ママはわらいながら
    「いいから」

    と、今日は『いいから』をちょっとやさしく言いました。
    ママの足も同じ変なもようです。

    でも、どう物えんに行って、ヒョウさんのおりの前に来た時です。
    「あっ。ママの足とおなじもようだ!」
    あみは、びっくりしました。
    「ふふっ。ママはきょうはヒョウさんなのよ」
    「ヒョウ…」
    あみは、ママの足の方がヒョウさんの足よりでぶなのでちょっとちがうと思いました。でも、ママがおこった時をおもい出して、ヒョウさんがうなった時ににていると思い、あみはなにも言いませんでした。

    少し歩いて行くと
    「あっ!あみとおんなじもよう!」
    首の長いキリンさんです。
    「キリン…さん」
    「そうね。あみはキリンさんね」

    ママがそう言うと、あみはとつぜんなき出してしまいました。
    「わあああああん」
    パパとママはきゅうにあみが泣き出したので、びっくりしました。
    「どうしたの?!」
    「だって、あみの首が長くなったら変だもん」
    パパとママは、大わらいしました。   つづく


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  • 「だいじょうぶよ。ママだってほらヒョウさんにならないでしょ。もようがおそろいなだけ」
    ママが、あみのあたまをなでながら言うと、
    「そうだよ、ママはブタさんじゃないか」
    パパがそう言うとママは、こわいライオンさんになりました。あみは、なくのをやめてしらん顔をしてペンギンさんの池に行きました。

    「ペンギンさんのストッキングは…」

    あみはじっとペンギンさんの足を見ました。でも、ひざや足首が見えません。

    「ペンギンさんは、き色いくつ下でいいのね」

    そうあみがつぶやくと

    「あみ、何を言っているの?」

    と、ママがやってきました。

    「ペンギンさんは、足がないからくつ下しかはけないね」

    と、あみが言いました。

    すると、ママがにやりとわらいながら

    「ほら、パパも足がないからくつ下だけでしょう?」

    と、言いました。

    それをきいたパパは、

    「ペンギンさんは、ライオンさんに食べられちゃうからな」

    と、小さなこえで言いました。

    あみは、ペンギンさんとパパがかわいそうになりました。

    次の日の朝。

    とつぜん、パパのさけび声がしました

    「わああああ!なんだああ」

    おどろいてママがパパの所へ行ってみると、パパがじぶんの足を見ておどろいていました。

    なんと、パパのりょう足にストッキングが足首のところまではかされていたのです。

    しかも、ストッキングはやぶけていてパパの足のおやゆびやかかとが出ていました。

    「何してるのパパ?」

    「何って、目がさめたらこうなってたんだよ。ママへんないたずらするなよ」

    「わたしじゃないわ」

    「え?!」

     そこにあみがやってきて言いました。

    「パパもストッキングはけるよ」

    パパとママは、かおを見合わせると、はっとしたかおになりました。そして、パパとママは、おたがいのかおを見ながらうなずきました。

    「まみありがとう」

    と、パパが言いました。

    「そうね。パパにはちゃんと足があるね」

    と、ママが言いました。

    あみはにっこりわらって、

    「うん!」

    と、こたえました。

     さて、みんなはどんなストッキングが好きですか?

                                 おしまい

    「私の言う事がきけないのなら、あなたなんかいらないわ!」

    美しい顔を、鬼の様な怖い顔にしてプリンセスはそう叫びました。

    とてもわがままなプリンセスに、何人の家来がお城から追い出されたことでしょう。王様は、一人娘であるプリンセスをとてもかわいがっていて、プリンセスの言うことなら何でも聞いてしまいます。

     ある日の午後、王様とおきさき様がおやつを楽しんでいる時でした。

    「大変です。プリンセスがおけがをなさいました!」

    家来の一人が、大あわてでやって来て言いました。

     普段は大人しいプリンセスの馬が急にあばれ出して、プリンセスを振り落としてしまったのです。しかもそのせいで、プリンセスの顔の右半分にはみにくい傷が残ってしまいました。さすがに、気の強いプリンセスも顔にみにくい傷があっては、恥ずかしくて人の前に出ることができなくなってしまいました。それからと言うものプリンセスは、ずっと自分の部屋にとじこもるようになりました。食事も部屋のドアの前に置くように言って、誰も部屋の中に入れようとはしません。

    その話は、すぐに国中に広まりました。国中のみんなは、いい気味だと言って笑いました。しかし、森に住むりょう師のパルだけは、違いました。パルはその話しを聞いて、かわいそうだと思い、森の美しい花をブーケにしてお城へ持って行きました。

    「プリンセスに差し上げたくて」

    そう言って、美しいブーケを門兵に見せると門兵は、小さな声でパルに言いました。

    「お前も物好きだな。とんでもない悪い性格で顔に傷のあるプリンセスなんかにおくり物をするなんて、お前は殺されても良いのか?」

    すると、パルは少し怒ったように言いました。

    「何を言うのだ。プリンセスは、この国のプリンセスじゃないか。この国のみんながなぐさめてさしあげなければいけないのだ」

    門兵は、パルの強い言葉にプリンセスの部屋へとパルを案内しました。

     しかし、パルが何度プリンセスの部屋のドアを叩いてもプリンセスは返事をしません。

    パルは大きな声で言いました。

    「プリンセス。森のりょう師のパルと言います。ごきげんはいかがですか?今日はプリンセスに森の花達を持って来ました。とてもきれいですよ」

    すると、部屋の奥から怒ったような声がしてきました。

    「うるさいわね。とっととお帰り」

    パルは、それを聞くと

    「わかりました」

    そう言って、ブーケをプリンセスの部屋のドアの前に置くとすぐに森へと帰りました。

                                             つづく

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  • それから毎日パルはプリンセスに会いに行きました。雨の日も歩くのが辛い程の強い風の日も。そして、毎日同じセリフを言ってブーケを部屋のドアの前に置いて帰りました。

     パルがプリンセスの所に通い始めて100日経った時でした。

    プリンセスの部屋のドアが音を立ててゆっくりと開きました。

    長い髪で自分の顔の傷をかくしながら

    「ばかにでもするために来るの?!」

    そう言ってプリンセスは、パルの前に姿を現しました。

    「いえ、ばかにするのならば ここには来ません。プリンセス、あなたは欲しい物なら何でも持っていらっしゃいました。しかし、その中の一つを失くされたではないですか。だから 一つ差し上げに来ました」

    すると、プリンセスはいじ悪そうな声で

    「私は、何を失ったのかしら?」

    と言って、プリンセスはパルの顔をじっと見ました。

    「それは、自信です」

    プリンセスはそれを聞くと、はっとした顔をした後で何も言わずに、パルを自分の部屋の中に入るようにと手まねきをしました。

    しかし、

    「これで安らいで下さい」

    そう言うとパルは、すぐに持って来たブーケをプリンセスに渡して森へと帰ってしまいました。


    次の日、パルはお城に呼ばれました。

    プリンセスがパルと話しをしたいと言っているからです。パルは、殺されるのかもしれないと思いましたが、お城へと行きました。

    すると、プリンセスはほほえみながら、

    「森はきれいな所なのね。行ってみてもいいかしら?」

    と、言いました。

     パルは、プリンセスを連れて森へと行きました。しかし、プリンセスが森へ行きたいと言ったのにはわけがありました。実はプリンセスは、森の美しい花達の中で死んでしまおうと思っていたのでした。そういうわけで、自分のドレスの中にプリンセスは小さなナイフを隠し持っていました。     つづく


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  • 久しぶりの美しい日の光とさわやかなそよ風にプリンセスはつい背伸びをしてしまいました。

     その時です。

    顔の右側にかかった髪が風になびき、顔の傷あとが全部見えてしまいました。プリンセスはすぐに手でその傷を隠しました。しかし、パルは顔色一つ変えずに

    「プリンセス。隠す事はありませんよ」

    そう言って、プリンセスの手をひいて自分の家にプリンセスを連れて行きました。

     パルの家に行くと、年をとった女の人が椅子に座っていました。その女の人には、顔の右半分にみにくいやけどのあとがありました。そして、プリンセスを見るとその女の人は、突然ふるえながら急いでその場所にひれふしました。

    「どうぞ、顔をあげて」

    プリンセスは、やさしく女の人に手を差し出しました。

    すると、パルは ほほえみながらプリンセスに女の人を紹介しました。

    「僕のお母さんです」

    パルのお母さんは、ふるえながら顔をあげました。

    プリンセスは、パルのお母さんの顔をもう一度見てはっとしました。

    「なんてことなの…。そのやけどは、まさか…」

    「はい。あの時のものでございます」

    プリンセスは、その言葉を聞いて突然泣きだしました。

    それは、夕食に出たスープが少し熱すぎたとプリンセスが怒った時の事です。その時、スープを持って来たお付きの女の人に罰として熱いお湯をかけるように言った事がありました。なんと、そのお付の女の人が、パルのお母さんだったのです。

    「お前はそれを知っていて、私に花を?」

    プリンセスは、そっと顔をあげてパルに聞きました。

    するとパルは、

    「はい、怒りを怒りで返しても何も残りません。今のプリンセスなら私のお母さんの悲しみがお分かりでしょう。だから私は『やさしさの包み紙』で怒りを包んで怒りなど捨ててしまったのです」

    そう言って、パルはパルのお母さんの肩に手を置きました。

    「プリンセス、息子をお許し下さい。私の左の顔にもお湯をかけられてもよろしゅうございます。だから どうぞ どうぞ 息子を」

    パルのお母さんは、そう言いながらもう一度その場所にひれふしました。

     プリンセスはひざを床について、パルのお母さんの手を取って言いました。

    「やさしさをもらいました。何をお返しすればよろしいのかしら?」

    するとお母さんは、うれしそうにほほえんで言いました。

    「何もいりません。ただ、国中のみんなが幸せに暮らす事ができれば、それだけで…よろしいかと」

    プリンセスはゆっくりとうなずきました。そして、立ち上がり外に出て行きました。プリンセスは、木のつるを自分の命を絶つ為に隠し持っていたナイフで切りました。

    そして、長い髪をそのつるで一つにまとめ顔の傷をどうどうと見せました。

     それからは、国中のみんなに愛される とてもとても やさしいプリンセスになりました。そしてプリンセスは、顔はみにくいのですが、とても心やさしいプリンスと結婚して、とても幸せに暮らしました。        おしまい


     パパが、ビールを飲みながらテレビの野球を見ています。
    パパの前には、さっき まみが食べた『きんぴらごぼう』が置いてありました。
    「あっ。パパの『ちんぴらごぼう』には、赤いのがある!」
    まみは、まだ小さくて『きんぴらごうぼう』と言えずに『ちんぴらごぼう』と言ってしまいます。
     パパのきんぴらごぼうには、確かに小さい赤い輪の形をした物が入っています。
    「パパ。この赤いのってなぁに?」
    まみは、自分が食べたきんぴらごぼうには、赤い輪の形をした物が入っていなかったので、
    不思議に思い聞いてみました。
    「ん?これか?からいのだ」
    パパは、さっときんぴらごぼうの入ったお皿を見て返事をしてくれました。しかし、すぐにテレビの方に向いてしまいました。
    「からいの?」
    「う…ん」

    なんだか、パパはどうでも良いような返事の仕方です。
    パパは、まみよりテレビの野球の方が大好きらしくまみの方はまったく見てくれません。
    食いしんぼうのまみは、パパのきんぴらごぼうの事をいろいろ聞きたいと思いました。そこで、また パパに聞いてみました。

    「おいしいの?」

    パパは知らん顔でテレビを見つめています。

    「パパ?おいしいの?パパ?」

    まみが、パパを3度呼ぶとやっとパパは返事をしてくれました。
    「大人には おいしいな」
    「大人にはおいしいから まみのにはないの?」
    「あん? おとなになって食べるものだからな」

    「まみ、ちょっと食べたい」

    パパは、片手に持った缶ビールをぐいっと飲んで、まみの方を見ると
    口から 火ふくぞ」

    と、少しこわそうな顔で言いました。
    「えっ!」
    まみは、赤い輪の形をした小さい物を食べるとかいじゅうのように火をふくのかと思うと、どきどきしました。

    食べてみたい。
    でもこわい。
    まみは、じっとお皿の中にある赤い輪の形をした物を見ました。
    すると、どんどんパパのはしがごぼうといっしょに赤い輪を、パパの口へと運んでいきます。
     まみは思いました。パパは、こんなにおいしそうに食べている。本当はすごくおいしいのかもしれない。だから、パパは全部自分一人で食べたくて、まみにはからいと言ってわけてくれないのだ。そう思ってまみは、少しふくれてしまいました。

    「パパ、少し食べたい」
    まみがお願いしても、どんどんきんぴらごぼうは、パパの口の中に消えていきます。そして、パパは テレビに むちゅうです。

    「パパ。パパ。パパ」

    まみが何度呼んでもパパは返事をしてくれません。

                            つづく

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  • 「おっ。おおおおっおー
    ―ホームラン !!―
    と、テレビのアナウンサーが叫んだ時です。
    「ぎゃああああ」
     とつぜん、まみも叫びながら野球選手のように部屋じゅうを走りまわりました。

    「ど、ど、どーした?!」

    パパもお皿を洗っていたママもおどろいて走り回るまみを見ました。
    なんと、パパのお皿にあった残りのきんぴらごぼうをまみは、全部口にいれてしまったのです。赤い輪がいっぱいありました。まみは、すぐに机の上にきんぴらごぼうをはきだしてしまいました。はきだしても、はきだしても口の中に何もなくなっても、からくてからくてからいのが止まりません。
     そのうえ、お水がほしかったまみは、パパのビールを飲んでしまったのです。パパのビールもにがくておいしくありません。なみだとはな水がいっぱい出てきます。まみの口の中は、たいへんなさわぎになっています。なんだか、熱いものが口の中にあるのですが、それをどうしたら良いのかわからず、まみは走り出してしまったのです。

    「からーい、からーいいいい」

    泣きながらぐるぐる部屋の中を回っています。

    机の上を見たママが、いそいで コップに水を入れて、台所から持って来てくれました。
    ごく ごく ごく
    まみは、コップの水を全部のみました。
    そして、何度か口をゆすぐと、やっと 口のからい感じが少なくなって、なみだがとまりました。しかし、まみの顔はママにひどくしかられていっぱい泣いた時のようになりました。

    「ほらみろ、いうことを聞かないからだ」
    そういいながら、やっぱりパパはテレビの野球を見ています。ママは、まあまあという顔をしながら、テッシュでまみの顔をふいてくれました。
    まみは、おとなになったらこの赤い輪の形をした物がおいしくなるのかと思うとふしぎでたまりませんでした。
    「でも、火 でなかった」
    まみが、まじめな顔をして言うと

    「いや。走り回りながら、まみは火をふいていたぞ」

    と、パパが笑いながらいいました。そして、パパとママはお互いの顔を見て大笑いしました。      つづく

  • 続きへ
  •  それからというもの、まみはごはんのおかずに赤い輪の形をした物がはいっていないか気をつけています。
     それなのに、それはまみの大好きなカレーの日の出来事でした。
    パパのカレーは、ママがまみについでくれた おなべとは、別のおなべからつがれました。
    それを見ていたまみは、ふしぎに思ってママに聞きました。

    「ああ?なんでパパのカレーはまみのおなべとちがうの?」

    そう言うと、ママは笑いながら
    「火ふきカレーだからよ」
    と、言いました。
    「!!」
    まみは、きんぴらごぼうの事を思い出して、絶対に食べないと思いました。しかし、パパのカレーをよく見てもきんぴらごぼうのような赤い輪の形をした物がありません。なので、まみにはどこが違うのかわかりません。今度は、どうやって見分ければ良いのでしょう。まみは、とても困った顔をして

    「ママ。からいかどうかってどうやってわかるの?」

    と、聞きました。
    「そうね。からいかどうか、食べてみないとわからないものもあるわね」
    「また、ちんぴらごぼうみたいになったらどうしよう」
    まみは、とても不安になりました。これから、おいしそうな物があっても本当においしいかどうかどうやって調べたら良いかわからないからです。

    すると、ママが
    「ちょこっとだけ、なめてみれば?なんでもさいしょは 少しずつやるでしょ?それから、だんだん たくさんできるようになるでしょ。それといっしょでさいしょは少しね。
    だいじょうぶそうだったら、たくさん食べればいいんだからね」

    と、笑いながら言いました。

    まみは、ママの言う通りだと思い、人さし指をさっとカレーにつけて、なめてみました。
    「げっ。だめだ、からい

    今度は、ママがちゃんとお水を用意してくれていました。

    ごく ごく ごく

    ほんの少しでも、パパのカレーは まみにはからすぎました。けれど、きんぴらごぼうよりは、だいじょうぶでした。

     まみは、おとなの口と子どもの口は何かがちがうのだと思いました。まみは、ママの手かがみを持って来て大きなあーんをしながら自分の口の中をのぞきこみました。そして、じっと見た後で今度はママの口の中を見せてもらいました。

    「何もちがわない…」

     子どものまみとおとなのママの口の中にちがう所はありませんでした。

     まみは、おとなになったらパパのカレーをおいしく食べられる日がまみにも来るのだろうかと とてもふしぎに思いました。

                                                        おしまい